ほうかしきえん(ほうそうえん)
蜂窩織炎(蜂巣炎)
皮膚の下の蜂窩織と呼ばれる部位(皮膚の表面を除いた部分で真皮から脂肪織の間)が細菌に感染し、炎症を起こす病気
9人の医師がチェック 189回の改訂 最終更新: 2022.05.31

蜂窩織炎はどんな病気?原因、症状、検査、治療など

蜂窩織炎は皮膚が赤くなったり腫れたりする病気です。原因は細菌による感染です。抗菌薬を用いた治療を行います。

1. 蜂窩織炎とはどんな病気なのか?

蜂窩織炎(読み方:ほうかしきえん)は皮膚(真皮)や皮下組織に感染が起こった状態です。皮膚に関連する感染症は、蜂窩織炎以外にも丹毒壊死性筋膜炎などがあります。皮膚の解剖と炎症の起こった部位による病気の違いを簡単に示します。

【皮膚の中における感染部位と病名】

図:蜂窩織炎は真皮や皮下組織の感染症。

皮膚には表皮という部分があり、これが皮膚の下を守っています。蜂窩織炎は表皮の下の部位の感染症ですので、表皮に傷があると蜂窩織炎は起こりやすくなります。

2. 蜂窩織炎でよく見られる症状はどんなものなのか?

蜂窩織炎は皮膚を中心にさまざまな症状が出現します。主な症状は次のものです。

  • 皮膚の症状
    • 皮膚の発赤
    • 皮膚の腫れ
    • 皮膚の痛み
    • 皮膚のかゆみ
  • 全身の症状
    • 発熱
    • だるさ
    • 関節痛

これらの症状についてもう少し詳しく知りたい人は「蜂窩織炎の特徴的な症状について:皮膚の変色や痛み、発熱など」を参考にして下さい。また、これらの症状が強くなったり範囲が広がったりする場合には、より重症の壊死性軟部組織感染症壊死性筋膜炎壊死性筋炎など)に進行している可能性があるので、医療機関を受診して下さい。

3. 蜂窩織炎は何が原因なのか?原因菌について

蜂窩織炎では細菌が皮膚やその下の組織に侵入して感染が起こっています。特に次のような病気がある人は注意が必要です。

蜂窩織炎の原因となる細菌は多くの場合で溶血性連鎖球菌(溶連菌)か黄色ブドウ球菌です。しかし、免疫不全がある場合や水回りで起こった怪我が原因で蜂窩織炎になった場合には、別の細菌が感染の原因となることがあります。

  • 免疫力が低下した人で蜂窩織炎の原因となりやすい細菌
    • 溶血性連鎖球菌(特にStreptococcus pyogenes)
    • 肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)
    • 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
    • 大腸菌(Escherichia coli)
    • クレブシエラ桿菌(Klebsiella pneumoniae)
    • インフルエンザ桿菌(Haemophilus influenzae)
    • 緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)
  • 水回り(淡水)で蜂窩織炎が起こったときに原因となりやすい細菌
    • エロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)
    • エドワードシエラ・タルダ(Edwardsiella tarda)
    • マイコバクテリウム・マリヌム(Mycobacterium marinum)
  • 水回り(海水)で蜂窩織炎が起こったときに原因となりやすい細菌
    • ビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus)
    • エリジペロスリックス・ルジオパシエ(Erysipelothrix rhusiopathiae)
    • マイコバクテリウム・マリヌム(Mycobacterium marinum)

患者がこれらの細菌の名前を覚えることに大きな意味はありません。しかし、状況によって蜂窩織炎の起炎菌が変わることは知っておいて下さい。注意すべきことと自分の状況を照らし合わせて、当てはまる場合には、医療者に伝えるようにして下さい。

動物咬傷:動物に噛まれた場合も蜂窩織炎の原因になる?

動物に噛まれた場合には、皮膚や皮膚の下の組織に動物の口の中にいる細菌が侵入します。そのため、溶連菌や黄色ブドウ球菌以外にも動物の口の中の常在菌が蜂窩織炎の原因となります。特に注意するべき細菌は以下になります。

  • 動物(犬・猫)に噛まれたことで蜂窩織炎が起こったときに原因となりやすい細菌
    • パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)
    • カプノサイトファーガ・カニモルサス(Capnocytophaga canimorsus)

動物に噛まれてから、皮膚が赤くなったり痛くなったりした場合には医療機関を受診して下さい。

4. 蜂窩織炎が疑われたときに行われる検査とは?

蜂窩織炎が疑われた場合には次のような検査が行われます。

  • 問診
  • 身体診察
  • 血液検査
  • 細菌学的検査
  • 画像検査

これらは蜂窩織炎の有無だけでなく、重症度や原因となっている細菌の種類まで調べることができます。蜂窩織炎の治療は抗菌薬が基本になりますが、抗菌薬は非常に多くの種類が存在します。この検査の結果を踏まえることで最適な治療法を選択することができます。

蜂窩織炎の検査について詳しく知りたい人は「蜂窩織炎が疑われたらどんな検査をすることになる?どうやって診断されるのか?」を参考にして下さい。

5. 蜂窩織炎の治療はどんなことをする?

