ぜんりつせんがん
前立腺がん
前立腺にできたがん。年齢を重ねるとともに発見されることが多くなる。高齢化が進む日本では患者数が急増している。
12人の医師がチェック 415回の改訂 最終更新: 2026.02.25

前立腺がんの手術:開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット手術の解説

前立腺がんが転移していない人は治療法として手術が選べます。手術では前立腺と精嚢、リンパ節が取り除かれます。ここでは手術の方法や合併症などを説明します。

1. どのような人に手術が検討されるのか?

全ての前立腺がんの人が手術を検討できるわけではありません。前立腺がんの手術が向いているのは次のような条件を満たす人と考えられています。

【前立腺がんの手術が向いている人】

  • 期待される余命が10年以上の人
  • 転移がない人
  • 手術に耐えうるだけの良好な健康状態を有している人

また手術で取り切れる状態にあるかどうかも判断材料になります。手術でがんを取り除けるかどうかを評価する方法としてリスク分類があります。リスク分類については「こちらのページ」を参考にしてください。

2. 前立腺がんの手術について

手術(前立腺全摘除術)ではがんが含まれた前立腺の全体と精嚢(精液の一部をためておく臓器)を取り除き、膀胱と尿道をつなぎ合わせます。また、前立腺がんが転移しやすいリンパ節(所属リンパ節)も同時に摘出することがあります。

手術には次の3種類の方法(術式)があります。

  • 開腹手術:恥骨後式前立腺全摘除術
  • 腹腔鏡手術:腹腔鏡下前立腺全摘除術
  • ロボット手術:ロボット支援下前立腺全摘除術

どの方法でもがんを取り除くという目的は変わりありませんが、少しずつ違いがあります。3つの方法の違いは「こちらのコラム」で詳しく説明しているので参考にしてください。

3. 前立腺がん手術の合併症について

手術は安全を期して慎重に行われますが、手術に伴う悪い結果(合併症)が起こる可能性は0%ではありません。前立腺がんの手術にともなう主な合併症は次のものです。

【前立腺全摘除術にともなう主な合併症】

  • 出血過多:出血が著しく多くなること
  • 周囲臓器の損傷:前立腺周囲の臓器に傷がつくこと
  • イレウス:腸の動きが一時的にとまり内容物が溜まること
  • 皮下気腫:皮膚の下に空気がたまること
  • 深部静脈血栓症:主に足の静脈に血液の塊ができること

これらの合併症は、術前の評価や術中の工夫、術後の予防策によってリスクを下げることができます。心配な点があれば、どの合併症がどれくらい起こり得るのか、主治医に確認してください。以下ではそれぞれの具体的な内容と対処法についても説明します。

■出血過多:出血が著しく多くなること
前立腺の周りは血流が非常に豊富なので、手術中に思わぬ出血をきたすことがあります。手術がやりづらい骨盤の奥にある前立腺から出血が起こると、止血に手間取ることは少なくありません。出血量が多くなった場合は輸血が必要です。

■直腸損傷:直腸に傷がつくこと
前立腺は直腸に接しています。手術で前立腺を取り除くためには、前立腺と直腸を剥がす操作が必要ですが、前立腺と直腸を剥離する際に直腸に傷がつくことがあります。また、傷だけではなく穴が開いてしまうこともあります。直腸に傷がついたり穴が空いたりすることを直腸損傷といいます。

わずかな傷であれば手術中に修復し、食事の開始を遅らせることで対応できます。一方で、直腸の傷や穴が大きかった場合や、手術終了後に直腸の傷や穴が見つかった場合には、一時的な人工肛門が必要となることがあります。十分に直腸の傷や穴が閉じたと判断できるまで人工肛門が必要になりますが、人工肛門を閉鎖した後はもとの肛門から排便できます。一般的に人工肛門の閉鎖までには数か月が必要と考えられています。

