糖尿病治療薬の特徴と副作用とは?診断基準もチェック

この記事のポイント
糖尿病の治療薬は様々ですが、基本的には血液中で高くなった糖濃度(血糖値)を適正値にコントロールすることが目的になります。今回は、糖尿病の原因や診断などを解説しながら糖尿病治療薬について説明します。
◆糖尿病治療薬の理解に必要な糖の働きとインスリンの関係
糖尿病の治療薬について解説する前に、まずは糖尿病の基本的な知識となる糖の働きと
インスリンは、膵臓のランゲルハンス島という組織のβ細胞で作られる体内
すぐに使われないブドウ糖はインスリンの働きで脂肪細胞に蓄えられ脂肪の合成を促進します。空腹時や就寝中など長時間に渡り糖が摂取されない状態になると肝臓で蓄えられていたグリコーゲンが分解され糖となり血中に放出されます。空腹時の血糖値を調節しているのもインスリンです(インスリンの基礎分泌)。
健常人の1日のインスリン分泌量の約半分がこの基礎分泌で、残り半分が食事に反応して分泌されるインスリン(追加分泌)と言われています。こうしたインスリンの働きで血糖値は一定に保たれます。
糖尿病は、β細胞から分泌されるインスリンの量が少なかったり、インスリンがうまく働かないことで
◆糖尿病の診断
糖尿病は血糖値やHbA1cの数値を見て判断します。
HbA1cは糖化
①早朝空腹時血糖値126mg/dl以上
②75gOGTT(Oral glucose tolerance test:経口ブドウ糖負荷試験)で2時間値200mg/dl以上
③随時血糖値200mg/dl以上
④HbA1cが6.5%以上
①〜④のいずれかが確認された場合は「糖尿病型」
⑤早朝空腹時血糖値110mg/dl未満
⑥75gOGTTで2時間値140mg/dl未満
⑤および⑥の血糖値が確認された場合は「正常型」
上記の「糖尿病型」「正常型」いずれにも属さない場合は「境界型」と判定します。
[ OGTT(経口ブドウ糖負荷試験2時間値):経口でブドウ糖を摂取し血糖の変動をみる試験 ]
◆糖尿病の種類
日本糖尿病学会によると、糖尿病の種類は、糖尿病になる原因で4つに分けられます。
1型糖尿病は
◆糖尿病と合併症
糖尿病の名前の由来は、インスリンがうまく働かなくなり多くなった血糖を体から排泄するために腎臓が働き、尿中の糖(尿糖)が高くなることで名付けられました。このようにインスリンの作用不足が続き高血糖が続くことで様々な
糖尿病の合併症には「急性合併症」と「慢性合併症」があります。
急性合併症は血糖値が著しく高くなった時に起き、
ペットボトル症候群で知られる清涼飲料水ケトーシスも吐き気や意識障害が起きますが、これも
糖尿病網膜症は
◆糖尿病治療薬について
糖尿病の治療の目的は血糖をコントロールし、合併症を起こさないようにすることが目的です。
2型糖尿病のような生活習慣が糖尿病の原因の場合は、治療薬を始める前に医師が患者ごとに食事の摂取エネルギーを決め管理栄養士などから食事指導を受ける食事療法やウォーキングなどの有酸素運動を取り入れる運動療法を行います。しかし2〜3か月経っても改善されない場合は治療薬を使用していくことになります。
血糖をコントロールする治療薬としては大きく分けて
-
血糖降下薬による治療(インスリンを除く)
-
インスリンによる治療
があります。
現在、糖尿病治療に使われる血糖降下薬(インスリンを除く)は主に8種類ほどあり、一般的には患者の血糖値や症状、体質などに合わせた治療薬が選択されます。経口薬が主ですが最近では皮下注射(皮膚と筋肉の間の脂肪に打つ)タイプもあります。
インスリンによる治療は、インスリンを出すβ細胞が破壊され基礎分泌や追加分泌がほぼ無い状態にある1型糖尿病、糖尿病昏睡、糖尿病を
