けっかく(はいけっかく)
結核(肺結核)
結核菌を吸い込むことで発症する肺の感染症。せき、たん、血痰、喀血, 発熱、体重減少などを起こす
13人の医師がチェック 129回の改訂 最終更新: 2024.03.18

近くの人が結核になったらどうしたら良い?結核感染の成り立ちと予防方法。うつされないために、そして広めないために

結核は周囲にうつる病気です。しかし、結核患者に接触したからといって必ず結核になるわけではありません。人体には感染から身を守る仕組みがあるからです。 

結核は人にうつる病気ですので、周囲にうつらないようにしなければなりません。そのために、結核患者を隔離することがあります。しかし、結核にかかった人はみんながみんな周囲にうつすわけではありません。周囲にうつす恐れがほとんどない人を隔離する必要はありません。
周囲にうつす結核なのかどうかは、結核菌が身体の外に排出されているのかどうかがポイントになります。
 

感染症が周囲にうつるときの様式を大きく分けると以下の3つになります。

  • 空気感染(別名は飛沫核感染、ひまつかくかんせん):5μm(マイクロメートル、1μmは1mmの1000分の1)未満の大きさの感染源が空気中を1m以上移動できる。
  • 飛沫感染:5μm以上の感染源が、咳やくしゃみや会話の際に唾液などの飛沫(しぶき)に含まれて飛び散ることでうつる。空気中を短距離であれば移動できる。
  • 接触感染:患者やその周囲に触れることでうつる。

結核は空気感染することがわかっています。結核以外に空気感染する病気は、はしか水ぼうそう、広範囲の帯状疱疹などが挙げられます。

咳などで肺にいた結核菌が体外に飛び出します。すると空気に乗って結核菌が周囲に飛び散っていきます。結核菌を周りの人が吸い込むことで感染が広まっていくことになります。空気感染する病気は、病原体が周囲に飛散することに関して非常に注意が必要です。咳などで菌を身体から出している(排菌している)人は要注意ということになります。
 

咳などで結核菌が排菌されることは、結核がうつる経路の一つとして重要です。結核患者の咳には気を付けなければいけません。
ただし、正確には咳のほかにも排菌する場合があります。咳をしていなければ排菌していないとは限りません。
実際には検査で一定基準を満たした場合に「排菌がない」と判定します。検査をしても見逃しが絶対にないとは言い切れませんが、現在の基準が9割方信頼できることは経験からわかっています。基準は非常に複雑なのでここでは省きます。排菌の有無は検査をしなければ判定できないという点を覚えておいてください。
では、排菌しているかどうかの判定によって、どのような違いがあるのでしょうか。次に説明します。

結核の治療は、排菌しているかどうかで大きく変わります。入院などに大きな影響があります。

■結核菌を排菌している場合
結核菌を排菌している場合は、周囲に結核をうつす可能性があります。そのため、隔離が必要になります。特殊な例外を除いて入院が必要です。一つの例として、感染している人が入院することを家族全員が希望しないといった場合が挙げられます。
また、結核の治療薬は副作用が出やすいです。そのため、副作用が出るリスクの高い人も入院治療が必要です。
結核の治療を行っていくと、体内の結核菌が排菌されなくなることがあります。その場合は退院が可能になります。退院してからは外来で治療を続けることになります。

■結核菌を排菌していない場合
排菌していない場合は周囲に結核をうつす心配がありません。そのため「うつさないため」という点からは入院する必要がありません。しかし、上でも述べた通り、結核の治療薬は副作用が出やすいので、高齢の人や持病がある人は入院して治療を行うことが多いです。

結核は空気感染をします。結核患者が排菌した結核菌を吸い込むことによって感染します。結核菌を吸い込んだ場合、身体が結核菌を排除するように働き、ほとんどの場合で結核菌による感染は成立しません。しかし、吸い込んだ結核菌の量が多かったりして結核菌を排除できなかった場合には感染が起こります。

