こうじょうせんがん
甲状腺がん
甲状腺にできるがんのこと。様々なタイプがあるが、甲状腺乳頭がんというタイプが非常に多い
11人の医師がチェック 129回の改訂 最終更新: 2024.02.17

甲状腺がんの治療法や病院の選び方

甲状腺がんと診断された場合に、どのような治療方法があるのか心配になりますね。甲状腺がんの治療の選び方と、治療を行う病院についてみていきましょう。

1. 甲状腺がんは何科を受診すればいいのか?

甲状腺がんの手術は甲状腺外科や耳鼻咽喉科で行っています。

首の前のしこりに気がついた時点で、手術を行うことができる病院に直接行く必要はありません。首の前のしこりが全て甲状腺がんではありません。首の前のしこりの原因は甲状腺がん以外でも、甲状腺の良性腫瘍や、正中頸嚢胞、頸部リンパ節炎などがあります。首の前のしこりに気がついた時は、まずは近くの内科や耳鼻咽喉科に受診して甲状腺のしこりなのか見てもらってください。

甲状腺腫瘍であった場合には、超音波検査細胞診などの専門的な検査が必要になります。細胞診は甲状腺腫瘍に針をさして中の細胞を抜いて、良性か悪性かを判断する検査です。細胞診は一部の例外を除いて、一般的な内科や耳鼻咽喉科では行うことができません。総合病院や大学病院の甲状腺外科や耳鼻咽喉科で行うことができます。最初に受診した病院から紹介してもらえることが多いですが、何らかの理由で自分で探すことになった場合は、病院によってどの科が甲状腺がんを担当するかが異なりますので、受診前に電話などで確認してください。甲状腺の手術は甲状腺外科や耳鼻咽喉科で行っています。

2. 甲状腺がんの治療の選び方は?

甲状腺がんの治療の基本方針は手術です。甲状腺がんの組織型や進行度(ステージ)に応じて手術の範囲を検討します。

組織型とは顕微鏡でがんを見た時の見た目による分類です。甲状腺がんの性質は組織型で大きく変わるため、それぞれの特徴に応じた治療を行います。甲状腺がんの組織型は、乳頭がん、濾胞がん、髄様がん、未分化がんに大きくわけられます。乳頭がんや濾胞がんは、がん細胞になっても、甲状腺のもともとの細胞の機能を持っているため分化がんと呼びます。分化がんの2つはほぼ同じ治療方法になります。髄様がんや未分化がんは、分化がんとは異なる性質を持つがんなので、治療方法も異なります。組織型に応じて、手術をおこなった後に放射線治療や薬物治療(ホルモン治療、抗がん剤治療)などを検討します。

進行度によっても行う治療が異なります。進行度はがんがどの程度広がっているかによって決めます。がんの大きさ、首へのリンパ節への広がり、肺や骨などの遠い臓器への広がりで決められます。

甲状腺乳頭がんや濾胞がんの治療方法

甲状腺乳頭がんや濾胞がんの治療の基本は手術治療です。

手術の範囲はがんの大きさとリンパ節転移がある範囲によって決定します。甲状腺を半分摘出する甲状腺葉峡部切除術と、甲状腺を全て摘出する甲状腺全摘術が選択肢となります。

甲状腺の周りに見えないリンパ節転移が隠れていることも多いので、リンパ節をまとめて取り除く手術(リンパ節郭清)を一緒に行います。リンパ節の手術の範囲は、転移の有無や範囲に応じて決めます。手術前の検査でリンパ節転移が見つからない場合でも、通常は気管周囲のリンパ節郭清を行います。リンパ節転移があらかじめわかっている場合には、左右の肺の間にある縦隔のリンパ節郭清や、側頸部の頸部郭清を行います。手術について詳しくは「甲状腺がんの手術」で説明しています。

