あいじーえーじんしょう
IgA腎症
腎臓の糸球体という部分に炎症が起きることで腎機能が下がってしまう。IgAというタンパクが糸球体に付着して炎症を起こすことが原因
16人の医師がチェック 91回の改訂 最終更新: 2024.02.21

IgA腎症はどんな病気?症状・診断・治療・経過の解説

IgA腎症は腎臓の機能が低下する病気です。主に尿検査で見つかります。腎臓の機能への影響には幅があり、ほとんど影響がない人もいれば、時間の経過とともに腎臓の機能が失われる人もいます。このページでは病気の概要としてIgA腎症の症状や診断、治療などについて網羅的に説明します。

1. 尿検査でみつかるIgA腎症とはどんな病気か?

IgA腎症(アイジーエーじんしょう)とは尿検査でのタンパク尿血尿の指摘から見つかることの多い病気です。腎臓の糸球体という部位にIgAというタンパクが沈着して炎症が起こります。IgA腎症は腎臓の機能低下の原因となりますが、その程度には幅があます。ほとんど影響がない人もいる一方で、長年のうちに腎臓の機能が低下して透析治療が必要な状態に至る人もいます。
次にIgA腎症についてよくある質問について説明します。

参考文献
・厚生労働省難治性疾患克服研究事業進行性腎障害に関する調査研究班, エビデンスに基づくIgA腎症ガイドライン2014, 東京医学社, 2014
・浅野 泰/監, 腎臓内科診療マニュアル, 日本医学館, 2010

IgA腎症を発症している人はどれくらいいるのか?

日本でIgA腎症を持って生活している人は33,000人程度と推定されています。

男女差はある?

IgA腎症の発症に男女差は明らかではありません。

何歳くらいで発症するのか?

IgA腎症を発症しやすい年齢のピークは2つあります。最初のピークは10-14歳で第2のピークは40歳前後です。

2. IgA腎症の症状:血尿・タンパク尿など

IgA腎症になっても症状が現れるとは限りません。血尿とタンパク尿でみつかることが多いのですが、軽微な血尿は検査でしかわからないですし、蛋白尿を症状から判断することは困難です。ですので、尿検査から見つかることがほとんどです。まれに体の浮腫みなどで見つかることもありますが、多くはありません。また、上気道感染(いわゆる風邪)にかかるとIgA腎症が一時的に悪化して血尿がでることがあり、これが発見のきっかけになることもあります。

3. IgA腎症の原因

IgA腎症の原因はIgAという免疫グロブリンと呼ばれる物質の一つが腎臓の糸球体に沈着し炎症を引き起こすことにだと考えられています。す。本来、IgAは気管や気管支、腸などの粘膜に侵入してきたウイルス細菌などから体を守る働きをしているのですが、そのメカニズムに異常が起こると考えられていますが、詳しい内容についてはまだ解明されていません。

4. IgA腎症の診断に用いる検査

IgA腎症の診断に必要な検査で主だったものは次のものです。

【IgA腎症の検査】

  • 尿検査 
  • 血液検査  
  • 腎生検
  • 病理検査
  • 腹部超音波検査

IgA腎症の診断には尿検査や血液検査、病理検査などの結果をもとにして総合的に判断されます。IgA腎症の確定診断には病理検査が最も確度が高いと考えられています。病理検査とは腎臓の組織を顕微鏡で観察する検査のことです。腎臓の組織は腎生検という方法で取り出します。IgA腎症であれば、糸球体という部位にIgAが沈着している様子が観察されます。病理検査は信頼度が高い検査ではありますが、体への負担は他の検査に比べると大きいものがあります。このため、代替案として尿検査や血液検査の結果を総合的に判断して診断されることもあります。

また、IgA腎症の程度には幅があります。具体的には、発症しても腎臓の機能がほとんど低下しない人もいれば数年で腎不全に至り透析治療が必要になる人もいます。この違いは治療法に大きく関係します。ほとんど低下しない人には経過観察が適していますし、重症化する可能性が高い人には早期に治療を始める必要があります。治療法を適切に選ぶためには、どのような経過をたどるかを検査によって予測しなければなりません、IgA腎症の人の経過を予測するにはタンパク尿の量と発症時の腎臓の機能、腎臓の組織の病理検査が決め手になります。

それ以外では、画像検査もしばしば行われます。その主な目的は他の病気との区別です。例えば、IgA血尿腎症は血尿を契機に発見されることもありますが、血尿の原因はIgA腎症以外の病気でも現れる症状です。このためIgA腎症と他の病気を区別するために腹部超音波検査などを用いて腎臓や膀胱などが観察されます。

5. IgA腎症の治療

IgA腎症の人には無治療で様子をみても問題がない人と積極的な治療が必要な人がいます。IgA腎症の治療の目的や治療法について解説します。

IgA腎症の治療の目的

IgA腎症の目的の一つは治療によって腎臓の機能を生涯に渡り保つことです。IgA腎症の進行には個人差があるため、治療をしなくてもよい人から積極的な治療が必要な人まで様々がいます。このためIgA腎症と診断された全ての人が同じ治療を受けるわけではありません。

IgA腎症の予後分類

治療法を決めるにあたりいくつかの目安がありますがここではIgA腎症治療指針による予後分類を紹介します。予後とは病気の経過と結果の見通しです。

IgA腎症の予後分類は、以下の項目を用いて決めます。

  1. 尿蛋白の量:1日あたりの尿蛋白の量 
  2. 腎臓の機能:eGFR 
  3. 腎生検の結果:4段階で評価

4つのグループに割り振る方法はかなり複雑なのでここでは割愛しますが、それぞれのグループの意味については押さえてください。

  • 低リスク
    • 透析療法に至る可能性が少ない人 
  • 中等リスク
    • 透析療法に至る可能性が中程度ある人
  • 高リスク
    • 透析療法に至る可能性が大きい人
  • 超高リスク
    • 5年以内に透析療法に移行する可能性がある人

