肥満(肥満症)の治療:食事療法、運動療法、薬物療法、手術など
肥満治療の基本は食事療法と運動療法です。どちらも取り組むには根気がいるものですが、食事療法の支障となる食べ方のクセを見つけるのには行動療法が役立ちます。高度肥満症でこれらの治療をしても減量が難しい人には、食欲抑制剤や手術による治療が行われることもあります。
1. 食事療法
肥満治療では、エネルギーの摂取量を減らす「カロリー制限」が重要です。ただし、摂取エネルギーを減らしても必要な栄養はきちんと摂らなくてはなりません。お医者さんや栄養士さんと相談しながら、栄養バランスを考えた食事をし、身体に負担がかからないよう心がけてください。
どのくらいカロリー制限したらよいのか
「肥満症
◎
減量の目安となるエネルギー摂取量は、1日あたり「25 × 身長(m)× 身長(m)× 22 kcal」以下です。
身長160cmの人であれば、1日に25 ×️ 22 ×️ 1.6 ×️ 1.6=1408 kcal 以下となります。ただし減量効果には個人差がありますので、それでも体重が減らない時はより厳しいカロリー制限が必要です。
◎BMIが35以上の高度肥満症の大人
BMI35以上の肥満によって健康が害されている状態を、高度肥満症といいます。減量の目安となるエネルギー摂取量は、1日あたり「20〜25 × 身長(m)× 身長(m)× 22 kcal」です。
身長160cmであれば、1日あたり20〜25 ×️ ️22 ×️ 1.6 ×️ 1.6=1130〜1400 kcal となります。それでも体重が減らない時には、1日あたり600 kcal程度まで厳しく制限することがありますが、かなり低いカロリーで過ごすことになるため、専門家(医師や栄養士)の指導下で行うことが望ましいです。
◎肥満症の子ども
カロリー制限をしすぎると、栄養のバランスが崩れて成長に必要な栄養素が不足することがあります。子どもでは肥満であっても過度なカロリー制限をせず、必要なエネルギーは摂るようにしてください。
【子どもの推定エネルギー必要量(身体活動レベルII)】
| 年齢 | 推定エネルギー必要量 | |
| 男性 | 女性 | |
| 1-2歳 | 950 kcal | 900 kcal |
| 3-5歳 | 1300 kcal | 1250 kcal |
| 6-7歳 | 1550 kcal | 1450 kcal |
| 8-9歳 | 1850 kcal | 1700 kcal |
| 10-11歳 | 2250 kcal | 2100 kcal |
| 12-14歳 | 2600 kcal | 2400 kcal |
| 15-17歳 | 2800 kcal | 2300 kcal |
(参考:日本人の食事摂取基準2020年版)
この表の身体活動レベルIIとは、通園・通学をしたり軽いスポーツをしたりする程度の「ふつう」くらいの運動量のことです。ほとんどの子どもはこの身体活動レベルIIに相当すると考えられます。自宅にいてほとんど外出しない子どもは身体活動レベルIに該当するので上記よりも少ない量になりますし、激しい運動をする子どもでは身体活動レベルIIIに該当し、もっと多くのエネルギーが必要です。
カロリー制限時の注意点とは
摂取エネルギーを減らせば減らすほど体重は減りますが、やみくもに制限をして良いわけではありません。エネルギーを減らすことにとらわれすぎて必要な栄養素が摂れなくなると、筋肉や骨量が減ってしまったり、体調を崩してしまうことがあります。
減量中に不足しやすい栄養は、必須
また、必要な栄養がバランスよく配合されている「フォーミュラ食」と呼ばれる製品が市販されています。フォーミュラ食とは、糖質と脂質が少ない一方でタンパク質、ビタミン、ミネラル、微量元素を適度に含んだ調整品です。1食あたり約180kcalであり、目標カロリーにあわせて1日1-3回の食事をフォーミュラ食に置き換えて使用します。手軽なので、気になる人は試してみても良いでしょう。
2. 運動療法

運動の効果は減量や肥満予防にとどまりません。一度落とした体重を維持する「リバウンド予防効果」もあると言われています[3]。また、運動で減量ができれば、血圧降下や糖尿病の
激しい運動である必要はありません。早歩きや自転車に乗るくらいの、中強度の運動で十分効果が期待できます。また、日常生活のひと工夫で活動量を増やすのも良い運動になります。たとえば、通勤通学で一駅分歩く、エスカレーターやエレベーターではなく階段を使う、家事のついでに意識的に身体を動かす、といったことです。
運動時間の目安
肥満の人は、最低週150分程度の時間、中強度の運動をすることを目標にしてみてください。体重増加を防ぎ、さらには心筋梗塞の予防や糖尿病の発症予防にもなると言われています[4]。また、減量には週200分以上の中等度の運動をすると良いと言われています[4]。
ただし、適切な運動強度は、体質や体重によって違いがあります。さらには、肥満の人の中には反対に運動制限が必要な人もいます。たとえば、狭心症、糖尿病、変形性関節症などの病気の人です。その病気の状態などによって運動の可否や適切な運動負荷は異なるため、運動を始める前にお医者さんに相談すると安心です。
3. 行動療法
肥満の人の多くは食べ方に改善すべき点が見られます。しかし、どの行動に問題があるのか本人が気がついていないこともあるため、まずは肥満につながる食べ方があるかどうかを洗い出し、対処につなげます。このような治療法を行動療法といいます。
食行動質問表
