ねふろーぜしょうこうぐん
ネフローゼ症候群
腎臓に障害が起こり、本来漏れでない量のタンパク質が尿の中に漏れ出る状態。その結果、血液の中のタンパク質が減少し様々な症状が現れる
9人の医師がチェック 145回の改訂 最終更新: 2023.09.27

ネフローゼ症候群の治療薬の解説:ステロイド剤・リツキシマブ(リツキサン®)など

ネフローゼ症候群の治療で用いる薬はステロイド剤免疫抑制剤、リツキシマブなどです。これらの薬は効果を期待できるとともに副作用にも注意が必要です。ネフローゼ症候群で使う薬とその副作用対策について説明します。

1. ネフローゼ症候群の治療で使う薬

ネフローゼ症候群で使う薬にはいくつか種類があります。患者さんの体や病気の状態を考えながら治療薬を選択します。

  • ステロイド剤 
  • 免疫抑制剤 
    • シクロスポリン 
    • タクロリムス
    • アザチオプリン
    • ミゾリビン
    • ミコフェノール酸モフェチル
    • シクロホスファミド
  • 生物学的製剤
    • リツキシマブ
  • 漢方薬

最初に用いられることが多いのはステロイド剤という薬です。ステロイド剤の効果が弱い場合や効果がない場合には免疫抑制剤を用いることもあります。またステロイド剤や免疫抑制剤の副作用が懸念される場合には漢方薬を併用することもあります。

ステロイド剤(プレドニゾロン、メチルプレドニゾロンなど)

一般的に「ステロイド」と呼ばれる薬剤の一つで免疫抑制作用や抗炎症作用などをあらわし、自己免疫疾患アレルギー疾患など多くの病気や症状などの治療に使われています。プレドニゾロン(主な商品名:プレドニン®)はステロイド剤の代表的な製剤の一つで、臨床では他にメチルプレドニゾロン(主な商品名:メドロール®、ソル・メドロール®)などの製剤が使われています。

プレドニゾロンなどの治療薬としてのステロイド剤は体内の副腎から分泌されるコルチゾール(糖質コルチコイド)というホルモンとほぼ同じもので、コルチゾール自体は糖の代謝、タンパク質の代謝、脂質代謝など生命維持にとって非常に重要な役割を果たしています。

ネフローゼ症候群の初期治療においては多くの場合、ステロイド剤が中心となります。特にステロイド剤の治療に反応するステロイド感受性のネフローゼ症候群においては有用性が高い薬剤になります。

作用の仕組みとしては、免疫に関わる主な細胞であるリンパ球B細胞、リンパ球T細胞、単球、マクロファージなどの増殖や活性を抑えることで免疫抑制作用をあらわします。またこれら免疫担当細胞からの炎症性サイトカインの産生を抑える作用などによって抗炎症作用などをあらわします。ステロイド剤が作用する受容体は糸球体の上皮細胞、内皮細胞、メサンギウム細胞などに存在することもあり腎臓疾患に対しても有用で、一次性のネフローゼ症候群だけでなく、膠原病などの全身疾患に関連した二次性のネフローゼ症候群に対しても有用な薬剤になっています。

腎臓疾患の治療においてはステロイド剤の中でも主にプレドニゾロンが使われ、連日の経口投与においては一般的に初期投与を1日30〜60mg(通常、体重1kgあたり1日0.5〜1.0mg)程度で開始し、徐々に減量していく漸減法(ぜんげんほう)によって行われます(投与量は症状、体重、服用方法などによっても異なります。また漸減の仕方も投与量、症状、治療方針などによって異なる場合もあります。その他、服用方法に関しても連日以外に隔日(1日おき)の服用方法が考慮される場合もあります)。

通常量のステロイド剤では治療(寛解導入)が困難な場合には、より多くの量のステロイド剤を短期間、注射(静脈注射)によって投与するステロイドパルス療法も検討されます。この治療ではメチルプレドニゾロンといってプレドニゾロンよりも電解質コルチコイド作用への懸念が少ない薬剤の使用が考慮されます。