結核菌による感染が起こった場合は、身体の免疫機構が感染を抑え込もうと働きます。そのため、結核菌に感染した人の中でも、結核が発病する人は1割ほどです。逆に言うと9割ほどは結核の感染が起こっても、結核を発症しない状態になります。この状態になると、結核菌を完全に身体から排除することは難しいものの、免疫力が働いて結核菌を抑え込んでいます。この状態を潜在性結核と言います。

誰もが勘違いしやすいポイントなのですが、感染することと発病することは違います。
細菌が体に入ると感染が起こります。しかし、細菌は人体に入り込んだだけで必ず感染を起こすわけではありません。常在菌という言葉を聞いたことはあるでしょうか。例えば腸の中には数百兆の腸内細菌がいると言われています。それでも感染は起こりません。一方で、お腹に細菌が入った時に、体調が悪かったり、細菌の量が多かったり、細菌の種類が人体への有毒性が高いものだったりすると感染が起こります。つまり、細菌の種類や体の調子などの多くの要因が重なって、感染が起こるかどうかが決まります。

感染が起こった部位では炎症が起こります。しかし、この時点ではまだ発病(症状のある病気になること)するかどうかはわかりません。感染から身体を守るための免疫という働きがあります。この免疫が感染を押さえ込めば発病することはありません。

感染と発病を区別することで、結核対策も理解しやすくなります。結核菌の感染と発病に当てはめて見ていきましょう。
 

結核感染は体内に結核菌が入ってくることで始まります。結核菌が吸い込まれて肺の奥(肺胞)に至ると、結核菌はそこで増殖します。その後、結核菌はリンパ液や血液に侵入し、全身に広がっていきます。

しかし、身体も結核菌にやられるがままになっているわけではありません。結核菌が体内に入ってくるとこれを排除しようとする力が働くため、多くの場合は結核菌が入ってきても感染が起こる前に体内からいなくなります。また、結核菌による感染が起こっても、結核菌を記憶した免疫が力を発揮して、結核菌が増えないように働きます。そのため、結核菌の感染が成立しても、大半の場合では結核を発病しません。実際に、結核菌に感染した人のうちおよそ5-10%程度が結核を発病すると言われています。結核菌に感染したけれど発病しなかった人は、体内に結核菌が潜んだ状態(潜在性結核)になります。

上で述べたように、結核菌による感染は起こっているものの結核を発病していない状態を潜在性結核と言います。この状態では自覚症状はありません。しかし、免疫力が働き続けることで結核菌が活動的になるのを抑え込んでいる状態ですので、年齢の影響や薬の副作用などで免疫力が落ちてきた時に結核を発病することがあります。これを二次性結核と言います。

潜在性結核の問題は、結核を発病していないためどこに結核菌がひそんでいるのかわからないことです。そのため、細菌学的検査を用いて結核菌が身体に入ることを証明することはできません。そこで有効になるのが、IGRA(インターフェロンγ遊離試験)やツベルクリン反応です。
IGRAやツベルクリン反応が陽性であった場合は、以下の3つのパターンが考えられます。

  1. 現在結核菌が活動性を持っている状態(結核)
  2. 結核に感染しているものの結核を発病していない状態(潜在性結核)
  3. 過去に結核に感染したが治療済みの状態

過去に結核の治療をしていないければ結核か潜在性結核です。結核を発病していても検査でなかなか結核菌を見つけられない場合があります。そのため、結核の治療をしたことがない人でIGRAやツベルクリン反応が陽性であった場合には、自分の状態が結核なのか潜在性結核なのかを慎重に判断する必要が出てきます。
結核であれば上で述べたように、4剤あるいは3剤を用いて治療します。一方で潜在性結核の場合は、イソニアジドを6ヶ月あるいは9ヶ月飲むことになります。アレルギーや副作用でイソニアジドを飲めない場合はリファンピシンを4ヶ月飲むことになります。このように治療方法が大きく変わりますので、結核を発病しているのかどうかは慎重に繰り返し検査することが望ましいです。

結核には予防接種があります。BCGという注射です。以前はツベルクリン反応が陰性の人を対象としてBCG注射を3回(幼児期、小学生時、中学生時)打っていました。現在は1歳になる前に全員が(打てない状態にある例外を除いて)1回打つことになっています。

