2020.09.28 | コラム

日本の伝統医学でおしりの病気を改善!? 痔に使う漢方薬(乙字湯など)について解説

痔疾患に対して使われる漢方薬の例

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1.痔の症状と改善効果が期待できる漢方薬とは?
2.痔に使う漢方薬① 乙字湯(オツジトウ)
3.痔に使う漢方薬② 芎帰膠艾湯(キュウキキョウガイトウ)
4.痔に使う漢方薬③ 桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)
5.痔に使う漢方薬④ 桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)
6.痔に使う漢方薬⑤ 補中益気湯(ホチュウエッキトウ)
7.痔に使う漢方の外用薬について[紫雲膏(シウンコウ)など]

一説によると成人の半数近くの人が何らかの痔の症状を抱えていると言われています。痔の治療は痔の種類などによっても様々ですが、薬剤による治療の選択肢として漢方薬が挙がります。ここでは痔の症状改善に効果が期待できる漢方薬について解説します。

1. 痔の症状と改善効果が期待できる漢方薬とは?

痔には大きく分けて痔核(いぼ痔)、裂肛(切れ痔)、痔瘻の3種類があり、便秘や下痢、排便時のいきみなどが原因となっておこります。中でも痔核は男女ともに多い痔の種類で内痔核と外痔核に分かれます。痔核は肛門クッション(肛門括約筋と直腸粘膜及び肛門部分の皮膚の間にある毛細血管が網目状に集まった弾力性が高い部分)やそれを支える組織の減弱、肛門内圧などが病因となるとされています。また排便習慣や生活習慣なども重要な因子になるとされています。

痔では患部や患部周囲の血流や排便習慣なども症状悪化に関係することもあり、当帰(トウキ)などの血流改善の効果をあらわす生薬を含むものや便通を改善させる効果を持つ大黄(ダイオウ)などの生薬を含むものが痔の改善効果を期待できる漢方薬として主に使われています。

 

2. 痔に使う漢方薬① 乙字湯(オツジトウ)

痔の漢方薬としては第一選択薬(特に痔核による疼痛の場合など)になることが多い薬で、特に痛みや出血などがある初期の痔などに対して効果が期待できるとされています。構成生薬の一つに当帰(トウキ)があり、血の働きを調和し排膿作用や止血作用などをあらわし冷えや血行障害などの改善効果が期待できます。また緩下作用を持つ大黄(ダイオウ)を含み便通などが改善する反面、下痢などの消化器症状には注意が必要です。甘草(カンゾウ)を構成生薬として含むため、頻度は非常に稀ですが偽アルドステロン症(偽性アルドステロン症)などにも注意が必要となります。

 

3. 痔に使う漢方薬② 芎帰膠艾湯(キュウキキョウガイトウ)

主に出血を伴う痔に対しての改善効果が期待できる漢方薬です。痔出血以外にも性器出血、尿路出血などの他、出血による貧血、めまい、四肢の冷えなどを伴う症状の改善も期待できるとされています。名前の由来は主な構成生薬の川芎(センキュウ)、当帰(トウキ)、阿膠(アキョウ)、艾葉(ガイヨウ)から一文字ずつとったものとなっています。補血作用や血流などに関わる当帰、止血などに関わる艾葉や阿膠(アキョウ)、鎮痛・鎮静作用や血流改善などにも関わる川芎というように出血や血流に対しての改善効果が期待できる漢方薬とされています。その他、地黄(ジオウ)、芍薬(シャクヤク)、甘草(カンゾウ)を構成生薬として含み、甘草があるため頻度は非常に稀とされますが偽アルドステロン症などには注意が必要です。また胃腸などが虚弱な体質である場合は服用によって食欲不振や吐き気などがあらわれやすいとされており、注意が必要となります。

 

4. 痔に使う漢方薬③ 桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)

