しきゅうけいがん
子宮頸がん
子宮の入り口(子宮頚部)にできるがん。HPV(ヒトパピローマウイルス)というウイルスの感染が主な原因
9人の医師がチェック 226回の改訂 最終更新: 2024.05.29

子宮頸がんの治療について

子宮頸がんの治療には手術や抗がん剤治療放射線治療、緩和治療があり、ステージや身体の状態に応じて適したものが検討されます。がんの進行度によっては、複数の治療法から選ぶことができるので、治療の内容を踏まえると自分の考えにあったものを選びやすくなります。このページでは、それぞれの治療について詳しい説明を行います。

1. 子宮頸がんの治療にはどんなものがあるのか

子宮頸がんの主な治療には次のものがあります。

【子宮頸がんの治療法】

  • 手術
    • 円錐切除術
    • 単純子宮全摘除術
    • 準広汎子宮全摘除術
    • 広汎子宮全摘除術
  • 抗がん剤治療
  • 放射線治療
  • 緩和治療

ステージ(進行度)や身体の状況に応じて、上記から適した治療法が選ばれます。例えば、最も早期の人には「円錐切除術」が行われます。一方で、最も進行したステージの人では「抗がん剤治療」が中心になります。ここからは、それぞれの治療の詳しい内容を説明します。なお、ステージと治療法の関係については「こちらのページ」を参考にしてください。

2. 子宮頸がんの手術について

子宮頸がんの手術にはいくつか種類があり、進行度によって検討される方法に違いがあります。手術ごとの内容や合併症、入院期間・費用について説明します。

手術の種類:円錐切除術・単純子宮全摘除術・準広汎子宮全摘除術・広汎子宮全摘除術

子宮頸がんの主な手術は次の4つです。

【子宮頸がんの主な手術法】

  • 円錐切除術
  • 単純子宮全摘除術
  • 準広汎子宮全摘除術
  • 広汎子宮全摘術

それぞれは違う手術法なので、個別に説明します。

■円錐切除術

円錐切除術では、がんが含まれた子宮頸部を円錐状に切り取ります。円錐切除術の結果で追加の手術が必要かどうかが判断されます。この後に説明する「単純子宮全摘除術」や「準広汎子宮全摘除術」「広汎子宮全摘除術」と異なり「円錐切除術」ではお腹を切ることはないので、目立つ傷は残りません。また、手術時間が短く(手術室滞在時間は2時間程度)全身麻酔でも脊椎麻酔(下半身麻酔)でも行えます。子宮を残すことができるので、治療後も妊娠が可能です。

■単純子宮全摘除術

単純子宮全摘除術では子宮および卵巣・卵管を摘出します。子宮を膣と切り離して摘出されますが、「膣から子宮を取り出す方法(膣式単純子宮全摘除術)」と、「お腹を切って子宮を取り出す方法(腹式単純子宮全摘除術)」の2つがあります。

膣式単純子宮全摘除術は、お腹を切らず膣から手術を行うので傷あとが目立つ心配が少なくてすみますが、誰でも受けられるわけではありません。「子宮が大きすぎない」「膣が狭すぎない」「過去に腹部の手術を受けたことがない」などの条件がそろう人に限られます。

腹式単純子宮全摘除術は、お腹を縦または横に十数cm切って行います。腹の傷が大きいというデメリットがありますが、がんが予想以上に広がっていることがわかった場合には、すぐに「広汎子宮全摘除術」に変更できるなどのメリットがあります。このため、がんが広がっている可能性が否定しにくい人には膣式子宮全摘除術より、腹式単純子宮全摘除術のほうが向いていると考えられています。

■広汎子宮全摘除術・準広汎子宮全摘除術

がんが子宮頸部の周りに広がっている人では、子宮だけを摘出する「単純子宮全摘除術」を行っても、がんが十分に取り切れない可能性があります。そのため、子宮頸部の周りの組織も一緒に取り除く「広汎子宮全摘除術」が行われます。 広汎子宮全摘除術では、子宮頸部と接している直腸や膀胱を傷つけないようにしつつ、周りの組織ができるだけ多く含まれるようにして子宮が摘出されます。単純子宮全摘除術に比べて手術時間が長くなります。また、手術の操作が直腸や膀胱の機能に影響して、後遺症(例:尿が出にくくなる、便秘になる)が残ることがあります。
なお、準広汎子宮全摘除術は単純子宮全摘除術と広汎子宮全摘除術の中間に位置する方法です。取り除く子宮頸部の周辺組織が広汎子宮全摘除術より少なくなります。その分、手術時間が少なく体への負担も小さいので、この後に説明する合併症が発生する確率が抑えられるメリットがあります。

