すいぞうがん
膵臓がん
膵臓にできるがんの総称。早期で発見するのが難しく、経過が最も悪いがんの一つ
15人の医師がチェック 249回の改訂 最終更新: 2024.10.24

膵臓がんの原因:飲酒、喫煙、遺伝、IPMNとの関係

膵臓がんの原因には遺伝子や飲酒、喫煙などいくつかのものが研究されています。ここでは膵臓がんの発病に関わるものについて解説します。

1. 膵臓がんと生活習慣などとの関係:飲酒・食事・喫煙・ストレス

膵臓がんの発病と生活習慣などには関係があるのでしょうか。飲酒・食事・喫煙・ストレスについての研究報告を中心に説明します。

飲酒

少量の飲酒であれば膵臓がんを発病する危険性を上昇させませんが、一方で一定量の飲酒は膵臓がんの発病に関係しています。
具体的には1日あたりに摂取するアルコールが3ドリンク(1ドリンク=エタノール12g)以上の飲酒は膵臓がんを発病する危険性を上昇させます。3ドリンクはビール900mL、日本酒1.7合に相当します。

また、習慣化した大量の飲酒は慢性膵炎という病気につながります。さらに慢性膵炎は膵臓がんの危険性を大きく上昇させます。慢性膵炎と膵臓がんの関係については後述します。

大量飲酒は膵臓がんやその他の病気の原因となるので、避けたほうがよいと考えられます。

参考:Int J Cancer 2010;126:1474-86Gastroenterology 2014;146:989-994

食事

膵臓がんの発病と強く関係しているものとして、糖尿病肥満慢性膵炎、アルコールがあります。
これらは食事と関係が高いことから、間接的ですが膵臓がんと食事には関係性があるとも思われます。それぞれについて解説します。

糖尿病

糖尿病と膵臓がんの発症には関連性があります。糖尿病患者における膵臓がんの発症のリスクは糖尿病ではない人と比較して1.94倍であったとする報告があります。糖尿病発症の2年以内は膵臓がんの発症が多いとされます。

これは逆に初期の膵臓がんが糖尿病を引き起こす場合もあります。そこで新たに診断された糖尿病患者さんに対しては、膵臓がんの症状がないかを確認しておくことが重要だとする意見もあります。

糖尿病治療薬と膵臓がんの発生についても研究が行われていますが、因果関係は明確ではありません。

参考:Eur J Cancer 2011;47:1928-1937

肥満

日本で肥満と膵臓がんの発生の関係について調査したところ、20歳代でBMIが30kg/m2以上の肥満だった男性では、正常なBMIであった人に比べて膵臓がんの発生が3.5倍多かったという研究結果があります。

その他の研究でも肥満は膵臓がん発症の危険因子とされています。肥満は膵臓がんのみならず他の病気の原因にもなりますので、適度な体重を保つことは重要です。

注)BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)、正常値は18.5-24.9kg/m2

参考:Int J Cancer 2007;120:2665-2671Am J Epidemiol 2008;167:586-597

慢性膵炎

慢性膵炎は膵臓がん発生のリスクを上昇させます。
慢性膵炎の患者さんが膵臓がんを発症する危険性は6.9倍であったとする報告があります。慢性膵炎発症後の期間と膵臓がん発症の関係について次のような報告があります。

  • 2-4年以内 :14.6倍
  • 5-16年   :4.8倍

慢性膵炎を発症した後の時間経過と膵臓がんの発生に注目したところ、比較的早期に膵臓がんが発生するという結果でした。

慢性膵炎には腹痛などの症状があり、その多くはアルコールが原因です。慢性膵炎になる危険性を高める飲酒の量は純エタノールで50g以上とされており、その他には遺伝による影響もあります。

