[医師監修・作成]前立腺肥大症の治療について:薬物治療(ユリーフ®、ハルナール®、アボルブ®、ザルティア®、漢方薬)や手術の解説 | MEDLEY(メドレー)
ぜんりつせんひだいしょう
前立腺肥大症
前立腺に発生する良性の腫瘍です。腫瘍によって前立腺が大きくなった状態を前立腺肥大と言い、その影響で排尿障害などの症状が現れた状態を前立腺肥大症といいます
12人の医師がチェック 173回の改訂 最終更新: 2022.09.21

前立腺肥大症の治療について:薬物治療(ユリーフ®、ハルナール®、アボルブ®、ザルティア®、漢方薬)や手術の解説

前立腺肥大症の治療は薬物治療と手術があります。ともに症状の改善が目的ですが、副作用が異なります。自分の考えに合った治療法を選ぶには、治療の特徴を押さえておくことがポイントになります。

1. 前立腺肥大症の薬物治療

前立腺肥大症の人にはまず薬物治療が行われることが多いです。治療薬には次のものがあります。

  • α1遮断薬(アルファワンしゃだんやく)
  • 5α還元酵素阻害薬 (ファイブアルファかんげんこうそそがいやく)
  • PDE5阻害薬(ピーディーイーファイブそがいやく)
  • 抗コリン薬
  • 漢方薬とその他の薬

それぞれの薬について説明します。

α1遮断薬

α1遮断薬には次のものがあります。

  • タムスロシン(商品名:ハルナール®)
  • ナフトピジル(商品名:フリバス®)
  • シロドシン(商品名:ユリーフ®)
  • ウラピジル(商品名:エブランチル®)
  • プラゾシン(商品名:ミニプレス®)

α1遮断薬には前立腺と膀胱の出口の筋肉(平滑筋)を緩ませる作用があります。前立腺が大きくなると、尿道が狭くなります。α1遮断薬を使うと、狭くなった尿道が広がり、排尿しやすくなります。α1遮断薬の主な副作用には起立性低血圧、逆行性射精、めまい、ふらつき、下痢などがあります。

5α還元酵素阻害薬:デュタステリド(アボルブ®)

前立腺肥大にはジヒドロテストステロン(DHT)という物質が強く関わっていると考えられています。DHTはテストステロンという男性ホルモンから合成され、テストステロンをDHTに変換するのものを5α還元酵素といいます。5α還元酵素阻害薬はテストステロンと5α還元酵素の結合を阻害することでDHTを減少させます。DHTが減少すると、前立腺が小さくなります。

5α還元酵素阻害薬の主な副作用は次のものです。

  • 性機能への影響
    • 勃起不全
    • 性欲減少
    • 射精障害 
  • 乳房の張り(女性化乳房)
  • 胸焼け(胃部不快感) 

DHTは男性ホルモンの一種なので、減少すると男性機能に影響します。また乳房の張りや胸焼けといった症状が見られることもあります。

また、5α還元酵素阻害薬の内服中は、前立腺がん腫瘍マーカーとして利用されるPSAの計測値が約半分になります。これは見かけ上でPSA値が低下しただけであって、前立腺がん発症する危険性が半分になったということではありません。このため、5α還元酵素阻害薬を内服中の人が、前立腺がんを心配して医療機関を受診する際には、5α還元酵素阻害薬を飲んでいることをお医者さんに伝えるようにしてください。

PDE5阻害薬:タダラフィル(ザルティア®)

PDE5阻害薬は膀胱の出口(膀胱頸部)、前立腺、尿道の筋肉(平滑筋)を緩ませる効果があり、尿の通りがよくなります。前立腺や膀胱頸部を緩ませる効果はα1遮断薬と同じですが、薬の作用が異なります。α1遮断薬は神経に働きかけるのに対して、PDE5阻害薬は血管に働きかけ、血流を改善することによって効果が現れます。

PDE5阻害薬は血管に働きかけるために、心臓に持病がある人には注意が必要です。使用している薬との飲み合わせで、危険な低血圧が起きることがあります。悪い飲み合わせを避けるために、持病がある人、薬を飲んでいる人は前立腺肥大症の治療を始める前にしっかりと担当医に伝えるようにしてください。他の副作用としては頭痛、ほてり、消化不良などがあります。

