あいじーえーじんしょう
IgA腎症
腎臓の糸球体という部分に炎症が起きることで腎機能が下がってしまう。IgAというタンパクが糸球体に付着して炎症を起こすことが原因
16人の医師がチェック 91回の改訂 最終更新: 2024.02.21

IgA腎症の日常生活の注意点・難病の申請手続きなど

IgA腎症の治療の目的は腎臓の機能を長期に渡り維持することです。腎臓の機能を保つには食事や生活で気を付けるべきことがあります。

1. IgA腎症の人が食事で気をつけることは?

IgA腎症の人は食事での塩分・タンパク質やカロリー(エネルギー)の摂取に注意する必要があります。

  • 塩分の制限
  • タンパク質の制限 
  • 適切な量のカロリー(エネルギー)摂取

IgA腎症の人の中には腎臓の機能が低下したり今後低下すると予想される人がいます。そんな場合はIgA腎症の治療とともに腎臓の機能を維持していくことが大切です。腎臓の機能を保つには食事の中で以上に挙げた3点が勧められます。

塩分やタンパク質の制限、適切なカロリー摂取と一口にいっても難しいものです。以下では塩分やタンパク質、カロリーの知識から実践方法について解説します。

2. 腎臓を守るために大切な塩分の制限

IgA腎症の人には過度な食塩の摂取をするべきではありません。

食塩を過剰に摂取することは高血圧の原因になると考えられています。高血圧になると腎臓の糸球体という場所の中の圧力も上昇します。糸球体の圧力が高い状態が続くと糸球体に強い負担がかかり壊れたり機能が低下したりします。

IgA腎症では糸球体にIgA複合体が沈着して炎症を起こしています。糸球体は炎症により機能が低下していきます。IgA腎症と高血圧の2つが糸球体に悪影響を与え続けるのはよい状況ではありません。糸球体への負担を下げるためにも血圧をできるだけ上げないようにすることが大切です。塩分を少なくすることで血圧が上がる危険性を抑えることができます。

どのくらいの塩分がよいのか

IgA腎症で中等リスク以上の人は1日の塩分を食塩で6g以下に制限することが望ましいと考えられています。1日の食塩6gは感覚的にどの程度なのでしょうか。厚生労働省の報告によると日本人の1日の塩分摂取量は9-10gです。大まかにいうと今の食事の食塩を3分の2に減らすことが望ましいということになります。

まずは知ることから

実際に塩分の制限はどのようにすればいいのでしょうか?日本人はしょうゆやみそという食塩が多く含まれた食品を口にする機会が多く、どうしても塩分の摂取量が多くなりがちです。まずは塩分の多い食品を認識することから始めるのがいいと思います。食品によっては思った以上に食塩が含まれていたりするので、知るだけで該当する食品を避けたり減量したりすることができます。

食塩(塩化ナトリウム)の量は多くの食品の包装に記載されているので確認する習慣をつけてみてください。

食品の記載をみるときの注意点として、塩分とナトリウムの換算があります。最近は塩分とナトリウムの両方が併記されている場合も多いですが、ナトリウムしか表記されていないこともあります。ナトリウムの値から食塩の量を推定する方法を紹介します。

【ナトリウムから食塩への換算値】

食塩の量(g)=ナトリウムの量(mg)✕2.54÷1000

例えばナトリウムが400mgと表示されていると以下の計算式で食塩に換算できます。

400(mg)✕2.54÷10000=1.016(g)

つまりおおよそ1gの塩分を摂取したことになるというわけです。2.54はわかりにくいので2.5としておおよその数値を把握するのもよいと思います。

実践のための工夫

食塩やナトリウムについて知っておいて欲しいことについて解説しました。ここからは実践で使える工夫について解説していきます。

食塩については味付けのためにどうしても欠かせないことがあります。食塩は制限しなければならないとはいえ食事を楽しむ上では欠かすことの出来ない調味料であることも確かです。ではどうすればいいでしょうか?

