「肥満は恥ずかしい」と子供に思わせないための米国小児科学会宣言
肥満は健康によくないとはいえ、不当な偏見も多く、偏見が健康を害する場合もあります。米国小児科学会が、青少年が肥満について受ける恥辱に対策する宣言を示しました。
肥満を責めると逆効果に?
米国小児科学会が、肥満を持つ子供・未成年者が受ける恥辱(スティグマ)に対策することを宣言し、小児科医療に携わる専門家に対する推奨を含む声明文を、自ら発行する専門誌『Pediatrics』に掲載しました。
体重についての恥辱(スティグマ)とは、「その人が過体重または肥満を持つことを理由に社会的に評価を下げることを指し、しばしば肥満を持つ個人が怠け者で、意欲がなく、意志の力や訓練が足りていないという決めつけを含む」と説明されています。
この声明は、肥満を持つ人を不当に扱うことが、その人にとって受け入れがたいだけでなく、健康上も望ましくないという観点に立っています。不当な扱いを受けた人は体重を減らすよりもむしろ摂食障害に陥ったり医療を避けたりする場合があるとした報告などが引用されています。
同様に病気に対する偏見が適切な治療を妨げた歴史上の例として、エイズ、アルコール依存症などが挙げられています。
肥満に対する偏見にどう取り組むか?
声明文は、肥満がある子供・未成年者に対して子供・未成年者どうし、家族、教育者、メディア、あるいは医療従事者によって、さまざまな形で不当な扱いがなされる可能性を挙げています。
また、それらの不当な扱いによって、精神医学的影響、社会的影響、不健康な食行動、運動量の減少、肥満の悪化などにつながる可能性についても議論しています。
対策として、小児科医をはじめとする医療従事者に対して、以下のことを推奨しています。
- 肥満のある人やその家族を偏見なく支持する態度を見せる。肥満には遺伝や社会経済的要素が複雑に関わっていることを認識する。
- 悪い印象を与える「肥満」「太った」「体重の問題」といった言葉を避け、中立的な「体重」「
BMI 」という言葉を選ぶ。 - 「健康的でない体重」などの表現を使い、健康上のリスクをバランスよく共感的に伝える。
- 患者や家族が行動の変化を起こせるように、患者中心で共感を示した態度をとる。
- 患者にとって安全で来やすい環境を作る。
- 肥満の背景に、いじめや学校の成績が悪いことなどの影響がないかを調べる。
さらに、肥満を持つ人を取り巻く環境をよりよくするために、医療従事者がさまざまな関係者に働きかけることを推奨しています。
- 学校での体重によるいじめ対策に関わる。
- 若い人を対象にしたメディアで肥満がある人が敬意ある表現で扱われるように声を上げる。
- 医学教育の中で肥満がある人を公平に扱うことを教える。
- 家族に対して、学校や家庭で体重を恥ずかしいと思わされないように取り組む助けとなる。
声明の結論には、「小児科医療従事者は肥満のある人々の恥辱に対応する試みの中で重要な役割を果たし、肥満を貶めることが肥満を減らすことにも健康的な行動を促すことにもならないという認識を広めることができる」と記されています。
社会は肥満とどう向き合うか?
肥満のある子供・未成年者の不当な扱いについて、アメリカの団体の宣言を紹介しました。
アメリカで言われていることを日本にも当てはめようとするなら、身体的にも文化的にも違う背景を考えに入れる必要はあるかもしれません。しかし同時に、全世界に共通する要素も読み取れるかもしれません。
肥満が引き起こす健康問題に取り組むためにこそ、肥満についての正しい態度とは何かを社会全体が問われているのではないでしょうか。
執筆者
Stigma Experienced by Children and Adolescents With Obesity.
Pediatrics. 2017 Nov.
[PMID: 29158228] http://pediatrics.aappublications.org/content/early/2017/11/16/peds.2017-3034※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。