けつゆうびょう
血友病
血を止めるのに必要な凝固因子という体内物質が不足して、出血が止まりにくくなる病気
6人の医師がチェック 88回の改訂 最終更新: 2022.07.04

血友病の人に知っておいてほしいこと

血友病と診断され不安に思う人もいると思います。しかし、血友病は適切な治療を受けることによって、健康な人と変わらない生活を送ることができます。ここでは血友病の遺伝や寿命、日常生活について気を付けて欲しいことを説明します。

1. 血友病は遺伝する?

血友病のような遺伝する病気を持っている人は、自分の子どもへの影響について心配になると思います。しかし、遺伝するといっても子どもが必ず発症するわけではありません。また、血友病がどういった仕組みで遺伝するのかをよく理解することで、不安の軽減に繋がります。

ここでは、どのように遺伝するのかと男性と女性の違いについて説明します。

遺伝のキーとなる染色体について

人間の遺伝に関する情報は23対46本の染色体にインプットされています。23対のうち22対は常染色体、残りの1対は性染色体といいます。性染色体は、性別を決める役割を担っており、XとYの2種類があります。両親からそれぞれ1本ずつ染色体を受け継ぎ、性別が決定します。XとXを受け継いだ人は女性となり、XとYを受け継いだ人は男性となります。

血友病の遺伝のしかたについて

血友病の原因となる凝固因子8、9をコードする遺伝子はX染色体にあります。X染色体は、女性(XX)なら2本ありますが、男性(XY)には1本のみしか存在しません。そのため、女性では片方のX染色体で問題が起こっても、もう片方が正常であれば、通常は血友病になりません。一方で、男性のX染色体に問題が起こると、血友病を発症します。

また、発症していない女性で問題のあるX染色体を1本持っている人を保因者といいます。家族に血友病の人がいる女性は保因者である可能性があるので、心配な人はお医者さんに相談してみてください。

保因者の女性の子どもへの影響ついて

血友病に関して知っておくべきポイントの一つは、男性には発症するが女性に発症しないという点です。女性は発症しませんが、保因者となることはあります。保因者の女性は一般的に症状がありませんが、問題となるX染色体を持っています。しかし、この場合すべての子どもに血友病が遺伝するわけではありません。血友病の遺伝に関しては、「血友病の人や保因者の子どもはどうなるのか」で詳しく説明しているので参考にしてください。また、家族に血友病の人がいる時は妊娠の時にお医者さんに相談するようにしてください。

2. 血友病は治るのか

自分の病気が治るのかどうかが分からないと、心配は大きくなってしまいます。2019年現在の医学の力では、血友病を根本的に治療することは難しいですが、うまく付き合っていくことは可能です。

血友病の治療で最も大切なことは出血を防ぐことです。手術で出血が予想される人や症状が強い人は凝固因子の補充を受けて、安全に日常生活が送れるようにします。血友病であっても基本的には健康な人と変わらない生活が可能ですが、状況次第では出血の危険から激しいスポーツなどを控えた方が良いこともあります。日常生活に関して疑問がある場合にはお医者さんに相談してください。

3. 血友病の人の寿命

血友病の人や家族にとって、寿命に関する心配は決して小さくないかもしれません。凝固因子の補充などの治療を正しく行えば、現在では寿命はほぼ血友病のない人と変わらないと考えられています。血友病の人では血友病のない人に比べ、出血による死亡が多い一方で、心筋梗塞などの病気は少なかったという報告もあります。

寿命が血友病のない人と変わらなくなってきたことから、がんや生活習慣病などの年齢に関連した病気が増えています。がんで手術をうける人は、出血予防に関して上手に対応しなければなりません。また、高血圧や糖尿病といった生活習慣病の予防や治療も血友病ではない人と同様とても重要です。
 

4. 日常生活での注意点

血友病であっても基本的には健康な人と変わらない生活が可能ですが、日常生活では「出血の原因を避けること」と「出血による症状に早く気づくこと」が大事です。

出血の原因を避けること

凝固因子の補充などの適切な治療により出血をある程度予防できるとはいえ、日常生活では出血を予防するため普段からけがをしないように気を付けたり、激しいスポーツなどを控えるなどの心がけは大事です。また、血友病の子どもを持つ親は、子どもが身体をぶつけたり、頭を打って出血を起こすのではないかと心配になるものです。子どものけがの予防のためには活動を制限すればよいのですが、過度な制限は子どもの成長のためにはよくありません。どのような対応をすべきかは人によって異なるので、疑問点がある時はお医者さんと相談してください。

出血による症状に早く気づくこと

出血の予防も大事ですが、出血したときに早く気づくことも大切です。出血による症状には以下のようなものがあります。

  • ぶつけていないのに皮膚にあざがある
  • 関節の痛みや腫れがある
  • 筋肉の痛みや腫れがある
  • 口腔内(口の中)に出血がある

大人では以上のような症状がみられる時が多いですが、小さい子どもでは症状がわかりにくいことがあるので注意が必要です。例えば、活気のなさ、嘔吐、けいれんなどは一見すると出血と関係なさそうですが、頭の中で出血が起こった可能性が考えられます。小さい子どもが頭を打った後などにこのような症状が見られた時には、すぐに医療機関を受診してください。

5. 血友病かもと思ったら何科にかかればよい?

家族内に血が止まりにくくなるような症状のある人がいる場合は、血友病の可能性があるため医療機関を受診して調べてもらうようにしてください。

血友病を専門に扱う診療科は血液内科です。近くに血液内科がない場合は、最初にかかる診療科は内科や小児科でも構わないので、まずは身近な医療機関に相談してみてください。かかりつけ医がいる場合には、いつも診てくれている先生に相談するのが一番良いです。

出血を起こす病気は血友病の他にもあります。出血が続いて気になる場合は医療機関を受診するようにしてください。

6. 血友病とHIV・肝炎ウイルスの関連性

血友病の主な治療である凝固因子の補充には血液製剤が使われます。輸血、血液製剤には感染症を起こす微生物が潜んでいることがあります。血液製剤によるHIV、肝炎ウイルスの感染は今でもしばしば話題になります。しかし、結論から言うと現在の凝固因子の補充では感染症が問題となることはほとんどありません。

参照:Am J Hematol 2005; 79: 36-42