かんせいのうしょう
肝性脳症
肝臓の機能が低下したことにより体内にアンモニアがたまり、意識障害などの神経症状が出現する病態
6人の医師がチェック 105回の改訂 最終更新: 2023.06.07

肝性脳症とはどんな病気か?症状・原因・検査・治療など

肝臓の機能が低下することが原因で起きる精神症状を肝性脳症と言います。ここでは肝性脳症の症状や原因、検査、治療などについて説明します。

1. 肝臓の機能が低下すると現れる肝性脳症とはどんな病気か?

肝臓の機能が低下することによって意識障害や性格の変化などの精神症状が現れることを肝性脳症といいます。アンモニアという物質の血液中の濃度が高まることが関係していると考えられています。

2. 肝性脳症の症状

肝性脳症が起こると意識状態に影響が及んでさまざまな症状が現れます。意識状態への影響は、肝性脳症の程度によって異なります。現れている症状の種類をもとにして4段階に症状を分けた昏睡度分類というものが肝性脳症の程度を客観的に評価するために用いられます。

昏睡度分類別の症状

昏睡度は4段階で分類され、以下のようになります。

昏睡度 症状
I
  • 睡眠と覚醒のリズムが逆転する
  • 多幸気分、ときに抑うつ状態
  • だらしなく、気にとめない態度(周りに対して興味がない態度)
II
  • 指南力(時・場所)障害、物を取り違える異常行動 
  • ときに傾眠状態
  • 無礼な言動があるが医師の指示に従う態度をみせる
III
  • しばしば興奮状態またはせん妄状態を伴い、反抗的態度をみせる
  • ほとんど眠っている
  • 刺激で眼を開くことができるが、指示に従わないまたは従えない
IV
  • 昏睡
  • 初期は痛み刺激に反応するが進行すると全く反応しない

症状を客観的に4段階に評価して昏睡度が決まります。数値が小さいほど軽症です。昏睡度を把握することで、治療の効果やその後の経過を予測することができます。

昏睡度は意識の状態や精神症状について注目したものですが、肝性脳症ではこの他にも特有の口臭(肝性口臭)や羽ばたき振戦といった特徴的な症状も現れます。

肝性脳症の症状について詳しく知りたい人は「肝性脳症の症状」も参考にしてください。

3. 肝性脳症の原因

肝性脳症はアンモニアという物質が発症に強く関与していることが分かっています。ここでは肝性脳症が起きるメカニズムや肝性脳症を起こしやすくする原因について説明します。

肝性脳症が起こるメカニズム

肝性脳症は血液中のアンモニアの濃度が高くなることが関与していることが分かっています。腸内細菌によってタンパク質が分解されるとアンモニアができます。身体のバランスを保つために余計なアンモニアは肝臓に運ばれて無毒化されます。しかし、肝臓の機能が低下するとアンモニアを無毒化できなくなるので、血液中のアンモニアの濃度が高くなり肝性脳症が起こりやすくなります。

肝性脳症が起こる背景には肝機能の低下があるのですが、それ以外に肝性脳症が起こりやすくなる原因があります。

次に肝性脳症が起こりやすくなる原因について解説します。

肝性脳症を起こしやすくする原因

血液中のアンモニア濃度が高くなること肝性脳症は起こります。食事や病気などの中にはアンモニアの濃度を高めてしまうものがあります。

  • 高タンパク食
  • 便秘
  • 脱水
  • 食道や胃、十二指腸からの出血:上部消化管出血

肝臓の機能が低下している状況で、上に示したものが起きると血液中のアンモニアの濃度が高くなり肝性脳症が起こります。

それぞれの原因がどのようにして血液中のアンモニアの濃度を高くするかは「肝性脳症の原因」で詳しく説明しているので参考にしてください。

4. 肝性脳症の検査

肝性脳症が疑われる場合には、いろいろな検査が行われます。検査では肝性脳症の程度や肝性脳症以外の原因が隠れていないかを調べます。

主な検査は以下のようなものです。

  • 問診
  • 身体診察
  • 血液検査
  • 画像検査
    • 頭部CT検査
    • 頭部MRI検査

肝性脳症の検査について詳しく知りたい人は「肝性脳症の検査」も参考にしてください。

5. 肝性脳症の治療

血液中のアンモニア濃度を下げると肝性脳症の症状は改善します。薬物治療や食事療法を用います。

  • 薬物治療
    • 分岐鎖アミノ酸
    • 抗菌薬
    • 高アンモニア血症治療薬
    • その他の治療薬
  • 食事療法

薬物治療はいくつか方法があります。

分岐鎖アミノ酸は筋肉でアンモニアを代謝するときに必要な物質で、人間の身体では作り出すことができません。このため筋肉で分岐鎖アミノ酸の消費が増えると薬によって補います。

アンモニアは主に腸内細菌がタンパク質を分解することによって作られるので、抗菌薬で腸内細菌を少なくすると腸で作られるアンモニアの量を減らすことができます。

高アンモニア血症治療薬は腸からのアンモニアの吸収を妨げる効果と下剤としての効果があります。便秘はアンモニアができやすい環境を作るので、解消するとアンモニアの量も減少します。

アンモニアの増加には亜鉛やカルニチンという物資の不足も関係していると考えられています。亜鉛やカルニチンが不足している場合には不足分を薬剤で補充します。

食事療法ではタンパク質の摂取量を減らしたりして、アンモニアができる量を抑えます。

肝性脳症の治療については「肝性脳症の治療」でも詳しく説明しているので参考にしてください。

6. 肝性脳症が起こりやすい状況

肝臓の機能が低下するとアンモニアの処理が不十分になるので、血液中のアンモニアの濃度が高くなり肝性脳症が起こります。アンモニアを処理する力が低下している時に、身体の中でアンモニアが発生する量が増えたり濃度が高くなったりすると肝性脳症が起きてしまいます。ここでは肝性脳症が起こりやすい状況について解説します。

タンパク質の摂りすぎ

腸内細菌によってタンパク質が分解されるとアンモニアが作られます。このため、食事でタンパク質を摂りすぎると、アンモニアも増えやすくなるので肝性脳症が起きる危険性が高まります。

食欲がない

食欲がなくなると水分の摂取もできなくなることがあり、脱水になりがちです。脱水になると肝性脳症の原因になるアンモニアの濃度が高くなり肝性脳症が起きます。

腹腔穿刺の後:お腹の水を抜く治療の後

肝臓の機能が低下すると、腹水(お腹の中のスペースに溜まる水が増えること)が見られることがあります。腹水が増えるとお腹の張りなどの症状が現れるので、お腹に針を刺して溜まった水を身体の外に出す治療(腹腔穿刺)を行います。

腹水穿刺を行うと短時間に多くの水分や電解質などが身体から失われて、脱水や電解質の異常が生じてアンモニア濃度が高くなる環境が作られやすくなります。

黒い便が出ている

食道や胃、十二指腸から出血(上部消化管出血)すると黒い便が出ることがあります。血液はアンモニアの原料になる窒素を多く含んでいるので、腸に流れ込むと腸内細菌によってアンモニアが作られて肝性脳症が起こりやすくなります。

肝性脳症が起こりやすい状況については「肝性脳症で知っておきたいこと」でも詳しく説明しているので参考にして下さい。