ねふろーぜしょうこうぐん
ネフローゼ症候群
腎臓に障害が起こり、本来漏れでない量のタンパク質が尿の中に漏れ出る状態。その結果、血液の中のタンパク質が減少し様々な症状が現れる
9人の医師がチェック 145回の改訂 最終更新: 2023.09.27

ネフローゼ症候群の原因は?一次性と二次性(糖尿病、高血圧)の違い

ネフローゼ症候群を起こす病気は多くあります。腎臓自体に問題が起こる場合や全身の病気が腎臓に影響してネフローゼ症候群を起こす場合があります。ここではネフローゼ症候群の原因となる病気について解説します。

1. ネフローゼ症候群の原因になる病気にはどんなものがあるのか?

ネフローゼ症候群は単一の病気ではなくある病気によっておこる一連の症候のことを指します。すこし難しい話なのですが、いくつかの特徴的な症候や検査所見が一連のものとして現れるものを症候群といいます。ネフローゼ症候群の診断基準を満たすような病気はいくつもあります。

ネフローゼ症候群の診断基準は以下の通りになります。

一次性ネフローゼ症候群の診断基準】

  1. 蛋白尿:3.5g/日以上(随時尿において尿蛋白/尿クレアチニン比が3.5g/gCr以上の場合もこれに準ずる)
  2. 低アルブミン血症:血清アルブミン値3.0g/dL以下

1,2を満たし、明らかな原因疾患がないものを一次性ネフローゼ症候群と診断する。

【小児における診断基準】

  1. 高度尿蛋白(夜間蓄尿で40mg/hr/m2以上)又は早朝尿で尿蛋白クレアチニン比2.0g/gCr以上 
  2. 低アルブミン血症(血清アルブミン2.5g/dL以下)

1,2を同時に満たし、明らかな原因疾患がないものを一次性ネフローゼ症候群と診断する。

多くの病気が原因となるネフローゼ症候群ですが2つに分けることができます。次に説明する一次性(原発性)ネフローゼ症候群)と二次性続発性)ネフローゼ症候群)です。

一次性(原発性)ネフローゼ症候群と二次性(続発性)ネフローゼ症候群の違い

ネフローゼ症候群は原因によって大きく2つに分けることができます。

一つは腎臓の病気が原因で起きるネフローゼ症候群で、一次性(原発性)ネフローゼ症候群といいます。もう一つは全身に渡る病気が原因で起こるネフローゼ症候群で、二次性(続発性)ネフローゼ症候群といいます。それぞれの原因になる主な病気は以下のようになります。

一次性ネフローゼ症候群は腎臓に問題が起きています。原因となる病気が主には4つあります。対して二次性ネフローゼ症候群は糖尿病などの全身に影響する病気が原因になります。二次性ネフローゼ症候群になる病気は多くあり、ここに示した以外の病気などが原因になることもあります。

2. 一次性(原発性)ネフローゼ症候群の原因となる病気

ネフローゼ症候群には2つのパターンがあると説明しました。一次性ネフローゼ症候群は、腎臓の病気を原因とするタイプのネフローゼ症候群です。

腎臓には糸球体という毛細血管のかたまりの構造があり、血液中の老廃物を濾過してきれいにする役割の一端を担っています。糸球体では老廃物を体の外に出すように血管から取り除きますが、必要なものは漏れ出ないようにしています。一次性ネフローゼ症候群は糸球体に異常が発生してタンパク質が尿中にもれ出ます。糸球体に起きる異常の種類によって病気のタイプがいくつかに別れます。ここでは一次性ネフローゼ症候群の原因になる主な腎臓の病気を4つ紹介します。

参考文献
・浅野 泰/監「腎臓内科診療マニュアル」日本医学館, 2010

微小変化型ネフローゼ症候群

微小変化型ネフローゼ症候群は糸球体を構成する毛細血管に異常が起きてタンパク質が血管から漏れ出ます。漏れ出た血管は尿の中に取り込まれて体の外に出ます。微小変化型ネフローゼの名は血管の構造の変化が顕微鏡で観察した時にわずかな変化であることに由来しています。

微小変化型ネフローゼは子供に発生するネフローゼ症候群の主な原因であり、約90%をしめます。これに対して成人のネフローゼ症候群では原因の約15-30%であり、その割合は低くなります。

治療はステロイド剤免疫抑制剤を用います。治療への反応は良好であり約90%が症状や検査の異常がなくなりますが、70-80%が再発することも知られています。このために長期的に治療が必要な人もいます。微小変化型ネフローゼが原因で腎不全に至る人は少ないです。

膜性腎症

膜性腎症は糸球体を構成する毛細血管の血管の壁に免疫複合体というものが沈着することが原因でタンパク質が血管から漏れ出て尿中に流れ出します。

膜性腎症は40-60歳の男性に多く、成人の原発性ネフローゼ症候群の20-40%を占めます。膜性腎症悪性腫瘍がん)が同時に発生していることが多いので、膜性腎症と診断された場合はCT検査などを用いて悪性腫瘍が隠れていないかを調べます。

治療はステロイド剤を用いることが多いです。腎臓の機能は長期に渡り維持されることが多く腎不全に至る人は比較的少ないです。

膜性増殖性糸球体腎炎

膜性増殖性糸球体腎炎は糸球体のメサンギウム領域(メサンギウム細胞とその間質)という場所に炎症や増殖が起こる病気です。メサンギウム領域に起こる炎症や増殖の結果、糸球体の機能が低下してネフローゼ症候群が起こります。