食行動質問紙表では、食事にまつわる55個の質問に答えることで、食べ方の問題点を浮き彫りにします。たとえば、間食をしていないか、ストレス食いをしていないか、外食が多すぎないか、買い物で食べ物を多く買いすぎていないかなどの質問です。ここから、肥満につながる食べ方の「くせ」を見つけます。洗い出された問題点を見直すことで、体重減少を目指すことが可能です。
グラフ化体重日記
1日4回、起床直後、朝食直後、夕食直後、就寝直前の体重を毎日記録し、体重の増減を分析する方法です。どのタイミングで体重が増えたり減ったりしたかがわかるため、生活習慣の体重への影響をつかみやすくなります。体重増加の原因となっていそうな生活習慣があれば見直すことで、減量につなげられます。
4. 薬物療法
食事療法や運動療法でも体重が改善しない時には薬を使用することがあります。
漢方薬:防風通聖散
体型ががっちりしていて血色が良い人に向いている漢方薬です。おなかに皮下脂肪があって、便秘がちの人に用いられます。脂肪燃焼を高めることで肥満症の治療につながると考えられています。また、高血圧や肥満に伴う
オルリスタット(商品名:アライ®)
食事に含まれる脂肪の吸収を抑える薬です。体に取り込まれる脂肪ならびに摂取カロリーが減ります。お腹が太目(腹囲:男性85㎝以上、女性90㎝以上)で、生活習慣の改善を行っている人がこの薬を使うと内臓脂肪減少が期待できます。食事に含まれた脂肪を便にして排泄するので、油っぽい便が出るのが特徴です。また、少しお通じが緩くなるので、便もれしてしまうことには注意が必要です。
オルリスタットは処方薬ではなく、市販薬(要指導医薬品)に分類されるので、薬剤師から入手することができます。アライ®を試してみたい人は薬局に問い合わせてみてください。
食欲抑制剤(一般名:マジンドール、商品名:サノレックス®)
脳の
肥満の人の中でも、食事療法や運動療法をしても肥満が解消しない高度肥満症の人に用いられる薬です。覚醒作用があり睡眠障害を引き起こす可能性があるため、夕刻の服用は避けてください。はじめは1錠を1日1回飲むように処方されることが多いです。効果が不十分であれば1錠を1日2-3回に増量していくこともあります。ただし、依存性がある薬であるため3ヶ月以上長く使うことはしません。
GLP-1受容体作動薬(一般名:セマグルチド、商品名:ウゴービ®)
GLP-1受容体作動薬は糖尿病の治療薬ですが、減量効果も期待できることから、本邦では2023年から条件を満たした肥満症の人に対して
【GLP-1受容体作動薬の作用】
- 膵臓から
インスリン (血糖 値を下げるホルモン )の分泌を促す グルカゴン (血糖値を上げるホルモン)の分泌を抑える- 胃や腸の動きを落とし、食べ物の消化スピードを緩やかにする
- 脳に働きかけ食欲を抑える
前述のとおり、保険適用でGLP-1受容体作動薬を使うには、下記の条件を満たす必要があります。つまり肥満症の人全員が対象になるわけではありません。
【GLP-1受容体作動薬の保険適用の条件】
5. 外科療法(手術)
外科療法の対象者は主にBMI35以上の人です。手術法には、胃の一部を切り取る方法(スリーブ状胃切除術)や、胃腸を切断して別の位置につなぐ方法(バイパス術)があります。2つを同時に行うこともあります。
こうした外科治療により胃の容量を小さくすると、食欲や消化吸収が抑えられ、手術をしないで減量するよりもリバウンドを防ぐ効果が期待でき[5]、肥満による死亡率が減ると言われています[6]。一方で、外科療法には
参考文献
[1]日本肥満学会. 肥満症診療ガイドライン2016. ライフサイエンス出版. 2016
[2]日本肥満学会. 小児肥満症診療ガイドライン2017. ライフサイエンス出版.2017
[3]Donnelly JE, et al. American College of Sports Medicine. American College of Sports Medicine Position Stand. Appropriate physical activity intervention strategies for weight loss and prevention of weight regain for adults. Med Sci Sports Exerc. 2009 Feb;41(2):459-71.
[4]Jakicic JM, et al. American College of Sports Medicine. American College of Sports Medicine position stand. Appropriate intervention strategies for weight loss and prevention of weight regain for adults. Med Sci Sports Exerc. 2001 Dec;33(12):2145-56.
[5]Colquitt JL, et al. Surgery for weight loss in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2014 Aug 8;(8):CD003641. doi: 10.1002/14651858.CD003641.pub4.
[6]Christou NV, et al. Surgery decreases long-term mortality, morbidity, and health care use in morbidly obese patients. Ann Surg. 2004 Sep;240(3):416-23; discussion 423-4. doi: 10.1097/01.sla.0000137343.63376.19.