ぜんりつせんひだいしょう
前立腺肥大症
前立腺に発生する良性の腫瘍です。腫瘍によって前立腺が大きくなった状態を前立腺肥大と言い、その影響で排尿障害などの症状が現れた状態を前立腺肥大症といいます
12人の医師がチェック 182回の改訂 最終更新: 2024.04.10

前立腺肥大症の検査について:前立腺がんとの違いなど

前立腺肥大症が疑われれる人には診察や検査が行われ、前立腺の大きさや形、排尿状態などが調べられます。また、必要に応じて前立腺がんと区別をするための検査(前立腺生検)が行われます。

前立腺肥大症が疑われれる人には診察や検査が行われ、前立腺の大きさや形、排尿状態などが調べられます。また、必要に応じて前立腺がんと区別をするための検査(前立腺生検)が行われます。

1. 前立腺肥大症の検査について:何科を受すればよいのか・どんな検査が行われるのか

次のうちの検査をいくつか組み合わせて前立腺肥大症の有無や程度が調べられ、治療法が決められます。

  • 問診
  • 直腸診
  • 血液検査(PSA、腎機能
  • 尿検査
  • 画像検査
    • 超音波検査
    • CT検査
    • MRI検査
  • 内視鏡検査
  • 尿流動態検査
  • 前立腺生検

前立腺の検査は泌尿器科で行われます。受診する医療機関はクリニックでも病院で構いません。なお、この中で入院が必要になるのは、前立腺がんが否定できない場合に行われる前立腺生検です。

これ以降では前立腺を調べるそれぞれの検査について説明します。

2. 問診:IPSS、QOLスコア、OABスコア

問診とは主に医師との対話形式での診察のことを指し、患者さんの「症状」や「身体の状況」、「背景」を医師が把握する目的があります。

前立腺肥大症が疑われる人には次のような問診が行われます。

  • IPSS(国際前立腺症状スコア)
  • QOLスコア
  • OABスコア

耳に馴染みがないものばかりなので、次にそれぞれについて詳しく説明します。

IPSSスコア(国際前立腺症状スコア)

IPSS(国際前立腺症状スコア)は前立腺肥大症の重症度を評価するスコアです。

前立腺肥大症でよくある症状を7つの設問にして、それぞれの程度を5段階で評価し、合計得点を重症度の目安とします。以下でIPSSの採点方法を説明します。

■IPSSの質問項目

1.過去1か月間、排尿後に尿がまだ残っている感じがありましたか?

残尿感

なし 5回に1回未満 2回に1回未満 2回に1回位 2回に1回以上 ほとんどいつも
0点 1点 2点 3点 4点 5点

2.過去1か月間、排尿後2時間以内にもう一度行かなければならないことがありましたか?

頻尿

なし 5回に1回未満 2回に1回未満 2回に1回位 2回に1回以上 ほとんどいつも
0点 1点 2点 3点 4点 5点

3.過去1か月間、排尿途中に尿が途切れることがありましたか?

(途絶)

なし 5回に1回未満 2回に1回未満 2回に1回位 2回に1回以上 ほとんどいつも
0点 1点 2点 3点 4点 5点

4.過去1か月間、排尿をがまんするのがつらいことがありましたか?

(切迫)

なし 5回に1回未満 2回に1回未満 2回に1回位 2回に1回以上 ほとんどいつも
0点 1点 2点 3点 4点 5点

5.過去1か月間、尿の勢いが弱いことがありましたか?

(尿勢)

なし 5回に1回未満 2回に1回未満 2回に1回位 2回に1回以上 ほとんどいつも
0点 1点 2点 3点 4点 5点

6.過去1か月間、排尿開始時にいきむ必要がありましたか?

(閉塞)

なし 5回に1回未満 2回に1回未満 2回に1回位 2回に1回以上 ほとんどいつも
0点 1点 2点 3点 4点 5点

7.過去1か月間、就寝後から朝起きるまで普通何回排尿におきましたか?

(夜間)

0回 1回 2回 3回 4回 5回
0点 1点 2点 3点 4点 5点

IPSSは7つの質問に答える形式で前立腺の重症度を推測するための方法です。7つの質問の合計点で前立腺肥大症の程度を推測します。

  • 軽症 :0-7点
  • 中等症:8-19点
  • 重症 :20-35点

IPSSは前立腺肥大症以外の病気でも重症と判定されることがあります。IPSSは前立腺肥大症であった場合、治療法を決める参考にされますが、IPSSだけで前立腺肥大症と診断するのは正確とは言えません。このため、他の病気が隠れていないかを他の診察や検査で調べる必要があります。

QOLスコア

QOLは生活の質(Quality of life)の略語です。排尿状況の満足度を自己申告を元に評価します。IPSSスコアと合わせて用いられることが多いです。

質問:現在の尿の状態がこのまま変わらずに続くとしたら、どう思いますか?

