気管支炎とは:症状、原因、検査、治療など
肺内の空気の通り道である
1. 気管支炎とはどんな病気か
肺の中の空気の通り道を気管支と呼びます。気管支は肺の中で20回以上分岐して肺の隅々に行き渡り、酸素や二酸化炭素の交換に役立っています。この気管支に炎症が起きた状態を気管支炎と呼びます。
気管支炎の分類
気管支炎には、まず大きく分けて急性気管支炎と慢性気管支炎の2種類があります。急性気管支炎は数日から数週間単位で
単に気管支炎といった場合には、急性気管支炎を指すことが多いです。それぞれの気管支炎を起こす代表的な原因は以下の通りです。
【急性気管支炎の原因による分類】
- ウイルス性気管支炎(ライノウイルス、
アデノウイルス 、インフルエンザウイルス 、コロナウイルス 、RSウイルス など) 細菌 性気管支炎(マイコプラズマ、百日咳菌 など)- 有害物質の吸入による気管支炎 など
【慢性気管支炎の原因による分類】
上記のようにさまざまなものがありますが、頻度としてはウイルス性の急性気管支炎が最も多いです。細菌性気管支炎はウイルス性よりも症状が強く重症で、
風邪と急性気管支炎の違い
日本では、喉や鼻に急性で軽症の感染が起こると急性上気道炎(≒ かぜ症候群)、気管支に急性の感染が起こると急性気管支炎と呼んでいます。急性気管支炎に肺炎を
急性上気道炎と急性気管支炎を起こす原因はそれぞれ多様であるものの、いずれもウイルス感染によるものが最多です。そして、通常は軽症で自然治癒します。このような共通点があるため、欧米では急性気管支炎も合わせて「かぜ症候群」に含める考え方が一般的です。
日本の定義での急性気管支炎は、「風邪と肺炎の中間くらい」の深刻さと思ってよさそうです。口から
2. 気管支炎の症状について
気管支炎は「急性気管支炎」と「慢性気管支炎」に分けられることを、上で説明しました。それぞれ原因が異なるため、出現する症状にも違いがあります。
急性気管支炎
急性気管支炎は「咳がひどい風邪」の症状を考えるとイメージしやすいです。具体的には以下のような症状が出現します。
【急性気管支炎の症状】
- 咳
- 痰
- 発熱
- 悪寒
倦怠感 など
喉の痛みや鼻水などは急性上気道炎の症状であり、厳密には急性気管支炎の症状ではありません。ただし、上気道炎を起こすウイルスの炎症が上気道から気管支まで波及して気管支炎を起こすことが多いため、急性気管支炎では喉や鼻の症状を伴うことも少なくありません。
慢性気管支炎
慢性気管支炎では月単位、年単位で気管支が炎症を起こすため、以下のような症状が長引きます。
【慢性気管支炎の症状】
- 咳
- 痰
- 息切れ
- 体重減少 など
慢性気管支炎の最も多い原因は喫煙であり、タバコを吸っている人は禁煙することでこれらの症状の軽快が期待できます。
3. 気管支炎の検査、診断について
気管支炎の分類として、ウイルスなどの影響による急性気管支炎、喫煙などの影響による慢性気管支炎があります。単に気管支炎といった場合、通常は急性気管支炎を指します。以下では主に急性気管支炎の検査、診断について解説します。慢性気管支炎については、COPDなど慢性気管支炎を起こす各疾患ページをご覧ください。
問診、診察
急性気管支炎は主にウイルスによる気管支の炎症であり、「咳が目立つ風邪」のような症状が出ます。そのため、お医者さんは話を聞くだけで「気管支炎だろう」と診断できることが多いです。症状が軽ければ検査は必ずしも必要ありません。
一方で、以下のような人ではウイルスではなく細菌が原因の気管支炎や肺炎も考えられます。
【細菌性の気管支炎や肺炎が疑われる特徴】
- 38℃以上の高熱
- 発熱が3,4日以上持続
- ドロっとした黄色い痰
聴診 での呼吸音異常 など
こうした人では、
血液検査
血液検査は気管支炎の診断に直接結びつくものではありません。しかし、比較的簡単にできる検査であり、気管支炎以外の隠れた病気に関わる情報が得られることもあるため、しばしば行われます。
細菌性の気管支炎や肺炎では、血液検査で全身の炎症が強めに見られる傾向にあります。また、血液検査で菌そのものを検出することはできませんが、菌の種類を特定するのに役立つ情報が得られることもあります。
胸部レントゲン(X線)検査
胸部レントゲン検査では、肺や心臓など胸部の様子をおおまかに観察することができます。
気管支炎が疑われるときにレントゲン検査を行う意義の1つとして、肺炎になっていないかどうかのチェックがあります。気管支炎の多くはウイルスが原因で自然治癒する一方で、肺炎の多くは細菌が原因で抗菌薬による治療が必要です。そのため、問診や診察だけでは肺炎の可能性が否定できない人ではレントゲン検査が勧められます。
胸部CT検査
