[医師監修・作成]肝性脳症の症状について:羽ばたき振戦・口臭・昏睡とはどんな症状? | MEDLEY(メドレー)
かんせいのうしょう
肝性脳症
肝臓の機能が低下したことにより体内にアンモニアがたまり、意識障害などの神経症状が出現する病態
6人の医師がチェック 104回の改訂 最終更新: 2021.11.26

肝性脳症の症状について:羽ばたき振戦・口臭・昏睡とはどんな症状?

肝性脳症が起きると、意識状態の変化を中心としたさまざまな症状が現れます。その症状は重症度(昏睡度)によって変わることが分かっています。ここでは重症度ごとの症状や肝性脳症と似た症状が現れる病気などについて説明します。

1. 肝性脳症の昏睡度分類別の症状:肝性脳症は重症度によって意識状態が変わる

肝性脳症は軽いものから重いものまであり、その症状の程度から4つ(昏睡度Ⅰ-Ⅳ)に大別することができます。以下は昏睡度とそれに対応する症状です。

  • 昏睡度I
    • 睡眠と覚醒のリズムが逆転する
    • 多幸気分、ときに抑うつ症状
    • だらしなく、気にとめない症状
  • 昏睡度II
    • 指南力(時・場所)障害、物を取り違える異常行動 
    • ときに傾眠状態
    • 無礼な言動があるが医師の指示に従う態度をみせる
  • 昏睡度III
    • しばしば興奮状態またはせん妄状態を伴い、反抗的態度をみせる
    • ほとんど眠っている
    • 刺激で眼を開くことができるが、指示に従わないまたは従えない
  • 昏睡度IV
    • 昏睡
    • 初期は痛み刺激に反応するが進行すると全く反応しない

馴染みのない言葉も多いと思いますので、昏睡度ごとの症状についてもう少し詳しく解説していきます。

昏睡度Iの症状:睡眠障害、多幸気分、抑うつなど

最も症状が軽い段階の昏睡度Iでは、以下の症状が現れます。

  • 睡眠と覚醒のリズムが逆転する
  • 多幸気分、ときに抑うつ
  • だらしなく、気にとめない

睡眠と覚醒のリズムが逆転して夜中に活動して日中眠っていたり、幸せを過度に感じたり(多幸気分)します。また、自分の身なりや行動に関心がない態度や周りに関心がない態度を示すこともあります。

昏睡度Iの症状はわずかな変化なので、昏睡度がⅡになったときに振り返ってみて初めて症状が現れていたことに気付くという程度のことが多いです。変化の小ささのために性格の変化として捉えられることもあります。

昏睡度IIの症状:ものの取り違え、異常な行動など

昏睡度分類IIでは以下の症状が現れます。

  • 指南力(時・場所)障害、物を取り違える 
  • 異常行動 
  • ときに傾眠状態
  • 無礼な言動があるが医師の指示に従う態度をみせる

指南力は時間や場所を把握する力のことで見当識ともいいます。指南力が低下すると時間や場所がわからなくなったりして「日付がわからない」「家にいるのに家に帰りたがる」などといった発言や行動が現れます。また、「お金をばらまく」などの通常では理解ができない行動(異常行動)をとったり、いつも眠たさを感じて半分眠っているような状態になったりすることもあります。

昏睡度IIでは興奮状態がない、尿・便失禁がない、羽ばたき振戦があるといった特徴もあります。羽ばたき振戦については後述します。

昏睡度IIIの症状:興奮状態、せん妄など

昏睡度分類IIIでは以下の症状が現れます。

  • しばしば興奮状態またはせん妄状態を伴い、反抗的態度をみせる
  • ほとんど眠っている
  • 刺激で眼を開くことができるが、指示に従わないまたは従えない

昏睡度分類IIIの症状は、多様です。昏睡度分類IIとは違って、興奮状態や反抗的な態度などが見られます。また、それとはうって変わってほとんど眠っている場合もあります。この後、説明する昏睡度分類IVでも眠ったような症状が現れますが、呼びかけたり、身体に触れたりする刺激で眼を開くことができれば昏睡度Ⅲとなります。

昏睡度IVの症状:意識の消失

昏睡度分類IVでは以下の症状が現れます。

  • 昏睡
  • 初期は痛み刺激に反応するが進行すると全く反応しない

昏睡度分類IVでは完全に意識を消失しており、呼びかけで目が覚めることはありません。昏睡度分類IVでも初期の段階では痛みに対して手を払い除けたり顔をしかめるなどの反応が見られますが、進行すると刺激に対して全く反応しなくなります。

2. 肝性脳症の意識以外の症状

肝性脳症の主な変化は意識状態に関するものですが、それ以外にも特徴的な症状が現れます。

手を前に伸ばした時に指や手首がぱたつく:羽ばたき振戦

肝性脳症と診断された人が腕を伸ばしてその姿勢を保つようにすると、手首の関節や手の指が激しく揺れてあたかも鳥が羽ばたいているかのように見えることがあります。これを羽ばたき振戦といい、肝性脳症の昏睡度分類IIの人によく見られる症状です。