手術の合併症

合併症は手術や検査にともなって起こる身体への悪影響のことです。必ず起こるものではありませんが、手術や検査に問題がなくても一定の確率で起こります。円錐切除術の合併症は多くはないので、ここでは、単純子宮全摘除術と広汎子宮全摘除術の合併症について説明します。

【単純子宮全摘除術と広汎子宮全摘除術の主な合併症】

それぞれについて説明します。

■創部感染:傷の感染

手術でできた傷に細菌がついて感染が起こることを創部感染と言います。創部感染が起こると、「傷が赤くなる」「傷が痛む」「傷からが出る」といった症状が現れます。感染の程度にもよりますが、傷を少し開いて、溜まった膿を傷口から出すとよくなることが多いです。また、必要に応じて抗菌薬(細菌感染に効果のある薬)が使われます。

■縫合不全:臓器を縫い合わせた部分のくっつきが悪いこと

子宮と膣はつながっています。子宮を摘出する際には子宮と膣が切り離され、体内に残る膣は糸で縫い閉じられます。縫い閉じた部分のくっつきが悪くて隙間ができることがあり、この状態を縫合不全と言います。隙間が小さければ自然にくっついて治りますが、隙間が大きいときには、間に腸がはまり込んでしまうなど深刻な状態になることがあるので、再手術で膣が縫い閉じられます。

腸閉塞イレウス:腸がつまる・腸の動きが悪くなる

お腹の中の臓器の手術を行った後には、腸の動きが悪くなったり、腸の中にものが詰まりやすくなります。腸の動きが悪くなることをイレウスといい、腸にものがつまることを腸閉塞と言います。イレウス腸閉塞が起こった場合は、状態に応じて、食事を止めて腸を休めたり、再手術をします。

イレウス腸閉塞は、手術直後だけではなく手術後しばらく経ってからも起こりえます。腸にかかる負担は主に食事内容に影響を受けるので、退院後しばらくは腸に優しい食事をとるようにしてください。食事についてよくわからないことがあれば、担当のお医者さんや管理栄養士さんに相談してみるとよいです。イレウス腸閉塞については「こちらのページ」も参考にしてください。

手術後の身体の変化

子宮を摘出する手術の影響で、排尿や排便の機能が悪くなる人がいます。また、リンパ節を摘出した人ではリンパ液の流れが悪くなり、足が浮腫みやすくなります。

■尿意を感じにくくなる・尿が出にくくなる

子宮の近くには膀胱があります。がんの広がりが大きい場合には、子宮とともに膀胱の機能を司る神経の一部が摘出され、その影響で、尿意を感じにくくなったり、尿が出にくくなったりすることがあります。神経の問題で膀胱が上手く働かない状態を神経因性膀胱と言います。神経因性膀胱の程度が軽い場合は薬物治療で尿を出しやすくできますが、程度が重くなると、尿道(尿の出口)から細い管を自分で入れて排尿する「間欠的自己導尿」が必要になります。

神経因性膀胱の詳しい内容は「神経因性膀胱の基礎知識ページ」や「こちらのページ」を参考にしてください。

便秘がちになる

子宮の周りには膀胱の他に直腸があります。直腸は便が最後に通過する大腸の一部分です。手術の影響によって直腸の機能が低下すると、便秘が起こりますが、食生活の工夫や便を出しやすくする薬を使うと、便秘と上手に付き合うことができます。詳しくは「薬に頼る前に!自分でやっておきたい便秘改善法」や「間違った便秘対策は悪循環のもと!「がん」を引き起こす可能性も」を参考にしてください。

■足が浮腫みやすくなる

子宮頸がんはリンパ節に転移をしやすいです。このため、リンパ節転移が予想される場合には、子宮とともにリンパ節を摘出します。リンパ節はリンパ管(リンパ液が流れる管)が数本合流してできたもので、リンパ節を取り除く際には、リンパ管を切断しなければなりません。子宮頸がんが転移しやすい子宮近くのリンパ節には足から身体の中心に向かって流れるリンパ管が集まったものがあります。このリンパ節を摘出すると足から流れてくるリンパ液が停滞してしまい、足が浮腫みやすくなります。足の浮腫には弾性ストッキングの着用やマッサージが有効なことがあるので、試してみてください。症状が良くならない人はお医者さんに相談することをお勧めします。