回答 点数
とても満足 0
満足 1
ほぼ満足 2
なんともいえない 3
やや不満 4
いやだ 5
とてもいやだ 6

QOLの点数は次の3段階に分類して使います。

  • 軽症 :0、1点
  • 中等症:2、3、4点
  • 重症 :5、6点

前立腺肥大症の治療方針を決定するのはIPSSですが、QOLスコアを併用して参考にすることで重症度の判定はより正確なものになります。

OABスコア

昼夜を問わず頻尿症状をともなう過活動膀胱(かかつどうぼうこう)という病気があります。過活動膀胱は英語でOveractive Bladderというので、省略してOABという名で呼ばれます。排尿は膀胱の筋肉が収縮し、尿道の筋肉が緩むことで起きますが、尿道に前立腺などの障害物があると排尿を行うたびに膀胱にかなりの負担がかかることになります。膀胱への負担が長期間続くと膀胱の収縮に異常が生じて、しょっちゅう過敏に収縮してしまう状態になってしまいます。この状況を過活動膀胱といいます。

過活動膀胱の症状の悩みが最も大きい場合には、前立腺肥大症の手術を行ったとしても症状が改善するとは限りません。このため過活動膀胱の症状の程度が重い人には手術ではなく薬物治療を優先することがあります。過活動膀胱の症状を調べるにはOABSS(過活動膀胱質問紙表)という質問票が使われます。

OABSSの質問と採点基準は以下になります。

質問 症状 頻度 点数
1 朝起きたときから寝るときまでに、何回くらい排尿をしましたか? 7回以下 0
8-14回 1
15回以上 2
2 夜寝てから朝起きるまでに、
何回くらい排尿をするために起きましたか?
0回 0
1回 1
2回 2
3回以上 3
3 急に尿がしたくなり、
我慢が難しいことがありましたか?
なし 0
週に1回より少ない 1
週に1回以上 2
1日に1回くらい 3
1日に2-4回 4
1日5回以上 5
4 急に尿がしたくなり、
我慢できずに尿をもらすことがありましたか?
なし 0
週に1回より少ない 1
週に1回以上 2
1日1回くらい 3
1日2-4回 4
1日5回以上 5
  合計得点  

過活動膀胱の診断基準は、OABSSで質問3の症状が2点以上でかつ合計スコアが3点以上と決められており、重症度はOABSSの点数をもとに次の3段階に分類されます。

  • 軽症: 5点以下
  • 中等症:6-11点
  • 重症: 12-15点

前立腺肥大症と同時に過活動膀胱の症状がある人には、膀胱の収縮と前立腺の閉塞の関係をより調べるために尿流動態検査を追加で行う場合があります。

3. 直腸診

前立腺は体の中でも深い場所にあるため、体の外から触れられません。このため、前立腺と接している直腸越しに前立腺を触れて調べられます。この診察法を直腸診といいます。直腸診によって、前立腺の大きさや硬さなどがわかります。
正常な前立腺の大きさは少し大きなくるみくらいと表現されます。さらに大きくなると「鶏卵大」などと言われることがあります。肥大症以外の前立腺の主な病気には前立腺がんがあります。前立腺肥大症と前立腺がんを見分けるポイントは表面の凹凸の有無です。前立腺肥大症では表面は滑らかですが、前立腺が硬くゴツゴツした感触のときは前立腺がんが疑われます。

4. 血液検査

前立腺肥大症が疑われる人に血液検査が行われる目的は「腎臓の機能を調べること」と「前立腺がんの可能性を調べる」の2つです。

腎臓の機能を調べる

前立腺肥大症が進行すると、尿が出にくい状況が続き、慢性的に膀胱やその上流の腎臓に尿が溜まるようになります。尿の停滞は腎臓の大きな負担をかけ、長く続くと腎臓の機能が少しずつ低下していき、場合によっては腎機能が失われることもあります。

腎臓の機能が低下していると、前立腺肥大症の治療に加えて腎機能を維持する治療を行わなければならないので、血液検査で腎機能が調べられます。腎機能は主にクレアチニンやクレアチニンクリアランス、eGFRという血液検査項目の値で判断されます。例えば、腎機能が悪化するとクレアチニンの数値が基準値より上昇します。

前立腺がんの可能性を調べる

前立腺肥大症を治療する際には、前立腺がんではないことを確認しておくことが重要です。
前立腺肥大症と前立腺がんは異なる病気なので、前立腺肥大症が前立腺がんへ変化することはありません。ただし前立腺肥大症と前立腺がんが同時に存在(合併)することはあるので注意が必要になります。前立腺肥大症と前立腺がんが同時に存在する場合は前立腺がんに重点をおいた治療に変更されます。

前立腺がんかどうかを区別するためにはPSAという血液検査項目が役立ちます。PSAは前立腺特異抗原(Prostate specific antigen)の略語で、PSAは前立腺にしか存在しない物質です。正常な(前立腺がんではない)男性の血液中にも微量のPSAが存在しますが、がんによって前立腺が破壊されたり、前立腺細胞が不完全であったりするとPSAが血液中に放出されて、PSAの値が上昇します。この特徴を利用して、PSAが前立腺がんの目印になる「腫瘍マーカー」として広く使われています。なお、PSAの基準値は0.0ng/ml - 4.0ng/mlです。