腎不全にいたる可能性が高いグループの人ほど積極的な治療が必要になり、リスクが低い人ほど治療の必要性が下がります。

IgA腎症の治療について

IgA腎症の治療には生活改善と食事療法、薬物療法、手術の4つがあります。リスク分類ごとに治療の内容が異なり、一人ひとりの状態に合わせて調整が行われます。

【生活改善】
生活改善は具体的には禁煙と適正な飲酒量を守ること、適正体重を保つことなどです。喫煙や過度な飲酒、肥満は腎臓に負担がかかり腎臓の機能が低下する原因になると考えられているので、なるべく負担をかけないようにすることが大切です。

【食事療法】
食事では食塩とタンパク質の摂取量を制限した方がよい場合があります。リスク分類に加えて、高血圧やタンパク尿の有無・程度が参考材料になります。なお、最も軽症な低リスク分類の人でも過剰な塩分やタンパク質の摂取は避けるべきとされているので、食事については一度見直してみるとよいです。

【薬物療法】
薬物療法の目的は、腎臓の機能を守ることと腎臓の炎症を抑えることになります。
腎臓の機能を守る薬としては血圧を下げる薬(降圧薬)や血液を固まりにくくする薬(抗血小板薬など)などが中心となります。腎臓の炎症を抑える薬の中心は「ステロイド」です。ステロイドには炎症を抑える作用があります。一方で炎症がごく軽い場合、つまりリスク分類で低リスクに分類されるような人にはステロイド薬を用いなくてもよいことがあります。

【手術】
IgA腎症に効果のある手術は扁桃腺の摘出です。扁桃腺は舌の根本の両脇にある臓器です。IgA腎症では扁桃腺で過剰に作られたIgA複合体という物質が血流に乗り腎臓にたどり着いて炎症を起こすという仮説があり、IgA複合体の元を絶つことで治療効果を得ようというのが扁桃腺の摘出を行う理由です。

6. IgA腎症の人が日常生活で注意する点

IgA腎症の人は薬物による治療とともに腎臓の機能を保つために日常生活でもいくつか注意する点があります。

  • 全てのIgA腎症の人が注意すること
    • 禁煙
    • 適正な飲酒量
    • 体重の管理
    • 適正カロリー(エネルギー)の摂取
  • IgA腎症のリスクに応じて制限すること
    • 食事内容
      • 塩分の量
      • タンパク質の量
    • 運動

IgA腎症と診断された全ての人は禁煙や適正な飲酒量を守る、体重の管理をすることが望まれます。なぜなら喫煙や過度な飲酒、肥満は腎臓の機能を低下させる可能性があると考えられているからです。IgA腎症の治療目的は長期に渡って腎臓の機能を維持することなので、腎臓の機能を損なう危険性はなるべく避けるべきです。
リスク分類や血圧、腎臓の機能、タンパク尿の程度などをもとにして食事の内容や運動を制限することがあります。

詳細は「IgA腎症の日常生活の注意点・難病の申請手続きなど」と「IgA腎症の治療:薬物療法、扁桃腺摘出など」も参考にしてください。

7. IgA腎症の腎機能の経過

IgA腎症の人で治療をしないで観察したときの腎臓の機能(腎機能)の経過について説明します。

世界各国で行われたいくつかの調査によると、10年間の経過観察で腎機能が保たれて透析治療が必要ではなかった人の割合(腎生存率)は80-85%でした。日本での報告でも10年腎生存率は85%でした。さらに観察期間を伸ばすと20年腎生存率は約60%程度とされています。

これらの統計の数値はあくまでも過去の治療実績にもとづくものです。現在の治療の結果はまだ知ることができません。医学は日進月歩で進んでいるので過去の実績に比べて治療成績が向上していることも十分にありえます。

参考文献
D'Amico G. Natural history of idiopathic IgA nephropathy and factors predictive of disease outcome. Semin Nephrol.2004;24:179-96
・浅野 泰/監, 腎臓内科診療マニュアル, 日本医学館, 2010

8. IgA腎症は難病なのか

IgA腎症は厚生労働省が定める指定難病です。指定難病は原因が十分にわかっていない病気や治療法が確立されていない病気のことです。指定難病の人は定められた重症度を超える場合に医療費の助成を受けることができます。

指定難病の申請の方法などは「IgA腎症の日常生活の注意点・難病申請手続きなど」を参考にしてください。

助成される内容

医療費の助成が適用されるのは難病の治療にかかった費用のみです。以下は例になります。

  • 指定医療機関で難病の治療に要した窓口の自己負担金 
  • 保険調剤の自己負担額 
  • 訪問看護ステーションや介護保険の医療サービスを利用したときの利用者負担額 

医療費が助成されるかはっきりしないときもあると思います。そのときには担当する部署に前もって助成されるかどうかを尋ねておくとよいでしょう。

自己負担額

自己負担額額の限度額は世帯の市町村住民税により限度額が決まっています。詳細な限度額は市町村に問い合わせるまたは難病情報センターのウェブサイトなども参考にしてください。

申請から交付までの時間

医療費助成を申請してから交付までには約3ヵ月程度かかります。審査に時間がかかった場合はさらに延びることがあります。申請から交付までの期間にかかった医療費は払い戻しを受けることが可能です。

認定の有効期限

医療費助成の認定には有効期限があり、申請した日から原則1年となっています。その後も治療の継続が必要な場合には更新の手続きが必要になります。

参考文献
・難病情報センターホームページ