2016.04.30 | ニュース

「尿に細菌がいたらすぐに抗生物質」は逆効果? 尿内の細菌に対する抗菌薬の使い方について考える

女性550人の治療で比較

from Clinical infectious diseases : an official publication of the Infectious Diseases Society of America

「尿に細菌がいたらすぐに抗生物質」は逆効果? 尿内の細菌に対する抗菌薬の使い方について考えるの写真

尿の中に細菌がいると聞くと、危なそうだと思えるかもしれません。ところが、膀胱炎や腎盂腎炎といった尿路感染症を防ごうとして抗菌薬を使うと、逆に尿路感染症が増えていたという研究結果が報告されました。

◆尿路感染症を繰り返していたら予防するべき?

尿検査で細菌が見えると、尿路感染症(膀胱炎や腎盂腎炎など)にかかることが心配になり、感染症を専門に診ている私でも、ついつい抗菌薬(抗生物質)を使って除菌したい気持ちになることがあります。しかし、膀胱など尿路に細菌がいても、皮膚にいる常在菌のように悪さをしないこともあります。膀胱炎などの症状がない人の尿にいる菌に対して、膀胱炎などを予防する狙いで抗菌薬を用いることが、どのくらいのメリットをもたらすのかは、完全には判明していません。

ここで紹介する論文は、尿路感染症を繰り返す女性に、予防的な抗菌薬を用いることで果たして良い効果は得られているのかを調べたものです。

研究チームは、尿路感染症を繰り返す女性を対象として、抗菌薬を使う群と使わない群にランダムに分けました。抗菌薬を使った293人と、使わなかった257人を比較して、尿路感染症の再発がどちらに多いかを調べました。


 

◆抗菌薬を使うほうが再発が多い

次の結果が得られました。

尿路感染症の再発率は、予防的抗菌薬治療を行った群は69.6%で、行わなかった群が37.7%と、予防的治療を行った群の方が有意に再発が多かった。(p<0.001、HR4.36)

抗菌薬治療を行った群から検出された大腸菌は、アモキシシリン・クラブラン酸(p=0.03)とトリメトプリム・サルファメトキサゾール(p=0.01)とシプロフロキサシン(p=0.03)といった抗菌薬に対する耐性化が有意に見られていた。

つまり、繰り返す尿路感染症に対して抗菌薬を予防的に使うことは、かえって尿路感染症の再発をもたらしている可能性があるという結果になりました。

また、予防的抗菌薬を使用した群の方で、体内に抗菌薬の効かない細菌(耐性菌)が多く観察されていました。

 

症状がなくただ尿の中にいるだけの細菌に対して、予防的に抗菌薬を使うことで、かえって尿路感染症のリスクを上げてしまう可能性があることがこの論文から見えてきます。また、不必要に抗菌薬を使用することで、体の中に耐性菌を作ってしまっていることも示唆されます。

抗菌薬は、使うことでデメリットもあることを忘れずに、必要最小限の使用にとどめた方が良さそうです。

参考文献

Asymptomatic bacteriuria treatment is associated with a higher prevalence of antibiotic resistant strains in women with urinary tract infections.

Clin Infect Dis. 2015 Dec 1.

[PMID: 26270684]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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