PSAは前立腺がんが存在するかどうかの目安に使うことができますが、前立腺肥大症でも上昇することがあるので、PSA値だけで前立腺がんの有無を判断することはできません。PSAが上昇している場合は、前立腺がんとの区別をより慎重に行う必要があり、そのために後述する前立腺生検が行われます。

5. 画像検査

前立腺肥大症が疑われる人には前立腺の中の様子を詳しく調べるために、画像検査が行われます。超音波検査やMRI検査が行われることが多いです。

超音波検査(エコー検査)

エコー検査は超音波の反射を利用して、前立腺の断面を画像化します。超音波検査では、前立腺の大きさ、がんが疑われる部位の有無などを調べることができます。超音波検査の方法には次のよう2つがあります。

  • 経腹的超音波断層法:お腹越しに検査を行う方法
  • 経直腸的超音波断層法:直腸越しに検査を行う方法

経腹的超音波断層法はお腹から超音波を当てて前立腺を観察します。プローブという超音波を出す機械がお腹に当てられます。超音波が伝わりやすいようにお腹にジェルが塗られます。前立腺はお腹の奥にある臓器なので、お腹の表面からはやや見えにくく、前立腺を十分に観察できないことがあります。一方で、膀胱の中や腎臓も観察できる点や簡便に行える点などが利点です。

経直腸的超音波断層法は棒状のプローブが肛門から挿入されて検査が行われます。肛門の先にある直腸は前立腺と接しているので、経腹超音波断層法に比べて、より詳しく前立腺の状態を調べることができます。肛門にプローブを入れるのは少し怖いと感じるかもしれませんが、臓器を傷付けたりすることはめったにないので安心してください。

MRI検査

MRI検査は磁気を利用して身体の断面を画像化します。超音波検査と同様に放射線を使わないので、被ばくの心配はありません。一方で、強力な磁気を利用するため、金属製品(ペースメーカーなど)が体の中に入っている人は使えない場合があります。

MRI検査は超音波検査に比べてより詳細に調べることができますが、前立腺肥大症が疑われる人に行われることは多くはなく、主に前立腺がんが疑われる人に行われます。MRI検査でがんが否定できない場合はその後前立腺生検が行われます。

6. 内視鏡検査

内視鏡検査には前立腺肥大の形を調べる目的があり、手術前に行われることが多いです。内視鏡検査では前立腺の大きさや形に加えて、膀胱の状態も合わせて確認されます。内視鏡は胃カメラ上部消化管内視鏡検査)や大腸カメラ下部消化管内視鏡検査)で用いられるものに似ており、膀胱鏡と呼ばれることもあります。

7. 尿流動態検査

尿流動態検査(urodynamic study:ウロダイナミック・スタディー)は排尿時の膀胱(ぼうこう)や尿道などの働きを数値化して、客観的に評価する検査です。 尿流動態検査の項目には次のものがあります。

  • 尿流測定 
  • 残尿測定
  • 内圧尿流検査
  • 膀胱内圧測定
  • 外尿道括約筋筋電図
  • 腹圧下漏出時圧測定
  • 尿道内圧測定

上記の複数ある項目のうち、すべてを行うわけではありません。必要な項目が調べられます。前立腺肥大症が疑われる人では尿流測定内圧尿流測定が重要になります。

尿流検査では排尿の勢いや排尿時間を測定することができ、内圧尿流検査では排尿障害の原因が膀胱か前立腺のどちらに原因があるかを判断するのに役立ちます。

尿流動態検査の結果は治療法を選ぶ際の参考にされます。例えば、前立腺の閉塞が原因の場合は手術で前立腺を切除することが優先され、一方で閉塞が強くない場合は薬物治療が優先されます。

8.前立腺生検: 前立腺がんが否定できない人に行われる検査

前立腺肥大症の人の中には前立腺がんを同時発症している人がいます。前立腺肥大症と前立腺がんでは治療法が異なるので、同時にある人の治療は前立腺がんに準じて行われます。このため、前立腺がんの見落としを避けるために、前立腺肥大症の人にはPSA検査が行われます。PSAが基準値を超えていなければ、前立腺がんは概ね否定できますが、PSAが基準値を超えている場合には、より詳しく調べるために前立腺生検が行われます。

前立腺生検は前立腺に数箇所針を刺して、前立腺組織を取り出す検査です。以下では簡単に前立生検について説明します。

© Cancer Research UK uploader – Diagram showing a transperineal prostate biopsy (2016 CC BY-SA 4.0) / Adapted by MEDLEY Inc.

前立腺生検で取り出した組織は顕微鏡で観察されます。前立腺生検は他の検査に比べて多くの情報が得られるので、前立腺がんの確定診断に使われます。より詳しい説明は「前立腺がんの検査:PSA検査・前立腺生検・MRI検査などの解説」を参考にしてください。

参考文献

  • 日本泌尿器科学会/編, 「前立腺肥大症診療ガイドライン」, リッチ・ヒルメディカル, 2011
  • 「標準泌尿器科学」、(赤座英之/監)、医学書院、2014
  • 「泌尿器科診療ガイド」(勝岡洋治/編)、金芳堂、2011