味付けに食塩の代わりに香辛料を用いることは有効な手段です。香辛料の中にはナトリウムが含まれていないものもあるので上手に取り入れることで味の物足りなさを補うことができます。塩分の代用にするにはわさびやしょうが、七味唐辛子などが有効でしょう。成分表示を見て1回の使用量に含まれる塩分を計算してみてください。

献立ごとに味付けにメリハリを付けるのもよいでしょう。それぞれの料理を同じように味を付けるのではなく濃い味付け、薄い味付けとメリハリをつけることで濃い味の印象が強くなり物足りなさが解消されるかもしれません。

醤油やドレッシングの使い方にも一考の余地ありです。ついつい醤油やドレッシングは料理に多めにかけてしまいがちですが小皿に入れて少しずつ付けて食べる方法もあります。小皿に取り分ける方が調味料を使う量も少なくどれくらいの塩分をとったかを把握できます。一石二鳥の効果が期待できます。

食塩を制限しなければならないとなると気になるのが外食だと思います。外食は塩分が多いので注意は必要ですが出来ないわけではありません。外食する日には塩分をいつもより減らし気味にするなどの工夫をして外食を楽しんでください。

他にも工夫はあると思います。数字にこだわって食事に厳しすぎる制限を設けるのは食事が苦痛に変わりかねません。食事を楽しみにしている人も多いと思いますので、なるべく苦痛にならない工夫は大事です。制限を逆に楽しんで「新しい発見ができるかも」といった前向きな気持で取り組むことをオススメします。

3. タンパク質は制限したほうがいい?

IgA腎症の人の中にはタンパク質を制限したほうがよい人がいると考えられています。タンパ質の過剰な摂取はタンパク尿を悪化させることがあります。タンパク尿は腎臓の機能を損なうように働くことがあります。タンパク尿を悪化させない目的でタンパク質の制限が勧められることがあります。

タンパク質の摂取量はリスク分類ごとに定められています。

リスク分類とはIgA腎症を病気の勢いや腎臓の機能などの項目により分類したものです。腎臓の状態や病気の勢いによってタンパク質の摂取量についてもそれぞれに応じた対応が求められます。

タンパク質の量を調節することは難しいです。必要以上にタンパク質を減らした低タンパク質の食事は低栄養の原因になり全身の状態を悪化させる危険性もあります。タンパク質の制限は医師や栄養士など専門的な知識をもった人の助言をもとにして行うことをお勧めします。

どれくらいのカロリー(エネルギー)をとればいいのか?

IgA腎症の人は適切なカロリーを摂取することが大切です。カロリーの摂取量が足りないと人間は自らの筋肉や脂肪を分解してエネルギーを得ようとします。筋肉が分解されるとタンパク尿が増加することがあります。タンパク尿が増加しないようにするためにも適切なカロリーの摂取が望まれます。

一方でカロリーの摂取量が多くなってしまうことにも注意が必要です。カロリー過多の状況が続くと肥満に陥ることがあります。肥満の状態が長期間に及ぶと腎臓への負担が増してしまい腎臓の機能が低下します。

ではどの程度のカロリーを目標とするべきでしょうか?答えは難しくはなく、カロリーの摂取は健康な人と同程度でよいと考えられています。具体的には1日の作業量に応じて体重1kgあたり25-35kcal程度に調整すればよいと考えられています。

カロリーの摂取を狙ったとおりに調整することは難しいものです。この後にIgA腎症の人の食生活を実践するにはどうすればいいのかという中で考えていきます。

4. 適した食生活をするにはどうすればいいのか?

IgA腎症の人の食事について塩分とタンパク質、カロリーに着目して解説してきました。どのくらいの量を摂取すればいいかは理解していただけたと思います。では実行に移すにはどうすればいいのでしょうか?