3. 子宮頸がんの抗がん剤治療について

「手術後にがんの再発の可能性が高い人」や「子宮から離れた場所に転移をした人」に抗がん剤治療が行われます。子宮頸がんの治療に使われる抗がん剤はいくつか種類があり、複数が組み合わせられます。ここでは抗がん剤治療の種類と副作用について詳しく説明します。

なお、放射線治療の効果を高める目的で、放射線治療と抗がん剤治療が組み合わせられる(化学放射線治療)ことがあります。化学放射線治療については、この後の放射線治療で説明します。

抗がん剤治療の種類

子宮頸がんの人に行われる抗がん剤の組み合わせは次の3種類です。

【転移がある子宮頸がんの抗がん剤治療】

シスプラチンやカルボプラチンは腎臓に負担がかかる薬なので、個々人の腎臓の機能を踏まえて適した方法が選ばれます。べバシズマブ(アバスチン®)という薬を併用すると生存期間が延長することが分かっているので、問題がなければ合わせて使われます。
また、TP療法(パクリタキセルとシスプラチンを組み合わせた治療)にペムブロリズマブ(がん細胞が免疫細胞の攻撃から逃れる仕組みを邪魔する薬)を併用する治療方法もあります。

抗がん剤治療の副作用

抗がん剤には、がんを小さくしたり大きくなるのを抑える効果がある一方で、副作用もあります。ここでは、抗がん剤治療にともなう代表的な副作用とその対応について説明します。

【抗がん剤治療の代表的な副作用】

  • 吐き気・食欲不振
  • 発熱
  • 脱毛
  • 下痢
  • 口内炎

頻度は低いものの、上記以外にも副作用があります。ここで説明する以外の副作用については、治療前に担当のお医者さんからの説明をよく聞いて、対処法についても理解しておいてください。

■吐き気・食欲不振

子宮頸がんの抗がん剤治療では吐き気やそれにともなう食欲不振の副作用がでやすい薬が使われます。吐き気の程度は人によって異なりますが、吐き気が強い人には予防薬が処方されるので、お医者さんの指示にしたがって服用してください。

また、吐き気が強いと食事を摂りたくなくなります。数回の食事を摂れなくても水分を摂取できていれば問題になることは多くはありません。しかし、水分摂取ができない場合は点滴の必要があるので、医療機関を受診してください。

■発熱

抗がん剤治療中は主に2つの理由から発熱しやすくなっています。

1つ目は抗がん剤の副作用です。副作用が原因の発熱であれば、薬の中止で熱が下がります。しかし、抗がん剤が効いている場合は、簡単に中止することはできません。「発熱の程度」と「抗がん剤の効果」のバランスをみて、「解熱剤を使いながら抗がん剤を継続する」または「他の抗がん剤に変更する」のどちらかを選ぶことになります。どちらを選ぶにしても、メリットとデメリットがあるので、お医者さんとよく相談してください。

2つ目は感染症による発熱です。感染症は体内に侵入した病原体(細菌やウイルスなど)が増殖することによって起こります。健康な人の身体には、病原体から身体を守る細胞(主に白血球)があるので、簡単に感染症にならないようになっています。しかし、抗がん剤治療の影響で白血球が減少することがあり、感染症にかかりやすい状態になってしまいます。特に、白血球の中でも「好中球」が減ってしまった状態で起こる発熱を「発熱性好中球減少症」といい、重い状態に陥ることがあるため速やかな対応が必要です。抗がん剤治療中にお医者さんから白血球(好中球)が減っていると言われた人は、手洗いとマスクの着用などの感染症予防に気を配り、もし発熱をした場合は速やかにかかりつけの医療機関に相談してください。

■脱毛

抗がん剤の影響で脱毛することがあります。脱毛は治療を始めてから2-3週間後に始まることが多いです。抗がん剤治療が終わればもとに近い状態にもどることがほとんどですが、治療中は脱毛が気になり気持ちが落ち込んでしまう人は少なくありません。対策として、ウイッグや帽子を活用すると、見た目の悩みが減るかもしれません。ウイッグは医療機関で購入できるので、抗がん剤治療が始まる前に購入しておくとよいです。

■下痢

抗がん剤の影響は粘膜に現れやすいです。腸の粘膜がダメージを受けると下痢をします。軽い下痢であれば自然に回復することが多く、問題になることはほとんどありません。一方で、量や回数が多く、日常生活に影響が出るほどの場合は、下痢止めが必要になります。かかりつけのお医者さんに相談して必要に応じて処方してもらってください。また、下痢をしていると多くの水分が失われてしまうので、水分もしっかりと補給してください。

