けっせんせいけっしょうばんげんしょうせいしはんびょう(てぃーてぃーぴー)
血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)
全身の細い血管に血のかたまり(血栓)ができ、さまざまな臓器の機能が低下したり、血小板が足りなくなって出血しやすくなる病気
7人の医師がチェック 123回の改訂 最終更新: 2021.11.23

血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の原因について

血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は、血液中にあるADAMTS13という成分が不足して起こります。ADAMTS13は血液を固めるのに関わる物質です。ADAMTS13の不足は、ADAMTS13を生まれつき作れなかったり、ADAMTS13を阻害する物質ができてしまったりすることで起こります。

1. 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)のメカニズムとは?

TTPのメカニズムは、「凝固系」という出血を止める仕組みを知っておくと理解しやすくなります。

血液は全身の血管の中をとどまることなく流れ続けています。しかし、私たちは例えば怪我をして出血をしても、数分経つと自然に血が止まります。これは凝固系という出血を止める仕組みが私たちの身体に備わっているためです。逆に言うと、凝固系に異常をきたすと、出血をきたしやすくなったり、逆に血のかたまりができたりします。凝固系の異常はさまざま病気の原因になります。TTPは凝固系の異常で身体中に血栓ができ、腎臓や神経の障害が起きてしまう病気です。

もう少しこの病気について詳しく説明していきます。TTPに関わるのは重要な物質は以下の3つです。

  • 血小板
  • フォン・ウィルブランド因子
  • ADAMTS13(アダム・ティーエス・サーティーン)

血小板とフォン・ウィルブランド因子は止血に必要な血液成分です。具体的には、身体の中で傷ができ、出血が起きていることを身体が感知すると、フォン・ウィルブランド因子が血小板を呼び集め、血小板により傷を埋め合わせをします。そうすると、傷から血が漏れでなくなるので、それ以上の出血を抑えることができます。

ADAMTS13はフォン・ウィルブランド因子が適切に働くのをコントロールしている物質です。TTPはADAMTS13がなくなってしまうことで、フォン・ウィルブランド因子が適切に働けなくなった状態です。ADAMTS13がなくなると、出血してなくても、フォン・ウィルブランド因子による血小板の呼び集めが身体のあちこちで起こるようになります。その結果、身体のあちこちで血のかたまり(血栓)ができてしまいます。身体のあちこちでできた血栓は血流を途絶してしまうため、内臓の障害の原因になります。血栓性血小板減少性紫斑病で起こる内臓の障害としては、腎臓や神経の障害があります。

TTPでは、身体の中でたくさんの血栓ができることで、血小板が大量に消費されるため、血小板の数の減少していきます。このような「血栓」ができる、「血小板」が減るといった特徴が病気の名前の由来になっています。

2. どうしてADAMTS13がなくなってしまうのか:TTPの原因について

TTPはADAMTS13がなくなってしまうことで起こります。ADAMTS13がなくなってしまう理由としては大きく2つあります。

1つ目は生まれつきADAMTS13が作れないことによります。これはUpshaw-Schulman症候群(アップショー・シュールマン症候群)や遺伝性TTP、先天性TTPと呼ばれます(「先天性」は生まれつきを意味する医学用語です)。

私たちの身体はたくさんの細胞やタンパク質などからできていますが、どこでどのような細胞が作られたり、タンパク質が作られるかは遺伝子によって決められています。Upshaw-Schulman症候群では、ADAMTS13を作る遺伝子に異常があり、ADAMTS13を作ることができず、TTPを起こしてしまいます。非常に珍しい病気で、世界中でも150例程度しか報告されていません。Upshaw-Schulman症候群は生まれた直後の重症黄疸から見つかることもあれば、大きくなった後に血小板減少の原因を調べていく中で見つかることもあります。

参考文献

日本血栓止血学会用語集「Upshaw-Schulman症候群」(2021.2.4閲覧)

2つ目はADAMTS13を阻害する物質が体内で作られてしまうことです。ADAMTS13を阻害する物質はADAMTS13インヒビターと呼ばれます(inhibitは英語で阻害するという意味です)。自己免疫疾患のような病気がある人では、免疫がADAMTS13を敵と勘違いして除去しようとした結果、ADAMTS13インヒビターができることがあります。ただし、ADAMTS13インヒビターができた原因ははっきりしないことも多いです。

TTPの原因についてもう少し細かく説明していきます。主に、以下のことが原因でTTPが起こります。

それぞれの原因とTTPの関係について説明していきます。

全身性エリテマトーデス

私たちの身体には免疫という細菌ウイルスなどから身体を守る仕組みがあります。本来、免疫は自分の身体を攻撃しないようになっています。しかし、免疫がおかしくなり、自分の身体を攻撃してしまうことがあります。このように免疫が自分の身体を攻撃することで起こる病気を「自己免疫疾患」と呼びます。全身性エリテマトーデスは自己免疫疾患の一つであり、全身に以下のようなさまざまな症状があらわれます。

  • 皮膚の赤い発疹
  • 関節に腫れや痛み
  • 気分の落ち込み
  • 尿の泡立ち(蛋白尿)、赤茶色になる(血尿
  • 胸の痛み(胸膜炎
  • 貧血

全身性エリテマトーデスではADAMTS13など凝固系に対する免疫反応が起こるために、TTPが起こりやすくなるのではないかと考えられていますが、詳しいメカニズムはわかっていないことが多いです。全身性エリテマトーデスの診断には抗核抗体という血液検査が役立ちます。TTPが見つかった人では、原因として全身性エリテマトーデスが隠れている可能性があるため、抗核抗体の検査を行うことになります。抗核抗体が陽性であればさらに詳しく調べて、全身性エリテマトーデスがTTPの原因になっている場合には、全身性エリテマトーデス自体の治療が必要になることが多いです。詳しくは「全身性エリテマトーデスの治療」で説明しています。

強皮症

強皮症は手足の皮膚が硬くなる病気です。強皮症も自己免疫疾患の一つであり、TTPの原因になることがあります。もし、TTPを起こした人に手足の皮膚が硬いといった特徴がある場合には、強皮症が原因の可能性を考える必要があります。

頻度は少ないですが、血をサラサラにする薬(抗血小板薬)であるチクロピジンやクロピドグレル、抗がん剤などによりTTPが起こることがあります。もし、これらの薬剤を使っている時にTTPが起きた場合には、これらの薬剤の中止を考える必要があります。

3. 溶血性尿毒症症候群(HUS)の原因は何か

TTPと似た病気にHUSという病気があります。TTPとHUSは症状が似ていますが、原因が大きく異なります。HUSO157、赤痢菌などの細菌により起こります。O157や赤痢菌は食中毒の原因菌の一つであり、汚染された食べ物を介して身体の中に入ります。身体の中に入ったO157や赤痢菌が産生する毒素がHUSの原因になります。HUSO157や赤痢菌が身体から除去されれば、症状も自然に良くなっていきます。