あいじーえーじんしょう
IgA腎症
腎臓の糸球体という部分に炎症が起きることで腎機能が下がってしまう。IgAというタンパクが糸球体に付着して炎症を起こすことが原因
16人の医師がチェック 91回の改訂 最終更新: 2024.02.21

IgA腎症の治療:薬物療法、扁桃腺摘出など

IgA腎症は何も治療をせずに経過観察だけでよい場合もあれば積極的な治療を必要とする場合もあり様々です。IgA腎症の人の治療はどのようにして決められて、その治療にはどの様な特徴があるのでしょうか。

1. IgA腎症の治療の目的

IgA腎症は症状がないことも多く、なぜ治療が必要かと疑問に思うことがあるかもしれません。しかしながら、IgA腎症の人の中には無症状のうちに徐々に腎臓の機能が低下して腎臓の機能が失われる人がいるので、治療についてはその後の経過を予想する必要があります。そうした予想をもとにして、腎臓の機能を生涯に渡り保つことを目指します。

2. IgA腎症の治療はどうやって決める?:予後分類

IgA腎症と診断された場合、全ての人が同じ治療を受けるわけではありません。IgA腎症の人の中には治療を必要としない人も積極的な治療が必要な人もいて様々です。では治療法はどのようにして選んでいけばいいのでしょうか。

いくつかの目安がありますがここでは「IgA腎症治療指針」による予後分類を紹介します。予後分類とはIgA腎症の経過を予想する分類のことです。

予後分類

IgA腎症によって将来に腎臓の機能が低下することが予想される人は、積極的な治療が必要です。

過去の治療実績をみて以下の3つのポイントを用いてIgA腎症の人を4つのグループに分けます。

  1. 尿蛋白の量:1日あたりの尿蛋白の量 
  2. 腎臓の機能:eGFR 
  3. 腎生検の結果:4段階で評価

4つのグループに割り振る方法はかなり複雑なのでここでは割愛します。大切なのは分けられた後の4段階の意味です。透析療法に至る可能性という点で4段階に分けます。

  • 低リスク
    • 透析療法に至る可能性が少ない人 
  • 中等リスク
    • 透析療法に至る可能性が中程度ある人
  • 高リスク
    • 透析療法に至る可能性が高い人
  • 超高リスク
    • 5年以内に透析療法に移行する可能性がある人 

リスクごとに生活(運動制限)と食事、薬物療法について内容が異なる治療が検討されます。また同じリスク分類の人でも個人の状態により治療の内容が調整されます。

3. IgA腎症の治療

予後分類によりIgA腎症の人はその後の見通しから4つのグループに分けることができると説明しました。グループに別れることで治療の方針が立てられます。

IgA腎症の人の治療は4つあります。3つの軸とは生活指導と食事療法、薬物療法、手術です。グループごとにその内容が異なります。

全てのリスクの人に求められること

リスクごとの治療法の説明にうつる前にIgA腎症を発症した人の全てに求められることについて説明します。

  • 生活指導
    • 禁煙する 
    • 適正な飲酒量を守る 
    • 体重の増加に気を配る  
  • 食事療法
    • 適正なカロリー(エネルギー)を摂取する

IgA腎症の治療の目的は腎臓の機能を守ることです。腎臓の機能に悪影響を及ぼす生活習慣を正すことが大切です。

喫煙や過度な量の飲酒、肥満などは腎臓の機能に悪影響を与えます。腎臓の機能の保護という観点から禁煙や適正な量の飲酒、肥満にならないことなどは大切です。

定期的に医療機関を受診して尿検査や腎臓の機能を調べることをお勧めします。IgA腎症の人の中には治療しなくても将来的な腎臓の機能には影響がないと考えられる人がいます。それはあくまでも見通しに過ぎないので定期的な受診により腎臓の機能を観察することは有益だと考えられます。受診の間隔は個々の状態により調整されます。

食生活では適正なカロリーを摂取することが大切です。カロリーが多すぎる状態が続くと肥満になり、少なすぎると筋肉が分解されタンパク尿が増加します。肥満もタンパク尿の増加も腎臓への負担を増大させます。

