ぜんりつせんひだいしょう
前立腺肥大症
前立腺に発生する良性の腫瘍です。腫瘍によって前立腺が大きくなった状態を前立腺肥大と言い、その影響で排尿障害などの症状が現れた状態を前立腺肥大症といいます
12人の医師がチェック 182回の改訂 最終更新: 2024.04.10

前立腺肥大症の人が知っておくとよいこと

前立腺肥大症と診断を受けた人や心配な人が知っておくと良い内容をまとめます。患者さんがいだきやすい疑問と、治療にまつわる疑問について分けて説明します。

1. 前立腺肥大症でよくある疑問について

前立腺肥大症と診断を受けたり、気になっている人に知っておいてほしいことをここではまとめています。
 

前立腺肥大症は運動で治るのか

前立腺肥大症が運動で良くなるかどうかは定かではありません。
運動で改善が期待できるのは高血糖肥満などです。高血糖や肥満と前立腺肥大症の統計的な関連を指摘する報告もあります。運動で前立腺肥大症が改善することは期待できるかもしれませんが、はっきりした証拠はありません。しかし、適度な運動は糖尿病高血圧症などの病気に対して有効であり、予防の効果も期待できるので、日常生活に上手に取り入れてみてください。

前立腺肥大症に効く食べ物はあるのか

前立腺肥大症に効果のある食事は明らかではありません。 女性ホルモンであるエストロゲン前立腺を大きくするのを防ぐ働きがあると考えられています。このため、エストロゲンに似た作用を有するイソフラボノイドに前立腺肥大を抑制する効果が推定されていますが、はっきりとはわかってはいません。現時点では前立腺肥大症に有効な食事は明らかではありません。このため、偏った食事を避けてバランスのとれた内容を心がけるようにしてください。

前立腺肥大症は予防できるのか

前立腺肥大は加齢とともに進む自然な変化です。前立腺肥大を防ぐ効果的な方法は現在明らかにはなってはおらず、確実な予防法が確立されてはいません。このため、前立腺肥大症による症状を最小限にするには早期発見・早期治療が重要になります。疑わしい症状がある人はすみやかに医療機関を受診してください。

前立腺肥大症は自己診断できるのか

医療機関で受診しないと前立腺の大きさなどを測定することが困難なため、前立腺肥大症を自己診断することはできません。ですが、前立腺肥大症の疑わしさを推定するのはIPSSスコアという質問票でできます。詳しくは「こちらのコラム」で説明しているので参考にしてください。

前立腺肥大症で血尿が出るのか

前立腺肥大症で血尿が出ることはありえますが、多くはありません。血尿を主な症状とする病気は次のようなものがあり、血尿であればまず以下の病気が疑われます。

血尿があった人はすみやかに医療機関を受診して、原因を調べるようにしてください。なお血尿については「尿が赤いときには身体で何が起こっているのか:血尿の原因やミオグロビン尿などについて」「健康診断で血尿がでていると言われたらどうすればいいのか」でも詳しく説明しているので参考にしてください。

前立腺肥大症の人は尿閉に注意が必要

尿閉とは膀胱から先に尿が出なくなり、尿が膀胱にたまり続ける状態のことです。前立腺肥大症の人は尿閉になりやすいことが知られています。尿閉になった場合は速やかに治療をしなければなりません。
尿閉は次のような状態の人に起こりやすいことが知られています。

  • 飲酒をした人
  • 次の薬を内服した人
    • 風邪薬(感冒薬)
    • アレルギー薬(抗ヒスタミン薬)
    • 抗不安薬
    • 不整脈

前立腺肥大症の人が飲酒をしたり特定の薬を飲むと尿閉が起こりやすくなります。尿閉を避けるために、前立腺肥大症の人が風邪花粉症で医療機関を受診した場合は、「前立腺肥大症にかかっている」ことをお医者さんに伝えてください。
とはいえ、なりやすい条件がなくても尿閉になることはありえます。尿閉になった場合はまず医療機関を受診してください。膀胱にたまった尿を外に出さないと、膀胱の上流にある腎臓に負担がかかって最悪の場合、命に危険が及ぶことがあります。
医療機関では尿閉の治療として、尿道から膀胱に管を入れたり(導尿・尿道カテーテル留置)、下腹部にある膀胱に直接管を入れたりして、中の尿を身体の外に出します(膀胱)。
 

前立腺肥大症には痛みがあるのか

前立腺肥大症になっても痛みを感じることは多くはありません、しかし、尿閉状態になると腰痛や下腹部痛を感じることがあります。先でも述べたように尿閉は危険な状態です。疑わしい症状がある人はすみやかに受診してください。
 

前立腺肥大症は射精に影響するのか

前立腺肥大症が射精に影響を及ぼすことはほとんどありませんが、前立腺肥大症の治療の副作用で逆行性射精が起こることがあります。逆行性射精は体外に出される精子が反対方向である膀胱側に放出されてしまうことです。逆行性射精は薬物療法でも手術でも起こることがあります。

