らんそうがん
卵巣がん
卵巣にできた悪性腫瘍のこと。大きく3種類に分けられるが、上皮性卵巣がんというタイプが多い
10人の医師がチェック 117回の改訂 最終更新: 2023.12.20

卵巣がんについて知っておいて欲しいこと

卵巣がんだと言われたら、さまざまな不安や疑問がわいてくると思います。「卵巣がんが心配な人の疑問」や「治療に際して知っておいて欲しいこと」をこのページではまとめています。

1. 卵巣がんが心配な人に知って欲しいこと

身近に卵巣がんの人がいたりしたら、自分も卵巣がんになるのではないかと心配になるかもしれません。ここでは卵巣がんの検診や予防、遺伝との関係について説明します。

卵巣がんは検診で見つけることができるのか

検診とは特定の病気の早期発見を目的とした診察や検査のことです。

がんの中にはいくつか検診が実施されているものがあります。具体的には、大腸がんの便潜血検査や乳がんマンモグラフィ検査、胃がんの胃透視検査などです。その一方で、卵巣がんには現在のところ有効な検診法が確立されていません。このため、卵巣がんは自覚症状から見つかることがほとんどです。

将来、卵巣がんにも有効な検診法が見つかるかもしれませんが、現在のところは気になる症状がある場合にすみやかに医療機関を受診することが、早期発見に最も有効です。

卵巣がんは予防することができるのか

卵巣がんの有効な予防法は見つかってはいません。ただし、卵巣がんのリスクをあげるものとして、次のものが知られています。

  • 血縁者の病気について
    • 卵巣がんにかかった人がいる
    • 乳がんにかかった人がいる
  • 身体の特徴について
    • 初経の年齢が低い
    • 閉経の年齢が高い
    • 肥満である
  • 持病や治療について
    • ホルモン補充療法(エストロゲン単独)をしている
    • 子宮内膜症がある

この中には自分では変えられないものが含まれています。また、上のリストに当てはまるものがなくても卵巣がんにならないとは限りません。不安があるものに関しては対応策についてお医者さんと相談してください。

卵巣がんは遺伝するのか

卵巣がんの一部は遺伝によって起こると考えられています。具体的には、BRCA1、BRCA2の遺伝子のどちらかあるいは両方に変異がある人には、卵巣が起こりやすいことが知られています。また、この遺伝子の異常は卵巣がんだけではなく、乳がんの発生にも関係していることがわかっています。血縁者に乳がんや卵巣がんの人がいて、遺伝について心配がある人は婦人科や乳腺外科のお医者さんに相談してください。

2. 卵巣がんの治療前に知って欲しいこと

卵巣がんの治療を始めるとなると、さまざまなことが気にかかります。ここでは治療前に押さえておきたいことをまとめました。

卵巣がんになっても妊娠はできるのか

卵巣がんの主な治療は手術と抗がん剤治療です。手術では、卵巣と子宮が取り除かれるので、基本的には妊娠はできません。しかし、次の条件を満たす人は、妊娠の可能性を残した手術(片側の卵巣と子宮を残す手術)を検討することができます。

【卵巣がんの人が妊娠の可能性を残せる条件】

  • がんの種類が漿液性がん、粘液性がん、類内膜がんのいずれかに分類される
  • ステージがIA期である
  • がんの分化度がグレード1または2である

卵巣がんにはいくつか種類がありますが、その中でも「漿液性がん」、「粘液性がん」、「類内膜がん」のいずれかである必要があります。また、がんが進行していないことと、悪性度が低いことも条件です。進行度や悪性度はステージや分化度(グレード)で表され、ともに数値が小さいほど「進行していないこと」、「悪性度が低いこと」を示します。

ただし、妊娠の可能性を残す(片側の卵巣と子宮を残す)手術は再発する危険性が高くなることから、上の条件に当てはまったとしても慎重な判断が求められます。「妊娠の希望」と「がんの再発」のどちらに重きを置くかをよく考え、不安や疑問があればお医者さんに伝えて、手術方法の相談をしてください。

卵巣がんの名医はいるのか

どんな病気でも「名医」の明確な定義はありません。それには理由があります。

医師のタイプはさまざまです。手術に長けた医師、抗がん剤治療に秀でた医師、人間性に優れた医師、親しみやすい医師などそれぞれに特徴があります。一方で、患者さんが医師に望むものは一人ひとりで異なります。例えば、手術の上手さを求める人もいれば、話しやすさを求める人もいます。「医師の特徴」と「患者さんの求めること」が重なった時、その医師を名医と感じることができるかもしれません。言い換えると、患者さん一人ひとりに名医と感じる基準があるとも言えます。自分が何を重要ししているかを整理してみると、名医に出会いやすくなるかもしれません。

卵巣がんは完治することがあるのか

手術によって卵巣がんを取り除くことができれば、完治が見込めます。しかし、手術をした全員が完治を見込める訳ではありません。目で確認できる範囲のがんを取り除いても、人間の目ではとらえられないほど小さな転移がすでに起こっており、その後小さな転移が大きくなって「再発」することがあります。 治療後「再発」がない状態が長く続き、再発の可能性が極めて小さくなった人は完治したと考えることができます。お医者さんから「完治」をいう言葉があるまでは再発に気を付けなければなりません。治療後の定期的な診察はかかさないようにしてください。