高い有用性を持つ一方でステロイド剤はその副作用に注意が必要となります。(ステロイド剤(内服薬)の副作用に関してはメドレーコラム「ステロイド内服薬の副作用とは」でも紹介しています)

一般的にステロイド剤は投与量、投与期間なども含めて副作用に関して十分配慮された上で使われます。例えば、消化器症状に対しては胃酸を抑える薬(H2受容体拮抗薬プロトンポンプ阻害薬など)、骨がもろくなる対策としてビスホスホネート製剤ビタミンD製剤などの骨粗しょう症を予防する薬を使うといったように、副作用を抑えたり軽減させる薬を併用することで多くの場合対処が可能です。またステロイド剤の使用中は免疫抑制作用により易感染性(いかんせんせい)といって細菌ウイルスなどによる感染症にかかりやすい状態になるため、うがいや手洗いなど日常生活の中での注意も大切です。

併用薬などによる対策や注意をしていても時として副作用があらわれる可能性も考えられます。例えば、顔などのむくみや体重増加があらわれたり、血圧や血糖値が上がったりした場合など体の状態になんらかの変化が生じた場合は放置せず、医師や薬剤師などに連絡するなど適切に対処することが必要です。

避けたいのは副作用に対しての懸念や誤解などから自己判断でステロイド剤を中止したり減量(あるいは増量)したりすることです。ステロイド剤をある程度の期間継続している状態では投与されるステロイド剤に体が頼ることで、通常であれば副腎で作られるはずのコルチゾールなどのステロイドホルモンの産生が抑えられます。その状態で突然、自己判断でステロイド剤を中止してしまうと、治療しているネフローゼ症候群そのものの症状が悪化したり、体内で必要とするステロイドホルモンまで不足し、生命維持に支障が出る可能性もあります。

事前に医師や薬剤師などからステロイド剤投与における注意事項や服用量(投与量)・服用期間(投与期間)などをしっかりと聞いておき、仮になんらかの体調変化があった場合でも自己判断せずにまずは医師や薬剤師などに連絡・相談することが大切です。

免疫抑制薬

◎シクロスポリン(主な商品名:ネオーラル®、サンディミュン®)

免疫反応の中心的な役割を果たしているリンパ球T細胞の活性化に関わるカルシニューリンという酵素を阻害することで、免疫抑制作用をあらわす薬です。

免疫抑制薬として腎臓などの臓器移植後の拒絶反応を抑える目的や、ベーチェット病乾癬などの自己免疫疾患の治療薬として使われています。

免疫抑制作用に加えて尿タンパクを減少させる可能性なども考えられていて、頻回再発型のネフローゼ症候群やステロイド剤に対して抵抗性をあらわすネフローゼ症候群などに対して有用とされています。

ネフローゼ症候群の治療ではステロイド剤との併用で使われる場合が多いですが、なんらかの理由でステロイドが使用できない場合にはシクロスポリン単独で投与される場合も考えられます。

シクロスポリン製剤の中でもよく使われているのが、マイクロエマルジョンという加工を施した製剤(商品名:ネオーラル®)です。この製剤は、以前に開発された製剤に比べ薬剤成分の吸収における胆汁酸や食事の影響を少なくし、安定した血中濃度を保ちやすいように工夫されています。

それでも薬の吸収においては個人差が生じるため、一般的には血液中の薬物濃度を測定し適切な量となっているかを観察していくことが重要です。またシクロスポリンによる治療中にグループフルーツを摂取した場合、体内でのシクロスポリンの代謝が阻害され血液中の濃度が上昇する可能性があります。場合によっては腎障害などの副作用があらわれるケースも考えられるため注意が必要です。同じ柑橘類でもみかん(温州みかん)では相互作用の問題がないとされていますが、八朔(ハッサク)などの柑橘類でグレープフルーツ程ではないにせよ相互作用があらわれる可能性も考えられます。日頃から柑橘類をよく食べる習慣がある場合は、事前に医師や薬剤師に食べても問題がないかなどを確認しておくことも大切です。他にもセイヨウオトギリソウ(セントジョーンズワート)というハーブを含む食品であったり、抗ウイルス薬などの薬剤との相互作用も比較的多い製剤のため注意が必要です。