表 甲状腺乳頭がん、濾胞がんの手術の選択肢

ステージ T分類 N分類 甲状腺の手術 リンパ節の手術
葉峡部切除術 全摘術 気管周囲郭清 上縦隔郭清 頸部郭清
I T1 N0

-

-

-

T2 N0

-

-

II T1 N1a

-

-

N1b

-

T2 N1a

-

N1b

T3 N0

-

-

N1a

-

N1b

III T4a N0

×

-

-

N1a

×

-

N1b

×

IVA T4b N0

×

-

-

N1a

×

-

N1b

×

◯:行うことが多い、△:がんの範囲に応じて行う、-:通常は行わない、×:がんを取り残す可能性が高く行わない

手術後は経過観察を行います。再発リスクの高さに応じて、放射性ヨード内用療法や、ホルモン治療を行います。

放射性ヨード内用療法は放射性物質を飲んで身体の中に残っている甲状腺組織を破壊する治療です。放射性ヨード内用療法を行うには、甲状腺を全て摘出していることが条件となります。放射性ヨード内用療法については「甲状腺がんの放射線治療:放射性ヨード内用療法」で詳しく説明しています。

ホルモン治療は、甲状腺がんを増大させるホルモンを減らす治療です。ホルモン治療については「甲状腺がんの薬物治療:ホルモン治療」で詳しく説明しています。

再発した場合には、手術ができる場所であれば、再発した場所を手術で摘出します。手術ができない場所の場合には、放射性ヨード内用療法を行います。放射性ヨード内用療法の効果が期待できなくなった場合には、分子標的薬を使います。分子標的薬については「甲状腺がんの薬物治療:抗がん剤治療」で詳しく説明しています。

甲状腺髄様がんの治療方法

甲状腺髄様がんの治療の基本は手術治療です。髄様がんの中でもさらに細かいタイプによって手術方法を変えます。

髄様がんの発症には遺伝子変異が関連することがわかっています。髄様がんの約4割が遺伝性髄様がんであり、同じ家族内で髄様がんを発症します。髄様がんの治療では遺伝性髄様がんか、遺伝性ではない髄様がんかで甲状腺を摘出する範囲が異なります。

遺伝性髄様がんの場合には甲状腺にある細胞の全てががんになりやすい素質を持っているため、甲状腺を残すとそこから再発する可能性が高く、甲状腺を残さずに摘出します。遺伝性ではない髄様がんの場合には、腫瘍の大きさやステージに応じて甲状腺を摘出する範囲を決定します。

どちらの場合もリンパ節転移しやすいので、手術では甲状腺の周りのリンパ節を一緒に取り除きます。

手術後は定期的に検査を行います。再発した場合には、手術ができる場所であれば再発したがんを手術で摘出します。手術ができない場合、甲状腺髄様がんは放射線や通常の抗がん剤では効果が乏しいです。代わりに分子標的薬と呼ばれる比較的新しい種類の抗がん剤を使います。甲状腺がんに使うことができる3種類の分子標的薬の全てが髄様がんに効果があるとされており、いずれも使用を検討できます。

■遺伝性髄様がんの手術方法

甲状腺全摘術に加えて周囲のリンパ節の手術を行います。遺伝性髄様がんでは、甲状腺を残すと髄様がんが再発しやすいため、がんが小さい場合でも甲状腺全摘術を行います。

甲状腺がんが転移しやすいリンパ節は気管前リンパ節(気管の前にあるリンパ節)と、気管傍リンパ節(気管の脇にあるリンパ節)です。この部分のリンパ節を取り除く気管周囲郭清を必ず行います。

気管前リンパ節・気管傍リンパ節以外の、頸部の横のリンパ節にも転移がある場合には、頸部郭清術も行います。頸部郭清術は顎から鎖骨の間の範囲にある脂肪をリンパ節ごと摘出する手術です。ただし重要な血管や神経は摘出せず残します。

リンパ節転移の広がりに応じて上縦隔郭清も行います。縦隔とは左右の肺の間にある部分で、心臓や大動脈などがある部分です。縦隔の上のほうを上縦隔とよびます。甲状腺がんは上縦隔のリンパ節にも転移することがあり、この部分のリンパ節を摘出する上縦隔郭清もあわせておこなうこともあります。

リンパ節の手術の範囲については、手術前の血中カルシトニンの値、年齢、がんの大きさ、がんが甲状腺の外に広がっているかどうかなども加味して決定します。

■遺伝性ではない髄様がんの手術方法

がんの大きさに応じて、甲状腺葉峡部切除術または甲状腺全摘術を行います。

甲状腺がんで転移しやすいリンパ節は気管前リンパ節(気管の前にあるリンパ節)と、気管傍リンパ節(気管の脇にあるリンパ節)です。この部分のリンパ節を手術する気管周囲郭清を必ず行います。