イレウス:腸の動きが一時的にとまり内容物が溜まること
お腹の手術後しばらくの間、腸が動かなくなることがあります。前立腺がんの手術後にしばしば見られる現象で、イレウスと言います。食事をしばらくやめて腸を休めると良くなることが多いです。腸が動くのを助けるために漢方を用いることがあります。 イレウスの予防には体を動かすことが効果的です。手術後には痛みがありますが、許可された範囲で体を動かしてください。

■皮下気腫:皮膚の下に空気がたまること
皮膚の下にある脂肪などの組織に空気やガスが入ることを皮下気腫と言います。皮下気腫は腹腔鏡手術とロボット手術で見られる合併症です。

腹腔鏡手術やロボット手術ではお腹に開けた穴から二酸化炭素を入れて、お腹を膨らませて手術を行います。すると二酸化炭素が皮膚の下に入って留まることがあり、皮下気腫として現れます。二酸化炭素はしだいに体内に吸収されますので、悪化する様子がなければ自然に治るのを待ちます。

深部静脈血栓症:手や足、骨盤内のの静脈に血液の塊ができること
手術の影響などで血液の流れが悪くなり、血管の中で血液が固まってしまうことがあります。前立腺がんの手術後では足の静脈に血液の塊ができやすいです。血液の塊が流れて肺の血管に詰まると、致死的な状態に陥ることがあります。

深部静脈血栓症を予防するために、施設によっては血液を固まりにくくする薬を使用したり、足を持続的に揉む器具を使用することがあります。歩いたり、足首を動かすことが予防策として効果的なので、手術後には取り組むようにしてください。

4. 手術後から退院までの一般的な経過

前立腺がんの手術は全身麻酔で行われます。 術後は問題なければ手術室にいるうちに目覚めます。全身麻酔中は呼吸を助ける管を気管に挿入していますが、多くの場合、この管も手術室で抜くことができます。状態の安定が確認された後に、手術室から集中治療室(ICU)または病棟に移動します。手術の直後は出血などの問題が発生しやすいので、慎重に経過が見られます。 術後の出血や尿量などを正確に把握するために、ドレーンと呼ばれる管がお腹に入っていたり、排尿のための管(尿道カテーテル)が尿道から挿入されています。

手術後1日から2日程度は水分摂取は許可されることが多いですが、固形物の摂取は遅れて再開することが多いです。お医者さんが診察でお腹の動きなどを調べて、食事を再開するタイミングや、食事の内容を決めます。

ドレーン(お腹の管)は出血の危険性がないと判断した時点で抜かれます。手術後2日から4日が目安になることが多いです。ドレーンが抜ける頃には回復が加速します。回復の流れに乗って歩いたり、身の回りのことを自分で行い、退院に向けてリハビリに努めることが大事です。

7日前後で膀胱と尿道のつなぎ目を調べる検査(膀胱尿道造影検査)が行われ、十分にくっついていると判断されれば尿道カテーテル(排尿のための管)が抜かれます。

尿道カテーテルを抜去した直後はほとんどの人に尿もれが起こるので、退院してからも紙おむつないしは尿取りパッドを1日に数回交換する必要があります。尿もれはずっと同じ状態が続くわけではなく、時間が経つにつれて改善していきます。6か月目までは急速に回復し、その後は緩やかに改善し、術後1年以内に尿取りパッドの使用枚数が1日1枚程度に落ち着く人がほとんどです。

抜糸ができると退院となります。手術後1週間前後に傷口の抜糸が行われ、自宅で過ごしても問題ないと判断された頃合いで退院となります。

5. 前立腺がんの手術後の生活について

手術の後は手術にともなう身体の変化と付き合いながら生活する必要があります。日常生活の注意点と手術の後遺症について説明します。

日常生活の注意点

手術後の1ヶ月は次の3点に注意してください。

  • 食べ過ぎない
  • 長時間の自動車の運転は避け、自転車には乗らない
  • 激しい運動を控える

それぞれについて説明します。

■食事を摂りすぎない
退院するころには腸の動きは回復していることが多いのですが、しばらくは調子をくずしやすいので、食べ過ぎはさけてください。腹八分目かそれより少ないくらいでも十分です。