◎タクロリムス(主な商品名:プログラフ®)

タクロリムスは藤沢薬品(現アステラス製薬株式会社)の研究所(茨城県つくば市)の近く、筑波山の土壌に生息する放線菌の代謝産物として発見された免疫抑制作用をあらわす薬剤です。

従来の免疫抑制薬に比べても高い免疫抑制効果をあらわし、元々は腎臓などの臓器や骨髄の移植による拒絶反応を抑える目的で使われてきました。

その作用の仕組みはシクロスポリンに類似していて、主に体内の免疫反応の中心的な役割を果たしているリンパ球T細胞の活性化を阻害することにより免疫抑制効果をあらわします。

ネフローゼ症候群に対して直接保険で承認されている薬ではありません(2017年10月時点)が、ステロイド剤による効果が不十分であったり副作用によって治療が困難な場合などにおけるループス腎炎に対して保険で承認されているため、ステロイド剤への抵抗性があるネフローゼ症候群を呈するループス腎炎などに対して使われる場合があります。

タクロリムスはこの他、関節リウマチ重症筋無力症潰瘍性大腸炎などの自己免疫が関係する疾患の治療にも使われています。

ループス腎炎で使われるタクロリムスの用量は通常、(成人で)1日あたり3mgもしくはさらに少ない用量といったように、一般的に移植による拒絶反応を抑える目的で使われる用量よりも少ない量で使われます。

ただし、免疫を抑える薬であるため、易感染性(いかんせんせい:細菌やウイルスなどに感染しやすくなること)には注意が必要です。使用している用量、体質などによっても感染への危険性は異なりますが、日頃から手洗い・うがいを行うなど日常生活における注意も大切です。

その他、腎障害、血圧上昇などの循環器症状、ふるえやしびれ、不眠などの精神神経系症状、心不全不整脈などの循環器症状、高血糖肝機能障害などに注意が必要です。

またタクロリムスによる治療中にグループフルーツを摂取した場合、体内でのタクロリムスの代謝が阻害され血液中の濃度が上昇する可能性があります。場合によっては腎障害などの副作用があらわれるケースも考えられるため注意が必要です。同じ柑橘類でもみかん(温州みかん)では相互作用の問題がないとされていますが、八朔(ハッサク)などの柑橘類でグレープフルーツ程ではないにせよ相互作用があらわれる可能性も考えられます。日頃から柑橘類をよく食べる習慣がある場合は、事前に医師や薬剤師に食べても問題がないかなどを確認しておくことも大切です。他にもセイヨウオトギリソウ(セントジョーンズワート)というハーブを含む食品であったり、一部の抗菌薬抗生物質)や抗ウイルス薬などの薬剤との相互作用があらわれることが考えられるため注意が必要です。

◎アザチオプリン(商品名:アザニン®、イムラン®)

アザチオプリンは体内で核酸合成を阻害する6-メルカプトプリン(6-MP)という物質へ代謝されることによって免疫抑制作用をあらわす薬剤です。6-MPを直接投与する場合に比べて副作用の懸念が少ないなどのメリットが考えられ、ステロイド剤との併用療法で使われたり、シクロホスファミドの後治療などの選択肢となっています。ネフローゼ症候群の他、臓器移植後の拒絶反応の抑制、クローン病、リウマチ性疾患などの治療に使われる場合もあります。

免疫抑制作用が比較的マイルドな一方、副作用も比較的軽度とされますが、骨髄抑制、肝機能障害、感染症、間質性肺炎、下痢などの消化器症状、悪性新生物などには注意が必要です。またいくつかの薬との相互作用などにも注意が必要で、特にフェブキソスタット(フェブリク®)、トピロキソスタット(トピロリック®、ウレアデック®)などの尿酸産生を阻害する薬を服用している場合には骨髄抑制などの副作用が増強する可能性も考えられるため、事前に医師や薬剤師へ伝えておくことが大切です。

