2017.06.02 | ニュース

咳で抗生物質はすぐ使わなくても大丈夫?

イギリス28,779人の経過を比較

from BMJ (Clinical research ed.)

咳で抗生物質はすぐ使わなくても大丈夫?の写真

細菌による気管支炎などの感染症は元気な人にもよく起こります。抗菌薬なしで治療できる場合も、自然に治る場合もあります。抗菌薬をすぐ使う・待ってから使う・使わないという違いによる結果が比較されました。

この記事は当初「肺炎で抗生物質はすぐ使わなくても大丈夫?」という題名で公開しました。

公開後、研究の主な対象は肺炎ではないという趣旨のご指摘を複数いただきました。誤解を招く恐れを考えて、題名および本文で肺炎に関して触れた箇所を訂正しました。

ここで紹介した研究は、受診当日の画像検査で肺炎と確かめられた患者などを対象から除いています。

誤解を招く表現をしてしまったことを反省し、今後いっそう正確な記事作成に努めます。

 

イギリスなどの研究班が、抗菌薬(抗生物質、抗生剤)の使いかたによる結果の違いを調べ、医学誌『BMJ』に報告しました。

この研究は、16歳以上の患者で合併症のない急性下気道感染症の経過を調べています。

下気道というのは気管や肺のことです。気管支炎などが急性下気道感染症に含まれます。合併症がないというのは急性下気道感染症によってほかの問題が引き起こされていないということです。

もともと元気だった人に咳が続いて病院に行き、気管支炎と診断されたようなケースが対象とされています。

対象患者の経過などが記録されました。最初に受診した日に入院となった人などを除き、28,779人のデータから統計解析が行われました。

研究班は、対象患者に抗菌薬が使われたか、またいつ使われたかを3種類に分類しました。

  • 抗菌薬を使わなかった
  • すぐに抗菌薬を使った
  • 遅れて抗菌薬を使った

それぞれの場合で死亡または入院に至った割合などが比較されました。重症だった場合にはすぐに抗菌薬を使うことが多いなどが予想されるため、計算上の調整により、すぐに抗菌薬を使うかどうかに影響する可能性があると思われた要素は除いて比較されました。

 

入院または死亡に至った人は、抗菌薬を使わなかった患者のうち0.3%、すぐに抗菌薬を使った患者のうち0.9%、遅れて抗菌薬を使った患者のうち0.4%でした。遅れて抗菌薬を使った患者では、最初の受診から3日前後経って抗菌薬が使われていました。

統計解析により、すぐに抗菌薬を使うことで入院または死亡は減っていないと見られました。

また新たな症状、症状の悪化、症状がなくならないことによる再受診は、遅れて抗菌薬を使用した場合に少なくなっていましたが、すぐに抗菌薬を使用した場合には減っていませんでした

 

合併症のない急性下気道感染症に対してすぐに抗菌薬を使っても入院や死亡は減らず、症状の悪化などによる再受診も減らなかったという研究報告を紹介しました。

注意するべき点として、この報告は既存のデータを解析しているため、対象者の背景を統一する手法は使われていません。すなわち、抗菌薬を使わなかった人とすぐに抗菌薬を使った人では条件が同じとは言えません。想定された要素については計算上で調整されていますが、未知の偏りが残っている可能性を完全には否定できません。

証拠の強さとしては限界があるものの、咳があるからといってすぐには抗菌薬を使わないという考え方に注意を促す結果と言えるかもしれません。

 

抗菌薬を慎重に使うことはいま、国際的に話題となっています。抗菌薬を不用意に使い続けると耐性菌の発生が助長されます。

耐性菌とは特定の抗菌薬が効かなくなった細菌のことです。抗菌薬を使うと、ある程度の確率で耐性菌が生まれます。抗菌薬をたびたび使うほど、耐性菌が生まれる機会を増やすことになってしまいます。耐性菌が蔓延すれば、いざというときに使える抗菌薬が少なくなってしまいます。

また、抗菌薬も薬なので副作用があります。必要性が小さい場面では副作用の観点からも最小限の使用にとどめるべきです。

ここで紹介した研究は呼吸器感染症に対して抗菌薬処方を検討する医師の助けになるかもしれません。

「病院に行ったのに抗生物質も出してもらえなかった」といった出来事があると不安になるかもしれませんが、医師は薬による利益と害のバランスを考えて処方しています。ひとつひとつの判断のためにこうした研究結果が参考にされています。治療に疑問や不安を感じたときは、遠慮せず医師に判断の理由などを質問してみてください。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Antibiotic prescription strategies and adverse outcome for uncomplicated lower respiratory tractinfections: prospective cough complication cohort (3C) study.

BMJ. 2017 May 22.

[PMID: 28533265]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

▲ ページトップに戻る