[医師監修・作成]肝性脳症の治療について:薬物療法・食事療法の具体的な内容。治療ガイドラインの役割について。 | MEDLEY(メドレー)
かんせいのうしょう
肝性脳症
肝臓の機能が低下したことにより体内にアンモニアがたまり、意識障害などの神経症状が出現する病態
6人の医師がチェック 104回の改訂 最終更新: 2021.11.26

肝性脳症の治療について:薬物療法・食事療法の具体的な内容。治療ガイドラインの役割について。

肝性脳症の治療は薬物療法と食事療法を組み合わせて行われます。薬物療法で用いる薬にはそれぞれ特徴があり、特徴に合わせて上手に使うことで肝性脳症の治療は効果的になります。また、食事を工夫することで肝性脳症を引き起こすアンモニアが作られにくくなります。

1. 薬物治療

体内にアンモニアが増えると肝性脳症が起こりやすくなります。肝性脳症の薬物治療は、アンモニアという物質ができるのを抑えたり、アンモニアを身体の中で処理するのを助けたりすることが目的です。

肝性脳症に対して効果があると考えられている薬は以下のものがあります。

  • 分岐鎖アミノ酸
  • 抗菌薬
  • 高アンモニア血症治療薬

それぞれの治療薬の効果などについて解説します。

分岐鎖アミノ酸製剤(アミノレバン®・リーバクト®など)

肝臓のアンモニアを代謝(分解)する働きが低下すると、体内にアンモニアが溜まり肝性脳症が起こります。肝臓の機能が低下した状況では、代わりに筋肉がアンモニアを分解する働きが活発になります。

筋肉でアンモニアを代謝する際には、分岐鎖アミノ酸(BCAA)という物質が消費されます。このため肝臓の機能が低下すると筋肉でアンモニアを代謝する量が増えるため分岐鎖アミノ酸は不足しがちになります。

分岐鎖アミノ酸は身体では作ることができない物質なので、不足分を食品や薬によって補わなければなりません。通常の食事で分岐鎖アミノ酸が不足することは珍しいですが、肝臓の機能が低下している人は通常よりも多い量が必要ですので、分岐鎖アミノ酸製剤を利用すると上手に摂取できます。主な分岐鎖アミノ酸は、リーバクト®、アミノレバン®、ヘパンED®などです。

ここからはそれぞれの薬剤について紹介します。

■リーバクト®

リーバクト®はバリン、ロイシン、イソロイシンといったBCAAを含む製剤で、食事摂取量がある程度十分であっても低アルブミン状態が起きている肝硬変などに対して主に使われる薬です。分岐鎖アミノ酸を補う目的の製剤ですので、顆粒剤(リーバクト®配合顆粒)の1包あたりエネルギーは約16kcalと控えめです。

ゼリー剤(リーバクト®配合経口ゼリー)のリーバクト®もあり、粉(顆粒剤)が飲みにくい人に対しては、剤形(剤型)を工夫できます。顆粒剤同様、ゼリー剤も1個あたり約17kcalと控えめです。

■アミノレバン®

アミノレバン®はBCAAだけでなく、その他のアミノ酸、ビタミンミネラル、エネルギーなどを含む製剤です。こちらは主に肝性脳症の改善や肝硬変などの栄養状態の改善などに対して使われます。注射剤の剤形もありますが、継続的に使用する場合には主に散剤(アミノレバン®EN配合散)が使われます。先ほどのリーバクト®との違いのひとつにエネルギー(カロリー)を多く含む点があり、アミノレバン®EN配合散の1包には約200kcalが含まれています。

肝硬変などで肝臓の機能が低下している人には、夜間にエネルギーの不足が起こることで、身体のむくみやだるさ、こむら返りなどの症状があらわれることがあります。肝硬変の治療を受けている人が仮に夕食を夜の7時(19時)に、朝食を朝の7時に摂ったとすると、夜から朝までの約12時間に渡り栄養を摂っていない状態になります。

アミノレバン®EN配合散は通常、食事に合わせて1日3回服用の指示が出されることが一般的ですが、場合によっては寝る前に1包(約200kcl)程度を摂取することで、夜間のエネルギー不足を改善する目的で用いられることがあります。