■長時間の自動車の運転は避け、自転車には乗らない
自転車のサドルや車の座席は、膀胱と尿道のつなぎ目(縫合部)を刺激しやすく、痛みや違和感の原因になることがあります。手術後しばらく(目安として1か月程度)は、長時間の運転や自転車は控えるのが安心です。

■激しい運動を控える
入院すると、自分が考えている以上に体力が落ちるのは珍しくはありません。急に激しい運動をすると怪我をしてしまいかねません。少しづつ身体をならすようにしてください。

手術の後遺症

手術後には後遺症として身体に変化が見られることがあります。前立腺がんの手術にともなう主な後遺症は次のものです。

【主な後遺症】

この中でも尿もれと勃起不全は特に高い確率で発生するので、少し詳しく説明します。

■尿もれ(尿失禁)
前立腺がんの手術後は、多くの人が尿もれを経験します。尿もれの程度や回復の速さには個人差があり、もともとの体の状態や手術の条件など、さまざまな要因が関係します。

【尿もれが起こる主な理由】

  • 排尿をコントロールする筋肉(尿道括約筋)の機能が弱くなる
  • 前立腺が取り囲んでいた部分の尿道を取り除くことによって尿道が短くなる

手術中は尿もれをできるだけ減らす工夫が行われますが、複数の要因が重なるため、手術前に「どの程度の尿もれが起こるか」を正確に予測するのは簡単ではありません。
また、次のような要因が尿もれの程度に影響すると考えられています。

【尿もれに影響する要因】

  • 排尿をコントロールする筋肉(尿道括約筋)の強さ
  • 尿道の形
  • 尿道の長さ
  • 肥満

尿道の長さや形は生まれつきの要素が大きい一方で、肥満や尿道括約筋の筋力には改善の余地があります。必要に応じて、減量や骨盤底筋訓練(尿道括約筋を鍛える体操)についてお医者さんに相談してみてください。
骨盤底筋訓練の一例としては、尿を我慢するときのように肛門・尿道を「キュッ」と締め、5秒保って5秒ゆるめます。これを10回で1セットとして、1日2〜3セットを目安に行います。

多くの人は日常生活に支障が少ない程度まで回復しますが、なかには尿もれが強く残る人もいます。重症の尿もれ(例:術後6か月時点で1日の尿もれ量が多い場合など)では、治療として 人工尿道括約筋(例:AMS-800®)埋め込み術 が検討されることがあります。尿もれが完全にゼロになるとは限りませんが、尿取りパッドが少ない枚数で済むようになることが期待できます(成績は報告や個人差があります)。
 

■勃起不全
前立腺の両脇には、勃起に関わる神経の束(神経血管束)があります。前立腺がんが神経に近い場合は、がんを取り残さないために神経血管束を切除することがあり、その場合、手術後に勃起が難しくなることがあります。

一方で、がんが神経の近くに広がっている可能性が低いと判断される場合には、勃起機能を重視して神経を残す(温存する)手術が行われることがあります。両側を温存する方法(両側神経温存)と、片側のみ温存する方法(片側温存)があります。ただし神経を温存しても、勃起機能が必ず保たれるとは限りません。必要に応じて、手術後に内服薬などで勃起機能の改善を図ることがあります。

尿道狭窄
手術後は、膀胱と尿道をつなぎ合わせた部分が治る過程で狭くなり、尿が出にくくなることがあります(尿道狭窄)。尿が出にくい状態が続くと膀胱や腎臓に負担がかかるため、尿道カテーテルを入れたり、尿道を広げる治療を行ったりします。