抗アンドロゲン剤:クロルマジノン酢酸塩(プロスタール®)

アンドロゲン薬は前立腺肥大に関係する男性ホルモン(テストステロン)を減少させます。テストステロンが減少すると、前立腺が小さくなり、症状(尿の出にくさ、残尿感など)が改善します。

副作用としては女性化乳房、うっ血性心不全血栓症(血管の中で血の塊ができる)、肝機能障害糖尿病など注意が必要なものがいくつかあります。副作用の多さから、長期間の使用は避けた方がよく、16週間を目安に使われます。

抗コリン薬

前立腺肥大症の主な症状は「尿の出にくさ」や「残尿感」といったものですが、その他にも頻尿や尿意切迫感といった症状もあります。頻尿や尿意切迫感には次のような抗コリン薬が使われます。

【抗コリン薬】

  • コハク酸ソリフェナシン:ベシケア®
  • イミダフェナシン:ウリトス®、ステーブラ®
  • プロピベリン塩酸塩:バップフォー®
  • フェソテロジンフマル酸塩:トビエース®
  • オキシブチニン塩酸塩:ネオキシ®テープ
  • 酒石酸トルテロジン:デトルシトール®

抗コリン薬は膀胱の過剰な収縮を抑えることで効果を表します。一方で排尿困難感が強い前立腺肥大症の人に対して抗コリン薬を使用すると、尿閉(尿が出なくなること)が起こりやすくなるので、薬を始める前には慎重な判断が必要です。その他の、抗コリン薬の副作用としては、口の中の乾燥、便秘、脈が遅くなる(徐脈)などがあります。

漢方薬とその他の薬

前立腺肥大症に対して保険の適応がある漢方薬には、八味地黄丸(ハチミジオウガン)、牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)の2つがあります。漢方薬単剤で前立腺肥大症の症状を明らかに改善したとする報告はありませんが、α1遮断薬と併用することで症状などの改善が期待できます。

その他では植物に由来した薬物などがあります。

  • オオウメガサソウエキス・ハコヤナギエキス配合剤(商品名:エビプロスタット®)
  • セルニチンポーレンエキス錠(商品名:セルニルトン®)

両者とも慢性前立腺炎などに対してよく使用される薬で、漢方薬同様に単独で治療されることはありませんが、他の治療薬と併用されます。

2. 前立腺肥大症の手術

前立腺肥大症はまず薬物療法が行われることが多く、薬物療法の効果が不十分な場合などに手術が検討されます。手術の目的は前立腺を小さくし、排尿しやすくすることです。

以前はお腹を切って手術が行われて(開腹手術)いましたが、近年は内視鏡を使った手術がほとんどを占めます。内視鏡手術にもいくつか方法がありますが、次の3つが一般的です。

【前立腺肥大症の内視鏡手術】

  • TURP(transurethral resection of prostate;経尿道的前立腺切除術)
  • HoLEP(holmium laser enucleation of the prostate;ホルミウムレーザー前立腺核出術)
  • PVP(photoselective vaporization of the prostate;光選択的前立腺レーザー蒸散術)

それぞれについて以下で説明していきます。

TURP(経尿道的前立腺切除術)

TURPは内視鏡を尿道から膀胱へ挿入し、電気メスを用いて前立腺を切除する手術です。他の方法に比べて歴史があり、現在でも前立腺肥大症の標準術式となっています。

■手術の具体的な内容について

内視鏡で前立腺を確認しながら、内側(尿道に隣り合う部分)から電気メスで肥大した前立腺を削って、尿道を広げます。削って細かくなった前立腺は後で内視鏡越しにまとめて取り出されます。前立腺を十分に切除した後、止血を行い、手術が終わります。手術後は、膀胱に尿道カテーテル(排尿のための管)が挿入され、手術後に出血の危険性がないと判断された時点で尿道カテーテルが取り外されます。

■麻酔の方法について

TURPの手術時間は1-2時間程度で、全身麻酔でも半身麻酔でも行えます。 また、手術後の痛みや違和感を軽減するために、背骨の中に痛み止めの薬を送る管を入れることがあります(硬膜外麻酔)。

