かんぞうがん
肝臓がん
肝臓にできた悪性腫瘍のこと
1人の医師がチェック 71回の改訂 最終更新: 2022.10.17

大腸がんの肝転移:診断、治療、生存率について解説

肝臓は多くのがん転移する臓器です。その中でも大腸がんの肝転移は手術などの治療をすることで余命が延長する可能性があります。ここでは大腸がんの肝転移の手術などについて解説します。 

大腸がんの肝転移を説明する前に原発巣と転移巣の違いについて説明します。

がんの大きな特徴のひとつが転移を起こすことです。転移とは、がんが元あった場所とは違うところにも移動して増殖することです。元あった場所のがんを原発巣(げんぱつそう)または原発腫瘍と言います。転移によってできたがんを転移巣(てんいそう)と言います。転移巣での特徴は原発巣の特徴を引き継いでいます。

大腸がんの肝転移は、大腸がんが肝臓に転移したものです。これに対して最初から肝臓に発生したがんを原発性肝がんといいます。

転移性肝がんの原発巣が大腸がんであった場合、抗がん剤は肝臓がんのものではなく大腸がんに効果のあるものを選択します。これは治療方針を考える上で非常に重要です。当たり前と思う人もいると思いますが憶えておいてください。

大腸がんの転移先としては肝臓が最も多いです。その理由は大腸からの血流にあります。腸の役割は消化された食べ物を吸収することです。腸で吸収された栄養は血液に乗って運ばれます。腸から来た栄養が豊富な血液は肝臓に流れます。肝臓は腸から得た栄養を体に必要なものへと形を変えて行きます。

大腸がんができるとこの血流にのって肝臓に転移することがあります。大腸から肝臓に流れ込む血管を門脈といいます。

大腸がんの手術後の部位別の再発率

 

肝臓再発

肺再発

局所再発

吻合部再発

その他の再発

結腸原発

7.0%

3.5%

5.7%

1.8%

3.6%

直腸原発

9.5%

2.7%

2.6%

1.7%

4.2%

大腸がん(結腸がんまたは直腸がん)の手術後に再発する場所としても肝臓は最も多い臓器です。大腸がんの肝転移は転移の個数が少ないなどの条件に合えば手術などで治療することが可能な場合があります。

大腸がんと診断された時点ですでに転移がある人もいます。診断時に転移が見つかった場所としても肝臓が多かったとする報告があります。

診断時に転移がある場合の場所

 

肝転移

肺転移

腹膜転移

その他の遠隔転移

結腸原発

11.8%

2.2%

5.7%

1.8%

直腸原発

9.5%

2.7%

2.6%

1.7%

参照:大腸癌研究会プロジェクト研究
 

大腸がんの肝転移が見つかる時期は、大きく分けて2種類です。

  • 大腸がんと診断された時点ですでに転移がある

  • 大腸がんの治療後に新たに肝転移が見つかる

大腸癌研究会プロジェクト研究」では、大腸がん(結腸がんまたは直腸がん)と診断された時点ですでに肝臓に転移がある人は結腸がんで11.8%、直腸がんで9.5%でした。転移する臓器としては肝臓が最も多いです。これは2000-2004 年に大腸がんと診断された人の集計データをもとにしています。

大腸がんを切除した後に再発する場合があります。肝臓は大腸がんの再発が最も出やすい部位です。そのほとんどが大腸がんの手術後3年以内に再発しています。1991-1996年の間に大腸がんの手術後に肝臓に再発した人のうち78.0%が3年以内の再発でした。

参照:大腸癌研究会プロジェクト研究

原発性肝がんと大腸がん肝転移の区別にはCT検査やMRI検査が用いられます。画像検査での特徴などについてやや専門的な内容を解説します。

原発性肝がんと大腸がんの肝転移を区別するには画像診断が有効です。全てが同じような特徴を有している訳ではありませんが、典型的には以下のような特徴があります。

  • 原発性肝がん

    • ダイナミックCT検査で早期濃染、平衡相での早期洗い出しなどの特徴がある

    • 背景の肝臓が肝硬変や肝炎である

  • 転移性大腸がん

    • ダイナミックCT検査で腫瘍の縁だけが染まる(リング状造影) 

    • 背景の肝臓は肝炎や肝硬変ではない

ダイナミックCT検査は造影剤を注射した後にタイミングを変えて複数回撮影を行う検査です。ダイナミックCT検査では動脈にしか造影剤が入っていない状態や逆に静脈に造影剤が多く集まった状態での撮影も可能です。

原発性肝がん(主に肝細胞がん)にはダイナミックCT検査で特徴がある画像所見が見られます。原発性肝がんは動脈からの血流が多いので血管内に注入された造影剤を他の部分より早く取り込み、早く流しだす特徴があります。