気管傍リンパ節は甲状腺の左右にあります。甲状腺葉峡部切除術の場合は、がんがある側の片方だけ気管前リンパ節と気管傍リンパ節を摘出します。

気管前・気管傍リンパ節以外の、頸部の横のリンパ節にも転移がある場合には、頸部郭清術も行います。頸部郭清術は顎から鎖骨の間の範囲にある脂肪をリンパ節ごと摘出する手術です。ただし重要な血管や神経は摘出せず残します。

リンパ節転移の広がりに応じて上縦隔郭清も行います。縦隔とは左右の肺の間にある部分で、心臓や大動脈などがある部分です。縦隔の上のほうを上縦隔とよびます。甲状腺がんは上縦隔のリンパ節にも転移することがあり、この部分のリンパ節を摘出する上縦隔郭清もあわせておこなうこともあります。

リンパ節の手術の範囲については、手術前の血中カルシトニンの値、年齢、がんの大きさ、がんが甲状腺の外に広がっているかどうかなども加味して決定します。

表 遺伝性ではない甲状腺髄様がんの手術の選択肢

ステージ T分類 N分類 甲状腺の手術 リンパ節の手術
葉峡部切除術 全摘術 気管周囲郭清 上縦隔郭清 頸部郭清
I T1 N0

-

-

-

II T2/T3 N0

-

-

III T1 N1a

-

-

T2/T3

-

IVA T1 N1b

-

T2/T3

T4a Nに関係なく

×

IVB T4b Nに関係なく

×

◯:行うことが多い、△:がんの範囲に応じて行う、-:通常は行わない、×:がんを取り残す可能性が高く行わない

甲状腺未分化がんの治療方法

甲状腺未分化がんでは診断された時にすでに、首に広くがんが広がっていることや、他の臓器への転移があることが多く、手術のみでがんを取りきることが難しいため、抗がん剤治療や放射線治療を組み合わせて治療を行います。抗がん剤治療や放射線治療を行ってがんが小さくなったら、手術を行う場合もあります。例外的に未分化がんがまだ小さく、手術で取り切れそうな大きさの場合は、はじめから手術を行います。

未分化がんに対する放射線治療は、ほかの種類の甲状腺がんに使う放射性ヨード内用療法ではなく、体の外から放射線をあてる外照射です。外照射については「甲状腺がんの放射線治療:外照射」で詳しく説明しています。

分子標的薬のうちレンバチニブ(商品名:レンビマ®)は未分化がんにも効果があるとされ、保険適用となっています。ただし分子標的薬特有の副作用に加え、がんのある部分から出血したり、皮膚に穴があいたりする副作用が報告されており、使用の際は注意が必要です。レンバチニブについては「甲状腺がんの薬物治療」で説明しています。

手術が適している場合

甲状腺がんの治療の基本は手術です。未分化がんなどで手術で取り切れない場合を除いて手術を行います。

乳頭がんや濾胞がんは、がんになっても、甲状腺のもともとの細胞の機能を持っているため分化がんと呼びます。分化がんの2つはほぼ同じ治療方法になります。乳頭がんや濾胞がんなどの分化がんでは、診断時に遠隔転移がある場合でも、まずは甲状腺を手術し、その後に放射性ヨード内用療法を行います。はじめの手術後に再発した場合や転移した場合でも、手術が可能な場所であれば手術を行います。

髄様がんでも基本となる治療は手術です。遺伝性の髄様がんでは甲状腺全摘術を行い、遺伝性ではない髄様がんでは甲状腺葉峡部切除または甲状腺全摘術を行います。再発した場合には手術が可能な場所であれば手術を行います。

未分化がんは手術で取り切れる大きさの場合には手術を行います。多くの未分化がんでは診断された時にすでに首に広くがんが広がっていて、手術のみでがんを完全に取りきることが難しいため、まず、抗がん剤治療や放射線治療(外照射)を行って取り切れる大きさになった後に手術を行います。

手術の方法などについて詳しくは「甲状腺がんの手術」で説明しています。

放射線治療が適している場合

放射線治療は基本的には手術を行った後に行います。

放射線治療には、放射性ヨード内用療法と外照射の2種類があります。

放射性ヨード内用療法は、放射性物質を飲むことで、身体の中からがんに放射線をあてる治療法です。手術後の再発リスクが高いと考えられた人や、実際に再発や転移が見つかった人などが行います。