主に更年期障害(頭痛、めまい、のぼせ、肩こりなど)、月経不順などの婦人科疾患で使用されている漢方薬です。構成生薬に桂皮(ケイヒ)、茯苓(ブクリョウ)、桃仁(トウニン)、芍薬(シャクヤク)、牡丹皮(ボタンピ)を含み、これらの生薬には抗炎症作用や血流改善作用などが期待できるものが多いこともあり、痔疾患、月経不順などの他、冷え、頭痛、打撲症、にきびなどにも効果が期待できる漢方薬とされています。痔疾患に対しては、痔核が腫れている状態などに対して改善効果が期待できるとされています。

 

5. 痔に使う漢方薬④ 桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)

桂枝茯苓丸と同じく月経不順、月経時や産後の精神不安など婦人科疾患で使用されている漢方薬で、のぼせて便秘がちな腰痛、頭痛、めまいなどの症状にも効果が期待できる漢方薬です。痔疾患では便秘がちで痛みが比較的強いなどの場合に効果が期待できるとされています。構成生薬の桃仁(トウニン)、桂皮(ケイヒ)は桂枝茯苓丸にも含まれている生薬で、本剤は他に大黄(ダイオウ)、芒硝(ボウショウ)という緩下作用などをあらわす生薬が含まれています。名前の中の「承気」とは「気をめぐらす」という意味であり本剤においては腸の機能の活性化により排便を促すことをあらわしています。このことからも本剤により改善が期待できる痔の症状(便秘がちなため痛みが比較的強いなど)が想像できます。構成生薬の中に甘草(カンゾウ)を少量含むため、頻度は非常に稀ですが偽アルドステロン症などに注意が必要です。

 

6. 痔に使う漢方薬⑤ 補中益気湯(ホチュウエッキトウ)

読んで字のごとく「う」漢方薬で構成生薬の人参(ニンジン)と黄耆(オウギ)を合わせて参耆剤(じんぎざい)ともあらわし疲労・倦怠感があり胃腸機能が低下している状態などを改善する効果が期待できます。夏やせ(夏ばて)、病後の体力低下、食欲不振、胃下垂などの改善の他、痔においては主に脱肛に対する改善効果が期待できるとされています。脱肛では肛門や直腸粘膜が肛門からはみ出てしまい、場合によっては手による肛門内への還納などを行います。本剤は胃下垂などの内臓下垂傾向の改善効果などにより脱肛の症状軽減が期待できる漢方薬とされています。構成生薬に甘草を少量含むため頻度は稀ですが偽アルドステロン症などに注意が必要です。

 

7. 痔に使う漢方の外用薬について

主に紫雲膏(シウンコウ)という軟膏剤を痔の症状に使用する場合があります。紫雲膏は当帰(トウキ)、紫根(シコン)、ゴマ油の精油エキスを主な成分とする軟膏製剤で痔核による疼痛の他、火傷や肛門裂傷などに使われる外用薬です。名称に「紫」の文字が入っている通り、赤紫色の軟膏であり下着など衣服への着色には注意が必要です。また頻度は非常に稀ですが、使用部位がかぶれるなどの皮膚症状があらわれる場合もあります。漢方の外用薬としては、化膿性の腫れなどに効果が期待できる中黄膏(チュウオウコウ:保険収載外医薬品)なども使われる場合があります。

 

その他、痔の改善効果が期待できる漢方薬としては、痛みが強い痔の症状などに対する当帰健中湯(トウキケンチュウトウ)、便秘が強く下腹部の張りがあり腫れや痛みも強いなどの症状に対する大黄牡丹皮湯(ダイオウボタンピトウ)があります。また温清飲(ウンセイイン)、六君子湯(リックンシトウ)などの漢方薬が痔の治療に使われる場合もあります。薬剤による痔の治療は選択肢の一つですが、排便習慣、生活習慣なども重要な因子の一つです。長時間の座業をなるべく避け、便秘になりにくい食事を考慮するなど日頃からおしりへの負担が少ない生活を心がけ、痔の症状に応じた適切な治療を受けることが大切です。

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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