◎ミゾリビン(主な商品名:ブレディニン®)

核酸合成(プリン合成系)を阻害する免疫抑制薬で、元々は腎移植後の拒否反応を抑える薬として承認されました。

その後、ステロイド剤に抵抗性を示すネフローゼ症候群、ループス腎炎関節リウマチの治療薬としても承認され、抗好中球細胞質抗体ANCA)関連血管炎などへの有用性も考えられています。

ミゾリビンの免疫抑制作用の仕組みは細胞周期のS期(DNA合成期)においてDNAの合成を抑制し、炎症反応などを亢進させるリンパ球T細胞やB細胞の分裂や増殖などを阻害することで効果をあらわします。

ステロイド剤との併用療法の他、週2回のパルス療法なども治療の選択肢とされています。副作用として骨髄抑制、感染症、間質性肺炎、肝機能障害、食欲不振などの消化器症状、発疹などの皮膚症状などには注意が必要です。

◎ミコフェノール酸モフェチル(主な商品名:セルセプト®)

ミゾリビンとは異なる作用の仕組みにより核酸の合成(プリン合成系)を阻害しリンパ球T細胞やB細胞の増殖を抑える作用をあらわす免疫抑制薬です。元々は腎移植における拒絶反応を抑える薬として保険承認されましたが、2016年にはループス腎炎の治療薬としても承認されています(他に心移植、肝移植、肺移植、膵移植の拒絶反応を抑える薬としても承認されています)。

難治性のネフローゼ症候群や抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎などに対して有用とされ、同じ免疫抑制薬のシクロスポリンやシクロホスファミドなどがなんらかの理由で継続できない場合などにおける選択肢となることもあります。

副作用として感染症、骨髄抑制、下痢や潰瘍などの消化器症状、肝機能障害、心不全不整脈などの循環器症状などには注意が必要です。

◎シクロホスファミド(主な商品名:エンドキサン®)

アルキル化剤という種類に分類される薬でネフローゼ症候群などの治療では免疫抑制薬として使われます。シクロホスファミドは生体内で代謝・活性化された後、細胞増殖に必要なDNAの合成を阻害する作用をあらわします。

DNA合成阻害作用によりリンパ球の中でも特にB細胞の活性を抑える作用が期待できるとされ細胞性・液性免疫をともに抑えることにより腎疾患の治療薬としても有用です。ステロイド剤の治療を行っても十分な効果が得られないような病態、活動性が高いループス腎炎、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎などの難治性のネフローゼ症候群の治療の他、全身性エリテマトーデス、全身性血管炎などの治療にも使われています。

またシクロホスファミドはがん細胞の無秩序な増殖を抑える抗腫瘍効果も期待できる薬です。これはがん細胞の増殖に必要なDNA合成を阻害することによるもので、シクロホスファミド自体は元々抗がん剤として承認された薬でもあります。免疫抑制薬として使う薬が抗がん剤にもなる・・・と聞くと少しドキッとするかもしれませんが、作用の仕組みを考えると抗腫瘍効果も理解しやすいのではないでしょうか。

注意すべき副作用としては白血球減少症などの骨髄抑制、感染症、性腺機能障害、吐き気などの消化器症状などがあります。

また本剤が体内で代謝されてできるアクロレインなどの代謝産物は出血性膀胱炎排尿障害膀胱がんなどの原因となることがあり注意が必要です。これはアクロレインなどが腎臓から尿中に排泄され直接的に尿路上皮細胞を障害したり、尿路上皮細胞に取り込まれてDNAを損傷させ障害を引き起こすことなどによるものとされています。

これを予防するために、内服薬を投与している場合は薬を朝に服用し日中は水分を十分摂る、就寝前は排尿しできるだけ膀胱を空にする、などの指示が医師から出されることがあります。注射薬を投与している場合は補液を行い尿量を確保したり、アクロレインなどへの解毒作用をあらわすメスナ(商品名:ウロミテキサン®)という注射薬などを併用することで泌尿器系障害の軽減が期待できます。