再発リスクが高いと考えられる人ははじめの手術で甲状腺を残さず摘出したうえ、体内に微小な甲状腺組織が残っている可能性があるので放射線で焼く治療を行います。残った甲状腺組織を焼く治療方法を、放射性ヨード内用療法の中でも特にアブレーションと呼びます。

はじめの手術後に再発や転移を起こした場合には、甲状腺が残っていなければ放射性ヨード内用療法を行います。甲状腺が残っていればまず甲状腺を取り除く手術を行った後に放射性ヨード内用療法を行います。

頸部の外側から放射線をあてる外照射は、再発リスクが高いけれど放射性ヨード内用療法が行えない場合や、髄様がんや未分化がんで行うことがあります。その他に、甲状腺がんが骨や脳に転移した場合にも外照射で治療を行います。

放射線治療の方法などについて詳しくは「甲状腺がんの放射線治療」で説明しています。

薬物治療が適している場合

甲状腺がんに対する薬物治療はホルモン治療、抗がん剤治療があります。治療方法は甲状腺がんの組織型によって異なります。

乳頭がんや濾胞がんなどの甲状腺分化がんに対してはホルモン治療を行います。乳頭がんや濾胞がんは、がんになっても、甲状腺のもともとの細胞の機能を持っているため分化がんと呼びます。分化がんは甲状腺ホルモンを作る甲状腺刺激ホルモン(TSH)の作用によって増大します。ホルモン治療ではTSHの量を減らすことで、分化がんの増大を抑えます。TSHを減らす治療であるため、ホルモン治療はTSH抑制療法と呼ばれます。

分化がんでは甲状腺全摘術を行った後にほぼ全ての人にホルモン治療を行います。ホルモン治療の強度は再発リスクの高さや年齢などに応じて決定します。再発リスクが高いと考えられた場合には、ホルモン治療に放射線ヨード内用療法を追加で行います。ホルモン治療では甲状腺ホルモンを内服します。TSH抑制療法を行っても再発した場合には放射性ヨード内用療法を行います。放射性ヨード内用療法の効果が乏しくなった場合には、分子標的薬とよばれる抗がん剤での治療を行います。

髄様がんではホルモン治療は効果がありません。再発や転移をした場合には抗がん剤治療を行います。髄様がんは放射線や通常の抗がん剤では効果が乏しいです。代わりに分子標的薬と呼ばれる比較的新しい種類の抗がん剤を使います。甲状腺がんに使うことができる3種類の分子標的薬の全てが髄様がんに効果があるとされており、いずれも使用を検討できます。

未分化がんでは手術が可能な大きさの場合には手術を行います。診断時にすでにがんが大きく、手術ができない場合には、放射線治療と抗がん剤治療を合わせた治療を行います。ここで行う放射線治療は放射性ヨード内用療法ではなく、体の外から放射線をあてる外照射です。放射線治療と抗がん剤治療で手術ができる大きさになった場合には、手術を行います。未分化がんは治療が大変難しいがんです。放射線治療、抗がん剤治療、手術を組み合わせて行いますが、がんの進行がみられた場合には分子標的薬で治療を行います。分子標的薬は比較的新しい種類の抗がん剤で、今まで治療が困難であった未分化がんにも一定の効果が報告されています。

薬物治療については「甲状腺がんの薬物治療」で詳しく説明しています。

経過観察を検討できる場合

甲状腺の超音波検査の技術向上により、1cm以下の微小乳頭がんが見つかる頻度が増えています。1cm以下の甲状腺がんには、転移などをせず長期的に悪化しないものと、がん自体が小さくてもリンパ節転移などをおこして悪化する可能性がある高リスク群があります。

高リスクと予想される条件は、リンパ節転移があること、甲状腺の外にがんが出ていること、肺や骨に転移があること、経過観察中に大きくなったことなどです。高リスクと予想された場合には積極的に手術治療などを行います。

高リスクらしい条件がひとつもない場合でも、がんがある側の甲状腺を摘出する甲状腺葉峡部切除を行うことが一般的です。しかし、微小乳頭がんでは、がんが少し進行した場合に、その時点で手術を行えば問題ないという考えもあり、経過観察を行うこともあります。

手術をしないで経過観察する場合には、甲状腺がんの手術で起こりうる声帯麻痺や、副甲状腺機能低下症といった合併症が避けられるという利点があります。手術の合併症については、「甲状腺がんの手術の合併症」で説明しています。

