2022.05.18 | コラム

のどの痛みの原因は何? 患者さんを診るときに医者は何を考えているのか

ここ最近咽頭痛を訴えて受診する患者さんが増えています

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クリニックや病院で外来をしていると「のどの痛み」を診察する機会はとても多いです。よくよく話を聞いてみると「今朝起きたらのどが痛かった」という人もいれば、「数週間ずっとのどが痛い」という人もいますが、共通して言えるのはたいてい喉の痛み以外にも症状を伴っているということです。発熱や咳、鼻汁などがその代表例です。咽頭痛の原因は実に多岐にわたるため、医者はこうした咽頭痛以外の症状についても慎重に観察しながら原因を推定しています。

1. のどの痛みの原因は感染症だけではない

筆者は大病院にいた頃に医学生や初期研修医にレクチャーをする機会をいただくことがありました。中には実際の臨床レクチャー(患者さんの状況から病態を推理していくタイプのレクチャー)をすることもあり、咽頭痛の原因について尋ねるとほとんどの場合で溶連菌感染症やインフルエンザなどの感染症が答えとして挙がっていたのを記憶しています。

もちろん答えとして間違っているわけではないですが、実はこれだけでは不十分で、感染以外でも咽頭痛が起こることにも留意が必要です。例えば乾燥によってのどが痛くなったことは多くの人であると思いますし、花粉症の時期に風邪を引いていないのにのどが痛くなった経験がある人も少なくないと思います。また、甲状腺の病気や口腔内の腫瘍でのどが痛くなることもあるので、感染症と一点絞りせずに患者さんの状況に応じて原因を考えていく必要があります。

 

2. のどの痛みの原因に迫る

少々古い海外の論文[1]ですが、急性咽頭炎の原因について言及しているものがあるのでご紹介します。この論文の中では次のような原因を指摘しています。

 

【急性咽頭炎の原因】

15-30% A群溶連菌
20% ライノウイルス
5%以上 コロナウイルス
5% アデノウイルス、C群溶連菌
4% 単純ヘルペスウイルス
2% インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス
1%未満 コクサッキーウイルス、EBウイルス、HIV、サイトメガロウイルス、淋菌、コリネバクテリウム、アルカノバクテリア、マイコプラズマ

上の原因の割合を足してみると70%ほどになります。裏を返すと原因不明の咽頭痛が30%前後あるということになりますので、こちらの中に感染症以外の咽頭痛が含まれているわけです。個人的には軽視はできない割合だと思います。

また、咽頭痛の原因はウイルスが多いことも特徴です。原因微生物は溶連菌以外のほとんどがウイルスですので、感染症による咽頭痛が疑われる場合には、「溶連菌かそれ以外か」で考えるとわかりやすくなります。

もちろんこのデータは過去のものですのでコロナ禍の現状に完全にはマッチしてはいません。また、以前は咽頭痛があっても受診しなかったことも多いと思いますので、すべての人について調べきれているわけではありません。ですが、この表にある病気について知っておくことは損ではありません。割合は時と場合によって変わっていくとしても、長い目で見れば概ねこれらの原因が咽頭痛を起こすことになるからです。

 

3. 状況によって原因の割合は変動する

上でさらっと述べましたが、咽頭痛の原因は状況によって割合が変化します。これはこの2年間あまりで多くの人が感じていることでしょう。COVID-19の流行状況によって咽頭痛の原因の割合は大きく変化していることは、たとえ学会誌を読んでいなくたって体感している人は多いはずです。

参考までに筆者のクリニックの様子を報告すると、今年に入ってCOVID-19患者は700人ほどいましたが、インフルエンザ患者は0人です。つまりこの状況で咽頭痛などの感冒症状で受診してきた人がインフルエンザである可能性はほぼゼロに近いということになります。同様に花粉が飛散している時期に咽頭痛を感じたのならば、アレルギーによるものの可能性も十分に考えなければならないということになります。

 

4. 知っておくと得するのどが痛いときのセルフ診断法

先ほど、感染症による咽頭痛が疑われる場合には「溶連菌かそれ以外か」で考えるとわかりやすいとお伝えしましたが、このA群溶連菌感染症についてTIPSがあります。実は症状からこの病気の可能性を推測する方法があるのです。

「センタースコア」と呼ばれるものがそれで、次にあげる4項目について有り/無しで評価します。(5項目目に年齢を利用するスコアリングもありますが、簡略化のためにここでは4項目とします)

 

【センタースコア】

  1. 38℃以上の熱がある
  2. 咳がない
  3. 首の前側のリンパ節が腫れる・痛みを伴う
  4. 扁桃腺に腫れがある・白い滲出物が付着する

 

この4項目のうちいくつ当てはまるかで溶連菌感染症の疑わしさが変わってきます。割合の数字には多少ゆらぎがありますが、以下の表を参考にしてください[2]。

 

【センタースコアの点数と溶連菌感染症の疑わしさ】

0点 2%
1点 5%
2点 15%
3点 30%
4点 50%

 

 

余談ですがセンタースコアは感染症診療の中心を行くスコアリングみたいな意味合いでつけられたものではありません。英語ではCentor Scoreと書き、Centor先生が提唱したスコアリングなのでセンタースコアと呼ばれています。なんと1981年の論文[3]で提唱されていますので、目まぐるしく変わりゆく医学の世界であっても、良いものは廃れないことを実証している貴重な存在として今も輝いています。

 

話を元に戻します。溶連菌感染症が疑わしい人は受診することが望ましいです。溶連菌感染症に対して抗菌薬を使用すると、症状が早く治る点や合併症(特に扁桃周囲膿瘍、中耳炎、副鼻腔炎など)のリスクが下がる点でメリットがあることがその理由です。イメージとしてはセンタースコアで3点以上ある場合は受診するといった目安で良いでしょう。2点以下の人は家で休みながら様子見することも可能ですし、このご時世ですからしっかりと受診して原因究明しておいても良いと思います。

 

さて、今回は咽頭痛の患者さんが来たときに医者はどう考えているかをお伝えしながら、みなさんが知っておくと良いポイントを述べました。外来の最中に医者が何を考えているのかについて患者さんが知る場面はあまり多くないかもしれません。外来における診察時間はせいぜい10分程度であるため、意思疎通を図るのは簡単ではないことを筆者も痛感しているので、こういったコラムがきっかけとなって相互理解が深まることを願っています。

 

参考文献


  1. Role of the Microbiology Laboratory in Diagnosis and Management of Pharyngitis. J Clin Microbiol. 2003 Aug; 41(8): 3467–3472.

  2. Guideline for the management of acute sore throat. Clinical Microbiology and Infection, Volume 18 Supplement 1, April 2012

  3. The Diagnosis of Strep Throat in Adults in the Emergency Room. Med Decis Making. 1981;1(3):239-46

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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