どの食品にどの程度の栄養素が含まれているかをすべて把握して食事をする人は少ないと思います。このため塩分やタンパク質の量を正確に守った食事を毎回用意することは難しいものです。

一方で知らないことにはどうしようもないことがあるのもまた事実です。知識を得る方法としては自ら学ぶことも大切ですが、栄養士など専門的な知識を持つ人から指導を受けるのも有効です。他には文部科学省のウェブサイトにある「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」も参考になると思います。

食事についての注意点を述べてきましたが、毎回の食事で注意点を厳格に守らなければ大変なことが起きるということはありません。もちろん治療中は常識を超えるような暴飲暴食は慎むべきですが、毎回の食事で食品ごとの数値を全て算出して守らなければならないことはありません。食事は積み重ねが大事なので振り返ってみて概ね適正な食事が送れていれば成果が期待できるかもしれません。

治療中はストレスなどがたまりやすくなります。食事のように生活に楽しみを与えてくれる行為も苦痛に感じるのは精神的にも好ましいとは言えません。治療中であってもたまには好きなものを食べるのもいいと思います。医師や栄養士と相談してメリハリのついた食生活ができるような工夫をしてみてください。

5. IgA腎症の人が生活で気をつけることは?

IgA腎症の人は腎臓の機能を保つために生活習慣で気をつけるべきことがあります。禁煙・飲酒・運動・肥満について解説します。

参考文献
IgA腎症診療指針-第3版, 日腎会誌 2011;53(2):123-135.
日本腎臓学会/編, CKD診療ガイド2012,東京医学社, 2012
・浅野 泰/監, 腎臓内科診療マニュアル, 日本医学館, 2010

禁煙

喫煙は腎臓の機能を悪化させる原因のひとつと考えられています。IgA腎症の人の中には長期的に腎臓の機能が低下していく場合があります。IgA腎症の人の治療の目的の一つは長期にわたり腎臓の機能を維持することです。したがって腎臓の機能を低下させる危険性がある生活習慣はできる限り正していく方がよいです。

加えて喫煙は腎臓の機能を低下させる以外にもいくつかのがんの発生にも強く関わっており、虚血性心疾患狭心症心筋梗塞など)や脳梗塞発症する危険性を上昇させます。禁煙をすることは健康面において多くの利益をもたらしてくれるでしょう。

飲酒の注意点

飲酒は一般的な量を超えると腎臓の機能に悪影響を与えると考えられています。一般的な1日の飲酒量は以下のようになります。

  • 男性:20-30ml(日本酒1合程度)
  • 女性:10-20ml

さらに飲酒量が多くなると腎臓の機能のみならず急性膵炎肝硬変などになる危険性が上昇します。飲酒を1日の楽しみにしている人は多くいると思います。飲酒は、腎臓の機能に影響がない範囲で楽しむことが大事です。

運動制限は必要?

IgA腎症の人の運動量は血圧や腎臓の機能などを参考にして個別に決めます。

そもそも運動に制限が必要なのはなぜでしょうか?運動は健康を保つためにもよさそうなものです。

実は、運動によって過度に体に負担がかかると一時的にタンパク尿がでることがあります。タンパク尿は腎臓の機能に悪影響を与えます。腎臓の機能を保つ上でもタンパク尿は少なくする方がよいと考えられています。したがって運動を制限して安静にすることがよい場合があります。

運動制限はタンパク尿を減らすことには有効ですが、極端に運動を制限すると体重が増加して結果として肥満になってしまいます。肥満になると高血圧や糖尿病などの危険性が高まります。その他にも安静にしすぎることにより血液の流れが悪くなり血のかたまりができやすくなるなどの不利益も指摘されています。

運動制限は有益なこともあれば不利益になることもあります。

どのくらいの運動が患者さんにとって適しているかの判断には体の状態と腎臓の機能など様々な要因が関係します。どのくらいの運動が可能かが気になるときには担当医に相談して確認することが大事です。

肥満は解消した方がいい?

IgA腎症の人はできるだけ肥満にならない方がよいと考えられています。肥満は一般的には正常範囲を超えて体重が増加している状態です。医学的にはBMI(体重[kg]÷身長[m]÷身長[m])が25以上の人が肥満と定義されます。

IgA腎症の人の治療の目的の一つは腎臓の機能をできるだけ長期に渡って維持することです。肥満になると腎臓への負担が増加します。さらに肥満は腎臓の機能を損なう高血圧や糖尿病などに繋がる可能性があるのでできるだけ避けるべきだと考えられています。

6. IgA腎症は難病なのか

IgA腎症は厚生労働省が定める指定難病です。指定難病とはどのような病気なのでしょうか?