アミノレバン®EN配合散は通常、粉(散剤)を水やお湯(熱すぎない50℃前後の温度)に溶いてからその溶液を服用します。以前は味などが気になり飲みにくいという場合に対して果実の風味などを添加できる専用のフレーバーがありましたが、2017年12月に製剤自体に味(フルーツ味、コーヒー味)が添加されたフレーバー配合製品が発売になり、今後はこちらが使われていく予定です。この他、服薬補助のために溶液をゼリー状に固める「ゼリーの素」もあり必要に応じて医療機関を通して提供される場合もあります。

■ヘパンED®

ヘパンED®(ヘパンED®配合内用剤)もアミノレバン®と同じく、BCAAやBCAA以外のアミノ酸、ビタミン、ミネラルなどに加えエネルギーを含む製剤で、1包(80g)あたり約310kcalを含みます。ヘパンED®も主に肝性脳症を伴う慢性的な肝不全における栄養状態の改善に使われ、薬剤(散剤)自体の量や水(またはお湯)の量などの違いはありますが、アミノレバン®EN配合散と同じく散剤(粉)を水(またはお湯)に溶いてその溶液を投与する製剤です。

ヘパンED®にも服薬補助のため、風味を添加できるフレーバー(ドリンクミックス)、液体をゼリー状に固める「ゼリーミックス」、とろみをつける「ムースベース」があります。また包装で袋入り(80g)の製剤に加え溶液調製がより簡便に行えるなどのメリットが考えられるプラスチック容器入り(80g)の製剤もあります。

抗菌薬(カナマイシン・ポリミキシンB・リファキシミン)

タンパク質が腸内細菌によって分解されることで、アンモニアは作られます。血液中のアンモニアの濃度が高くなると肝性脳症が起こりやすくなるので、アンモニアの量を減らすことができれば肝性脳症は起こりにくくなります。

アンモニアは食べ物の中のタンパク質を腸内細菌が分解することで発生します。アンモニアを発生させる腸内細菌を減らすために抗菌薬を用います。

抗菌薬には種類があり、その中から治療に適したものを選びます。通常、抗菌薬は腸で吸収されて効果を表すものが多いのですが、中には腸から吸収されないものもあります。腸から吸収されない抗菌薬は腸の中に留まることで腸の中にいる細菌を攻撃してその量を減らします。

肝性脳症の治療には、カナマイシン、ポリミキシンB、リファキシミンなどが用いられます。

大腸菌や赤痢菌などの感染性腸炎に効果があるカナマイシン(カナマイシン一硫酸塩)は、胃や腸でほとんど吸収されない性質を持つので肝性脳症による高アンモニア血症を改善する薬としても使われています。

ポリミキシンB(ポリミキシンB硫酸塩)もカナマイシンと同様に経口投与した場合、ほとんど消化管から吸収されないので、腸内細菌を抑える効果が期待でき、身体の中でアンモニアが作られるのを抑えることができます。

2016年にはリファキシミン(商品名:リフキシマ®)が保険で使える薬として承認され、肝性脳症治療における新たな選択肢となっています。

抗菌薬治療によって問題になるのは副作用です。抗菌薬が腸管内に留まることでこれら細菌のバランスが崩れてしまい、下痢や吐き気などの症状が現れることもあります。

その他の副作用として発疹などの過敏症などにも注意が必要です。またカナマイシンが腎臓の機能や聴力に悪影響を及ぼすこともあります。副作用は様々な形で症状として現れます。腎臓の機能が低下すると尿の量が少なくなったりむくみが出たりします。どのような症状が現れると副作用を考えるべきかを具体的に薬剤師や医師に質問して聞いておくとよいです。

高アンモニア血症治療薬(ラクツロース・ラクチトール)

人工的に合成された糖(二糖類)であるラクツロース(主な商品名:モニラック®)やラクチトール(商品名:ポルトラック®)はそのほとんどが分解・吸収されずに腸に到達することができるので、腸内細菌によるアンモニアの産生や吸収を抑える効果を発揮します。