鼠径ヘルニア脱腸
状がある場合や悪化する場合には手術が必要になることもあるため、気になる場合は担当医に相談してください。

6. 手術後にも治療を続けた方がよい人について

手術で治療が完結する人がいる一方で、手術後に再発リスクが高いと判断され、追加の治療(追加治療)が検討される人もいます。追加治療が必要かどうかは、主に病理検査の結果(取り切れたか、がんの広がり、リンパ節の転移など)や、術後のPSAの推移をもとに判断されます。

追加治療には、再発を減らす目的で早めに行う治療(補助療法)と、PSAの上昇など再発の兆候が出てから行う治療(救済療法)があります。治療の内容は状況によって異なりますが、代表的には次のような場合に検討されます。

【手術後に追加治療が検討される主な条件】

  • リンパ節に転移があった人
  • 前立腺に隣接する精嚢にがんが及んでいた人
  • がんを取り切れていない可能性がある人

追加治療としては、放射線治療(前立腺床への照射)が検討されることがあり、再発リスクに応じてホルモン療法(ADT)を組み合わせることもあります。また、リンパ節転移がある場合などでは、病状に応じてホルモン療法が中心になることもあります。

7. 前立腺がんが手術後に再発した場合について

手術をしても前立腺がんが再発することがあり、再発には次の2つのパターンがあります。

【前立腺がんの再発の種類】

  • 生化学的再発
  • 臨床再発

それぞれで意味合いが異なるので、個別に詳しく説明します。

生化学的再発について

生化学的再発は手術後の血液検査でPSAが上昇してくることで判断されます。PSAは再発を比較的早い段階で捉えやすく、画像検査に写らないほど小さい再発でも上昇することがあります。

手術後は通常、PSAが非常に低い値になります。一般に、PSAが0.2 ng/mL以上となり、その後の再検査でも同様に上昇が確認される場合に、生化学的再発と判断されます。
また、手術後にPSAが十分に下がらない場合は「PSAが持続している状態(術後早期から高い状態)」として扱われ、追加治療が検討されます。

生化学的再発が疑われた場合には、PSAの上がり方(PSA倍加時間など)や病理結果を踏まえて、救済治療が検討されます。代表的な救済治療は、前立腺床への救済放射線治療で、必要に応じてホルモン療法(ADT)を組み合わせることがあります。

救済放射線治療は、一般にPSAがあまり高くならないうちに開始した方が効果が期待できるとされ、目安としてPSAが低い段階(例:0.5 ng/mL未満など)で検討されることがあります。ただし、開始のタイミングは病理所見やPSAの上がり方、患者さんの状態によって決まります。

臨床再発について

臨床再発は画像検査(CT検査、骨シンチグラフィーなど)で再発部位が確認された状態です。前立腺がんの再発が見つかりやすいのは次の臓器です。

【前立腺がんが再発しやすい場所】

  • リンパ節
  • 肝臓

生化学的再発の後、時間をおいて臨床再発が見つかることがありますが、その期間は個人差が大きく、手術前のがんの性質によっても変わります。臨床再発が確認された場合、治療の中心は薬物療法になります。状況に応じて、ホルモン療法(ADT)に加えて新規ホルモン薬(ARSi)や抗がん剤治療などが検討されます。

8. 手術について知っておくとよいことやよくある質問について

手術の前後では心配ごとや、気になることがさまざま出てきます。ここでは手術に関連した知っておくとよいことや、よくある質問をまとめます。

前立腺がんは手術をするべきなのか

前立腺がんの治療には手術以外にもPSA監視療法、放射線治療、ホルモン療法など複数の選択肢があります。そのため、手術をするかどうかを迷う人は少なくありません。ここではリスク分類ごとに、手術をどう考えるかの目安を説明します。

■低リスク前立腺がんの手術

低リスクの前立腺がんは、一般に進行がゆっくりです。そのため、低リスクの中でも一定の条件を満たす場合には、すぐに治療を始めず、PSA値やMRI検査、前立腺生検などで経過をみながら必要なタイミングで治療を開始する PSA監視療法(積極的監視) を選択できることがあります(条件の詳しい内容は「こちらのページ」を参考にしてください)。