手術をせずに経過観察をした場合には、がんが大きくなったりリンパ節転移がおきたりして手術が必要になる可能性と、低い確率ではありますが、遠隔転移や未分化転化などで急激に悪化する可能性を考えておく必要があります。未分化転化とは通常の乳頭がんや濾胞がんが急激に未分化がんにかわることです。未分化がんは極めて危険です。悪化するリスクを考えたうえで、手術をせずに経過観察をする場合には、年に1回から2回の超音波検査などを行います。がんが3mm以上大きくなったり、ほかにも新しくがんと疑わしいものができたり、リンパ節転移と疑わしいものが見つかったりした場合には、手術を行います。

3. 甲状腺がんの診療ガイドラインはあるのか?

診療ガイドラインとは、診断や治療の助けとするために、科学的根拠に基づいて一般的に勧められる内容をまとめたものです。甲状腺がんの診療ガイドラインとして『甲状腺腫瘍診療ガイドライン』や『頭頸部診療ガイドライン』があります。

ただし、ガイドラインの内容がすべての人に当てはまるわけではありません。治療はそれぞれの人に応じて行われるため、必ずしもガイドラインに沿っていないこともあります。

4. 甲状腺がんの治療費はどれくらいかかる?

治療にかかる費用は病状によって個人差があります。進行の遅い乳頭がんと進行の速い未分化がんでは、行う治療内容がかなり異なるため治療費もかなり異なります。

治療にかかる費用が高額になった場合には「高額療養費制度」が利用できます。1ヶ月に支払った医療費が一定額を超えた場合に、超えた分の費用を返還してくれる制度です。自己負担の上限額は、年齢や所得によって異なります。

支給までには通常数か月程度かかります。ただし、治療前に健保組合などの加入している公的保険の窓口で「限度額適用認定証」をもらっておくと、医療機関での治療費の支払いは、初めから自己負担額の上限額までになります。

おおまかな治療費に関して、たとえば甲状腺がんの手術を行った場合の治療費は、自己負担が3割でだいたい20万円から30万円程度になります。30万円の自己負担額の場合、高額療養費制度を利用すると下記のようになります。(平成29年8月から平成30年7月診療分まで)

70歳以上で、年収約370万円から770万円の場合

医療費が100万円かかったとして、自己負担が3割の場合、窓口で支払う金額は30万円

自己負担の上限額 80,100円+(100万円-267,000円)×1% = 87,430円

高額医療費の支給額 300,000円−87,430円=212,570円

このように、3割負担の計算では30万円の自己負担ですが、実際の自己負担額は87,430円に減ります。

5. 甲状腺がんの名医はどこにいる?

甲状腺がんに限らず、治療を受ける時は名医に治療を受けたいと思うものです。しかし、名医といっても漠然としていて、何を基準にすればいいのかわかりません。

一体どんな医師に治療を受けたいでしょうか。

甲状腺がんの名医に基準はあるか?

名医の基準は人それぞれ異なるでしょう。あなたにとっての名医の基準はどれでしょうか。

  • たくさんの手術を行っている
  • 難易度の高い手術ができる
  • たくさんの知識をもっている
  • 最先端の治療を行っている
  • 診察能力に優れて的確な診断ができる
  • 話をよく聴いてくれて親身になってくれる

甲状腺がんのように手術治療があるものでは、たくさんの手術や、難易度の高い手術を行っている医師を名医と考えるかもしれません。しかし、甲状腺がんは手術後にホルモン治療を行う場合もありますし、放射線治療を行う場合もあります。再発や転移した場合には抗がん剤治療を行う場合もあります。どんなに最先端の治療を行っていても、自分の体に合わなければ、良い治療ではありません。

このように色々な治療の選択肢のある病気において、名医とはさまざまな治療について精通し、適切な治療を提供できる医師ではないでしょうか。

手術に関しても、どんな医師を「名医」と考えるかは人それぞれです。手術経験数、手術時間の短さ、手術の正確さや丁寧さ、再発率の低さ、入院期間の短さ、診察の丁寧さなど様々な指標があります。

治療のためには医師と患者の人間関係も大切です。そこで、出会った医師を「名医」と思えるかどうかは相性にもよるということになります。手術件数など目に見える客観的な指標のみならず、自分と相性が合うかどうかを見極めて、治療施設を選ぶといいでしょう。

甲状腺がんの専門医はどこにいる?