膜性増殖性糸球体腎炎は、10歳代と40歳代に発症のピークがありますが、それ以外の年齢でも発症することがあります。発見されるきっかけは健診など尿検査でのタンパク尿の指摘などです。

治療はステロイド剤を中心に免疫抑制剤、抗血小板薬などを用います。治療への反応が悪い場合は腎不全に進行することがあります。

巣状分節性糸球体硬化症(巣状糸球体硬化症)

巣状糸球体硬化症は糸球体を構成する毛細血管の一部が硬化(硬くなる)してその部分の糸球体の機能が低下してタンパク質が漏れ出ます。漏れ出たタンパク質が尿中に大量に出るとネフローゼ症候群を発症します。

巣状糸球体硬化症は比較的若年者に多く50歳以上では少ないとされています。ネフローゼ症候群の他に脂質代謝異常、高血圧などもともなうことが多いです。

ステロイド剤を中心に免疫抑制剤、抗血小板薬などを使って治療します。治療への反応性には幅があり約半数が腎不全へと進行する一方で治療への反応がよい場合の経過はよいことが多いです。

3. 主な二次性(続発性)ネフローゼ症候群の原因

二次性ネフローゼ症候群は全身に影響する病気が腎臓の機能を破壊して起こるタイプのネフローゼ症候群です。主な原因には以下のものがあります。

糖尿病や高血圧などは持病として抱えている人が多くいる病気です。全ての人がネフローゼ症候群を発症するわけではありません。

糖尿病

糖尿病は、インスリンという物質が不足したりその作用が上手く働かなかったりすることが原因で血液中の糖分が正常範囲内より高くなる病気です。血液中の糖が高くなると血管の内側の細胞(血管内皮細胞)が傷つきます。血管内皮細胞が傷つくと血流が細くなって流れが悪くなったり機能が低下したりします。

腎臓の糸球体は毛細血管のかたまりです。糖尿病が起こると糸球体を構成する毛細血管が細くなったり機能が低下します。糸球体の機能が低下すると本来は漏れ出ないはずのタンパク質が漏れ出てしまいます。タンパク質のもれ出る量が多くなるとネフローゼ症候群になります。

糖尿病が原因のネフローゼ症候群は腎臓の機能が低下するにしたがって発症する危険性が上がると考えられています。糖尿病によるネフローゼ症候群の治療は血糖値を正常範囲内にすることなど糖尿病を治療することになります。糖尿病が原因のネフローゼ症候群は高血圧などをともなうことが多いので同時に治療します。

糖尿病を原因とするネフローゼ症候群はかなり腎臓の機能が低下していることも多いです。糖尿病が原因の腎不全はその後の経過が極めて悪いことでも知られています。ネフローゼ症候群になった場合は糖尿病の治療や生活習慣などを見直してください。

高血圧

腎臓には多くの毛細血管があり、血液中の老廃物などを取り除く機能を果たしています。高血圧が続くと血管に負担がかかり血管の内側の細胞(血管内皮細胞)が傷つきます。血管内皮細胞に障害が起こると血管が細くなったり老廃物を取り除く機能が低下します。腎臓の機能が大幅に落ちるとネフローゼ症候群が起こります。高血圧が原因のネフローゼ症候群は血圧を正常範囲内に抑える治療により改善が期待できます。

ループス腎炎

ループス腎炎全身性エリテマトーデスという病気によって引き起こされる腎臓の障害です。全身性エリテマトーデスはコラーゲン(膠原)というタンパク質に異常が起こる病気で膠原病という病気のグループに分類されます。

全身性エリテマトーデスは英語ではSystemic lupus erythematosusといいます。少し長くて難しいので略してSLEやループス (lupus)という名前で呼ばれることがあります。ループスとはラテン語で狼の意味です。全身性エリテマトーデスでは顔に狼に噛まれたような特徴的な発疹が出現することからこのように呼ばれています。

ループス腎炎が重いときにはネフローゼ症候群の原因になります。ループス腎炎での腎臓の障害は経過に大きく関わるとされており、しっかりと治療することが大事です。

アミロイド腎症

アミロイド腎症はアミロイドというタンパク質が腎臓に蓄積することにより腎臓の機能が低下する病気です。アミロイド腎症により腎臓の機能が低下するとネフローゼ症候群の原因になります。

アミロイド腎症の原因は遺伝や関節リウマチ潰瘍性大腸炎などの病気です。アミロイド腎症の治療は原因となる病気に対するものと症状を和らげるものを用います。

その他原因

二次性ネフローゼ症候群の原因には他にも多くあります。主な例は以下のものになります。

  • 慢性肝炎(B型肝炎C型肝炎
  • 悪性腫瘍
  • 薬剤性
  • 膠原病(リウマチなど)

他の病気の治療中に尿検査の結果からネフローゼ症候群の疑いがあると言われるかもしれません。病気を治療中に新しい病気の名前を聞くとひどく不安な気持ちになると思います。その状況にもよりますが原因となっている病気の治療と対症療法(症状に対する治療)が中心になることが多いと思います。担当している医師としっかりと話をして治療を進めていくことが大事です。