「がんがあるのに、すぐ治療しない」と聞くと心配になるかもしれません。しかし低リスク前立腺がんでは、前立腺がん自体が原因で命に関わる可能性がもともと低いことが多く、他の病気(感染症、他のがん、心筋梗塞脳卒中など)が予後に影響することも少なくありません。監視療法は、こうした前提のもとで「治療の利益と、治療の副作用(尿失禁や性機能への影響など)を天秤にかけて選ぶ」方法です。

一方で他の研究では、低リスクの前立腺がんを手術し10年以上の追跡調査を行ったところ、手術を行ったほうが「死亡率」と「転移をする確率」が少なくなったとする報告がなされています(NEJM 2014;380:932-42)。この結果を踏まえると、手術を受ける時点で10年以上の余命があると考えられる人に対しては、手術による利益があると考えることもできます。

低リスクの前立腺がんの人に手術を行う場合には、その人の余命について考える必要があります。日本人男性の平均寿命は、80.79歳です。平均余命がどのくらいあるかを調べた表を下に示します。

年齢 平均余命(男、2015年) 平均余命(女、2015年)
65 19.46 24.31
70 15.64 19.92
75 12.09 15.71
80 8.89 11.79
85 6.31 8.40
90 4.38 5.70

表を参考にすると、日本の男性で平均的に余命が10年以上ある人は、75歳前後までとなります。つまり、80歳以上の人に低リスクの前立腺がんが見つかった場合は、手術をしない選択肢も有力になります。

また、上の表は平均的な数字なので、実際に治療をするかどうかを考えるときには、一人ひとりの状態をよく考えなければなりません。ほかの病気(併存症)を抱えている人、体力が落ちている人の余命は平均的な人に比べて短いことも十分あり得ます。手術を検討する際には、年齢や併存症などを含めて、自分が手術に向いているかどうかを考えることが重要です。

■中間リスク前立腺がんの手術

中間リスクの前立腺がんでは、低リスクよりも再発の可能性が高いと考えられるため、根治を目指す治療(手術や放射線治療)が選択肢の中心になります。どの治療が適しているかは、がんの性質に加えて、年齢や持病、体力などを踏まえた余命(見込み)や、生活の質(尿・性機能など)も含めて考えていく必要があります。

持病などにより全身状態が十分でない場合は手術が難しいことがあります。一方で、健康状態が良く余命が十分に見込める人では、手術を含めて根治的治療を積極的に検討します。

なお、中間リスクでは一般にPSA監視療法は低リスクほど適していませんが、患者さんの状態によっては慎重に検討されることもあります。最終的には、病理所見や画像所見も踏まえて主治医と相談して決めます。

■高リスク前立腺がんの手術

高リスク前立腺がんは、悪性度が高い、あるいはがんの広がりが大きいなどの理由で、再発の可能性が高いと考えられる状態です。そのため、治療は手術だけ、放射線治療だけで完結するというより、再発を下げる目的で薬物療法(ホルモン療法)を組み合わせるなど、集学的治療が必要になることが少なくありません。

具体的には、高リスク前立腺がんの人に対しては、放射線治療にホルモン療法を併用する治療が選ばれることが多く、施設によっては放射線治療にブースト(小線源治療など)を組み合わせることもあります。一方で、高リスクであっても手術が選択肢になる場合があり、病状や患者さんの全身状態、術後に追加治療を行う可能性も含めて検討されます。

手術と放射線治療のどちらが適しているかは、病気の性質(広がりやPSA、病理所見)だけでなく、重視したい生活の質(尿失禁・排尿症状・性機能など)や、受けられる治療体制(施設の経験)によっても変わります。主治医と相談し、自分に合う治療方針を選ぶことが大切です。

ロボット手術について

前立腺がんではロボットを用いた手術が一般的です。ロボット手術は正式にはロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術と言い、「da Vinci(ダヴィンチ)サージカルシステム」「hinotori™(ヒノトリ)」という名前のロボットなどが使われています。