■手術にともなう合併症について

TURPには気をつけなければならない合併症がいくつかあります。

◎出血

前立腺には血液が多く流れ込んでいるので、手術では出血量が増えてしまうことがあり、しばしば輸血が必要になります。また、手術中だけではなく、手術終了後に出血することもあるので、終了後しばらくは慎重に経過が見られます。

感染症

残った前立腺や、前立腺の上流にある腎臓に細菌が入り込んで感染を起こすことがあります。程度に応じて、抗菌薬抗生物質)を使った治療が行われます。

◎前立腺被膜損傷

前立腺の周りには被膜(ひまく)という硬い殻があり、被膜が破れると、内視鏡手術で必要な水分が周りに漏れます。水分がお腹の中に多く漏れ出てしまった場合は、お腹を切って溜まった水分を外に出す管が挿入されます。

◎TUR症候群

TURPで使用される灌流液(かんりゅうえき)によって体の電解質のバランスが崩れることがあります。灌流液は手術中の視野を良くするために、使われ、前立腺を切除していく過程で体の中に吸収されます。吸収された灌流液の影響で、ナトリウムなどの電解質の濃度が乱れると、血圧の低下、吐気や意識障害などを引き起こされます。TURPなど、前立腺や膀胱の内視鏡手術によって現れるこれらの症状をTUR症候群と呼びます。

◎尿道損傷

内視鏡を出し入れするときに尿道に傷がつくことがあり、これを尿道損傷といいます。尿道損傷は前立腺が大きい人や、元々の尿道が細い人などに起こりやすいです。尿道損傷が起こってしまった場合は、尿道カテーテル(排尿のための管)を入れておき、尿が傷に触れないようにして傷が自然に治るのを待ちます。損傷の程度によりますが、多くは尿道カテーテルを1週間程度留置することで治癒が期待できます。

■後遺症

TURPの影響によって次のような後遺症が残ってしまうことがあります。

◎術後尿失禁

尿道カテーテルを抜いたあと、一時的に尿失禁をきたすことがありますが、ほとんどは1週間ほどで改善します。まれですが、尿失禁が改善しない場合は、術中に外尿道括約筋(がいにょうどうかつやくきん)を損傷している可能性があるので、手術を受けた医療機関で相談してください。

尿道狭窄

内視鏡の出し入れに伴う合併症で尿道が狭くなり尿の勢いが弱くなります。症状が重い場合は、尿道を広げる手術が必要になります。

HoLEP(ホルミウムレーザー前立腺核出術)

HoLEPは、レーザーを用いて前立腺をくり抜き除去する手術です。TURPに比べて、HoLEPは出血量が少なく、手術後の尿道カテーテル留置期間が短い点が優れています。

HoLEPはどの施設でも行っているわけではなく、技術を習得した医師が在籍している施設で行われます。HoLEPはTURPと同じく内視鏡で行う手術ですが、内容が異なります。TURPはカンナで前立腺を薄く削り取るような手術ですが、HoLEPは、前立腺を外の硬い殻からくり抜くような手術です。 HoLEPの合併症はTURPと共通するのがほとんどなので、上のTURPを参考にしてください。

PVP(光選択的前立腺レーザー蒸散術)

PVPは内視鏡を使って、レーザーで前立腺を蒸散(じょうさん)させる手術です。ここで言う蒸散とは組織の水分(血液)を気化させて体積を減らすことです。レーザーを使用する点はHoLEPと共通していますが、レーザーの種類が異なります。具体的にはHoLEPで使うレーザーは赤色なのに対して、PVPで使うレーザーは緑色です。

HoLEPと同様にPVPはどの施設でも行っているわけではありません。PVP用のレーザーが導入され、PVPの技術を身に付けた医師も在籍している施設で行われます。

PVPの合併症はHoLEPと同様で、TURPと共通するのがほとんどなので、上のTURPの説明を参考にしてください。

参考文献

  • 日本泌尿器科学会/編, 「前立腺肥大症診療ガイドライン」, リッチ・ヒルメディカル, 2011
  • 「標準泌尿器科学」、(赤座英之/監)、医学書院、2014
  • 「泌尿器科診療ガイド」(勝岡洋治/編)、金芳堂、2011