ねふろーぜしょうこうぐん
ネフローゼ症候群
腎臓に障害が起こり、本来漏れでない量のタンパク質が尿の中に漏れ出る状態。その結果、血液の中のタンパク質が減少し様々な症状が現れる
9人の医師がチェック 145回の改訂 最終更新: 2023.09.27

ネフローゼ症候群の検査は?尿検査・腎生検など

ネフローゼ症候群の診断には尿検査などが重要です。それと同時にネフローゼ症候群の原因となっている病気を調べる必要があります。ネフローゼ症候群で用いる検査について解説します。

1. ネフローゼ症候群が疑われる場合の診察

ネフローゼ症候群は体の浮腫み(むくみ)などが代表的な症状です。症状を調べることはネフローゼ症候群の原因となる病気を推測したりするのに重要です。

問診

問診はネフローゼ症候群の原因となる病気を絞り込むのにとても重要です。

ネフローゼ症候群には血尿や全身倦怠感、吐き気などの症状を伴うことがあります。問診では様々な角度から症状について質問があると思います。医師の質問以外でも気になる症状がある場合には伝えてください。

治療中の持病や薬、感染症がネフローゼ症候群の原因になることがあります。現在又は過去の病歴についてわかる範囲で伝えてください。内服中の薬などはお薬手帳などを使うと正確に伝えることができると思います。

身体診察

問診から症状については把握できますが症状については本人の感じ方が大きいので身体診察を用いて症状の評価を行います。

ネフローゼ症候群の主な症状は浮腫みです。浮腫みが出やすいのは眼瞼まぶた)です。眼瞼を観察したり触れたりすることで浮腫みの程度を評価します。

浮腫みは皮膚の下だけにでる訳ではありません。ネフローゼ症候群が重い状態になっていると肺に影響することがあります。呼吸の様子や聴診器を用いて呼吸音を聴取します。

ネフローゼ症候群の原因にはがんなどの腫瘍が隠れていることがあります。腹部にできた腫瘍は体の外から触れることがあるので触診を中心に診察します。

脛骨前面(すねの部分)は浮腫みが出やすく診察に用いられます。脛骨前面を指で押して観察することで浮腫みの有無や種類について評価できます。

2. ネフローゼ症候群の検査

ネフローゼ症候群を診断するにはいくつかの検査を用います。それぞれの検査の概要や目的について解説します。

尿検査

尿検査はネフローゼ症候群の診断において最も重要な検査です。尿検査にもいくつか種類があります。

  • 尿定性 
  • 尿沈渣 
  • 蓄尿検査
  • selective index

以下ではそれぞれの検査の特徴などについて解説します。

【尿定性】

尿定性は尿の比重やタンパク尿、血尿などを調べることができます。尿定性でのタンパク尿は6段階で評価されます。尿検査とタンパク尿との対応は以下のようになります。

検査結果 含まれるタンパク質の量(推定)
−  0mg/dl
±  15mg/dl
1+ 30mg/dl
2+ 100mg/dl
3+ 300-500mg/dl
4+ 1000mg/d以上

1日の尿量を1-1.5Lとするとこの尿定性から1日に尿から出るタンパク質の量を推定することができます。例として2+と3+、4+の場合で計算してみます。1日の尿量を1L=10dlとします。

例1)尿定性で2+の場合:(100mg/dl)✕10dl=1000mg=1g

例2)尿定性で3+の場合:(300-500mg)✕10dl=3000-5000mg=3-5g

例3)尿定性で4+の場合:(1000mg/dl)✕10dl=10000mg=10g

1日の尿量は推定であり尿定性による計算結果は尿に含まれるタンパク質の量の推定でしかありません。正確には後述する蓄尿検査が必要になります。尿定性は30分もあれば調べることができる簡便さが利点です。尿定性で3+や4+であればネフローゼ症候群の状態になっていることを考えなければならないとも言えます。

【尿沈渣】

尿を遠心分離機にかけて沈殿した物を顕微鏡を用いて観察する検査を尿沈渣(にょうちんさ)といいます。尿沈渣では赤血球白血球などを観察することができ、ネフローゼ症候群では特徴的な脂肪円柱という物質を観察することができます。

【蓄尿検査】

尿定性でタンパク尿の推測はできますが正確ではありません。1日にどの程度のタンパク質が尿から出ているかを正確に調べるには1日の尿をためる必要があります。これを蓄尿検査と言います。尿中に含まれるタンパク質の量が3.5g以上の場合はネフローゼ症候群の診断基準に当てはまります。

参考文献
・浅野 泰/監「腎臓内科診療マニュアル」日本医学館, 2010

血液検査

ネフローゼ症候群の人に対して血液検査を行う際には主に以下のポイントに注目しています。

  • 全身状態の把握
    • 体の中のタンパク質(アルブミン)の量 
    • 腎臓の機能
    • 肝臓の機能
    • 電解質異常の有無
    • 貧血の有無
  • ネフローゼ症候群の原因となる病気を調べる

ネフローゼ症候群はアルブミンというタンパク質が減少します。ネフローゼ症候群の診断基準ではアルブミンの値は3g/dl以下です。ネフローゼ症候群は腎臓の糸球体という構造が壊れたり機能が落ちたりしています。腎臓の機能が大幅に落ちていることもあるので腎臓の機能を把握しておく必要があります。その他では電解質に異常がないかなども調べることができます。

ネフローゼ症候群を起こす病気は多くあります。それは腎臓の病気や糖尿病膠原病全身性エリテマトーデス関節リウマチなど)、肝炎(B型肝炎C型肝炎)など多様です。血液検査を用いることで原因となる病気を絞り込むことができます。