■最新治療のロボット手術はどこで受けられるのか
ロボット手術は先進的なイメージがあり、限られた施設でしか受けられないのではと考えるかもしれません。しかし、ロボット手術は身近なものになってきています。最新のロボット外科学会からの報告によるとダヴィンチは2016年の時点で日本に237台導入されており、2025年現在ではさらに増加し、500台を超えてています。

■ロボット手術の実際
執刀医がロボットを操作して手術を行います。ロボットが判断する訳ではありません。執刀医はコンソール(操作台)に向かってロボットを操作し、執刀医の指の動きに連動してロボットの先端が動きます。患者さんの近くには常に助手の外科医がいます。

© [2016] Intuitive Surgical, Inc. (CC BY-SA 3.0)

■ロボット手術のメリット
医師の立場で考えると、ロボット手術には主なメリットが3つほどあります。 1つ目のメリットは、3Dの視野で手術ができる点です。 ロボットのカメラには2個のレンズが隣り合ってついています。2個のレンズで撮影した画像をコンソールから見ると、ステレオグラムの原理で立体的に見えます。3D映画と似た感覚です。特に前立腺のように体の中の深い場所にある臓器の摘出には、立体感を掴むことが重要なので、3Dの視野が有効に働きます。筆者もロボット手術の経験がありますが、ロボット手術では3Dの世界に入り込みまるで自分がその人の体の中に入って手術をしているような感覚があります。

2つ目のメリットはカメラを執刀医が自分で思い通りに動かせる点です。専門的な話になりますが、腹腔鏡手術の視野を決める内視鏡の操作は助手が行います。助手は執刀医が見たいところを察して操作する必要があります。執刀医と助手のコンビが経験豊富で息が合っていても、やはり自分の見たい場所は自分でしかわからないところがあります。ロボット手術では執刀医自らが操作台から内視鏡を動かしますので、無駄のないカメラワークが可能になります。

3つ目のメリットはロボットの関節が自由自在に動くことです。腹腔鏡手術では、手術器具を動かせる範囲がかなり制限されるので、腹腔鏡手術で縫合などの細かい操作をするためには高度な技術が要求されます。一方で、ロボット手術では、先端が自由に動く関節を有するために細かな操作の精度が上がって、より確実な手術が可能となりました。

■ロボット手術のデメリット
ロボット手術では執刀医に触覚が伝わりません。つまり、執刀医の手が直接患者さんに触れてはいないので、切ったり縫ったりするときの手応えがありません。触覚がない点は、ロボット手術が開腹手術に劣る点と考えられています。 他のデメリットとして、ロボットの故障や、不具合があります。故障や不具合は非常に少ない確率とはいえ、機械を使用する以上避けることはできません。腹腔鏡手術であるならば大抵は予備があるので、不具合が発生しても交換して手術続行が可能です。一方で、ロボット手術では故障の程度によっては手術の続行が不可能になることがあります。その時は緊急に開腹手術や腹腔鏡手術に変更されます。

より詳しく知りたい人は「こちらのコラム」を参考にしてください。

勃起神経の温存について

前立腺の両脇には、神経と血管がまとまった束(神経血管束)があります。この中には、勃起に関わる神経が含まれており、性機能にとって重要な構造です。

一方で、前立腺がんは病状によって、前立腺の外側や神経血管束の近くまで及ぶことがあります。そのため、前立腺がんの手術では、神経血管束を残す(温存する)方法と、がんを確実に取り切ることを優先して一部または両側を切除する方法があります。

■メリットとデメリット
両側の神経も一緒に取ったほうが、がんを取り切れる可能性が高くなります。一方で、神経を取り除くと手術後は勃起できなくなってしまいます。神経を残すと勃起機能への影響は少なくて済みますが、がんを取り切る可能性は下がってしまう可能性があります。つまり、がんを取り切ることと、勃起する能力が引き換えになってしまうことが懸念されるのです。