対して大腸がんの肝転移の場合は腫瘍の縁が造影剤によって白く染まり、リング状に見えることがあります。

他にはMRI検査や超音波検査も診断の参考になる場合があります。

画像検査で原発性肝がんと大腸がんの肝転移の見分けが付かない場合もあります。がんは多様なので必ずしも典型的な画像の特徴が現れるとは限りません。

そのときには腫瘍に針を刺したりして腫瘍の一部を取り出して顕微鏡でみる病理検査で診断をします。病理検査では腫瘍の中身を直接観察することができ、しかも1個1個の細胞が見える大きさにまで拡大して観察します。原発性肝がんか大腸がんの肝転移かを診断するには最も信頼できる検査です。

肝臓は少々のがんができた程度では体の表面から触ったりして感じることは難しいですし、痛みなども出にくい臓器です。大腸がんの肝転移でもそれは変わらないと思います。

大腸がんの肝転移は症状から発見されることは少ないと思います。

ではどのようにして大腸がんの肝転移が発見されるのでしょうか。タイミングは主に3つあります。

  • 大腸がんと診断されたときにすでに肝転移がある 

  • 手術で治療したあとの通院で新たに現れた肝転移が見つかる

  • 大腸がんが他の臓器に転移のある状況で抗がん剤などで治療していたら肝臓にも転移が出てきた

大腸がんが肝臓に転移した状態はかなり進行した状態です。大腸がんは進行すると腹痛、便秘下血などの症状が出やすくなります。肝臓の症状がでることもあるかもしれませんが大腸の症状に比べると少ないでしょう。肝臓は病気ができてもかなり進行しないと症状が出にくい特徴があります。

大腸がんの手術後にはしばらくの間、基本的に5年間は定期的に医師の診察を受けてCT検査などで再発がないかを確認します。その最中に肝臓の転移が現れることはあり得る話です。症状が出る前に検査により確認される方が多いでしょう。

大腸がんが診断された時点で転移があるなどの理由で手術が選ばれなかった場合、抗がん剤が治療の中心になります。抗がん剤は使い続けていると効果がなくなってきます。効果がなくなると新しい場所に転移ができたりもします。肝臓に転移が新しくできるのもあり得る話の一つです。抗がん剤治療中には頻繁に画像検査をするので肝臓にがんが転移していたことを症状として感じるよりは検査によってみつかることが多いと思います。

大腸がんの肝転移の治療法には以下のものがあります。

  • 手術(肝切除) 

  • 抗がん剤治療

  • 焼灼療法(ラジオ波焼灼療法)

  • 肝動脈注入化学療法

大腸がんの肝転移に対して勧められる治療について、「大腸がん診療ガイドライン 2016年版」では転移した大腸がんを取り除くことができる状況では手術が推奨されるとしています。手術では、がんの周りの正常な肝臓まで含めて切除します。このため大腸がんではなく肝臓がんにおいてもがんをコントロールする治療としては手術がもっとも効果的だと考えられています。しかしどんな人でも手術を受けることができる訳ではありません。

手術は大まかに言って「手術することでがんをなくすことができ、正常な肝臓も十分に残せる」という場合に適しています。詳しく言うと以下のすべてを満たすことが条件と考えられます。

  • 耐術可能

  • 原発巣が制御されているか、制御可能

  • 肝転移巣を遺残なく切除可能

  • 肝外転移がないか、制御可能

  • 十分な残肝機能

肝臓を切除する手術では、手術後に残る肝臓の機能が非常に重要になります。肝臓は人が生きていく中で発生する老廃物などを代謝する役割を果たしています。肝臓の機能がなくなったり極端に弱ったりすると命に危険が及ぶことがあります。

転移性肝がんの手術にはいくつか方法があります。大腸がんの転移だからといって特別な方法ではありません。がんができた場所やその状態(大きさ、個数)を評価して術式が決まります。肝臓を切り取る範囲で手術の方法は4つ分けることができます。

  • 部分切除 

  • 亜区域切除 

  • 区域切除 

  • 葉切除

それぞれの方法は以下で個別に説明しますが、下に行くに従って肝臓を切り取る範囲が大きくなります。なぜ手術の方法がいくつもあるのでしょうか。

がんは見た目より周りに広がっていることがあるので広い範囲で切除をした方が確実性は増します。しかし、そうすると正常な部分も大きくとることになり、手術後の臓器の機能に影響してしまうこともあります。最適な切除範囲とは、がんを十分にとりきりかつ切除する正常な部分はできるだけ小さくすることです。

方法がいくつもあるのは、できたがんの大きさに合わせるためです。大きながんでは当然ながら大きな切除範囲が必要ですし、小さながんでは大き切り取る必要はありません。

以下ではそれぞれの方法について解説します。

肝臓の部分切除は、転移性肝がんとその周りだけを切除する手術です。少し詳細な情報ですが、見た目でがんとわかる領域より1cmより大きな輪郭で切除をします。部分切除は肝臓を切り取る範囲が少なくてすむので肝臓の機能への影響も少ないです。