ここまで説明したことはIgA腎症の人全てに求められることです。いわば腎臓に優しい生活習慣を身につけることを意味すると言い換えても良いかもしれません。

次にリスク分類ごとの治療について説明します。

低リスクの人の治療

低リスクの人は積極的な治療をしなくとも将来に腎不全に至る可能性が少ないと考えられています。低リスクの人の治療方針は以下になります。

  • 運動制限
    • 特になし
  • 食事療法
    • 過剰な塩分摂取、タンパク質の過剰摂取を避ける
      • タンパク質:0.8−1.0g/kg 標準体重/日以内
  • 薬物療法
    • 必要に応じて抗血小板薬や降圧薬を用いる

過剰な塩分やタンパク質の摂取は腎臓に負担をかけます。低リスク群と判断されても限度を超えた暴飲暴食は避けるべきです。低リスクの人で塩分摂取量に明確な基準値は決められていませんが、「日本人の食事摂取基準」では健康な人の基準として成人男性で1日8g未満、成人女性で1日7g未満が目標値とされているので、多くともこの目標値を超えるべきではないと考えられます。

必要に応じて抗血小板薬や降圧薬を用いることがあります。抗血小板薬は血液を固まりにくくする薬、降圧薬は血圧を下げる薬です。薬の働きについては「IgA腎症の薬物療法」で説明しています。

ステロイド薬を用いて腎臓の炎症を抑える治療を行うことは多くはありませんが、腎臓の炎症が急激に進行する可能性がある場合に考慮します。

中等リスクの人の治療

中等リスクの人は透析療法に至る可能性が中程度ある人です。

  • 運動制限
    • 血圧や尿タンパク、腎機能などをみながら個人個人で運動量を調整
  • 食事療法
    • 血圧や尿タンパク、腎機能などをみながら食塩、タンパク質の制限
      • タンパク質:0.8-1.0g/kg 標準体重/日以内 
      • 食塩:6g/日未満
  • 薬物療法
    • タンパク尿の程度や高血圧の有無、腎臓の生検の結果を参考にして薬物療法をするかを決める
      • 抗血小板薬 
      • 降圧薬
      • ステロイド薬 

食事療法では関係する血圧や尿中のタンパク量を調べながら制限をする必要性を判断します。

必要に応じて抗血小板薬や降圧薬を用いて治療します。抗血小板薬は血液を固まりにくくする薬、降圧薬は血圧を下げる薬です。薬の働きについては「IgA腎症の薬物療法」で説明しています。

腎臓の炎症が急激に進行する可能性がある場合や尿タンパクが1日0.5g以上出ている場合は積極的にステロイド薬による治療を検討します。ステロイド薬の治療はeGFR(推定糸球体濾過量)が60ml/min/1.73m2以上の腎機能が保たれている人に適していると考えられています。

高リスクの人の治療

高リスクの人は透析療法に至るリスクが高い人のことです。

  • 運動制限
    • 血圧や尿タンパク、腎機能などをみながら個人個人で運動量を調整
    • 妊娠や出産には注意が必要
  • 食事療法
    • 血圧や尿タンパク、腎機能などをみながら食塩、タンパク質の制限
    • 必要に応じてカリウムを制限
      • タンパク質:0.6-0.8g/kg 標準体重/日以内
      • 食塩:6g/日未満
  • 薬物療法
    • 腎臓の機能やタンパク尿の程度、高血圧の有無、腎臓の生検の結果を参考にして薬物療法をするかを決める
      • 抗血小板薬
      • 降圧薬
      • ステロイド薬

食事療法では関係する血圧や尿中のタンパク量を調べながら制限をする必要性を判断します。

必要に応じて抗血小板薬や降圧薬を用いて治療します。抗血小板薬は血液を固まりにくくする薬、降圧薬は血圧を下げる薬です。薬の働きについては「IgA腎症の薬物療法」で説明しています。

腎臓の炎症が急激に進行する可能性がある場合や尿タンパクが1日0.5g以上出ている場合は積極的にステロイド薬による治療を検討します。ステロイド薬の治療はeGFR(推定糸球体濾過量)が60ml/min/1.73m2以上の腎機能が保たれている人に適していると考えられています。