食事で摂取されたタンパク質の一部は、腸内細菌によって分解されてアンモニアが作られます。アンモニアは脳神経に対して、悪影響を与える物質になるため、肝臓の機能が正常な状態であればこのアンモニアを主に肝臓が代謝し解毒します。

しかし、肝硬変などで肝機能が低下している状態ではこの代謝が不十分となり、血液中のアンモニア濃度が上昇し、脳にダメージを与えることで肝性脳症が引き起こされます。このため治療は血液中のアンモニアの濃度(高アンモニア血症の状態)を下げます。

冒頭でも少しふれましたが、ラクツロースやラクチトールはそのほとんどが大腸に到達した後、腸内細菌(乳酸菌など)によって酸(乳酸、酢酸など)に分解されます。この酸ができることで腸管内のアンモニアの産生や腸管でのアンモニア吸収が抑えられ、血液中のアンモニアが低下する作用があらわれると考えられています。

また、ラクツロースやラクチトールは糖による浸透圧作用によって、緩下作用(緩やかにお腹を下す作用)をあらわしたり、分解された乳酸や酪酸などが腸管運動を亢進させることで、排便を促す効果も期待できます。実際にモニラック®などのラクツロース製剤は便秘などに対して排便促進の目的で使われることもあります。一方で過度にお腹が下り過ぎることもあるので下痢などの症状には注意が必要です。

◎食品としてのラクツロースやラクチトールなどの糖類

ラクツロースやラクチトールなどの糖類は医薬品としてだけでなく食品としても活用されています。

例えばラクチトールそのもの(還元乳糖)やラクチトールを甘味料として含むチョコレートなどの食品が販売されています。またラクツロース(ラクチュロース)も食品に使われ「毎朝爽快®(森永乳業)」などの特定保健用食品(いわゆる「トクホ」)としても発売されています。このように食品としても活用されているラクツロースやラクチトールですが、もちろん医薬品としての製剤を服用している場合には仮にこれら食品を合わせて摂取すると下痢などの症状があらわれる懸念もあり注意が必要です。

この他、食品として使われている糖の中で三糖類に含まれるラフィノースという糖にも血液中のアンモニアを低下させる可能性が示唆されていて、二糖類で起こりやすい下痢などの副作用の軽減も期待できるとされています。

その他の治療薬(カルニチン・亜鉛)

肝性脳症に対してはカルニチンや亜鉛などの薬が使われることも考えられます。カルニチンや亜鉛はアンモニアを身体の中で分解する役割を担っているので不足している場合には、飲み薬で補います。

■カルニチン

肝硬変などによる肝性脳症ではカルニチンという体内物質が不足することがあります。カルニチンは筋肉細胞でエネルギーを作り出したりすることに関与する物質で、カルニチンが身体の中で不足すると筋肉の障害や脂肪肝、脳神経の障害などを引き起こします。カルニチンはアンモニアを肝臓で分解する役割に関与していると考えられているので、不足している場合はカルニチン製剤(エルカルチン®)で補うことによって肝性脳症が改善することが期待できます。

■亜鉛

亜鉛はタンパク質・脂質・糖・骨などの代謝、傷(創傷)治癒や抗酸化作用にも関っています。アンモニアを代謝する際の酵素の1つ(オルニチントランスカルバミラーゼ)が亜鉛欠乏によってその機能が低下してアンモニアが身体の中に溜まる原因の1つになるので、肝性脳症の発症に関与していると考えられています。このため亜鉛が不足している場合には、亜鉛を薬によって補うことで肝性脳症の改善が期待できます。一般的には胃薬として使われるポラプレジンク(主な商品名:プロマック®)などの亜鉛製剤が治療に用いられることがあります。

2. 食事療法

肝性脳症の発症に食事内容は深い関わりがあります。食事内容を工夫することで肝性脳症を予防することにも期待できます。ここでは食事の中でも「タンパク質の制限」と「水分や食物線維の摂取」について説明します。

