「ワクチンが自閉症を起こす」と誰が言い出したのか
おたふくかぜ(ムンプス)に治療薬はなく、ワクチンが最大の対策です。しかし、ムンプスを含むMMRワクチンには、自閉症を起こすという誤った情報が広まった歴史があります。その誤解の元について考察した論文を紹介します。
◆MMRワクチンと有害説
MMRワクチンは、はしか(麻疹)、おたふくかぜ(流行性耳下腺炎、ムンプス)、三日ばしか(風疹)の3種類のワクチンを混合したものです。日本でムンプスのワクチンはMMRワクチンとしても使われているほか、おたふくかぜワクチンとして単独でも使われます。予防効果がある一方、まれに無菌性髄膜炎などを起こす可能性があるとも言われています。
ここで紹介する論文は、1998年にMMRワクチンが自閉症を起こすのではないかとした、アンドリュー・ウェイクフィールドらによる論文が、意図的に事実と違う報告をした、詐欺的なものだったことを次のように主張しています。
この論文を、彼の望んだ結果を達成するように書くために、甚大な思考と労力が費やされたはずである。矛盾はすべてひとつの方向に導かれ、事実と異なる報告は大量にある。
◆有害説の影響
のちの調査によりウェイクフィールドの論文にはさまざまな問題が見つかり撤回されましたが、MMRワクチンに対する誤解が広まってしまいました。
この論文ではその影響として、イギリスでMMRワクチンの接種率が1998年以後最低で80%にまで下がったこと、またドイツの学校で2010年に起こった流行で、ムンプスに感染した71人の子どものうち68人がワクチンを受けていなかったことを取り上げています。
ウェイクフィールドの論文以後、MMRワクチンと発達障害の関係について多くの研究が行われ、関連は見られないとされています。そのひとつは以前にMEDLEYニュースでも紹介しています。
http://medley.life/news/item/553e29aec05cedf7000fdcf3
一度誤った情報が広まってしまうと、長年にわたって影響が残ることがあります。研究者による不正はあってはならないことですが、その悪影響を食い止めるために、過去の事例を検証すること、また報道が情報を整理しバランスよく伝えることも重要です。今回紹介したような考察は、時間が経っても繰り返し振り返る意義があるのではないでしょうか。
執筆者
Wakefield’s article linking MMR vaccine and autism was fraudulent.
BMJ. 2011 Jan 6.
http://www.bmj.com/content/342/bmj.c7452.full※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。