◎免疫抑制薬と催奇形性

免疫抑制薬による治療では骨髄抑制などの副作用に注意が必要である他、催奇形性や乳汁への薬の成分の移行などの面での注意も必要となります。ここで挙げた免疫抑制薬の多くは妊婦や授乳婦に対して禁忌となっているため、妊婦や授乳婦以外にも妊娠の可能性がある女性などはこれらの注意事項に関して事前に医師とよく相談しておくことが非常に重要です。

リツキシマブ(リツキサン®など)

免疫細胞のひとつであるリンパ球B細胞の表面にある分化抗原CD20というタンパク質へ結合するモノクローナル抗体(細胞などの特定の物質を標的に結合するように造られた人工の抗体)として開発された薬です。

元々は造血器腫瘍(リンパ腫)の治療薬として開発されましたが、ネフローゼ症候群ではB細胞の異常やリンパ球T細胞とB細胞との情報伝達異常なども原因と考えられていて、B細胞を枯渇化させる作用などをあらわすリツキシマブが治療の選択肢になっています。リツキシマブ(主な商品名:リツキサン®)は2014年に頻回再発型あるいはステロイド依存性を示す難治性のネフローゼ症候群に対しても承認されています。(リツキシマブはこの他、ABO血液型不適合移植(腎移植、肝移植)における抗体関連型拒絶反応の抑制、慢性特発性血小板減少症などにも承認されています)

リツキシマブは医療機関で静脈注射によって投与される薬です。体の大きさ(体表面積)から1回あたりに必要な量を計算し投与されます。初回の投与後、1週間間隔で計4回投与する方法が標準的とされていますが、初回投与後に6ヶ月間隔で計4回投与する方法など、一般的に症状などに合わせて適切な方法によって投与されます。

リツキシマブはモノクローナル抗体に分類される薬ですが、この種類の薬ではインフュージョンリアクションという過敏症があらわれることがあります。

インフュージョンリアクションとは薬剤投与による免疫反応などにより起こる有害事象で、薬剤の投与中及び投与後24時間以内にあらわれる症状の総称です。リツキシマブを投与する際は通常、インフュージョンリアクションの軽減などを目的としてリツキシマブの投与前に解熱鎮痛薬や抗ヒスタミン薬などを投与する前投与が行われています。 投与が終わってからも副作用などに注意は必要です。注意すべき症状として感染症、眼症状(結膜炎など)、 血圧変動などの循環器症状、発疹やかゆみなどの皮膚症状、発熱、呼吸症状、口腔咽頭症状などがあります。息切れや重度の頭痛なども含めて何らかの症状があらわれた場合は自己判断せず医師や薬剤師への早めの連絡が大切です。

ネフローゼ症候群と漢方薬

ネフローゼ症候群の治療ではステロイド剤や免疫抑制薬などが中心となっていますが、これらの薬と漢方薬を併用することで症状の改善が期待できる場合もあります。

例えば柴苓湯(サイレイトウ)、柴朴湯(サイボクトウ)、小柴胡湯(ショウサイコトウ)などの漢方薬には慢性腎炎によるタンパク尿などを改善する効果などが期待できるとされています。

柴苓湯は小柴胡湯と体内の水の滞りなどを改善する五苓散(ゴレイサン)を合わせた漢方薬で、一般的には吐き気、喉の渇き、排尿が少ないなどを伴う下痢や胃腸炎、むくみなどに適するとされる漢方薬で、ネフローゼ症候群などの腎疾患や肝硬変などの肝疾患、アレルギー疾患などに対しても有用となる場合があります。

柴苓湯には緩徐な利尿作用や水分調節作用の他、内因性のステロイドの分泌促進作用や抗炎症作用なども期待できると考えられていて、ネフローゼ症候群においてもステロイド剤などの薬と併用して使われることもあります。