羽ばたき振戦は肝性脳症以外でも低血糖症腎不全でも現れることがある症状です。ですので、羽ばたき振戦があるからと言って肝性脳症だと診断することはできませんが、肝臓が悪い人に羽ばたき振戦が見られたら、肝性脳症が強く疑われます。

雑巾のような不快な口臭:肝性口臭

肝性脳症が見られる人の口臭がきつくなることがあります。これを肝性口臭といい、雑巾のような不快な匂いが特徴です。メルカプタンという物質を肝臓でうまく処理できなくなってしまうと、体内にメルカプタンが蓄積して肝性口臭が起こります。

3. 肝性脳症と似た症状が現れる病気

意識状態に影響を及ぼす肝性脳症ですが、似たような症状が現れる病気はいくつかあります。中でも以下の5つの病気を知っておくと良いかもしれません。

以下の段落でそれぞれの病気の症状を中心に説明します。

低血糖症

低血糖症は血液中の糖分(ブドウ糖)が不足する状態を指します。低血糖になるとイライラする、つじつまの合わない会話、意識消失といった肝性脳症と似た症状が出ます。症状だけでは肝性脳症と見分けることは難しいので、病歴の確認や身体診察を行います。例えば、「糖尿病の治療中で体調が悪く食べられないにもかかわらず薬を飲んでいた」などの状況が分かれば低血糖症が強く疑われます。検査では血液検査を用いて血糖やアンモニアの値を調べます。

低血糖症について詳しく知りたい人は「低血糖症の基礎情報ページ」を参考にしてください。

低ナトリウム血症

ナトリウムは筋肉を動かしたり、神経の信号を伝えたりする役割をもつ大切な物質です。低ナトリウム血症は血液中のナトリウムの濃度が低い状態のことを指し、進行するとさまざまな症状が現れます。

低ナトリウム血症が進むと、意識がもうろうとしたり、呼びかけに応じなくなったりする点が肝性脳症と共通しています。問診や身体診察、血液検査で2つの病気は見分けられます。また、肝性脳症と低ナトリウム血症は同時に起こることもあるので、その場合は2つの病気を同時に治療します。

低ナトリウム血症について詳しく知りたい人は「低ナトリウム血症の詳細情報ページ」を参考にしてください。

慢性硬膜下血腫

脳を覆う膜の1つである硬膜の内側にじわじわと時間をかけて血液が溜まる病気を、慢性硬膜下血腫といいます。この病気は高齢者に起こることが多く、頭を強く打ったりすることが原因で起きます。

性格の変化やつじつまの合わない発言などの症状が現れることがあり、症状が肝性脳症と似ています。慢性硬膜下血腫CT検査やMRI検査を用いて調べます。CT検査やMRI検査で脳の周りに血液が三日月状に溜まった様子が観察されると、慢性硬膜下血腫と診断されます。

慢性硬膜下血腫は軽症であれば特に治療を行わずに様子を見ます。症状が強く出る場合や症状が進行する場合には、手術で硬膜の下に溜まった血液を取り除く治療が行われます。

慢性硬膜下血腫について詳しく知りたい人は「慢性硬膜下血腫の詳細情報ページ」を参考にしてください。

せん妄

軽度から中等度の意識混濁に加えて、幻覚、妄想、興奮などの精神症状が現れることをせん妄譫妄、せんもう)といいます。具体的には、話しかけても反応が通常より悪かったり、実際にはないものが見えると言ったり、会話による意思疎通が出来なくなったりします。

せん妄が起こりやすい条件として主に以下のようなものが知られています。

  • 高齢者 
  • 急な環境の変化 
  • 身体へのストレス
  • アルコールの影響

せん妄は高齢者に起こりやすく、環境の変化や身体へのストレスがきっかけになることがあります。環境が入院などによって急に変化すると、意思疎通ができなくなったり、乱暴になったりすることがあります。これはせん妄が起こったと考えられる典型的な状況です。

せん妄は基本的には一時的な変化なので、環境の変化に慣れることや身体へのストレスが減ることなど原因が解消されればよくなります。入院によってせん妄が起こった場合には、退院した途端に元の精神状態に戻るということもよく起こる変化です。

薬剤の副作用

他の病気の治療で用いられる薬の影響で肝性脳症に似たような症状が現れることがあります。意識状態に影響を及ぼす薬剤は数多くあり、例として以下のものが挙げられます。

薬剤の影響が意識状態に出やすいのは、高齢者や肝臓または腎臓の機能が低下している人、たくさんの種類の薬を飲んでいる人などとされています。

意識状態の変化の原因が薬剤の場合は、薬をやめることで症状が改善します。このため、原因となっている薬剤を特定することが最も重要です。しかし、飲んでいる薬をお医者さんに伝えることは意外に難しいものです。飲んでいる薬をもれなく正確に伝える方法としては、お薬手帳を活用してみて下さい。お薬手帳は飲んでいる薬がもれなく記載されているので、これを活用することで薬の内容や開始した日などを苦労なく伝えることができます。