指定難病は原因が十分にわかっておらず治療法が確立されていない病気です。指定難病の人は定められた重症度を超える場合に医療費の助成を受けることができます。

どんな場合に医療費助成が受けられる?

IgA腎症の人で重症度判定基準を満たす場合には医療費助成を受けることができます。重症度基準は難しい内容ですが以下で紹介します。

【IgA腎症の重症度分類】

以下1-3のいずれかを満たす場合が対象となります。

  1. CKD重症度分類ヒートマップが赤の部分の場合 
  2. タンパク尿0.5g/gCr以上の場合
  3. 腎生検施行例の組織学的重症度III又はIVの場合

図:CKD重症度分類ヒートマップ

解説します。

1.は検査値が上の表の赤い部分に該当する人です。2.は尿検査によって定められます。3.は腎臓の生検をした時の結果です。

重症度判定を行うのは医師です。説明した重症度の内容を完全に理解しなければ助成が受けられないことはまったくないので安心してください。担当医が病状を把握しているので助成が受けられるかどうかを相談してみるとよいでしょう。

また重症度分類を満たさない場合でも高額な医療を継続することが必要と判断されるときは、医療費助成の対象になることもあります。

難病の医療費助成費申請:医療費受給者証の交付

IgA腎症は国の指定する難病に該当します。医療費受給者証の交付を得ることで医療費の助成(負担額の軽減)が可能になります。

難病の医療費受給者証の申請は大まかに以下の手順です。自治体ごとに準備する書類が異なりますので、詳しくは住んでいる都道府県の保健所にお問い合わせください。

  • 医療費受給者証の申請に必要な以下の書類を準備します。(カッコ内は入手可能な場所)
    • 臨床調査個人票(厚生労働省のホームページ、福祉保健局のホームページ、市区町村の窓口)
    • 特定医療費支給認定申請書(福祉保健局のホームページ、市区町村の窓口)
    • 個人番号に関わる調書(市区町村の窓口)
    • 住民票(市区町村の住民票窓口)
    • 市区町村税課税証明書(市区町村の住民税窓口)
    • 健康保険証の写し
    • その他必要なもの
  • 臨床調査個人票の記入を医師(※)に依頼します。臨床調査票は難病であることの証明(診断書)でもあるので、医師による記入が必要になります。
  • 上記の書類を揃えて、住んでいる市区町村窓口で申請します。指定難病として認定されると、医療券が発行されます。要件が満たされないと判断された場合には不認定通知が発行されます。認定の決定は、指定難病審査会で行われ、結果が出るまでには3ヶ月程度の時間がかかります。

※臨床個人調査票は難病の臨床調査個人票の記入を都道府県知事から認定された医師しか作成できません。この都道府県知事から認定された医師を指定医と呼びます。主治医が指定医であるかは主治医に直接問い合わせてください。各自治体の福祉保健局のホームページなどにある一覧などでも確認できます。

助成される内容は?

医療費の助成が適用されるのは難病の治療にかかった費用のみです。以下は例になります。

  • 指定医療機関で難病の治療に要した窓口の自己負担金 
  • 保険調剤の自己負担額 
  • 訪問看護ステーションや介護保険の医療サービスを利用したときの利用者負担額 

医療費が助成されるかはっきりしないときもあると思います。そのときには担当する部署に前もって助成されるかどうかを尋ねておくとよいでしょう。

自己負担額はどれくらいになる?

自己負担額額の限度額は世帯の市町村住民税により限度額が決まっています。詳細な限度額は市町村に問い合わせるまたは難病情報センターのウェブサイトなども参考にしてください。

申請から交付まではどれくらい時間がかかる?

医療費助成を申請してから交付までには約3ヵ月程度かかります。審査に時間がかかった場合はさらに延びることがあります。申請から交付までの期間にかかった医療費は払い戻しを受けることが可能です。

認定に有効期限はある?

医療費助成の認定には有効期限があり、申請した日から原則1年となっています。その後も治療の継続が必要な場合には更新の手続きが必要になります。

参考文献
・難病情報センターホームページ