「専門医」という言葉は一般的に、学会が医師に一定の条件を課して認める資格を指します。この意味では甲状腺がんの専門医はありませんが、日本甲状腺学会日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会の専門医制度はあります。いずれも甲状腺がんだけの専門医ではなく、甲状腺の病気全般の専門医になります。

それぞれの学会のホームページに専門医一覧が掲載されているため、受診の参考にしても良いかもしれません。ただし専門医の資格がなくても甲状腺がんの治療ができる医師はいます。反対に、専門医は一定の条件を満たした医師ではありますが、必ずしも自分に相性の良い医師であるとは限りません。個々の医師が甲状腺がんに詳しいかどうかに関しては、個別に問い合わせるなどしてください。

甲状腺がんの治療をする時の病院の選び方は?

甲状腺がんの治療を受けることを想像した時、どのようなことがあると嬉しいでしょうか。

  • 色々な治療ができる
  • 通院がしやすい
  • 信頼できる医師や医療職がいる

上のようなことが浮かんでくるかもしれません。

一緒に良い病院の条件をみていきましょう。

◎色々な治療ができる

がんの状況は時間とともに変化します。手術から緩和治療まで色々な治療が必要となる場面がでてきます。そのいずれにも対応できる病院は安心できます。全ての治療を行うことができる病院は限られますが、その病院でできない治療は他の病院に頼んでくれるような病院にかからないと、治療方法を考える前から選択肢が減ってしまいます。

たとえば甲状腺がんでは放射性ヨード内用療法が必要になる場合がありますが、放射性ヨード内用療法を行うことができる病院は限られます。特に入院での放射性ヨード内用療法を行うことができる病院は全国的に不足しています。多くの病院では放射性ヨード内用療法を他の病院に依頼して行っています。このような連携を行える病院であれば治療の選択肢が狭まらずに安心です。

最近では各病院のホームページにがんの治療実績などが掲載されていることも多くなりました。放射性ヨード内用療法を自分の病院で行っていない場合には、放射性ヨード内用療法が必要になった時は他の病院に紹介してくれるのかなどについて、ホームページや電話で確認しておくと安心です。

◎通院がしやすい

がんと診断された場合には、長期間の通院が必要になることも多いです。たとえば、治療開始までに様々な検査を行ったり、準備のため外来に受診したりする必要があります。手術を行った後の早期では1ヶ月から3ヶ月に1回外来通院が必要です。甲状腺ホルモンを飲む必要がある場合には、投薬および血液検査のために定期的な通院が必要です。

他のがんでは5年経過すると治癒と考えて通院が終了になることがありますが、甲状腺がんでは10年以上経過しても再発することもあります。各国の診療ガイドラインでも明確な通院期間は示されていませんが、多くの甲状腺がんを専門とする医師は、可能な限り長期間の定期的な通院をすすめています。

通院を継続するためには、病院が通いやすい場所にあることも重要です。

◎信頼できる医師や医療者がいる

がんの治療では、医師や看護師などの医療者と長期間の付き合いになります。わからないことや不安なことなどはそのままにせず、積極的に聞いてみましょう。同じ知識をもった医師や医療者でも、個々の性格などから話をした時に受ける印象は異なると思います。話していて相性が良いと感じ、なんでも話ができそうな医師や医療者がいる病院が付き合いやすいかもしれません。

最初から打ち解けることは難しいかもしれませんが、疑問に思ったことなどをなんでも話しあうことで、徐々に信頼関係を築くことができるのではないでしょうか。

6. セカンドオピニオンを聞きたい場合はどうしたら良い?

セカンドオピニオンは主治医以外に治療方針についての意見を聞く事です。一般的には主治医に紹介状診療情報提供書)を書いてもらい、他の医療機関に行って、意見を聞きます。施設によっては「セカンドオピニオン外来」などの専用窓口を設けています。判断が難しい場面などで、多くの意見を聞くことは、より広い視野をもって治療を選択するために有用な手段です。

しかし、「セカンドオピニオンは主治医との関係が悪くなるような気がしてなかなか切り出しにくい」という話もときどき聞きます。医師の立場から言いますと、セカンドオピニオンを求められたからと言って、関係が悪くなることは全くありません。セカンドオピニオンは当然の権利ですし、最適な治療を探して悩んでいる主治医にとっても助けになることがあります。何よりも、治療を受ける側が納得して、最適な治療を選択することが大事です。