慢性膵炎の治療は、まず以下のような保存的治療(内科的治療)を検討します。

  • 禁酒
  • 脂肪を少なくした食事(脂肪制限食)
  • 禁煙
  • 消化酵素や蛋白分解酵素の内服

慢性膵炎はアルコールを原因とするものが多く、進行を遅らせるにはアルコールの摂取を控えることが有効です。また、膵臓は脂肪やタンパク質を分解するための働きをしているので、慢性膵炎で低下した機能を補うために、食事の脂肪を少なくしたり、食べ物の消化を助ける薬を内服したりします。喫煙者では禁煙も慢性膵炎の症状緩和に有効なので取り組んでみてください。慢性胃炎に対する手術(外科的治療)は、保存的治療で症状が改善しなかった場合に痛みを取るなどの目的で考慮されます。

  • 膵液の流れを改善させる
  • 膵臓の一部を切除する

内科的な治療にも関わらず、腹痛がよくならない場合があります。腹痛の原因としては膵管が細くなったりすることにより膵液の流れが悪くなることが考えられます。膵液の流れを良くすることを期待して膵管を違う場所の腸につなぎなおす手術があります。そのほかに、膵臓の一部や場合によっては膵臓の全てを切除することで痛みの改善を図る手術があります。痛んでいる部分を取り除けば痛みもなくなるということです。膵臓を切除する手術はさらに膵臓の機能を低下させてしまう恐れがあるので、切除するかどうかは慎重に検討されます。

参考:Gastroenterology 2014;146:989-994

喫煙

喫煙は膵臓がんの発生に大きく影響していることが知られています。

  • 非喫煙者に比べて喫煙者は膵臓がんの発病の危険性が1.68倍と高い
  • 禁煙後10年以上でも膵臓がん発生のリスクは高い 
  • 喫煙の本数と膵臓がんが発生する危険性は相関する

喫煙は膵臓がんの発生の危険性を高めると考えられます。
また、喫煙は肺がん膀胱がんの発症とも強く関係があります。喫煙はがん以外にも多くの病気と関係がありますので、できるだけ早く禁煙することで多くの面から健康に向かうことができます。

参考:Jpn J Clin Oncol 2011;41:1292-1302Langenbecks Arch Surg 2008;393:535-545

ストレス

ストレスが膵臓がんに直接影響を及ぼすかどうかははっきりしていません。しかし、ストレスが他の病気などのリスクにもなりうることを考えると、ストレスはできれば避けたり減らしたりすることが得策です。

ストレスと一口に言っても、さまざまなものがあります。ストレスは実際に数値化が難しいので、膵臓がんの発生と直接関係があるかははっきりとしないのが現状です。

例えば、糖尿病は膵臓がんの発症の危険性を高めます。人によってはストレスが多くなると食事や飲酒が極端に多くなることもあるでしょう。食事や飲酒は糖尿病慢性膵炎とも関係し、慢性膵炎糖尿病とともに膵臓がんのリスクになります。

いずれにしてもストレスが重くのしかかることは生活の質を下げてしまいます。ストレスをできるだけ和らげるような生活を送りたいものです。

2. 膵臓がんとIPMNの関係について

IPMN(アイピーエムエヌ)は日本名で膵管内乳頭粘液性腫瘍(すいかんないにゅうとうねんえきせいしゅよう)といいます。英語のIntraductal Papillary Mucinous Neoplasmを略したIPMNが通称としては一般的です。

膵臓の病気のひとつに、膵管の粘膜に粘液を作り出す腫瘍細胞ができ、腫瘍が作り出した大量の粘液が膵臓内に溜まって袋状に見えるものがあります。これを腫瘍性膵嚢胞(しゅようせいすいのうほう)と言います。腫瘍性膵嚢胞は3つに分類されます。IPMNはそのひとつであり、腫瘍性膵嚢胞のほとんんどを占めます。

IPMNは、膵管から発生し、乳頭状の形をとって成長していくことがあり、その見た目から「いくら」や「ブドウの房」に例えられることもあります。IPMNは時間を経るとがんへと変化していくことがあります。がんに変化するIPMNと診断されれば手術が行なわれます。またIPMNが見つかった患者さんは同時に通常型の膵臓がんが隠れている場合があることも知られているのでより詳しく調べられます。

膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)

IPMNと膵臓がんの関係をまとめます。

  • IPMNは時間の経過とともに膵臓がんになることがある
  • IPMNを手術すると膵臓がんが同時にみつかることがある

IPMNは膵臓がんと強い関係がありますが、全てのIPMNが治療対象というわけではありません。
IPMNは膵液が流れる膵管のどこにでも発生します。膵管は太い主膵管とそこから分かれた分枝によって成り立ちます。IPMNは発生した部位により3つに分類されます。

  • 主膵管型
  • 分枝型
  • 混合型

主膵管にIPMNがあると、膵液の流れが悪くなるなどの理由で膵管が拡張します。主膵管型とは主膵管に隣り合って存在し、主膵管を太さ5mm以上にまで拡張させているものをいいます。分枝型は嚢胞という水の袋のような形をとります。混合型は両者の特徴を揃えていものです。主膵管型のIPMNには手術が検討されます。

3. 膵臓がんと遺伝の関係

遺伝性の病気のいくつかが膵臓がんの発病に関係があります。

遺伝性膵臓がん

遺伝性の病気と膵臓がんが発病する危険性について下の表に示しています。

病気の名前

原因とされる遺伝子

遺伝形式

膵がんのリスク

遺伝性膵炎

遺伝性乳癌卵巣癌症候群

ポイツ-ジャガース症候群

家族性異型多発母斑黒色腫症候群

家族性大腸腺腫ポリポーシス

遺伝性非ポリポーシス症候群

PRSS1

BRCA1/2

STK11/LKB1

CDKN2A/p16

APC

hMSH2, hMLH1

染色体優性

常染色体優性

常染色体優性

常染色体優性

常染色体優性

常染色体優性

60-87倍

4.1-5.8倍

132倍

13-22倍

4.4倍

8.6倍

参考:
Am J Gastroenterol 2008;103:111-119,
Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 2013;22:803-811
Gasteroenterology 2000;119:1447-1453,
N Engl J Med. 1995 Oct 12;333(15):970-4,
Gut 1993;34:1394-96
JAMA 2009;302:1790-1795

常染色体優性遺伝という言葉は、病気が遺伝するパターンを示しています。
具体的には、病気を発症した患者の子どもは、男女にかかわらず50%の確率で同じ病気の原因遺伝子を持って生まれることになります。原因遺伝子を持っていても必ず発病するとは限りませんが、原因遺伝子を持っている人はいつか発病してもおかしくないと言えます。また、原因遺伝子を持っていて発病していない人からも、50%の確率で子どもに原因遺伝子が受け継がれます。

家族性膵臓がん

遺伝性の病気に関連した膵臓がんとは別に、家族が膵臓がんになった人は、遺伝子を共有していることから、膵臓がんを発症する危険性がほかの人より高いと考えられています。

家族性膵臓がんの特徴としては「第一度近親者(血の繋がった親、兄弟、子)に2人以上の膵臓がん患者が発生している家系に発生する膵臓がんで遺伝性膵臓がん症候群を除いたもの」と定義されます。

家族が膵臓がんになった人で膵臓がんが発症する危険性

第一度近親者で膵臓がんになった人の数 1人 2人 3人
膵臓がん発症の危険性 4.5倍 6.4倍 32倍

参考:
Cancer Res. 2004;64:2634-2638

膵臓がんの人が近い家族にいると、膵臓がんの発生のリスクが高くなることがわかっています。
定期的な検査を行うことで早期発見が可能になると考えられますが、早期の発見に適した方法や検査を受ける間隔などは確立されていないのが現状です。

近しい家族に膵臓がんになった人がいて、自分も膵臓がんになるのではないかと心配な方は、消化器内科を受診し、定期的な検査についての提案を求めるのも一つの選択肢だと考えます。