3. 卵巣がんの治療中や治療後の人に知って欲しいこと

卵巣がんの治療には、手術や抗がん剤治療、放射線治療があります。ここではそれぞれの治療中や治療後に知っておいてほしいことをまとめます。

卵巣がんの手術後に気をつけて欲しいこと

卵巣がんの手術後に行って欲しいことは、「身体を動かすこと」と「食事内容に気を配ること」の2つです。

■身体を動かすこと

手術後は傷の痛みで思うように身体を動かすことができません。しかし、身体をまったく動かさないと、「肺炎」や「深部静脈血栓症」、「腸閉塞」といった病気になりやすくなります。無理は禁物ですが、お医者さんから許された範囲で身体を少しずつ動かすようにしてください。できる範囲で構いません。例えば、傷の痛みで歩けないときには、身体を起こしてベッドに座ってみるだけも十分です。少しずつ身体を動かす範囲を広げて、手術前の状態に戻していってください。

■食事量と内容に気を配ること

卵巣がんの手術はお腹を切って行います。卵巣の周りには腸があり、手術の影響によって腸の動きが悪くなることがあります。術後は腸が本調子ではないので、負担を少なくするために、食事量と内容に気を配ってください。

まず、食べ過ぎに注意してください。たくさん食べたほうが回復が早くなると思って無理に食事量を増やそうとする人がいますが、これは逆効果です。食事量は腹八分目を目安としてください。少しずつ、食事量を増やすことが大切です。 また、献立は消化のよいものを中心に組み立てると良いです。具体的な内容は「こちらのページ」を参考にしてください。とはいえ、勧められた食事を家庭で実践するのは簡単ではありません。管理栄養士がメニューや調理法に精通しているので、退院前に相談してみるとよいです。

卵巣がんの抗がん剤治療中に気をつけて欲しいこと

抗がん剤には「再発予防」や「生存期間の延長」といった効果がある一方で、副作用もあります。ここでは副作用とその対応について説明します。卵巣がんの抗がん剤治療では主に次のような副作用が現れます。

【抗がん剤治療の代表的な副作用】

  • 吐き気・食欲不振
  • 発熱
  • 脱毛
  • 下痢
  • 口内炎

この他にも頻度は低いながらさまざまな副作用があります。治療前に担当のお医者さんの説明をよく聞いて、対処法などを理解しておいてください。

■吐き気・食欲不振

卵巣がんの治療によく用いられるシスプラチンカルボプラチンといった抗がん剤は吐き気や食欲不振を起こしやすいです。吐き気がひどい人には予防薬が処方されます。 吐き気が強いと、食事をうけつけないことがあります。水分の摂取ができていれば、食事は数回とれなくても大きな問題にならないことが多いです。その一方で、水分の摂取ができない状態は点滴をしなければならないので、かかりつけのお医者さんを受診してください。

■発熱

抗がん剤治療中は発熱しやすいです。主な理由は2つ考えられます。 1つ目は抗がん剤そのものが引き起こす発熱です。抗がん剤の影響による発熱は、抗がん剤を中止することで改善が期待できますが、効果が出ている抗がん剤は簡単には中止できません。発熱の程度と抗がん剤の効果のバランスを考えて、「解熱剤を使いながら抗がん剤を使う」あるいは「他の抗がん剤に変更する」のどちらかを選ぶことになります。メリットとデメリットを踏まえた上で選択しなければならないので、担当しているお医者さんとよく相談してください。

もう1つは、感染症による発熱です。健康な人には感染に対する防御機能があります。身体の中に白血球という細菌ウイルスを排除する細胞が存在しており、簡単には感染が起こりません。しかし、抗がん剤治療中は薬の影響で白血球が少なくなるので、感染にかかりやすくなります。特に、白血球の中でも「好中球」が減少した状態では「発熱性好中球減少症」という重い状態に陥る病気になりやすいことが知られています。抗がん剤治療中にお医者さんから白血球(好中球)が低いと言われた人は、特に注意が必要なので、手洗いやマスクの着用といった予防策を行うとともに、発熱時は速やかに受診してください。

■脱毛

抗がん剤の影響で脱毛することがあります。抗がん剤治療による脱毛は、治療が終わるとまた発毛して元に近い状態に戻ることが多いです。元にもどるとはいえ、脱毛中はどうしても見た目が気になり、気持ちが落ち込んでしまう人も少なくはありません。ウィッグや帽子を上手に使うと、悩みが減るかもしれません。ウイッグは医療機関で購入できるので、抗がん剤治療が始まる前に準備しておくとよいです。

■下痢

抗がん剤の影響は粘膜にでやすいです。腸には粘膜の層があり、傷がつくと下痢をします。軽い下痢はしばらくすれば自然に回復することがほとんどですが、量や回数が多い場合は下痢止め(止痢剤)が必要になることもあります。日常生活に影響を及ぼすほどの下痢をしている人はかかりつけのお医者さんに相談してください。また、下痢をしているときにはたくさんの水分が失われてしまっているので、水分は忘れずしっかり補給してください。