2. ネフローゼ症候群の治療で起こる副作用とその対策

ネフローゼ症候群の治療にはステロイド剤や免疫抑制剤を用います。治療を行うことで腎臓の機能低下を防ぐことが期待できますが、治療による副作用には注意が必要です。ここでは治療薬による副作用とその対策について解説します。

参考文献
厚生労働省難治性疾患克服研究事業進行性腎障害に関する調査研究班
難治性ネフローゼ症候群分科会. ネフローゼ症候群診療指針, 日腎学会誌.2011;53:78-122

・松尾清一/監「エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン2014」東京医学社, 2014

感染症

ステロイド剤や免疫抑制剤を用いると感染症にかかりやすくなります。感染症にかかると重い状態になることもあるので感染症には対策が必要です。一般的な感染症に対する予防をすることが大事です。

  • マスクの着用
  • 手洗い
  • 人混みや感染症をもらいやすい場所(医療機関)をなるべく避ける

上の注意点は何も特別なことではありません。インフルエンザなどが流行する前には医療機関を中心に注意が呼びかけられていることです。小さなことかもしれませんがこれらの積み重ねが大事です。

感染症にかかりやすい状態にある人は感染にかかる前から予防的に抗菌薬を服用するという考えがあります。抗菌薬は感染症にかかったときに治療に使う薬です。抗菌薬は抗生物質ということもあります。

ネフローゼ症候群で治療中の人全てに予防的な内服などが必要とは限りません。治療に用いている薬の量や患者さんの状態(過去にかかった病気など)、腎臓の機能を総合的に判断して予防的な抗菌薬の使用の有無やその内容を判断します。

骨粗鬆症(こつそしょうしょう)

ネフローゼ症候群の治療にはステロイド剤を用いることが多いです。ステロイド剤を用いるとカルシウムが体の中から失われるように働き骨がもろくなる骨粗鬆症が起こりやすくなります。ステロイド剤を長期間に渡って使うときには骨を強化する薬(ビスホスホネート剤や活性型ビタミンD3製剤など)を用いて骨粗鬆症を予防します。

血栓形成:血のかたまりができやすくなる

ネフローゼ症候群が起こると血液をかためる働きをするタンパク質が肝臓で多くつくられると考えられています。このために血液がかたまる血栓症が起こりやすくなっています。一方でネフローゼ症候群の治療で用いられることの多いステロイド剤の副作用にも血栓症があります。ネフローゼ症候群の性質とステロイド剤による副作用の2つが相まって血栓症の危険性が高くなると考えられています。血栓が肺の血管に詰まると致死的な状態に陥ることが多いです。このために血液を固まりにくくする薬を内服するなどして対策がとられることがあります。

またジピリダモール(主な商品名:ペルサンチン®)は一般的に血流を改善する抗血小板薬という種類に分類される薬ですが、尿タンパクを減少させる作用なども期待できるとされ、ステロイド剤に抵抗性を示すネフローゼ症候群などに対して有用となることも考えられます。

脂質代謝異常

ネフローゼ症候群になると尿からアルブミンというタンパク質が多く出ます。アルブミンが減少するとそれを補おうとしてアルブミンを体の中で作ろうとします。アルブミンを作ろうとするとリポ蛋白という物質も同時につくられます。リポ蛋白は血液中のコレステロールを増加させる働きがあります。このようにしてネフローゼ症候群では脂質代謝異常が引き起こされます。

糖尿病

ステロイド剤を使って治療するとインスリンの作用が阻害されるために血糖値が上昇しやすくなり、糖尿病のような状態になることがあります。インスリンは血糖値を下げる物質です。血糖値が高くなる場合には食事指導やインスリンなどの血糖値を下げる効果のある薬を使って治療します。

不眠症・精神症状

ステロイド剤を治療に用いると不眠症や精神症状(不安、多弁、抑うつなど)が現れることがあります。ステロイド剤を多く使っているときに症状が出やすいのでステロイド剤の量を減らしていくと改善します。ステロイド剤の減量ができないときには必要に応じて睡眠薬などを用いて治療します。