けつゆうびょう
血友病
血を止めるのに必要な凝固因子という体内物質が不足して、出血が止まりにくくなる病気
6人の医師がチェック 88回の改訂 最終更新: 2022.07.04

血友病の原因について

血友病は出血を止める作用のある凝固因子の問題によって起こります。血友病は遺伝子の問題が原因で凝固因子が欠乏するものと、さまざまな病気が原因で凝固因子の働きが弱まるものに分けられます。ここでは、血友病の原因について詳しく説明します。

1. 出血はどうやって止まるの?

出血が止まるプロセスは2種類あり、「一次止血」と「二次止血」と呼ばれます。出血が起きた時には、一次、二次の順番に働き止血します。

一次止血は主に血小板(血液の成分の一つ)による止血です。しかし、この仕組みだけで十分止血できない場合には、傷によって弱った部分を丈夫にするため二次止血が働きます。二次止血には凝固因子と呼ばれるたんぱく質などが関わっています。その結果、傷がかさぶたで覆われ止血が完了します。

2. 血友病は凝固因子が問題となる

血友病は遺伝がかかわることが分かっており、血友病A、血友病Bの2種類があります。いずれも出血を止める作用のある凝固因子が欠乏することで起こります。凝固因子には12種類あって、血友病Aではその中の凝固因子8が欠乏しており、血友病Bでは凝固因子9が欠乏しています。

一方で、遺伝が影響しない血友病もあります。これを後天性血友病といいます。さまざまな状況を背景に凝固因子の働きを弱める「抗体」が作られることが原因となります。背景となる状況は、関節リウマチなどの自己免疫疾患(自分が自分を攻撃してしまう病気)やがんなどさまざまです。

3. 血友病の遺伝形式

遺伝する病気と聞くと不安に思う人もいるかもしれません。一方で、遺伝について詳しく知っている人は多くありません。遺伝について知識を深めることで、漠然とした不安を減らす助けになることがありますので、少し難しいですが説明を加えます。

血友病は男性にだけ発症する?

遺伝に必要な人間の情報は「染色体」に保存されています。染色体は23対(46本)あり、そのうち22対は常染色体、残りの1対は性染色体といいます。性染色体は性別を決める役割を担っていて、XとYの2種類があります。両親から染色体を片方ずつ受け継ぎ、XとXを引き継いだ人は女性となり、XとYを引き継いだ人は男性となります。

また、X染色体には性別を決める以外にも役割があります。X染色体は、凝固因子の中でも凝固因子8と凝固因子9の働きにも関連しています。血友病ではX染色体に問題あるため、凝固因子の働きが悪くなります。

X染色体は、女性(XX)なら2本あるので、片方のX染色体で問題が起こっても、もう片方が正常であれば、通常は血友病になりません。一方、男性(XY)には1本のみしかないため、男性のX染色体に問題が起こると、血友病を発症します。つまり、血友病を発症するのは基本的に男性のみとなります。このような遺伝形式は伴性劣性遺伝と呼ばれ、血友病の他にはアルポート症候群やウィスコットアルドリッヒ症候群などがあります。

性染色体と血友病の関係

血友病は医学的には先天性凝固異常症(生まれつき出血が止まりにくい病気)に分類されます。血友病の患者数は出生した男子の1万人に1人と多くはありませんが、先天性凝固異常症の中では患者数が多く、先天性凝固異常症のうち血友病Aは65%、血友病Bは14%を占めています。

遺伝しない場合もある?

血友病は遺伝すると述べてきましたが、遺伝ではなく日常生活を送っているうちに突然発症することがあります。これを後天性血友病といいます。このタイプの血友病は男女関係なく発症することがわかっています。また、後天性血友病になるきっかけはがんや自己免疫疾患(自分の免疫が自分を攻撃してしまう病気)などさまざまなものが考えられています。後天性血友病の人は、X染色体上の凝固因子の遺伝子に問題があるわけではないので、子どもに病気は遺伝しません。

4. 血友病の人や保因者の子どもはどうなるのか

血友病の人や血友病の人の家族には子どもに対する影響が心配な人もいると思います。ここではいろいろなパターンでの子どもに対する影響を説明します。

母親が保因者の場合

女性の持つ2本のX染色体のうち片方に問題が見られても、もう一方が正常であれば血友病を発症しません。このような女性のことを保因者といいます。ここでは母親(XX)が保因者の場合を説明します。下のイラストを参考にしながら読み進めてください。

母親が保因者である場合、2つあるX染色体のうち一つに問題があります。問題のあるX染色体が男児(XY)に受け継がれた場合には血友病を発症するため、50%の確率で男児は血友病になります。一方で、女児(XX)に受け継がれた場合は発症しませんが、保因者となります。近親者に血友病の人がいる場合には、出産前に不安になる人もいると思います。不安に感じる人はお医者さんに相談するようにしてください。

母親が血友病の保因者の場合

父親が血友病の場合

先ほどの話で述べたように、男性の性染色体はXとYの1本ずつです。そのうち片方が子どもに受け継がれます。男性のXが受け継がれると、子どもは女児(XX)になり、Yが受け継がれると子どもは男児(XY)となります。血友病では男性のX染色体の問題がありますが、上の2つのパターンを考えると、問題となるX染色体を受け継ぐのは女児のみとなります。

このように、男児に問題のあるX染色体が受け継がれることはありません。一方で、女児の場合は保因者となります。下にそれぞれのパターンをイラストにしてありますので参考にしてください。自分や家族が血友病の人は子どもへの影響について心配も小さくないと思います。何か疑問点がある場合はお医者さんに相談してください。

父親が血友病の場合