セレクティブ・インデックス:selective index

セレクティブインデックスはタンパク尿の成分をさらに詳しく観察するための方法です。血液検査と尿検査の両方を用います。

セレクティブインデックスの算出方法は難しいので中身を理解しなくても問題はありません。セレクティブインデックスは以下の計算方法で算出されます。

  • セレクティブ・インデックス=IgGクリアランス/Tfクリアランス={尿中IgG/血清IgG} /{尿中Tf/血清Tf}

IgG(アイジージー)とTf(トランスフェリン)はタンパク質の種類の名前です。セレクティブ・インデックスは3段階に分けて評価されます。

  • 高選択性:0.10以下 
  • 中等度選択性:0.11〜0.2 
  • 低選択性:0.21以上

セレクティブ・インデックスは原因となる疾患の推定に役立ちます。高選択性であれば微小変化型ネフローゼ症候群、低選択性であれば膜性腎症巣状糸球体硬化症などが多いです。腎臓の病気の確定には腎生検を用います。

腹部超音波検査

腹部超音波検査は、超音波という人間の耳には聞こえない音波を利用した検査です。超音波検査エコー検査と呼ばれることもあります。

超音波を体に当てると、超音波の跳ね返りから体の中の様子を画像で観察できます。腎臓の形や大きさ、血管の走り方などがわかります。腎臓は病気の状態に応じて大きくなったり縮んだりすることがあります。ネフローゼ症候群では腎臓の形に変化がないことも多いです。

その他の画像検査

腹部超音波検査だけでは十分ではなく、より詳しく調べる必要がある場合には、CT検査などの他の画像検査が用いられることがあります。

腎生検

腎生検は腎臓でどのような異常が起きているかを確認するために腎臓の一部を取ってくる検査です。

腎生検はネフローゼ症候群などで現れるタンパク尿などの異常がある場合に検討されます。出血のリスクもあるので、入院で行うことが多いです。腎臓は背中側にある臓器です。以下は腎生検の手順です。腎臓の組織に、腎生検に用いる太い針を刺して一部を取り出します。体を大きく切る必要はありません。以下は腎生検の流れです。

【腎生検の流れ】

  1. うつ伏せになります。(腎臓は背中側の臓器だからです)
  2. 超音波で腎臓の位置や形、血管の様子などを観察します。
  3. 針を刺す場所を決めて消毒します。
  4. 針を刺す場所の周囲に麻酔をします。
  5. 麻酔が効いているのを確認した後、超音波検査の画像を見ながら針を指します。
  6. 針を抜いた後は腎臓からの出血を止めるため、検査当日は針を刺した部位を圧迫します。検査当日はベッド上で安静になります。
  7. 翌朝、腎臓からの出血が止まっているかを超音波を用いて確認します。出血が止まっていれば、体を動かしてよい許可が出ます。
  8. 腎生検後は数日間は再出血のリスクがあるため、医師の許可が出るまで激しい運動を行うことはできません。

腎生検は順調であれば数日程度の入院で行うことができます。腎生検でとりだした腎臓の一部を病理検査(顕微鏡で詳しく観察する検査)で診断します。病理検査については後述します。

【腎生検の合併症

腎生検は太い針を腎臓に刺して腎臓の一部を取り出す検査です。いくつか注意が必要な合併症があります。合併症とは検査や治療で起こる望ましくない結果のことです。

■出血

腎臓はとても血流の多い臓器です。腎臓には大小様々な血管が張り巡らされています。腎生検では超音波検査を用いて血管を避けて針を刺しますが、血流が豊富なために小さな血管からでも思わぬ量の出血をすることがあります。

腎臓からの出血は体の外からの圧迫で止血することが多いですが、出血量が多いときには輸血やカテーテル治療、手術などが必要になることが少ない可能性ながらもあります。出血は時間が経ってから明らかになることもあるので超音波検査などを繰り返すこともあります

■血尿

腎臓は尿をつくる臓器です。このため腎生検での出血が尿に交ざると血尿として自覚することがあります。血尿は薄い色のものであったり一回程度ならば問題はありません。尿を自分で観察することは容易なので検査後しばらくは尿を観察してみてください。もし濃い尿が続くのであるならば検査した医療機関に相談する必要があるかもしれません。退院前にはどの程度の血尿であれば受診が必要かをはっきりさせておくこともまた大事です。

■感染

腎生検を行う過程で細菌が体の中に入り込むことがあります。腎生検の前には様々な予防策をとっていますがまれに感染が起こることがあります。感染が起こると発熱などの症状が現れます。発熱は出血することでも起きますが細菌による感染が原因と考えられる場合は抗菌薬を用いて治療をします。

アレルギー

腎生検ではいくつかの薬を使います。

使用する薬は鎮痛に用いる麻酔薬などです。薬に対するアレルギーは一人ひとりで違います。アレルギーには蕁麻疹じんましん)が出るだけの軽度なものから、重症な場合にはアナフィラキシーショックといって、血圧が下がったり、呼吸ができなくなるといったものまで様々です。使用したことがない薬剤に対するアレルギーの予測は困難ですが、これまで歯科の麻酔などでアレルギーが起こったことがある場合には、医師や看護師に伝えてください。

病理検査

病理検査は人間の体の一部を取り出したものを顕微鏡で観察する検査です。ネフローゼ症候群の病理検査は腎生検でとりだした腎臓の組織を顕微鏡で観察することを指します。

病理検査によってネフローゼ症候群の原因となっている病気について診断することができます。病理検査による診断にもとづいてその後の治療についての方針が定まります。