ネフローゼ症候群の検査は?尿検査・腎生検など
ネフローゼ症候群の診断には尿検査などが重要です。それと同時にネフローゼ症候群の原因となっている病気を調べる必要があります。ネフローゼ症候群で用いる検査について解説します。
1. ネフローゼ症候群が疑われる場合の診察
ネフローゼ症候群は体の
問診
ネフローゼ症候群には
治療中の持病や薬、
身体診察
問診から症状については把握できますが症状については本人の感じ方が大きいので身体診察を用いて症状の評価を行います。
ネフローゼ症候群の主な症状は浮腫みです。浮腫みが出やすいのは
浮腫みは皮膚の下だけにでる訳ではありません。ネフローゼ症候群が重い状態になっていると肺に影響することがあります。呼吸の様子や
ネフローゼ症候群の原因には
脛骨前面(すねの部分)は浮腫みが出やすく診察に用いられます。脛骨前面を指で押して観察することで浮腫みの有無や種類について評価できます。
2. ネフローゼ症候群の検査
ネフローゼ症候群を診断するにはいくつかの検査を用います。それぞれの検査の概要や目的について解説します。
尿検査
尿検査はネフローゼ症候群の診断において最も重要な検査です。尿検査にもいくつか種類があります。
- 尿定性
- 尿沈渣
- 蓄尿検査
- selective index
以下ではそれぞれの検査の特徴などについて解説します。
【尿定性】
尿定性は尿の比重や
検査結果 | 含まれるタンパク質の量(推定) |
− | 0mg/dl |
± | 15mg/dl |
1+ | 30mg/dl |
2+ | 100mg/dl |
3+ | 300-500mg/dl |
4+ | 1000mg/d以上 |
1日の尿量を1-1.5Lとするとこの尿定性から1日に尿から出るタンパク質の量を推定することができます。例として2+と3+、4+の場合で計算してみます。1日の尿量を1L=10dlとします。
例1)尿定性で2+の場合:(100mg/dl)✕10dl=1000mg=1g
例2)尿定性で3+の場合:(300-500mg)✕10dl=3000-5000mg=3-5g
例3)尿定性で4+の場合:(1000mg/dl)✕10dl=10000mg=10g
1日の尿量は推定であり尿定性による計算結果は尿に含まれるタンパク質の量の推定でしかありません。正確には後述する蓄尿検査が必要になります。尿定性は30分もあれば調べることができる簡便さが利点です。尿定性で3+や4+であればネフローゼ症候群の状態になっていることを考えなければならないとも言えます。
【尿沈渣】
尿を遠心分離機にかけて沈殿した物を顕微鏡を用いて観察する検査を尿沈渣(にょうちんさ)といいます。尿沈渣では
【蓄尿検査】
尿定性でタンパク尿の推測はできますが正確ではありません。1日にどの程度のタンパク質が尿から出ているかを正確に調べるには1日の尿をためる必要があります。これを蓄尿検査と言います。尿中に含まれるタンパク質の量が3.5g以上の場合はネフローゼ症候群の診断基準に当てはまります。
参考文献
・浅野 泰/監「腎臓内科診療マニュアル」日本医学館, 2010
血液検査
ネフローゼ症候群の人に対して血液検査を行う際には主に以下のポイントに注目しています。
ネフローゼ症候群はアルブミンというタンパク質が減少します。ネフローゼ症候群の診断基準ではアルブミンの値は3g/dl以下です。ネフローゼ症候群は腎臓の
ネフローゼ症候群を起こす病気は多くあります。それは腎臓の病気や糖尿病、
セレクティブ・インデックス:selective index
セレクティブインデックスはタンパク尿の成分をさらに詳しく観察するための方法です。血液検査と尿検査の両方を用います。
セレクティブインデックスの算出方法は難しいので中身を理解しなくても問題はありません。セレクティブインデックスは以下の計算方法で算出されます。
- セレクティブ・インデックス=IgGクリアランス/Tfクリアランス={尿中IgG/血清IgG} /{尿中Tf/血清Tf}
IgG(アイジージー)とTf(トランスフェリン)はタンパク質の種類の名前です。セレクティブ・インデックスは3段階に分けて評価されます。