口内炎

口の粘膜が傷つくと口内炎ができて痛みを感じます。痛みには麻酔薬の成分が含まれたうがい薬や鎮痛剤に効果があるので、痛みが強い人はかかりつけつのお医者さんに相談してください。また、口の中を清潔に保つことが口内炎の予防につながります。歯磨きやうがいなどをして口の中をきれいに保ってください。予防法は「こちらのページ」も参考にしてください。

4. 子宮頸がんの放射線治療について

放射線治療を使う場面は2つあります。 1つは根治(完治)を目的にして子宮頸部を治療する場合で、もう1つは痛みや痺れの緩和を目的として転移をした部位を治療する場合です。それぞれについてもう少し詳しく説明します。なお、放射線治療の副作用については子宮体がんの放射線治療と似ているので、「こちらのページ」を参考にしてください。

子宮頸部を治療する場合

子宮頸部のがんは手術で取り除くことができ根治が望めます。同様に放射線治療でもがんを死滅させて、手術と同じように根治が期待できます。根治を目的とした放射線治療は「身体の外から放射線を当てる方法(外照射)」と「子宮の内側から放射線を当てる方法(腔内照射)」の2つが併用されます。治療の効果を高めるために、放射線治療と並行して抗がん剤治療が行われることが多いです。

転移した部位を治療する場合

がんが発生した場所から離れた所に移動して、大きくなったり組織に入り込んだりすることを転移と言います。転移がおこると場所によっては症状がでます。例えば、背骨に転移をした場合を考えてみます。背骨の中には神経が通っており、転移したがんが大きくなると、神経に影響を及ぼして、痛みや痺れが現れます。転移をしたがんに放射線を当てると、がんを死滅させることができ、症状の進行予防や緩和ができます。

5. 子宮頸がんの緩和治療について

緩和治療とは、「生命を脅かす病気によって生じる肉体的・心理的な苦痛を和らげる治療」を指します。一昔前は、終末期の治療と同義と理解されることがありましたが、現在は、終末期だけではなく、抗がん治療(手術や抗がん剤治療、放射線治療)と並行して緩和治療が行われています。抗がん治療と並行して行われる緩和治療の例としては、「手術の傷の痛みをとる治療」や「抗がん剤による吐き気を抑える治療」などがあります。また、身体の症状をとるだけではなく、「精神面の負担を和らげること」も緩和治療に含まれます。緩和治療を上手に使うことで、抗がん治療にともなう心身の負担が軽減されて、治療に前向きになることもできます。

緩和治療についての詳しい説明は「こちらのページ」も参考にしてください。

6. 子宮頸がんの治療のガイドラインについて

ガイドラインは治療の成績向上や、安全性の確保などを目的に作成されたものです。子宮頸がんには日本婦人科腫瘍学会が作成した「子宮頸癌治療ガイドライン22」があります。ガイドラインは過去の治療の実績や報告などの知見をもとに、場面ごとの最適な治療法が記載されています。ガイドラインの内容を踏まえることで、お医者さんは効果の高い治療法を選びやすくなります。

ガイドラインには優れた面がある一方で、記載されている内容が実際の現場では最適ではないことがあります。 医学は日進月歩で発展しているので、有効な検査や治療が次々に見つかります。進歩を反映するために数年に1回ガイドラインが改定されていますが、それでも新しい検査や治療の発見にガイドラインが追いついていないことがあります。新しい治療が有力であれば、ガイドラインに載っていなくても、その時点では最適な治療法と考えられ、診療に取り入れられます。

また、ガイドラインは患者さん一人ひとりの身体の違いを鑑みては作られてはいません。身体の状態の違いを考慮するとガイドライン通りに治療ができないことはよくあります。一人ひとりにとって最も効果がある治療を行えるように、最新の知見と患者さんの身体の状態などさまざまな条件を踏まえて最適な治療法が選択されます。

参考文献
・日本婦人科腫瘍学会/編, 「子宮頸癌治療ガイドライン2022年版」, 金原出版, 2022年
・国立がん研究センター内科レジデント/編, 「がん診療レジデントマニュアル(第7版)」, 医学書院, 2016年
・日本産婦人科学会,日本産婦人科医会/編, 「産婦人科 診療ガイドライン-婦人科外来編 2017」, 2017年
Tewari KS, et al., Bevacizumab for advanced cervical cancer: final overall survival and adverse event analysis of a randomised, controlled, open-label, phase 3 trial (Gynecologic Oncology Group 240).Lancet. 2017 Oct 7;390(10103):1654-1663
婦人科腫瘍委員会報告 2016年度患者年報 日本産婦人科学会誌70号4巻