薬物療法では薬を変更することによって逆行性射精を良くすることができ、手術ではより起こりにくい方法を選ぶことで、逆行性射精を避けやすくします。治療についてさらに詳しく知りたい人は「前立腺肥大症の治療」を参考にしてください。

前立腺肥大症に市販薬は効くのか

市販薬では明らかに前立腺肥大症の症状を改善することが示されたものはありません。前立腺肥大症の治療薬はいずれも医療機関で処方されるものなので、治療したい人は受診してください。また、医療用医薬品を個人購入して使っている人がいると耳にしますが、非常に危険ですのでやめてください。インターネットなどを通じて薬を販売しているものの中には、悪質な業者が実際にいます。

2. 前立腺肥大症の治療で知っておくとよいこと

前立腺を治療するとなると、効果や副作用以外にも気になる点がいくつかあると思います。ここでは治療前に知っておくとよいことをまとめます。

前立腺肥大症の手術後の経過や注意点

前立腺肥大症の内視鏡手術は開腹手術に比べて、身体の負担が大きくありません。クリニック(診療所)を中心に日帰り手術を行う施設もあります。治療後すぐに食事を始めることがほとんどで、生活の制限も少ないです。ただし、尿道カテーテル(排尿のための管)はしばらく入れたままになります。カテーテルを引っ掛けたりすると、尿道が傷ついたり、前立腺から出血することがあるので、カテーテルの正しい取り扱いをスタッフから聞いて実行するようにしてください。
カテーテルを抜去すると手術前とほとんど変わらないような生活ができます。注意することは少ないですが、きちんと排尿できているかは意識して観察するようにしてください。膀胱機能が回復しきっていない場合は、排尿がうまくできないことがあり、尿閉(膀胱から先に尿が流れない状態)という危険な状態になることがあります。尿閉になる、膀胱の尿を抜くために、管を入れる必要があります。疑われる際には、手術を受けた医療機関に連絡してください。

前立腺肥大症の手術にかかる費用

手術にかかる費用は、入院の有無によって異なります。また入院も、入院期間などによって異なります。目安として、保険が適用される手術で3割負担の場合、負担額は10万円前後となります。

前立腺肥大症の手術にかかる時間

手術にかかる時間は方法や前立腺の大きさによって異なります。TURPなら手術時間は1時間から2時間が目安です。

前立腺肥大症の手術はどれを選ばいいのか

前立腺肥大症の手術は内視鏡手術を中心に行われています。内視鏡手術にはいくつか種類があり、具体的にはTURP、HoLEP、PVPの3つが主流です。TURP、HoLEP、PVPはどれも保険適用となっており、それぞれの特徴を比べて自分に合いそうなものを選択してください。手術の結果には極端に大きな違いはないと考えられています。
HoLEPやPVPは従来のTURPと比較して出血量が少なかったり、入院期間が短いという報告もありますが、どの病院でも行えるほど普及していないのも現状です。HoLEPやPVPを希望しても手術までの待ち時間が長いことも予想されます。
自分の症状をいつまで我慢できるか、手術で特に希望するポイントなどを考えて、手術を行う場所、方法などを検討してみてください。

手術する病院はどうやって探せばいいのか

前立腺肥大症の手術は泌尿器科で行います。したがって泌尿器科を受診する必要があります。また、病院によっては手術の方法が限られている場合がしばしばあるので、自分が受けたい手術法が明確な人は、インターネットなどでどんな手術を受けられるか細かく見るとよいです。
前立腺肥大症は急激に悪化するようなことがないので、がんの治療ほど急ぐ必要はありません。このため、腰を据えて医療機関を探す時間があります。一方で、病院選びを先送りにすることはお勧めしません。ひとまず受診して、お医者さんに話を聞いてみるのも一つの考え方です。

前立腺肥大症の治療ガイドラインはあるのか

診療ガイドラインが作成される目的は、治療にあたり確実性が高い選択肢の提示や、治療成績と安全性の向上などです。前立腺肥大症のガイドライン日本泌尿器科学会、EAU(欧州泌尿器科学会)、AUA(米国泌尿器科学会)など各学会が作成しています。
ガイドラインがいくつも存在するのは理由があります。ひとつの理由は、国ごとに病院に行くときの環境などが違うことを考慮しているためです。もうひとつの理由として、医学的に唯一の正解を決めにくいような場合に対して、学会ごとに意見が違うためでもあります。日本泌尿器科学会の前立腺がんのガイドラインは2017年に発刊されています。
ガイドラインは診療の助けになりますが、ガイドライン通りに治療を行うことが正しいわけではありません。その時々、患者さんの状態はひとりひとり異なることを考えに入れるべきで、臨床現場の医師は患者さんの状態を鑑みて、ガイドラインの内容をアレンジてして使うことも多いです。また、ガイドラインにはまだ反映されていない新しい知見が役に立つ場合もあります。

参考文献

  • 日本泌尿器科学会, 「前立腺肥大症診療ガイドライン」, リッチ・ヒルメディカル, 2011
  • 「標準泌尿器科学」、(赤座英之/監)、医学書院、2014
  • 「泌尿器科診療ガイド」(勝岡洋治/編)、金芳堂、2011