-
血糖降下薬による治療
① スルホニル尿素薬(SU剤)(主な商品名:オイグルコン®、ダオニール®、グリミクロン®、アマリール® など)
膵臓のβ細胞からのインスリン分泌を促進させ血糖値を下げる働きをします。糖尿病の合併症で特徴的な網膜症、腎症などの細小血管症を抑制する効果もあるとされ、年齢などを問わず広く使われている薬の一つです。長い期間の継続使用により血糖が次第に上昇してくる(二次無効)こともあるとされます。また、経口血糖降下薬の中で低血糖に特に注意が必要な薬の一つです。
② ビグアナイド薬(主な商品名:メトグルコ®、グリコラン® 、ジベトス®など)
肝臓での糖新生の抑制、末梢での糖の利用促進、腸管からの吸収の抑制などにより血糖改善作用をあらわします。本剤の中でもメトホルミン塩酸塩(主な商品名:メトグルコ®、グリコラン® など)には大血管症の抑えるなどの効果も期待できるとされています。注意すべき副作用として頻度は非常に稀とされていますが、乳酸が体に溜まり体が酸性に傾くことで吐き気や下痢、だるさなどがおこる
③ αグルコシダーゼ阻害薬(主な商品名:グルコバイ®、ベイスン®、セイブル® など)
食事などで摂取した糖が腸で分解されるのを抑制し吸収を遅らせる作用があります。食後の高血糖を抑える働きがありますが通常、食直前に服用しないと効果が出にくいので服用のタイミングが重要となります。
ショ糖(砂糖)などの二糖類の分解を抑制するため、本剤の服用中における低血糖時は通常、ブドウ糖の摂取が必要となります(ブドウ糖は糖の中でもこれ以上分解されない単糖の一種)。副作用として放屁や下痢などが起こることがあります。
④ チアゾリジン薬(主な商品名:アクトス® など)
末梢組織(筋肉組織、脂肪組織)や肝臓におけるインスリン抵抗性の改善により、末梢における糖の取り込みや利用の促進、肝臓における糖の放出の抑制により血糖改善作用をあらわします。ピオグリタゾン塩酸塩(主な商品名:アクトス®)には血糖を下げる作用の他、脂質
注意すべき副作用として、本剤の服用中は体に水が溜まりやすくなったり、脂肪細胞への作用により体重増加などがあらわれる場合があります。
⑤ 速効型インスリン分泌促進薬(グリニド系薬剤)(主な商品名:スターシス®、ファスティック®、グルファスト®、シュアポスト® など)
SU剤と同じ様にインスリン分泌を促進する薬剤ですが、SU剤に比べてより効果が速やかにあらわれ、食後高血糖がみられる症状には特に有用な薬剤の一つとされています。一般的に低血糖の副作用はSU剤より少ないとされています。速効型で食後高血糖の改善を主な目的とするため通常、食直前に服用します。
⑥ DPP-4阻害薬(主な商品名:グラクティブ®、ジャヌビア®、エクア®、ネシーナ®、トラゼンタ® 、テネリア®、スイニー®、オングリザ®)
食後に小腸や十二指腸から分泌されるインクレチンという体内物質があります。インクレチンは食後の高血糖に合わせて膵臓からインスリンの分泌を増やしたり
⑦ GLP-1受容体作動薬(主な商品名:ビクトーザ®、バイエッタ®、ビデュリオン®、リキスミア®、トルリシティ®)
インクレチンと同じ様な作用をもち、DPP-4にも分解されにくい構造を持った薬剤です。体重増加への懸念が少なく、むしろ体重を減少させる効果もあるとされています。本剤は皮下注射製剤であり投与開始後に吐き気や下痢といった消化器症状などあらわれることがあります。インクレチンに関連する糖尿病治療薬にはDPP-4阻害薬がありますが、本剤はDPP-4阻害薬に比べ高い血糖降下作用をもつとされています。