口内炎

口の中の粘膜が傷つくと口内炎ができやすくなります。口内炎の痛みは麻酔薬の成分が含まれたうがい薬や内服用の鎮痛剤で和らげることができます。痛みが強い人はかかりつけのお医者さんに相談してください。また、口内炎の予防には、口の中を清潔に保つことが有効です。歯磨きなどは欠かさないようにしてください。口内炎の予防は「こちらのページ」も参考にしてください。

卵巣がんの放射線治療中に気をつけて欲しいこと

抗がん剤治療だけではなく放射線治療にも副作用があります。副作用は現れる時期によって異なります。

■早期障害:治療中または治療終了後数週間に起こりえる副作用

治療中または治療終了後数週間で現れる副作用を早期障害と言います。具体的には、皮膚の「赤み」や「痛み」です。時間の経過とともに良くなるので、過度に心配しなくてもよいです。また、放射線治療中には「倦怠感」や「食欲不振」、「吐き気」などの症状が現れることもあります。症状を抑える薬があるので、お医者さんに相談してください。水分が摂れない程ひどい人には点滴治療が必要です。治療を受けている医療機関に連絡してください。

■晩期障害:治療後数カ月後から数年に渡って起こりえる副作用

治療からしばらくすると「早期障害」でみられる症状はほとんどなくなります。しかし、治療後数ヶ月以上経ってから「晩期障害」が現れることがあるので注意してください。例えば、下腹部を治療した場合は腸や膀胱に放射線の影響がおよび、治療後しばらくたってから血便血尿が現れることがあります。晩期障害による血便や血尿は止まりにくいので、すみやかにかかりつけのお医者さんに診てもらってください。

4. 卵巣がんの再発や余命について

卵巣がんと診断を受けた人は、完治するかどうかや「生存率」、「再発」や「転移」について気にかかるかと思います。ここでは卵巣がんの「生存率」や「再発」、「転移」などについて説明します。

卵巣がんの生存率はどれくらいか

卵巣がんの生存率はステージによって異なります。「がんの統計'23」を基にして作成した5年生存率は次のものです。

【卵巣がんのステージごとの5年実測生存率】

ステージ 5年生存率(%)
ステージI 88.4
ステージII 71.5
ステージIII 43.4
ステージIV 25.5

ステージはがんの進行度を表すもので、数字が大きいほど生存率は低くなります。ステージとともに示される生存率は予測ではなく、あくまで過去の治療を受けた人達の結果によってもとめられたものです。また、ステージは主にがんの広がりで分けたものであり、一人ひとりの身体の違いは加味されていません。同じステージであっても、身体の状態の影響は小さくはありません。

生存率をみて悲観をしすぎないようにすることをお勧めします。どうしても生存率に目が行ってしまうものですが、治療に前向きに取り組んだり、日々の楽しみに目を向けることが何より大切です。

卵巣がんは再発することがあるのか

治療して身体から一度は消えたがんが再びみつかることを再発と言います。再発が起こる理由は、消えたと思っても実は目に見えないほど小さながん細胞が身体の中に残っていて、それが大きくなるからだと考えられています。 再発は卵巣がんのステージが進んでいる人ほど起こりやすいと考えられており、再発後は状態に合わせて手術や抗がん剤治療、放射線治療の中から適したものが選ばれます。再発すると完治が難しくなりますが、最適な治療を選ぶために、お医者さんと相談して納得できる答えを見つけてください。

卵巣がんが転移したら余命はどれくらいか

卵巣がんが転移した人の余命は一概に言えません。

まず、転移には大きく「リンパ節転移」と「遠隔転移」の2つがあります。リンパ節にがんが転移したものをリンパ節転移と言います。リンパ節転移はステージIIIにあたり、5年生存率は49.9%です。一方、遠隔転移は卵巣から離れた場所に転移をしている状態です。遠隔転移はステージIVにあたり、5年生存率は32.1%です。このように転移といってもその状態で生存率は違ってきます。 また、ステージは主にがんの広がりを反映したもので、がんの個数や大きさは考慮されていません。同じステージであっても転移したがんの個数や大きさが異なれば生存率に影響します。

さらに、身体の状態も一人ひとりで異なり、この違いが余命に影響します。例えば、健康状態が優れている人は、手術や抗がん剤治療といった積極的な治療によって、余命が伸びることがありえます。一方で、健康状態が優れず、積極的な治療が行えない人は健康な人に比べて余命が短くなることもあります。

このように、がんが転移したと一口に言っても、「がんの状態」や「身体の状態」は一人ひとり異なるので、個人個人の余命を予測するのは難しいと考えてください。

【参考文献】

・がん情報サービス「がんの統計'23
・「卵巣がん治療ガイドライン2015年版」(日本婦人科腫瘍学会/編)、金原出版
・「がん診療レジデントマニュアル(第7版)」(国立がん研究センター内科レジデント/編)、医学書院、2016年
・「産婦人科研修の必修知識2016-2018」、日本産科婦人科学会、2016年
NCCN ガイドライン 卵巣がん