タンパク質の制限

アンモニアが身体の中で増えることは肝性脳症の発症に関与しています。アンモニアは主にタンパク質が腸内細菌で分解されることによって発生します。アンモニアは肝臓の機能が正常であればすぐに肝臓に運ばれて無毒化されます。一方で、肝臓の機能が低下している状況ではアンモニアの無毒化が不十分なので、タンパク質を多く摂るとアンモニアの量が増加してしまい肝性脳症が起こりやすくなっています。肝臓の機能が低下している場合、タンパク質の摂取量を制限すると肝性脳症の予防に有効です。

とはいえタンパク質は生きていく上で欠かすことが出来ない物質なので、肝性脳症を起こさない範囲で適切な量をとることが大切です。

ただ食事で得る栄養素を厳密にコントロールするのは簡単ではありません。このため、管理栄養士に相談して適切なアドバイスを受けるとより適切な食事をすることができるかもしれません。管理栄養士に栄養面について相談したい場合には主治医に相談して依頼してもらうとスムーズかもしれません。

水分や食物繊維の摂取

便秘になると腸内細菌がタンパク質を分解しやすい環境になりアンモニアの発生量が増えます。このため、アンモニアを処理する肝臓の機能が低下している場合、便秘になると肝性脳症が起こりやすくなります。便秘は食事の内容が関係しているので、便秘にならないような食事をすることは間接的に肝性脳症の予防になります。

便秘の解消には、繊維質が多く含まれた食品の摂取に効果があるとされています。繊維質は野菜や果物、豆類などに多く含まれています。便秘の解消には水分の摂取も有効です。水分摂取をすることで便が柔らかくなり便通が良くなることが期待できます。

ただ、肝臓の機能が低下している場合では、水分を摂りすぎると腹水(お腹の中に溜まる水)が増加してしまうこともあるので水分のとりすぎには注意が必要です。

3. 肝性脳症は治るのか?

肝性脳症は身体の中のアンモニア濃度が高くなることが発生に関与しており、多くの場合は治療によってアンモニア濃度を下げることで、意識障害などからの回復が望めます。治療には分岐鎖アミノ酸製剤や、タンパク質の制限などを行います。

治療が功を奏して治った後にも注意が必要です。肝性脳症を起こした人は、すでに肝臓の機能が大きく低下していることが多いので、再発する危険性が高いです。再発を予防するためには日常生活の見直しなどを行うことが大切です。

肝性脳症の日常生活の注意点などは「肝性脳症の日常生活の注意点」で詳しく解説しているので参考にして下さい。

4. 肝性脳症の治療ガイドラインはあるのか?

ガイドラインという言葉は一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。様々な病気に対して診療ガイドラインが作成されています。実際に、ガイドラインにはどのような目的があるのかを解説します。

診療ガイドラインは検査や治療において最も効果の高い選択肢を示すことで、治療成績や安全性の向上を目的にしています。肝性脳症に特化した診療ガイドラインはないのですが、「肝硬変診療ガイドライン」に肝性脳症に対する検査や治療についての方針が示されており、診療に役立てられています。ガイドラインは数年に1回のペースでその中身が見直されており、時代の変化にも対応できるものになっています。

ガイドラインは医師が治療を組み立てる上で役に立つものですが、その通りに治療をすることが最適ではないこともあります。例えばガイドラインの改訂の前に有効な治療が確立されたり、不明だった治療成績が明らかになった場合はガイドラインにはない治療法が最適と考えられることもありえます。また、ガイドラインは患者さんの細かな状態を考慮して作られているわけではないので身体の状態を鑑みると最適な治療法はガイドラインに沿ったものではないこともあります。

臨床の現場では、ガイドラインを尊重しつつも患者さんの状況やその時の最新の知見を加えてアレンジして治療することがあります。もしガイドラインを見る機会があれば自分に行われた治療と照らし合わせてみるのもよいでしょう。そして治療を選ぶ際には提示された治療法にどのような根拠がありどのような効果が期待されるかを医師に尋ねてみてください。

また、ガイドラインは医療者向けに書かれたものなので、書いてあることの全てを理解するのは簡単ではありません。わからないことを医師に率直に聞いてみると、病気の現状や自分に合った治療について理解の手助けとなります。

参考文献

・日本消化器病学会, 肝硬変診療ガイドライン2015, 南江堂, 2015