2017.07.08 | ニュース

なぜアメリカの医師はワクチンを打ちたくない親を説得できないのか

敬意あるコミュニケーションのために

from JAMA

なぜアメリカの医師はワクチンを打ちたくない親を説得できないのかの写真

ワクチンは病気を防ぎます。しかし、副作用の報道などを見ると怖くなってしまいます。安全性を示す統計データが提示されることもありますが、納得できない人はいます。何が問題なのでしょうか。

セントルイス・ワシントン大学のメアリ・ポリティ博士が、医学誌『JAMA』に寄稿した意見文で、子供にワクチンを打たせることについて医師が親に対して取るべき態度を提案しました。解説をまじえつつ紹介します。

最近の先進国では、有効なワクチンがあるにもかかわらず防ぎきれていない病気が問題視されています。

1998年に、イギリスの医師(当時)アンドリュー・ウェイクフィールドらによる論文が、MMRワクチン(麻疹風疹おたふくかぜの混合ワクチン)によって子供の自閉症が引き起こされるのではないかと主張しました。この論文には重大な不正があったことがのちに判明し、ウェイクフィールドは医師の資格を剥奪されました。

アメリカ合衆国が麻疹はしか)の排除状態になった2000年以降のデータの調査で、麻疹にかかった1,416人のうち56.8%がワクチンを一度も打ったことがなかったなどの結果が出ています。

しかし、もし親が子供にワクチンを打たせることをためらったとしても、そのうち30%から47%は医師が働きかけ続ければワクチンを打つと決めたことが報告されています。 

 

ポリティ氏らは、子供を持つ親にとって、疑似科学的記事、論争があるかのように見せかけるフェイクニュース、知人から伝わってくる個々の例によって、ワクチンと悪いことに関係がありそうだという錯覚が生まれることを指摘しています。さらに、その錯覚を強化する要素の例を挙げています。

もともと信じていたことと一致するものごとは気付きやすく、思い出しやすくなります。さらに自分自身でも、客観的なデータを探すより、信じていたことを確認できるものごとを探してしまうことがあります。こうした傾向は、インターネットで同じ意見の人たちがつながることでさらに強化されると考えられます。

また、インフルエンザワクチンを打ったあとに子供が熱を出したときは、ワクチンを打たずに子供がインフルエンザにかかるよりも悪いことをしたように感じることがあります。インフルエンザにかかることは自然と思えるのに対して、インフルエンザワクチンを打ったことで自分を責める考えが生まれる余地があります。こうした考えは、ワクチンが悪い結果を引き起こすかもしれないと予期したときにさらに強く感じることがあります。

 

ポリティ氏らは、子供にワクチンを打たせることをためらう親に対して、医師ができることの例を挙げています。

 

まず、医師と親が共有できることを見つけること。

証拠を突き付けて誤解に対抗するより前に親から話を聞き、説得するだけではなくよく理解しようとすること、さらにたとえば「あなたと同じように私も自分の子供の健康と安全を心配していました。私がワクチンのいい面と悪い面を見比べてワクチンを打つことを決めたときに助けになったものをお見せします」といった言い方で共感を示すこと。

 

証拠は印象に残る物語と結び付けて見せること。

ワクチンには価値があるという態度を鮮明にすること。

ニュースを批判的に読み解くための材料を提供すること(※)。

 

※例としてHealthNewsReview.org というサイトが挙げられています。これは医療・健康関係のニュースを取り上げて評価をつけている英語サイトです。

 

これらの提案をふまえて、ポリティ氏らは、子供にワクチンを打つかどうかを含めて意思決定をするのは患者自身であることを強調します。

証拠を見せられても疑問を感じている患者・保護者を相手にしなければ、考えはますます極端に流れてしまいます。ポリティ氏らは「医師が患者と人間関係を築くこと、心配事にまっすぐ答えること、ワクチンの安全性に自信を見せ続けることで、いずれは時代とともに接種率が上がっていくかもしれない」と述べています。

 

紹介した意見文は医師に向けられたものですが、医師と向き合うときのヒントとしても受け取れるかもしれません。

日本は2015年に麻疹の排除状態と認定されましたが、以後も海外から持ち込まれた麻疹ウイルス様々な病気の原因となる病原体の一つ。細菌とは別物であり、抗菌薬は無効であるによる流行が発生しています。一部ではワクチンが不足する場面もあった一方、ワクチンの副作用についての風説は日本にも入ってきています。

ワクチンの効果と副作用を比べれば効果が上回るため、現在使われているワクチンについては「打ったほうがいい」ということが医学的には結論されています。しかし人の気持ちは医学だけでは決まりません。事実を淡々と説明されても納得できるとは限りません。

もし報道やインターネットで見かけた情報が「ワクチンを勧めるばかりで不安を解消してくれない」と感じても、「だから信用できない」とは思わないでください。

医師は悩んでいる親御さんと同じぐらい、子供の健康を願っています。副作用のことも考えています。気持ちがすれ違ってうまく話し合えないのはもったいないことです。

現実の医師には、「効果だけではなく副作用も教えてください」「どの情報が信用できるのか教えてください」と質問することもできます。疑問をはっきり言葉にするのは簡単ではないかもしれませんが、話し合うことで何かを変えられるかもしれません。

情報化が進む中で、医師と人間として話し合える関係を作ることがますます大切になっているのではないでしょうか。

執筆者

大脇 幸志郎


参考文献

The Role of Patient Engagement in Addressing Parents’ Perceptions About Immunizations.

JAMA. 2017 June 22.

[PMID: 28654974] http://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2633667

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。