超高リスクの人の治療

超高リスクの人は5年以内に透析療法に至るリスクが高い人のことです。

  • 運動制限
    • 血圧や尿タンパク、腎機能などをみながら個人個人で運動量を調整 
    • 妊娠や出産には厳重な注意が必要
  • 食事療法
    • 血圧や尿タンパク、腎機能などをみながら食塩、タンパク質の制限
    • 必要に応じてカリウムを制限
      • タンパク質:0.6-0.8g/kg 標準体重/日以内 
      • 食塩:6g/日未満
  • 薬物療法
    • 腎臓の機能やタンパク尿の程度、高血圧の有無、腎臓の生検の結果を参考にして薬物療法をするかを決める
      • 抗血小板薬
      • 降圧薬
      • ステロイド薬

食事療法では関係する血圧や尿中のタンパク量を調べながら制限をする必要性を判断します。

必要に応じて抗血小板薬や降圧薬を用いて治療します。抗血小板薬は血液を固まりにくくする薬、降圧薬は血圧を下げる薬です。薬の働きについては「IgA腎症の薬物療法」で説明しています。

腎臓の炎症が急激に進行する可能性がある場合や尿タンパクが1日0.5g以上出ている場合は積極的にステロイド薬による治療を検討します。

ステロイド薬の治療はeGFR(推定糸球体濾過量)が60ml/min/1.73m2以上の腎機能が保たれている人に適していると考えられています。ただし、超高リスクと判断される人は腎臓の機能が低下していることも多いです。腎臓の機能が著しく低下している場合にはステロイドによる効果が弱いと考えられるので腎不全の治療を行います。

参考文献
IgA腎症診療指針-第3版, 日腎会誌 2011;53(2):123-135.

4. IgA腎症の薬物療法

IgA腎症は薬物療法が中心になります。薬物療法は腎臓での炎症を抑えたり腎臓の機能を守ったりするのに役立ちます。

  • 降圧薬
  • 抗血小板薬
  • 抗凝固薬
  • 魚油
  • ステロイド薬
  • 免疫抑制薬

上の治療薬のいくつかを組み合わせて治療をします。例えば高血圧を伴っている場合には降圧薬などを主体に使い、炎症が強いと考えられる場合には炎症を抑えるステロイド薬などが用いられます。

IgA腎症の薬物療法は患者さんの状態や腎臓の機能、炎症の強さなどばらつきがある様々な要素を鑑みて最適な治療薬を選択します。

参考文献
・浅野 泰/監, 腎臓内科診療マニュアル, 日本医学館, 2010

降圧薬

IgA腎症で高血圧やタンパク尿が出ている人に対して降圧薬を使うと腎臓の機能を守る働きが期待できます。降圧薬の中でもアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)やアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)、カルシウム拮抗薬には腎臓の糸球体の圧を下げる効果があります。糸球体の圧力を下げることで腎臓の機能を保護する効果が期待できます。

抗血小板薬

血小板は血液の中にある細胞(血球)の一種で、血を固まらせて出血を止める働きがあります。IgA腎症の進行には血小板の活性化や凝集(集まること)が関与していると考えられています。この血小板の働きを予防するために血小板の活性化を抑える薬を使うことがあります。

抗凝固薬

抗凝固薬は血液の中の凝固因子を阻害することで血液を固まりにくくする働きを発揮します。凝固因子は血を固める働きをするタンパク質です。血液を固まりにくくする薬には抗血小板薬もありますが、抗凝固薬とは作用が異なります。腎生検の病理診断で半月体形成や糸球体硬化などの特徴が確認されるときには抗凝固薬を用いることを検討します。

魚油

魚油(イコサペント酸エチル(EPA))は抗血小板作用や血管収縮作用、抗炎症作用、中性脂肪低下作用などを持ちIgA腎症とともに動脈硬化脂質異常症高脂血症)が現れている人に対して用いられることがあります。

ステロイド薬

ステロイド薬は腎臓の炎症を抑える目的で用いられます。炎症の勢いや腎臓の機能、タンパク尿の程度などを考慮して用いる量や投与期間などを決めます。

【ステロイド療法】

ステロイド療法は中等量のステロイド薬を内服する治療です。ステロイド薬にはいくつか種類があります。代表的なステロイド薬にはプレドニゾロンやメチプレドニゾロンという薬があります。例えばプレドニゾロンというステロイドを用いて体重が60kgの人を治療するときは1日あたり48-60mgの薬を用いることが多いです。ステロイド薬の内服は6-8ヵ月程度に渡り行われることもあります。