蜂窩織炎の治療は抗菌薬が基本です。抗菌薬によって原因となっている細菌を抑えるのが目的です。蜂窩織炎の起炎菌は溶血性連鎖球菌か黄色ブドウ球菌が主になりますが、状況によっては少し異なってきます。そのため細菌学的検査によって、起炎菌の種類の特定や薬剤感受性(どんな抗菌薬が有効か)のチェックが重要になります。他には、解熱鎮痛薬や漢方薬が用いられることもあります。

蜂窩織炎の治療について詳しく知りたい人は「蜂窩織炎の治療について:抗菌薬(抗生物質、抗生剤)治療など」を参考にして下さい。

6. 蜂窩織炎に似たような症状が出る病気

蜂窩織炎は皮疹や皮膚の痛みが特徴的な病気です。蜂窩織炎に似た症状が出る病気が他にもあるため、注意が必要です。以下に注意するべきポイントに関して、病気ごとに説明していきます。

猩紅熱

猩紅熱(しょうこうねつ)は溶血性連鎖球菌(溶連菌)の感染が原因となって全身に赤い皮疹が現れる病気です。溶連菌の出す毒素が関与していると考えられています。皮疹が皮膚一面に広がることに加えて喉の痛みが出ることが特徴です。

診断のために、血液検査で溶連菌に対する抗体がないかを調べたり、のどの粘膜に溶連菌がいないかを細菌学的検査や簡易迅速検査を行って調べます。治療には溶連菌に対して有効な抗菌薬(ペニシリン系抗菌薬)を用います。

猩紅熱に関してもっと詳しく知りたい人は猩紅熱の基礎情報のページを参考にして下さい。

丹毒

丹毒は顔や足の皮膚に赤い変化が起こる病気です。ほとんどが溶血性連鎖球菌(溶連菌)の感染が原因です。赤く腫れたような皮膚の変化に加えて、皮膚の痛みが起こります。

このページの先頭にあった図を見て下さい。丹毒は蜂窩織炎と非常によく似た病気ですが、蜂窩織炎よりも皮膚の浅い層で感染が起こっています。

丹毒は症状の特徴や血液検査や細菌学的検査の結果を踏まえて総合的に診断されます。治療は抗菌薬を用いて行われます。

丹毒に関してもっと詳しく知りたい人は丹毒の基礎情報のページを参考にして下さい。

壊死性軟部組織感染症

壊死性軟部組織感染症は皮下組織や筋肉に細菌感染が起こった病気です。溶連菌が原因となって激烈な感染になることがあり、通称人食いバクテリアと言われます。このページの先頭にあった図で言うと、壊死性軟部組織感染症は蜂窩織炎よりも皮膚の深い部分で感染が起こる病気です。

皮膚の色調の変化(赤色・黒色・紫色)・水疱(水ぶくれ)・皮膚の違和感・痛み・発熱などが壊死性軟部組織感染症の主な症状です。症状が数時間単位で急速に進行する死亡率の高い病気なので、素早く診断して治療する必要があります。壊死性軟部組織感染症が疑わしいと思ったら、急いで医療機関で診察を受けてください。

症状や背景から推測され、画像検査・血液検査・細菌検査から総合的に診断されますが、適切な抗菌薬治療を行うためには、細菌学的検査を行い起炎菌を特定することが大切です。また、手術によって感染している部位や汚染された分泌液を排除することと、抗菌薬を用いて治療することが必要です。

壊死性軟部組織感染症に関して詳しく知りたい人は壊死性軟部組織感染症の基礎情報のページを参考にして下さい。

ウイルス感染症

ウイルスによる感染が起こった場合にも、赤い皮疹や皮膚の痛みといった蜂窩織炎に似た症状が出ます。麻疹はしか)や風疹などがその代表例ですが、通常はカタル症状といった風邪に似たような症状(鼻汁や目やに、喉の痛みなど)が出現します。

問診(流行状況、ワクチンの接種状況など)や身体診察、血液検査を踏まえて治療されます。ウイルス感染のほとんどで特効薬はありませんが、多くの場合で自分の免疫力によって自然に治癒します。

薬疹

薬疹とは薬の副作用で皮疹が出現する病気です。発熱と皮疹の出るこの病気は、蜂窩織炎と簡単に区別がつかないことがあります。薬疹の診断では問診で薬の使用状況を把握することが非常に重要です。場合によっては薬を中止してからの状況によって診断されます。

薬疹に関して詳しく知りたい人は薬疹の基礎情報ページを参考にして下さい。

川崎病

川崎病は小さな子供に赤い皮疹が出現する病気です。蜂窩識炎と区別するのが難しい場合があります。

川崎病には皮疹以外にも出現しやすい症状があります。

  1. 5日以上続く発熱
    1. 治療によって5日以内に熱が下がった場合も含む
  2. 皮疹
    1. 皮疹の形は様々である
    2. 全身に広がるが、下着やズボンのゴムで圧迫されている部分に出現しやすい
  3. 眼の充血
    1. 白眼が真っ赤になる
  4. 唇や舌が赤く腫れる
    1. 舌の表面にぶつぶつがみられ「いちご舌」と表現される
    2. 唇は乾燥して亀裂・出血・かさぶたを伴うこともある
  5. 首のリンパ節が腫れる
    1. 痛みを伴うこともある
    2. 左右両方のことも片方だけのこともある
  6. 手足の先の特有の症状
    1. 手足がテカテカ・パンパンに腫れる
    2. 手のひら・足の裏が赤くなる
    3. 回復期に手足の指先の皮がむける(膜様落屑)

これらの症状のいくつかが同時に見られた場合には川崎病を考えなければなりません。また、4つ以上が見られた場合には川崎病の診断となります。川崎病は症状が出現してから7日以内に治療を開始するほうが良いので、川崎病が疑わしいかもしれないと思った場合には、できるだけ早く治療するためにも医療機関を受診して下さい。詳しくは川崎病の基本情報のページもあわせてご覧ください。

参考文献
・Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 8th edition
・青木 眞, レジデントのための感染症診療マニュアル第3版, 医学書院, 2015