- 高選択性:0.10以下
- 中等度選択性:0.11〜0.2
- 低選択性:0.21以上
セレクティブ・インデックスは原因となる疾患の推定に役立ちます。高選択性であれば微小変化型ネフローゼ症候群、低選択性であれば膜性腎症や巣状糸球体硬化症などが多いです。腎臓の病気の確定には
腹部超音波検査
超音波を体に当てると、超音波の跳ね返りから体の中の様子を画像で観察できます。腎臓の形や大きさ、血管の走り方などがわかります。腎臓は病気の状態に応じて大きくなったり縮んだりすることがあります。ネフローゼ症候群では腎臓の形に変化がないことも多いです。
その他の画像検査
腹部超音波検査だけでは十分ではなく、より詳しく調べる必要がある場合には、
腎生検
腎生検は腎臓でどのような異常が起きているかを確認するために腎臓の一部を取ってくる検査です。
腎生検はネフローゼ症候群などで現れるタンパク尿などの異常がある場合に検討されます。出血のリスクもあるので、入院で行うことが多いです。腎臓は背中側にある臓器です。以下は腎生検の手順です。腎臓の組織に、腎生検に用いる太い針を刺して一部を取り出します。体を大きく切る必要はありません。以下は腎生検の流れです。
【腎生検の流れ】
- うつ伏せになります。(腎臓は背中側の臓器だからです)
- 超音波で腎臓の位置や形、血管の様子などを観察します。
- 針を刺す場所を決めて消毒します。
- 針を刺す場所の周囲に麻酔をします。
- 麻酔が効いているのを確認した後、超音波検査の画像を見ながら針を指します。
- 針を抜いた後は腎臓からの出血を止めるため、検査当日は針を刺した部位を圧迫します。検査当日はベッド上で安静になります。
- 翌朝、腎臓からの出血が止まっているかを超音波を用いて確認します。出血が止まっていれば、体を動かしてよい許可が出ます。
- 腎生検後は数日間は再出血のリスクがあるため、医師の許可が出るまで激しい運動を行うことはできません。
腎生検は順調であれば数日程度の入院で行うことができます。腎生検でとりだした腎臓の一部を病理検査(顕微鏡で詳しく観察する検査)で診断します。病理検査については後述します。
【腎生検の
腎生検は太い針を腎臓に刺して腎臓の一部を取り出す検査です。いくつか注意が必要な合併症があります。合併症とは検査や治療で起こる望ましくない結果のことです。
■出血
腎臓はとても血流の多い臓器です。腎臓には大小様々な血管が張り巡らされています。腎生検では超音波検査を用いて血管を避けて針を刺しますが、血流が豊富なために小さな血管からでも思わぬ量の出血をすることがあります。
腎臓からの出血は体の外からの圧迫で止血することが多いですが、出血量が多いときには輸血や
■血尿
腎臓は尿をつくる臓器です。このため腎生検での出血が尿に交ざると血尿として自覚することがあります。血尿は薄い色のものであったり一回程度ならば問題はありません。尿を自分で観察することは容易なので検査後しばらくは尿を観察してみてください。もし濃い尿が続くのであるならば検査した医療機関に相談する必要があるかもしれません。退院前にはどの程度の血尿であれば受診が必要かをはっきりさせておくこともまた大事です。
■感染
腎生検を行う過程で
■
腎生検ではいくつかの薬を使います。
使用する薬は鎮痛に用いる麻酔薬などです。薬に対するアレルギーは一人ひとりで違います。アレルギーには蕁麻疹(じんましん)が出るだけの軽度なものから、重症な場合にはアナフィラキシーショックといって、血圧が下がったり、呼吸ができなくなるといったものまで様々です。使用したことがない薬剤に対するアレルギーの予測は困難ですが、これまで歯科の麻酔などでアレルギーが起こったことがある場合には、医師や看護師に伝えてください。
病理検査
病理検査は人間の体の一部を取り出したものを顕微鏡で観察する検査です。ネフローゼ症候群の病理検査は腎生検でとりだした腎臓の組織を顕微鏡で観察することを指します。
病理検査によってネフローゼ症候群の原因となっている病気について診断することができます。病理検査による診断にもとづいてその後の治療についての方針が定まります。