ステロイドパルス療法】

ステロイドパルス療法は大量のステロイド薬を用いる治療です。大量のステロイド薬を用いるので注射を用いて体の中に入れることが多いです。メチルプレドニゾロンという種類のステロイド薬を1回1g(1000mg)の量で用います。1gのステロイド薬を1日1回3日間投与します。

3日間だけで治療が終了する訳ではなくその後も量を減らしてステロイド薬の内服を継続します。

治療期間や方法は施設により異なることがあります。例としては2ヵ月に1回のステロイドパルスを3回行い約半年間を治療期間とする方法などがあります。

【ステロイドの副作用】

IgA腎症の治療薬として重要なステロイド薬ですが副作用には注意が必要です。主な副作用には以下のものがあります。

  • 胃があれる
  • 骨が脆くなる
  • 感染症にかかりやすくなる
  • 不眠
  • 高血圧

上記以外にもさまざまな副作用が知られています。

一般的にステロイド剤は投与量、投与期間なども含めて副作用に関して十分配慮された上で使われます。例えば、胃があれるなどの消化器症状に対しては胃酸を抑える薬(H2受容体拮抗薬プロトンポンプ阻害薬など)、骨がもろくなる対策としてビスホスホネート製剤ビタミンD製剤などの骨粗しょう症を予防する薬を使うといったように、副作用を抑えたり軽減させる薬を併用することで多くの場合対処が可能です。またステロイド剤の使用中は免疫抑制作用により易感染性(いかんせんせい)といって細菌ウイルスなどによる感染症にかかりやすい状態になるため、うがいや手洗いなど日常生活の中での注意も大切です。

ステロイド剤(内服薬)の副作用に関しては「ステロイド内服薬の副作用とは」でも紹介しています。

免疫抑制薬

IgA腎症で腎臓の炎症を抑える治療はステロイド薬が中心的な役割を果たしています。ステロイド薬の効果が乏しいときには免疫抑制剤を併用します。ステロイド薬と免疫抑制薬を併用することで治療効果が上がることが期待されています。使用する免疫抑制薬はシクロホスファミドやアザチオプリンなどです。

5. IgA腎症の手術治療

IgA腎症では喉の扁桃腺を取り除くことが治療になります。扁桃摘出とステロイドパルス療法を組み合わせる扁桃摘出+ステロイドパルス療法について解説します。

扁桃摘出

扁桃腺(扁桃)は舌の付け根の両脇にあるこぶ状の臓器です。扁桃腺は子供の発熱の原因にもなる扁桃炎が起こる場所です。腎臓は腹部の臓器です。扁桃腺と腎臓は遠く離れています。遠く離れた扁桃腺と腎臓にどんな関係があるのでしょうか。

IgA腎症では扁桃腺で過剰に作られたIgA複合体という物質が血流に乗り腎臓にたどり着いて炎症を起こすという説があります。腎臓に悪影響を及ぼすIgA複合体の元を絶つことで治療効果を得ようというのが扁桃摘出を行う理由です。

扁桃摘出は文字通り扁桃腺を取り除く手術です。一般的には扁桃摘出は全身麻酔で行い、手術時間は30分-1時間程度です。

扁桃摘出+ステロイドパルス療法

扁桃摘出とステロイドパルス療法を組み合わせて治療することがあります。IgA腎症の寛解が望める治療として検討されることがあります。

6. IgA腎症に治療ガイドラインはある?

診療ガイドラインは、治療にあたり妥当な選択肢を示すことや、治療成績と安全性の向上などを目的に作成されています。IgA腎症では「IgA腎症診療ガイドライン」があります。

ガイドラインは普遍的なものではなくその中身は新たな知見とともに数年に1回の頻度で更新されています。一方でガイドラインの更新を医学の進歩が上回ることもあります。ガイドラインにはまだ反映されていない情報がすでに一般的な治療として認知され実践されていることも珍しくはありません。

ガイドラインは医師が治療を進めていく上で役立ちますが、ガイドライン通りの治療がいつも正しいわけではありません。ガイドラインには反映されていない知見が役に立つ場合もあります。さらに医師はその時々、患者さんの状態はひとりひとり異なることを考えに入れて治療しています。