■手術の前に予想できないのか
がんが神経の束に浸潤しているかどうかは、手術前のMRI検査である程度は予測できますが、完全ではありません。そのため、神経の束を手術で取るべきかどうかは、不確実な情報をもとに判断するしかありません。

■不確実さは残るので自分の価値観をお医者さんと相談すること
勃起神経を残すかは、患者さん自身のがんに対する考え方やその後の生活とのバランスを考えながら決める必要があります。手術前の状態について主治医からの情報を聞いたうえで、どちらの方法が自分の考えに近いかよく考えて決定してください。

リンパ節郭清について

手術前の説明で「リンパ節郭清」という言葉が出てくることがあります。イメージが湧きにくい処置なので、ここで簡単に説明します。

前立腺がんは、進行するとリンパ節に転移することがあります。リンパ節は全身にありますが、転移が起こる場合には、まず前立腺の近くにあるリンパ節から広がることが多いと考えられています。前立腺がんが転移しやすいリンパ節を所属リンパ節と呼び、これらをまとめて取り除く手術をリンパ節郭清といいます。

リンパ節郭清は、転移しているリンパ節を取り除く目的だけでなく、リンパ節に転移があるかどうかを正確に調べ(病理で確定し)、術後の治療方針を決めるためにも行われます。なお、リンパ節郭清を行うかどうか、どの範囲まで行うかは、がんのリスクや術前の検査結果によって決まります(全員に行うわけではありません)。


 

前立腺がんの所属リンパ節は場所によって3グループに分けられます。

  • 外腸骨領域
  • 閉鎖領域
  • 内腸骨領域

それぞれの領域のリンパ節郭清を行います。

リンパ節はリンパ管の途中にある集合地点です。リンパ節を取り残さないように切除するためには、リンパ管を含めて全て切除することが確実な方法です。

手術後の病理検査の結果について

手術で摘出した前立腺やリンパ節には、取り出した組織を顕微鏡で見る病理検査が行われます。病理検査では1つひとつの細胞まで観察できるので、多くの情報が得られます。

【病理検査で分かること】

  • どの程度がんが進行していたか
  • どの程度の範囲までがんが広がっていたか
  • がんは取りきれたのか

手術後2週間から4週間程度で病理検査の結果が出ることが多く、この結果をもとにして追加の治療(ホルモン療法や放射線治療)の必要かどうかが判断されます。

手術でがんを取りきれないことがあるのか?

前立腺がんの手術ではがんが取りきれていなかったという結果がしばしば見られます。がんが取り切れない理由として次の2つが考えられます。

  • 術前の予測よりがんが進行していた
  • がんが大切な正常組織の近くにあり、広く切ることができなかった

「がんを取りきれなかった」と聞くと不安になるのは自然です。ただし前立腺がんでは、たとえ切除断端陽性などがあっても、放射線治療やホルモン療法など有効な追加治療が残されています。 状況に応じてこれらを組み合わせることで、がんを長期にわたってコントロールできる可能性は十分にあります。

前立腺がんの再発率は?

前立腺がんの手術の再発率は、リスク分類によって大まかに予測できます。リスク分類ごとの5年の生化学的再発率の大まかな値は以下です。

  • 低リスク:5−10%が5年間に生化学的再発あり
  • 中間リスク:15-30%が5年間に生化学的再発あり
  • 高リスク:30-55%が5年間に生化学的再発あり

なお、生化学的再発率は死亡率ではありません。たとえば低リスクでは「5年以内にPSA再発が起こる人が一定割合いる」という意味であり、再発があっても救済放射線治療やホルモン療法などで、長期にコントロールできることがあります。
 

参考:

・「前立腺がん診療ガイドライン
・「標準泌尿器科学」、(赤座英之/監)、医学書院、2014
・JAMA 1998;280:969-974.
・JAMA 1999;281:1591-1597
・厚生労働省「簡易生命表」平成27年