肝性脳症の検査について:血液検査(アンモニアの数値など)・昏睡度分類とはどんなもの?
肝性脳症が疑わしい場合には、診断するために
1. 問診:状況の確認
問診は身体に起きている状況や患者さんの背景を把握するために重要です。問診は症状や心配なことについて伝えたり質問に答えたりしながら進んでいきます。あらゆる状況においても、病気を詳しく知る上で問診はとても重要です。
以下は質問の例です。
- どんな症状を自覚するのか
- 心配なことはどういったことか
- 症状が起きはじめた時間はいつか
- 症状は軽くなったりひどくなったりするか
- 頭ははっきりとしているか
- 今日は何月何日か
- 今いる場所はどこか
- どの程度飲酒するのか
- 喫煙はするのかまたはしていたか
- 現在治療中の病気はあるか
- 今までにかかった病気はあるか
- 入院をしたことはあるか
- 定期的に受診している病気はあるか
- 手術をしたことはあるか
- 定期的に飲んでいる薬はあるか
- 血のつながった家族はどんな病気にかかったことがあるか
これらの質問を元にして症状の原因となる病気を絞り込んでいきます。肝性脳症が疑われるような状況では患者さんの意識がはっきりとしないこともあり、質問に対して十分に答えられない場合もあります。症状などを十分に伝えられない状況では、家族の人が答えたりするなどして助けてあげてください。
2. 身体診察
問診では、身体に現れている自覚症状や、患者さんの背景を確認できます。一方で、身体診察では身体の状態が客観的に評価されます。客観的な評価をふまえて症状の原因となっている病気がさらに絞り込まれます。
肝性脳症が疑われる場合には、特に以下のような診察が重要です。
バイタルサイン の確認- 視診
以下ではそれぞれの方法について個別に説明していきます。
バイタルサインの確認
バイタルサインは「vital signs(バイタルサインズ)」のことを指し、生命徴候という意味です。生命に危険が迫っているとバイタルサインに異常が現れます。バイタルサインは以下の6つのことを指すことが多いです。
- 脈拍数
- 呼吸数
- 体温
- 血圧
- 意識状態
- 酸素飽和濃度
バイタルサインを確認することで身体に異常を起こしている原因の見当をつけることができます。
例として、意識状態が悪い場合について考えてみます。意識状態が悪くなる病気の1つが肝性脳症ですが、他にも脳出血や髄膜炎、低血糖症など
視診
視診では見た目から身体をくまなく観察します。肝性脳症は肝臓の機能(肝機能)が低下することで起こるので、視診では肝機能の低下が原因で現れる身体の変化がないかを探します。肝機能の低下による身体の変化としては、
視診ではお医者さんは身体の隅々を見ますが、見落としを少なくするために、自分がおかしいと感じる部分について問診の段階で伝えておくことも大切です。
3. 血液検査
肝性脳症が疑われる場合、血液検査では以下のポイントに注目します。
- 肝臓の状態
- アンモニア
- トランスアミナーゼ(AST、ALT)
- コリンエステラーゼ
- 全身の状態
血糖 電解質 (ナトリウム、カリウムなど)
肝性脳症は身体の中のアンモニアの濃度が高まることが原因で起こると考えれています。アンモニア値が高ければ、肝性脳症が症状の原因になっている可能性が高くなります。
また、血液検査は全身の状態を調べられ、診断にも有効な場合があります。肝性脳症と似た症状が現れる病気として低血糖症や低ナトリウム血症がありますが、これらの病気は血液検査で調べられます。具体的に言うと血液中の糖分やナトリウム濃度が低下します。
4. 画像検査
精神症状(頭がぼんやりする、興奮する、気力がなくなる、
頭部CT検査
肝性脳症と見分けなければいけない病気の1つに慢性硬膜下血腫があります。慢性硬膜下血腫は頭を強く打った後、血液が少しずつ頭の中に溜まって脳を圧迫する病気です。慢性硬膜下血腫が起きると、CT検査で脳の脇に白い三日月のような形の血の塊がみられます。
肝性脳症ではCT検査で脳に異常が現れることはほとんどないので、異常がない場合には肝性脳症である可能性を強くすることができます。
頭部MRI検査
MRI検査は磁気を利用して身体の断面を画像にする検査です。CT検査と違い放射線を使うことはないので被曝の心配はいりません。CT検査で判断がつかないような脳の病気が想定される場合にはさらに詳しい検査としてMRI検査が用いられます。
5. 肝性脳症の昏睡度分類
肝性脳症は軽症のこともあれば重症のこともあり、その程度はさまざまです。肝性脳症を客観的に評価するための方法として昏睡度分類があります。昏睡度は問診や身体診察の結果から4段階に分けられます。
【肝性脳症の昏睡度分類】
昏睡度 | 症状 |
I |
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II |
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III |
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IV |
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昏睡度分類は治療の効果を判断する場合やその後の経過を予測する場合に用いられます。
治療を開始していくとその効果が現れているかどうかの判断が行われます。昏睡度が軽くなり改善方向に向かっていれば治療を継続する判断材料になりますし、反対に昏睡度が進んでしまったり変わらない場合には治療を追加したり変更したりする判断材料になります。
また、昏睡度の数字が低いほど状態は軽く、治療によって治ることが期待できます。昏睡度を調べることは治療を始める前にその見通しを立てることにも役立てられます。
昏睡度分類は「肝性脳症の症状」でより詳しく説明しているので参考にして下さい。
6. 肝性脳症と検査で見分けるべき病気
意識状態などに影響を及ぼす肝性脳症ですが、他にも似たような症状が現れる病気があります。症状が似通っているため簡単に見分けることが難しいので、より詳しい検査を受けることになります。肝性脳症と似たような症状が現れる病気の例として次の5つがあります。
肝性脳症と似たような症状を起こす原因はさまざまです。これらの原因となるものを見分けるために、問診や身体診察、血液検査がしばしば行われます。頭をぶつけたことがある経過から慢性硬膜下血腫が考えられるときには、頭の中を調べなければならないのでCT検査が行われます。