急性気管支炎の多くは自然治癒するものであり、CT検査などの精密検査を要しません。また、気管支炎のときにCT検査を行ったとしても、多少気管支が腫れている様子が分かることもありますが、目立った異常は検出できません。
一方で、肺炎が考えられる人や慢性気管支炎の人では、肺そのものや気管支にも目立った変化が出てくるため、CT検査はとても有用です。
ウイルス学的検査
急性気管支炎の多くはウイルスが原因であり自然治癒します。自然治癒するので、わざわざウイルスの種類を確定するための検査は通常行われません。
ただし、以下に挙げるようなウイルスによる気管支炎の可能性がある人では、感染管理の観点や、重症化リスクの観点からウイルスを特定する検査が行われることもあります。
【主なウイルス学的検査の対象】
- インフルエンザウイルス
- 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)
- アデノウイルス
- RSウイルス(乳児)
- ヒト・メタニューモウイルス(乳幼児) など
ウイルスは喉や鼻をぬぐったものから検出することが多いです。
細菌学的検査
急性気管支炎の多くはウイルスが原因ですが、症状が強いなどの理由で細菌性が疑われる人では、細菌を検出するための検査が行われることもあります。以下に挙げるような細菌がチェックされます。
【主な細菌学的検査の対象】
これらは血液検査や、喉のぬぐい液などから検出されます。また、肺炎を起こすような菌も検出するためには、痰を採取して検査することもあります。
4. 気管支炎の治療について
急性気管支炎の多くはウイルスが原因であり自然治癒します。そのため、治療の基本は一般的な風邪と同じです。
鎮咳薬(咳止め)、去痰薬(痰切り)
鎮咳薬(ちんがいやく)や去痰薬(きょたんやく)に気管支炎そのものを早く治す効果はありません。しかし、つらい咳や痰があるだけでもそれなりに体力を消費しますから、症状が辛い人は使ってみるのも立派な選択肢です。
近年は医療機関で処方されるものと同成分・同用量の鎮咳薬・去痰薬も多く市販されています。そのため、これらをもらうために医療機関を受診する必要は必ずしもありません。一方で、黄色いドロっとした痰が長引く、ただの風邪・気管支炎とは思えないほど症状が強いといった人では、細菌性の気管支炎や肺炎の可能性、あるいは喘息などの可能性もあるため、医療機関を受診してください。
解熱薬
熱がある時に何℃くらい出ていれば解熱薬を使ったほうがよいのかという疑問を持ったことのある人は多いかもしれません。しかし、これにはいろいろ議論があり結論は出ていません。お医者さんによって意見が異なるのが現状です。
熱は感染に対する防御反応であり、熱が高いほうが感染時に有利になるので、解熱薬を使うと治りが悪くなるという説があります。一方で、解熱薬を使ったほうが早く治ったという報告もあり、どちらのほうが良いのか結論は出ていません。
解熱薬を我慢したせいで、熱が辛くて食欲が落ちる、寝苦しくて寝付けず体力を消耗する、などという状況になっては元も子もないので、熱が辛いならば解熱薬を使用する、特に辛くなければ使わない、くらいのスタンスで良いものと思います。
抗ウイルス薬
抗ウイルス薬は気管支炎の原因となる特定のウイルスそのものをターゲットとして治療する薬です。早くウイルスを身体から追い出すことができるため、気管支炎をより早く治すことができると期待されます。
一方で、抗ウイルス薬には副作用が懸念されるものも少なくありません。また、鎮咳薬や解熱薬などと比較するとかなり高価です。急性気管支炎の多くはウイルスが原因であり自然治癒しますし、そもそも原因のウイルスは特定されないことが多いです。そのため、抗ウイルス薬の使用が検討されるのは、重症のウイルス性気管支炎の人など特殊なケースに限られます。
インフルエンザウイルスに対しては抗ウイルス薬が日本では多く処方されますが、世界的にはこれはとても珍しい状況です。若くてもともと持病がない人であれば、インフルエンザも基本的に自然治癒するため、抗ウイルス薬は必須ではありません。(詳しくはコラム「感染症内科医が伝えたいインフルエンザの治療薬について」でも説明しています。)
抗菌薬(抗生物質)
急性気管支炎のほとんどはウイルスによるものであり、細菌によるものではありません。そのため、細菌をターゲットとした薬である抗菌薬は無効です。
一方で、マイコプラズマや百日咳など細菌による気管支炎や、その他の菌による肺炎の可能性が否定できない際には抗菌薬の使用が勧められます。
抗菌薬が必要な人と不要な人を見極めるのは、お医者さんにとっても時に難しかったり、追加の検査を必要とすることがあります。「心配だからとりあえず抗菌薬を使ってしまおう」という気持ちを持つ人は多いですし、お医者さんでもそうした考えになってしまうこともあります。しかし、不要な抗菌薬を使うと
参考文献
日本呼吸器学会呼吸器