たこつぼがたしんきんしょう
たこつぼ型心筋症
心臓の一部が収縮しなくなり、急激に心臓の働きが悪くなる病気
4人の医師がチェック 85回の改訂 最終更新: 2023.10.17

たこつぼ型心筋症とは

たこつぼ型心筋症とは一時的に心臓の収縮が悪くなる病気です。急に胸が痛くなったり呼吸が苦しくなったりと、心筋梗塞によく似た症状が現れます。たこつぼ型心筋症のほとんどの人が1ヶ月以内に自然と治癒しますが、なかには重症になる人もいる油断できない病気です。このページではたこつぼ型心筋症の概要について説明します。

1. たこつぼ型心筋症とはどのような病気か

心臓の構造・心尖部

たこつぼ型心筋症とは、心尖部(しんせんぶ)と呼ばれる心臓の先端部分が収縮しなくなる病気です。左室造影という検査をすると、心臓が収縮した時に「たこつぼ」のような形に見えることから、このように命名されました。日本で見つかった病気で、海外でもTakotubo CardiomyopathyやTakotsubo Syndromeと呼ばれています。

たこつぼ型心筋症はどんな人に多いか

たこつぼ型心筋症は中高年の女性に多い病気です。平均年齢は約60歳で、87-90%が女性といわれています。また、発症には身体的・精神的ストレスと密接な関係があることがわかっています。

◎身体的ストレス:呼吸不全や脳神経疾患など

呼吸不全や脳神経疾患、外科手術などの身体的な負担がたこつぼ型心筋症の引き金になるといわれています。具体的な病気は、気管支喘息脳卒中筋萎縮性側索硬化症など多岐にわたります(脳卒中のときに生じる心筋症をたこつぼ型心筋症に含まない、とするガイドラインも存在します)。

◎精神的なストレス:災害や死別など

災害や、肉親や友人の死などの精神的ストレスがあったときに、たこつぼ型心筋症を発症したとの報告が多数あります。国内では、新潟県中越沖地震直後の被災地周辺でたこつぼ型心筋症を発症した人が急増したことが知られています。

2. たこつぼ型心筋症の症状について

たこつぼ型心筋症の主な症状は下記の3つです。

  • 胸痛
  • 呼吸困難
  • 失神

これらは心筋梗塞でも起こりうる症状です。症状だけでは区別が困難であり、心筋梗塞であれば速やかな治療が必要なので、上記の症状が現れたらいち早く受診してください。

3. たこつぼ型心筋症の検査について

たこつぼ型心筋症が疑われる人は主に下記のような検査を受けます。

【たこつぼ型心筋症の主な検査】

  • 血液検査
  • 心電図検査
  • 胸部レントゲン検査
  • 心臓超音波検査心臓エコー)
  • 冠動脈CT検査
  • 心臓カテーテル検査

医療機関を受診すると、まずは問診や診察を受け、加えて血液検査、心電図検査、胸部レントゲン検査、心臓超音波検査などの検査が行われます。これらは副作用が比較的少なく安心して受けられる検査です。そのうえで、たこつぼ型心筋症が否定できない人には、冠動脈CT検査や心臓カテーテル検査が行われます。

冠動脈CT検査や心臓カテーテル検査は、たこつぼ型心筋症をみつけるのに鍵となる検査ですが、馴染みのない人がほとんどだと思いますので説明します。

冠動脈CT検査とは

心筋梗塞と見分けるための検査です。造影剤という薬剤を注射後にCT検査をすることで、心臓を流れる冠動脈を映し出します。たこつぼ型心筋症によって冠動脈CT検査が異常な結果になることはありませんが、心筋梗塞では冠動脈が狭窄や閉塞している像が映し出されます。

心臓カテーテル検査とは

心臓カテーテル検査とは、医療用の細長い管(カテーテル)を血管内に挿入して心臓を調べる検査です。造影剤という薬剤を投与しながらレントゲン写真を撮影することで、冠動脈の流れがわかります。たこつぼ型心筋症では冠動脈の流れは悪くなりませんが、心筋梗塞であれば流れが悪くなります。また、アセチルコリンという薬剤を注入してから冠動脈造影を行うと、冠攣(かんれんしゅく)縮性狭心症かどうかがわかります。

4. たこつぼ型心筋症の治療について

ほとんどの人は特別な治療をしなくても改善します。しかし、合併症が起こると重症化することがあるので治療が必要です。

【重症になりやすい合併症の頻度と治療】

合併症 頻度 主な治療法
心不全 約20% 水分と塩分の制限、利尿薬、
補助循環装置(大動脈内バルーンパンピング)など
左室流出路狭窄 約15% 水分と塩分の補充、β遮断薬など
心室性不整脈 約5% 不整脈を誘発する薬剤の中止、
低カリウムの補正(カリウムの内服や点滴)
心臓内血栓 約3% 抗凝固薬

治療の詳細について知りたい人はこちらのページを参照してください。

5. たこつぼ型心筋症は再発するのか

たこつぼ型心筋症が治った後に再発した人は1年あたり1.8%だったという報告があります。全くないわけではありませんが、再発はほとんどないといえます。

参考文献

・明石嘉浩. たこつぼ心筋障害の臨床像と鑑別疾患.日本心臓核医学雑誌.2013 15(3)8-9.
・坂本信雄ら. たこつぼ心筋障害の病態に基づいた治療と再発防止.日本心臓核医学雑誌.2013 15(3)14-15.
・Templin.C et al.Clinical features and outcomes of takotsubo (stress) cardiomyopathy.N Engl J Med. 2015 373(10)929-938.