他の医師の意見を聞いてみたいと思った場合は、遠慮なく主治医にセカンドオピニオンを求めることをお薦めします。紹介状を持参した方が、的確な意見を聞くことができますので、内緒でほかの医師に相談するのではなく、主治医にセカンドオピニオンの希望を伝えてください。

7. 甲状腺がんの治療後には何年間くらい通院が必要?経過観察の期間について

甲状腺がんの治療後の通院は、通院が可能な限り継続してください。他のがんでは再発なく5年経過すると完治とみなすことがありますが、甲状腺がんの場合はそれ以上経過しての再発や転移もあるため、可能な限りの通院を続けるのが一般的です。

再発や転移の有無を定期的にみるとともに、甲状腺がんの全摘術後で甲状腺機能低下症に対して、甲状腺ホルモンの内服が必要な場合には、定期的に内服薬を処方してもらう必要があります。甲状腺ホルモンの薬は通いやすい近くの病院でもらうことも可能です。

がんの再発や転移の有無をみるため、手術後の早い時期には3ヶ月に1回程度の通院を行います。その後は半年に1回程度の通院を行います。

甲状腺がんの症状があまりないため、通院が面倒になることもあるかもしれません。しかし、甲状腺乳頭がんで再発リスクが低い場合でも、約10%以下の確率で再発することが知られており、適切なタイミングでの治療を行うためにも、継続した通院と検査が重要です。各国のガイドラインでも明確な経過観察の期間については結論が出ていませんが、日本で甲状腺がんの診療を行っている医師へのアンケートでは、20年以上の通院をすすめる意見が最多でした。

8. 甲状腺がんが転移した場所の治療は?

甲状腺がんの転移がある場合の治療では、転移の場所(転移巣)に対する治療も検討されます。

転移巣に対する治療として、転移巣を取り除く手術に加え、薬物治療や放射性ヨード内用療法といった全身の治療があります。治療の目的の一つは、がんを残らず取り除くことです。また、症状を改善することを目的とする場合もあります。肺転移による呼吸困難、骨転移による痛み、脳転移による麻痺などの症状が現れることがあり、それぞれに対する治療法があります。

以下では転移がある場所ごとの治療法の例を説明します。

リンパ節転移に対する治療

甲状腺がんが見つかった時点で周りのリンパ節に転移があった場合、リンパ節転移を取り除く手術などで治療します。

甲状腺がん手術後の経過観察中に頸部リンパ節に転移が見つかった場合でも、頸部リンパ節転移に対して手術を行うことができます。目に見える大きさのリンパ節転移では、手術治療が最も優れた治療です。手術で取れない場所などでは放射性ヨード内用療法や放射線外照射や、分子標的薬による治療を検討します。

肺転移に対する治療

甲状腺がんを手術などで治療した後は定期的な画像検査で経過観察を行いますが、その過程で自覚症状がない状態で肺転移が見つかることがあります。

甲状腺乳頭がんは進行が遅く、最初の治療から10年以上たって肺転移がでることもあります。肺転移が進行すると転移の場所によっては、咳が出ることや、胸に水(胸水:きょうすい)が溜まることがあります。胸水が増えると呼吸が苦しくなることがあります。

自覚症状がない状態で肺転移が見つかった場合には、乳頭がんや濾胞がんでは放射性ヨード内用療法を行い、髄様がんでは分子標的薬による抗がん剤治療を行います。乳頭がんや濾胞がんでは、放射性ヨード内用療法をまずはじめに行います。乳頭がんや濾胞がんはヨードを取り込む機能があるため、放射性ヨードを使用して内部から肺転移に放射線を当てる治療を行います。治療を繰り返すうちに、ヨードの取り込みが低下することがあります。ヨードの取り込みが悪くなった後は抗がん剤治療に切り替えます。放射性ヨード内用療法については「甲状腺がんの放射線治療」で、抗がん剤治療については「甲状腺がんの薬物治療」で説明しています。

肺転移に対しての放射性ヨード内用療法の効果は若年であるほど高く、40歳以上の人や大きな肺転移では効果が比較的低くなります。放射性ヨード治療を行っても肺転移の大きさが変わらない場合には分子標的薬の治療を行います。