肝臓は表面上は一つの塊に見えます。しかし血流に着目すると8つの部分(亜区域)に分けることができます。

肝臓の中に入り込んでいる門脈が枝分かれして8つの亜区域に分布しています。肝臓にできたがんは血流に乗って肝臓の中で転移する性質がありますが、門脈の流れを大きくさかのぼって別の亜区域にまで転移することはほとんどありません。そのため、門脈を目印として亜区域を単位に肝臓を切り取ると、がんが転移している可能性のある範囲を効率よく切り取ることができると考えられています。

肝臓を門脈に沿って8つに分ける分類をクイノー分類(Couinaud分類)といいます。8つの部分を亜区域といいます。亜区域のそれぞれにS1からS8までの番号が振り当てられています。

亜区域ごとに切除をする肝切除の方法を亜区域切除といいます。

肝臓は門脈を目印として分けられます。クイノー分類は8か所に分ける分類ですが、より大きい単位で4つにわける分類をヒーリー・シュロイの分類といいます。4つの部分を区域といいます。区域は後区域、前区域、内側区域、外側区域に分かれます。区域ごとに切除する肝切除の方法を区域切除といいます。

肝臓は大きく左右に分けることができます。左右の境界はカントリー線(Rex-Cantlie線)です。カントリー線は下大静脈と胆嚢を結ぶラインのことです。右の肝臓を右葉、左の肝臓を左葉といいます。肝臓の半分をがんとともに切除する手術の方法を葉切除といいます。

大腸がんが肝転移をしたときの余命について説明します。

以下では大腸がんの肝転移が見つかった人のデータをもとに説明しますが、前提として、肝転移が見つかってからも治療としてできることはたくさんあります。

大腸がんの肝転移があっても、手術で根治を望める場合があります。根治とはすべてのがんを体から取り除くことです。

以下では主治医から余命を告げられた時に受け止めかたの参考にしてほしいことを説明します。

余命を考える前提として、ひとりひとりの余命を正確に言い当てることはできません。主治医が個別に余命を予想しても大きく外れる場合はあります。余命を告げられたとしても数字にとらわれて思い詰める必要はありません。

さらに大切なことは、余命を告知されるような状態になったとしても絶望ではないということです。余命を延ばす目的の治療から効果が得られなくなれば、苦痛を和らげ自分らしく生きるための緩和治療が主体になります。

大腸がんが肝臓に転移したと告げられたらまずはその状況を落ち着いてしっかりと把握することが大事です。

大腸がんの肝転移が見つかってからの生存率について「大腸がん診療ガイドライン2016年版」をもとに説明します。

日本からの報告では大腸がんの肝転移に対して切除を施行した場合の3年生存率は52.8%、5年生存率は39.2%でした。

がんが転移するとどうしてもその後の余命が気にかかると思います。しかし、ここで示した数値はあくまで多くの人を集計した統計データであり、ひとりひとりの状態に正確に当てはまるものではありません。

例えば同じ大腸がんの肝転移といっても、ほかに複数の臓器にも転移がある状況と、肝臓にだけ小さな転移がある状況では異なります。また肝臓にしか転移がない場合の中でも転移巣が1個と5個では治療のしやすさが違います。

参照:

大腸癌研究会プロジェクト研究Dis Colon Rectum 2003;46(Suppl):S22-S31

「がんが転移した」と聞くとどうしても余命について考えたくなる気持ちは理解できます。ですが、余命の告知は必ずしも正確ではないことに気を付けてください。余命を告知されたときに考えてほしいことは、月並な言い方になりますが、1日1日を大事に生きることです。

まずはご自分の病気の状態をよく知ることが大事です。確かに簡単にできることではありません。臨床医としての経験からも、がんが転移した状況のつらい気持ちは理解できます。特に手術で大腸がんを切除した後の再発となればなおさらだと思います。

しかし、大腸がんの肝転移は根治の可能性も残されている場合があります。根治が難しくなってからでもできる治療はあります。苦痛を和らげる緩和治療も大切です。緩和治療を勧められるのは「できることがない」という意味ではありません。緩和治療は根治を目指す治療と同時に受けることができます。落ち着いて主治医の話を聞いてください。

そして、少しずつでもいいのでこれからどのように過ごせばいいのか主治医に質問してください。同じことを繰り返し尋ねることになっても遠慮する必要はありません。あらかじめ質問を紙に書いておくと主治医が答えやすいかもしれません。

がんと診断されるとつらい状況に陥ります。それは皆同じです。がんに対して魔法のような治療はないのです。がんと向き合うことは簡単ではありませんが、前向きにできることは何かを考えていくことが重要なことです。

家族、医療者とあなたを支えてくれる人は大勢います。怖い気持ちを乗り越えるために、まず知ることから始めてみるのがいいと思います。