BCGを打つと結核を予防できます。BCGの予防効果は5−7割ほどと言われています。
この効果は決して小さいものではありません。BCGを接種しておくと、周囲の人が結核になった時に自分がうつされる確率が半分以下になります。もし自分の周りの人もBCGを接種していれば、さらにその周囲の人に結核をうつす確率は4分の1以下になります。こうして周囲にうつす確率はどんどん低くなります。自分だけでなく社会全体で見ると、ワクチンが感染を予防する効果は予想以上に大きくなります。

結核になりやすいため注意が必要な人がいます。特に細胞性免疫不全という状態になると結核になりやすいことが分かっています。細胞性免疫不全とはどういった状況なのでしょうか。

免疫不全とは何らかの理由で免疫が弱くなり、感染症にかかりやすくなった状態のことです。HIV感染症などが免疫不全を引き起こします。もともと元気な人が日常生活の中で免疫不全になることは通常ありません。
免疫不全を大別すると以下の4つのパターンが有ると言われています。

  • 細胞性免疫不全
  • 液性免疫不全
  • 好中球の障害
  • 物理的バリアの破綻

これらの中でも細胞性免疫不全がある場合には結核に注意が必要になります。
細胞性免疫は細胞内に寄生する微生物を攻撃します。結核菌は細胞内に寄生するため、結核に対しては細胞性免疫が非常に大きな役割を果たしています。しかし、細胞性免疫不全になると、細胞内に寄生した結核菌を攻撃できなくなってしまいます。そのため、細胞性免疫不全では結核になりやすくなります。

細胞性免疫不全を起こす原因は多種ありますが、主なものは以下になります。

細胞性免疫不全の状態にあるとわかっている人では、結核にも注意が要ります。たとえばHIV感染症の時には同時に結核にもかかっていないかを確認する必要があります。
逆に、結核にかかったことによってHIV感染症が見つかることもあります。結核もHIV感染症も自覚症状に乏しいことが多いです。結核になっていると分かったときは背景にHIV感染症が存在していないかを確認する必要があります。

結核の治療をして治したつもりでも再発してしまうことがあります。もちろん、治療が不完全であった場合(治療薬が不適切・治療期間が不適切・きちんと薬を飲んでいないなど)は再発の危険性が高くなるのですが、適切な治療を行っていても数%ほどは再発すると言われています。
 

結核を治療したのにどうして再発するのでしょうか。
一度結核が感染を起こしてしまうと、適切な治療をしても結核菌を完全に身体から排除することは難しいです。ただ、治療によって結核菌の量が著しく減るため、少ない量の結核菌であればしばらくは免疫力が抑え込んでくれます。しかし、治療が終了すると結核菌が再度増殖してしまうことがあり、増殖を免疫が抑えられなくなると再発します。このようなパターンは治療を終了して半年から1年ほどに起こりやすいことが分かっています。また、年をとったりステロイドを飲んだりして免疫力が低下した時も、体内に潜んでいた結核菌が活動的になることがあるので注意が必要です。
結核菌の感染を起こしている場所が複数箇所の場合や、治療しても2ヶ月以上排菌するような場合には結核の再発が多いことが分かっているので要注意です。

結核が再発した場合は専門家の治療を受けることが望ましいです。結核の再発の際に気をつけれなければならないのは、薬剤耐性結核菌の存在です。そのため、必ず結核菌を培養して薬剤感受性試験(結核治療薬が有効かどうかを調べる検査)を行います。
再発した結核の治療で通常の4剤併用治療法(イソニアジド、リファンピシン、ピラジナミド、エタンブトール)を行えるのは以下の両方を満たした場合です。

  • 最初に治療した時に培養した結核菌が耐性菌でなかった
  • 治療は適切に行われていた

このいずれかが満たされていなかった場合は、さらに他の治療薬を追加したり治療期間を延長したりする必要が出てくるので、専門家の治療が望ましいでしょう。