放射性ヨード内用療法後の甲状腺シンチグラフィ検査で肺転移や骨転移が見つからなくなった場合には15年生存率が89%と良好です。

肺転移が進行して胸水が溜まった場合は呼吸を妨げることがあるため、胸水に対する治療が必要です。治療は、胸に針やチューブなどを刺して胸水を抜く方法や、水を抜いた後に薬をいれて肺の膜に炎症を起こして再度胸水が溜まらないように治療する方法もあります。その他に、呼吸の苦しさを緩和するために、酸素を吸う方法や、薬で対処する方法もあります。

参考文献
・Radioactive iodine treatment and external radiotherapy for lung and bone metastases from thyroid carcinoma. J Nucl Med. 1996 Apr;37(4):598-605.

骨転移に対する治療

甲状腺がんが骨に転移しても最初は無症状です。骨転移が進行すると痛みや病的骨折が起こります。病的骨折とは通常の骨の強さでは骨折しない程度の弱い衝撃で骨折してしまうことです。骨転移があると骨が弱ってしまうので、弱い衝撃でも骨折してしまいます。

甲状腺がんは骨転移を起こしやすいですが、転移を起こした後の進行は遅いです。

甲状腺がんは進行が遅いため、骨転移が1か所の場合は手術での切除を検討します。放射性ヨード内用療法は骨転移への効果は少し劣りますが、治療前の甲状腺シンチグラフィ検査で転移巣にヨードの集積があれば放射性ヨード内用療法を行います。放射性ヨード内用療法については「甲状腺がんの放射線治療」で説明しています。

骨転移で痛みがある場合には、痛みを改善するために放射線を外からあてる外照射を行うことがあります。外照射については「甲状腺がんの放射線治療」で説明しています。外照射に加えて、骨を丈夫にするビスホスホネート製剤を使用する治療もあります。痛みが強い場合には痛み止めなどの薬による治療も合わせて行います。

参考文献
・骨転移診療ガイドライン

脳転移に対する治療

甲状腺がんが脳に転移した場合は、症状がない場合とある場合があります。転移した部位の正常組織が影響を受けて、本来担当している機能が妨げられると、麻痺やしびれなどの症状がでます。その他には、頭痛や吐き気、けいれんなどがでることもあります。

2004年から2008年に行われた日本脳腫瘍統計の結果によると、がんが転移したことで起こる脳腫瘍転移性脳腫瘍)のうち、甲状腺がんからの転移は1.5%です。

甲状腺がんから脳転移を起こした場合の余命については、脳転移の数や大きさにもよるので一概に言うことは難しいですが、日本脳腫瘍統計ではさまざまな状態の人をまとめた数字として、半数の人で生存期間は51か月以上、5年生存率は39.7%と報告されています。

脳転移の数と大きさ、転移による症状によって、手術や外照射による放射線治療を行います。外照射には脳全体に放射線をあてる全脳照射とがんにのみあてる定位放射線照射(ガンマナイフ)があります。

脳転移は小さなものであっても、脳転移の周囲がむくむことで麻痺や失語症などの症状がでて生活の質を低下させる可能性があります。脳転移が大きい場合には脳のむくみが悪化して意識状態や呼吸状態が悪化する可能性があります。そのため、脳転移が大きい場合には積極的に手術治療を検討します。脳転移が1つしかなく3cm以上の大きさで、手術可能な場所であり、手術後の余命が6ヶ月以上期待できることが手術を行う条件です。

手術以外の治療方法は全脳照射が基本です。3cm以下の脳転移が1個から4個の場合にはまずは全脳照射を考慮します。脳転移が2個から4個あり、そのうち1つの脳転移が3cm以上であれば、3cm以上のものを手術で摘出し、残りは定位放射線照射もしくは全脳照射を行います。

転移数が5個以上の場合には全脳照射を行います。脳転移に対する放射線治療については「甲状腺がんの放射線治療:外照射」で説明しています。

脳転移に対しては、放射性ヨード内用療法の効果は乏しいです。しかし、脳転移がある場合には、肺転移や骨転移も起こしていることが多く、肺転移や骨転移への効果を期待して放射性ヨード内用療法を行うことがあります。放射性ヨード内用療法については「甲状腺がんの放射線治療:放射性ヨード内用療法」で説明しています。

参考文献
・Brain Tumor Registry of Japan (2005-2008) Neurologia medico-chirurgica. 2017;57 Suppl 1:9-102.