⑧ SGLT2阻害薬(主な商品名:スーグラ®、ルセフィ®、フォシーガ®、アプルウェイ®、デベルザ®、カナグル®、ジャディアンス®)
SGLT2は腎臓の近位
本剤は服用中には、尿中の糖が多くなるので膀胱炎などの尿路感染症に注意が必要です。また多尿によって脱水がおこることがあり、(医師から水分制限を指示されている場合などを除き)一般的に水分をこまめに摂取することが大切です。
- インスリンによる治療
膵臓のβ細胞から分泌されるインスリンの作用不足を補う目的で使用されます。
体内で分泌されるインスリンにおいては、グリコーゲンを肝臓に蓄えることで空腹時の低血糖などを予防する働きをしますが、インスリン製剤にはそのような働きはなく皮下注射などの投与後、
インスリン製剤はそれぞれ作用時間などに違いがあります。以下が現在、主に使用されているインスリン製剤になります。
① 速効型インスリン製剤(主な製剤名:ノボリン®R注フレックスペン®、ヒューマリン®R注ミリオペン® など)
② 超速効型インスリン製剤(主な製剤名:ノボラピッド®注フレックスペン®、ヒューマログ®注ミリオペン®、アピドラ®注ソロスター® など)
③ 中間型インスリン製剤(主な製剤名:ノボリン®N注フレックスペン®、ヒューマリン®N注 ミリオペン® など)
④ (速効型に中間型を組み合わせた)混合型インスリン製剤(主な製剤名:ノボリン®30R注フレックスペン®、ヒューマリン®3/7注ミリオペン® など)
⑤ (超速効型に中間型を組み合わせた)混合型インスリン製剤(主な製剤名;ノボラピッド®30ミックス注フレックスペン®、ヒューマログ®ミックス25注ミリオペン®、ノボラピッド®50ミックス注フレックスペン® 、ヒューマログ®ミックス50注ミリオペン® など)
⑥ 持効型溶解インスリン製剤(主な商品名:トレシーバ®注フレックスタッチ® 、ランタス®XR注ソロスター®、レベミル®注フレックスペン® 、ランタス®注ソロスター®、インスリングラルギンBS注ミリオペン®「リリー」など)
「速効型」「超速効型」のインスリン製剤は主に「追加分泌」の補充で使用されます。「中間型」「持効型」のインスリン製剤は主に「基礎分泌」の補充で使用されます。「混合型」のインスリン製剤は、「速効型」又は「超速効型」に一定量の添加物を加えたり中間型を組み合わせた製剤で、「追加分泌」と「基礎分泌」を同時に補充することができます。
これらの製剤を患者の血糖パターンや生活スタイルなどにより使い分け、健常人のインスリンパターンを再現することで血糖をコントロールします。
SU剤の長期使用によって血糖改善作用が認められなくなった患者に対してインスリン製剤を使用すると疲弊したβ細胞が回復し、インスリン分泌機能が改善するといった報告もあります。
現在インスリン製剤の剤型には「プレフィルド製剤」というインスリン液と注射器が一体化したもの、「カートリッジ製剤」というインスリン液が入ったカートリッジと専用の注入器を組み合わせて使用するもの、「バイアル」というインスリン液が入ったバイアルとシリンジ(注射器)を使って使用するもの、があります。(バイアル製剤の中には一部、必要に応じ持続性皮下注入ポンプを用いて投与するものもある)
この中でも「プレフィルド製剤」は使い切りでカートリッジ交換の必要がない製剤であり多くの患者に用いられています。最近では、従来の製剤に比べ手の力が弱い患者でも無理なく注射できるように注入ボタンが軽くより小さい力で注入できるなどの工夫を施してある製剤が主流となってきています。
ここでは糖尿病の
執筆者
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。