2019.08.27 | コラム

いぼ痔でも切れ痔でもない「あな痔」とは何か?:できやすい人と予防法について

下痢しやすい人は要注意です

いぼ痔でも切れ痔でもない「あな痔」とは何か?:できやすい人と予防法についての写真

  

いぼ痔や切れ痔は聞いたことがあっても、「痔瘻(あな痔)」と呼ばれる痔があることは知らない人が多いと思います。「痔」とは肛門の周りにできる病気の総称で、大きく分けて以下の3つのタイプが存在します。

 

  • 痔核(じかく)・・・いぼ痔
  • 裂肛(れっこう)・・・切れ痔
  • 痔瘻(じろう)・・・あな痔

 

1つ目の痔核は痔の中でも最も多いタイプで、痔の患者さんのおよそ半数を占めます(痔核の詳しい解説はこちら)。2つ目の裂肛は、肛門の表面が切れてお尻に痛みを感じる病気で、比較的女性に多いとされるタイプです(裂肛の詳しい解説はこちら)。3つ目の痔瘻は痔の中で一番なじみがうすく聞き慣れない病気だと思います。しかし、痔瘻は男性では痔核の次に多いタイプの痔だといわれています。とくに下痢をしやすい人にできやすいことがわかっているので、思い当たる節のある人には知っておいて欲しい病気の1つです。

本コラムでは、痔瘻ができるしくみやできやすい人、予防法について詳しく解説します。(痔瘻でよくある症状については次回以降のコラムで説明します。)

 

1. 痔瘻とは、細菌が入り込んでできたトンネルのこと

痔瘻は「あな痔」とも呼ばれ、その名の通りお尻に穴ができるタイプの痔です。正確には、お尻の内側(直腸)と外側(肛門に近い皮膚)の間にできたトンネルのことを痔瘻といいます。

 

お尻にトンネルができるのはなぜ?

痔瘻のトンネルは、お尻の穴近くの肛門陰窩(こうもんいんか)と呼ばれるくぼみからでき始めます。上の図にあるように、肛門陰窩はお尻の穴から2cmほど奥に入ったところに存在します。直腸と肛門のつなぎ目(歯状線)にあるくぼみで、ギザギザとしていて、細菌が入り込みやすい構造をしています。

普通はこのくぼみに細菌がとどまることはありませんが、繰り返し起こる下痢などが原因で肛門が傷んでいると、細菌は炎症を起こしながら、肛門陰窩を出発点としてトンネルを作って奥へと侵入して行きます。そして、お尻の筋肉の隙間や脂肪の中にとどまって増殖を繰り返して化膿することがあります。化膿して膿が溜まると、お尻が赤く腫れたり強い痛みを感じたりするようになります。この状態を肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)といいます。痔瘻の人の半数近くは、痔瘻ができる前段階として肛門周囲膿瘍ができているといわれています。

肛門周囲膿瘍がつぶれて膿が外に流れ出ると、痛みはほとんどなくなります。しかし、痛みの症状は一旦落ち着いたとしても、細菌は膿が溜まった場所を中継地点としてさらにトンネルをのばし、最終地点である肛門近くの皮膚(ときに腸の別の場所)まで達して穴をあけることがあります。穴があいたらトンネルは開通して痔瘻となります。痔瘻は1本道のこともあれば、複雑な迷路のように何本もできる人もいます。

 

このような流れでほとんどの痔瘻が起こります。ただし、以下のような病気がある人は、その持病によって痔瘻が引き起こされることがあり、特殊なタイプとして上記の痔瘻とは区別して考えられます。

 

【痔瘻を引き起こすことがある病気】

  • クローン病
  • 結核
  • ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症
  • 膿皮症
  • 白血病 など

 

このなかでも若い世代に多いクローン病は、痔瘻をきっかけに発見されることが少なからずあります。お尻の症状で気になることがあれば、まずは医療機関を受診するようにしてください。

 

2. 痔瘻になりやすい人とは?

痔瘻になりやすい人の特徴として、主に以下のような項目があげられます。

 

  • 男性
  • 30-40歳代
  • 下痢になりやすい
  • 便が硬く、裂肛(切れ痔)になりやすい

 

痔瘻がある人を調査すると、女性に比べて男性のほうがおよそ2-6倍ほど多いと報告されています。また、痔瘻は30-40歳代の比較的若い世代に多い病気です。

 

下痢の予防が痔瘻を遠ざける

なかでも下痢がちな人は、特に痔瘻ができやすいといわれているので注意が必要です。下痢を繰り返すと腸や肛門が傷付きやすくなり、肛門陰窩に潜んでいる細菌が傷から侵入して炎症を起こしやすい状況を作ってしまいます。

下痢を避けるためには、普段から生活リズムを整えたり、精神的なストレスをできる限り減らしたりすることが大事です。また、アルコールや香辛料など、下痢を引き起こしやすい食事を避けることも望ましいです。下痢になりやすい人に役立つ食事内容については、こちらのコラムで詳しく説明しています。あわせて参考にしてみてください。

一方で、便秘も良くありません。便が硬くなると、排便時に肛門を傷つけて裂肛(切れ痔)を引き起こすことがあります。この裂肛の傷も、痔瘻を引き起こすきっかけとなるため、便が硬くて便秘しがちな人は注意が必要です。便秘で困っている人に役立つ便秘解消法については、こちらのコラムで詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。

 

ほかにも、睡眠不足や極度の疲労などが痔瘻を悪化させるきっかけになることもあるため、痔瘻を指摘されている人は規則正しい生活習慣を心がけるようにしてください。

 

お腹の調子を整えて下痢や便秘をできるだけ避けることは、痔瘻に限らず全ての痔を予防するために重要なことです。お尻の健康のためにも、気持ちのいい排便生活を送るためにも、普段の生活をいま一度見直してみてください。

 

参考文献

・日本大腸肛門病学会編:肛門疾患(痔核・痔痩・裂肛)診療ガイドライン 2014年版 南江堂

・大腸・肛門外科の要点と盲点(Knack & Pitfalls)幕内雅敏 監修 杉原健一 編集 第3版

・Nesselrod Jp:Pathogenesis of common anorectal infections.Am J Surg 88:815-817t 1954 18)

・佐原力三郎:痔痩の病因,分類、外科77:644-647, 2015

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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