かんせいのうしょう
肝性脳症
肝臓の機能が低下したことにより体内にアンモニアがたまり、意識障害などの神経症状が出現する病態
6人の医師がチェック 105回の改訂 最終更新: 2023.06.07

肝性脳症の原因について:便秘・高タンパク食・脱水・消化管出血が肝性脳症の引き金?

肝臓の機能の低下によって現れる意識状態の変化を肝性脳症といいます。肝性脳症は血液中のアンモニア濃度が高くなることが関係していると考えられています。肝性脳症が起こるメカニズムや肝性脳症を起こしやすくする原因について説明します。

1. 肝性脳症が起こるメカニズム

肝臓には身体にとって不要な物質を無毒化する働きがあります。その機能が低下すると、不要な物質が身体に溜まって悪影響を及ぼします。その不要な物質の1つがアンモニアです。アンモニアは主にタンパク質が腸内細菌によって分解されてできる物質です。腸でできたアンモニアはすぐに肝臓に運ばれて無毒化されます。

しかし、肝臓の機能が低下しているとアンモニアを十分に無毒化できなくなるので、血液中のアンモニア濃度が高くなります。アンモニアの濃度が高くなると、脳に影響を及ぼして意識障害などの症状が現れます。このようにして肝性脳症が起こります。

2. 肝性脳症を起こしやすくする原因

肝性脳症は血液中のアンモニア濃度が高くなることが原因で起こります。肝臓の機能が低下している場合に、アンモニア濃度が高くなる原因が重なれば肝性脳症は起こりやすくなります。

アンモニア濃度を高くする原因には以下のものがあります。

  • 高タンパク食
  • 便秘
  • 脱水
  • 食道や胃、十二指腸からの出血:上部消化管出血

さまざまなことが原因となって肝性脳症が起こります。それぞれについて詳しく説明します。

高タンパク食

肝性脳症の発症に関与しているアンモニアは、主にタンパク質が腸内細菌によって分解されて発生します。このため、食事からタンパク質を摂れば摂るだけアンモニアが多く作られるので、肝性脳症が起こりやすくなります。したがって、肝性脳症にならないためには、タンパク質の過剰な摂取は控えた方がよいです。

とはいえ、タンパク質は身体を維持するのに必要な物質なので、摂らないことによる悪影響もあります。どの程度の量のタンパク質を摂取してもよいかの判断は、残っている肝臓の機能や体格差も含めて考えなければいけないので簡単に決めることはできません。そのため、適切なタンパク質の量を知るには、専門的な知識をもつ管理栄養士に相談して、適切なアドバイスをもらうとよいです。管理栄養士に栄養面について相談したい場合には主治医を含めた医療者に相談して依頼してもらうとスムーズになります。

便秘

便秘になると腸の中は細菌が食べ物の中のタンパク質を分解しやすい環境になります。つまり、便秘によって腸でのタンパク質の分解が進むことでアンモニアの量が増えてしまいます。アンモニアが増えると肝性脳症は起こりやすくなるので、肝臓の機能が低下している人は普段から便秘を予防する必要があります。

便秘の解消には水分や食物繊維の摂取や適度な運動が有効です。また、一部の下剤が肝性脳症と便秘の両方に有効なので、食事や運動で改善がないときにはお医者さんに処方してもらって使ってみて下さい。

肝性脳症に効果の下剤については「肝性脳症の治療」のページで詳しく説明してあるので参考にして下さい。

脱水

脱水になると身体から水分が不足するため、血液中の成分が濃縮されます。また、肝臓の機能が低下している人は、血管の中に水分をとどめておく力が低下しているために血液は濃縮されています。肝障害で血管の中に水分が足りない人に脱水が重なると、血液は濃くなり血液中のアンモニアの濃度が上昇してしまいます。結果的に肝性脳症が起きやすくなります。

脱水にならないためには、水分を摂取することが大切です。一方で、肝臓の機能が低下している人が水分を摂りすぎると、身体に悪影響が出ることがあるので注意が必要です。

例えばお腹の中の水分が増える腹水の人が水分を摂りすぎると、腹水が増えてしまうことで、お腹が張る症状が増してしまうことがあります。

適切な水分の量を把握するには、1日にどれくらいの水分を摂取したかを記録しておくとよいです。そうすると、自分に適した水分の摂取量を客観的に評価できるので、上手に水分を摂取するヒントを得ることができます。診察を受ける時に、どのくらいの水分を摂取しているかをお医者さんに見せて相談すると、それを元にして適切なアドバイスを受けることも期待できます。

食道や胃、十二指腸からの出血:上部消化管出血

食道や胃、十二指腸から出血(上部消化管出血)が起きると、胃や腸に血液が流れ込みます。血液にはアンモニアの原料になるタンパク質が多く含まれているので、流れ込んだ血液は腸内細菌によって分解されてアンモニアが作られます。アンモニアの量が増えると肝性脳症が起こりやすくなります。

上部消化管出血は特に腹痛がなくても便の色が黒くなることで見つかることもあるので、便が明らかに黒いと感じたときには医療機関を受診して調べてもらって下さい。上部消化管出血は肝性脳症の原因というだけではなく、放置をすると多くの血液を失い生命に危険を及ぼしてしまう恐れがあるため、「まあ大丈夫だろう」とたかをくくるのは危険です。

上部消化管出血は胃・十二指腸潰瘍食道静脈瘤の破裂が主な原因になります。それぞれの病気について詳しく知りたい人は、「胃・十二指腸潰瘍の基礎ページ」、「食道静脈瘤の基礎ページ」を参考にして下さい。