2018.12.27 | コラム

間違った便秘対策は悪循環のもと!「がん」を引き起こす可能性も

外科女医・アスカが、便秘薬の誤った使い方に警鐘を鳴らします!

間違った便秘対策は悪循環のもと!「がん」を引き起こす可能性もの写真

「便秘薬は簡単に手に入るが・・・」

仕事に家事に育児にと日々忙しく、トイレに行く時間すらゆっくりとれないのが現代の日本人。トイレに行きたいのを我慢しているうちに排便できなくなったという経験はないでしょうか。それを反映するかのように、街中には市販の便秘薬が多く出回っており、誰でも簡単に手に入れることができます。
ですがあなたの便秘対策、本当に大丈夫なのでしょうか。実は、安易に薬に頼ることで悪循環に陥ることもあります。このコラムでその理由を明かしますので、いま一度自分の便秘対策について見直してみてください。

1. 便秘の定義は人それぞれ

そもそも便秘とは何のことを指すのでしょう。慢性便秘症診療ガイドライン2017によると「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出出来ない状態」と定義されています。言い回しが難しいので噛み砕いてみると、次のような症状がある場合を便秘症といいます。

 

  • お通じの回数が少なかったり量が少なかったりすることで、腹痛や吐き気、お腹の張った感じがある
  • 便が硬くて力を入れても便を出しづらい
  • 排便後もスッキリしない感じ(残便感といいます)がある

 

一方で、3日に1回しかお通じがなくてもスッキリ出ていれば便秘ではありませんので、過剰に「便を出さなきゃ」と思い込む必要はないのです。長時間のいきみ(便を出そうと力むこと)は痔や脱肛の原因にもなりますので極力避けてください。

 

2. 便秘改善薬を選ぶときは成分をよくみてから

さて、上記の便秘症の症状には当てはまるが、病院にかかるのは面倒くさいし時間もない、近所のドラッグストアで売っている便秘薬で何とかしようとしたくなるものです。そこで、この便秘改善薬について詳しくみていきたいと思います。

 

便秘改善薬にはいろんな種類がある

一口に便秘改善薬といっても、いろいろな種類があります。前出のガイドラインで最も使用が推奨される便秘改善薬は浸透圧性下剤や上皮機能変容薬と呼ばれるものです。そのほかにも刺激性下剤、膨張性下剤などさまざまな種類があります。(市販薬の種類の詳細についてはこちらのコラムをご覧ください。)

なかでも、使用に注意してほしいのが刺激系下剤です。このあと詳しく説明しますが、刺激性下剤は本来短期間の使用にとどめるべき薬だからです。刺激性下剤は大きく分けて2種類あり、アントラキノン系センノシドセンナアロエ大黄など)とジフェニール系ビサコジルピコスルファートナトリウムなど)です。日本ではアントラキノン系下剤が多用されており、市販薬でも最も多く見かける下剤です。

 

知らないうちに刺激性下剤を服用していることも

あなたの手元にある便秘薬の成分を今一度確認してみてください。「私は自然に出したいし、身体に優しそうな漢方を使っているから大丈夫」「便秘に効くお茶は飲んでるけど、薬じゃないから自分には関係ない」と思っている場合でも、実は落とし穴があります。今、世の中に出回っている漢方薬や便秘に効くというお茶には、刺激性下剤の一種であるアントラキノン系の成分が含まれているものが多いです。特に「翌朝スッキリ」、「ドッサリ出る」などのうたい文句を鵜呑みにすると要注意です。(特定の商品を指す意図はありません。)例えば、アントラキノン誘導体を含む生薬にはセンナ、アロエ、大黄のほかカスカラサグラダケツメイシが挙げられます。漢方薬は古くから用いられていて身体に負担が少ないものが多いのも事実ですが、すべての薬には副作用があると思ってください。

 

なお、独立行政法人国民生活センターが2014年1月23日に公表した情報に、「キャンドルブッシュ(別名:ゴールデンキャンドル、ハネセンナ、学名:Cassia alata(カッシア・アラタ))を含む健康茶はセンノシドの成分を含むため過剰摂取に注意」とありました。原料を確認する際はアントラキノン誘導体を含む生薬に加え、上記のキャンドルブッシュ等の有無もチェックしてください。

 

3. 刺激性下剤を使いすぎると危ない

市販薬は成分の特徴を踏まえて正しく取り扱えば有効で有用な方法です。対面販売であれば、薬剤師さんが効能や使い方を直接丁寧に説明してくれます。しかし実際には、残念ながら薬を正しく使えていない人が多いようです。

その中で最も心配なのが、短期間の使用にとどめるべき刺激性下剤を長年にわたり、時には決められた用量より多く飲み続けるのが習慣となっている人です。刺激性下剤を使いすぎると危ない理由を以下に説明します。

 

便秘の負の連鎖はこうして起きる

1つ目の問題は、刺激性下剤は依存・耐性の可能性が指摘されていることです。つまり、いわゆる「クセ」になり「だんだん同じ量では効きづらく」なります。依存や耐性が繰り返されると、より重度の便秘へ移行することがあります。

刺激性下剤は大腸の粘膜や腸の壁内を走る神経を直接刺激して腸を動かすのですが、刺激しすぎることで神経がダメージを受け、腸の動きが弱まっていくと報告されています。神経のダメージの程度についてはまだ研究が不十分な部分もありますが、あまりにも傷みが進んだ腸は元に戻すのは困難です。

 

実際のところ、刺激性下剤は夜飲めば翌朝にはお通じが出やすく、排便後のスッキリ感もあって効果を感じやすいため人気の薬です。むしろこのスッキリ感がやみつきになってしまうと、たまにしか飲まなかったものが週に一度、ついつい3日に一度、いつのまにか毎日飲むのが習慣になっていきます。

毎日飲むようになると次第に耐性が生まれ、通常量では効かなくなってきます。その頃には下剤がないと排便できない身体になっていますので、止められなくなって倍量、さらに倍量・・・となっていきかねません。また、本当は腸の中に便が残っていないのに、スッキリ感が得られず便が残っているような錯覚をしてしまうことも増えてきます。

 

便秘の悪循環から手術に至ることも

ダイエットによる乱れた食生活や不規則な生活リズムをきっかけに、20代、30代の若いうちから便秘に困っている人を多く見かけます。安易に薬に頼ってしまったばかりにこの悪循環に陥ってしまうと、10年、20年後に大きなしっぺ返しがくることも考えられます。腸の動きはどんどん悪くなり、しばしば巨大結腸症や結腸過長症という大腸がより太く、長く形を変えていく病気を発症することも報告されています。この病気はより深刻な便秘の原因となるばかりでなく、腸がねじれたり壊死したりして最終的に手術で腸を切らざるを得ないケースも発生するのです。筆者はこれまで、便秘が原因で手術を受けることになった人を少なからずみてきました。

 

大腸メラノーシスは大腸がんのリスクになる可能性

2つ目の問題に、大腸がんのリスクが高まる可能性が挙げられます。刺激性下剤の一種であるアントラキノン誘導体を長期間(およそ一年以上)にわたり使い続けると、大腸メラノーシスという大腸粘膜の黒い変色が起こることがあります。これは大腸カメラで腸を見ればすぐに分かるものです。大腸メラノーシスは、大腸ポリープや大腸がんのリスクを高める可能性が指摘されています。実際、大腸メラノーシスの患者に大腸がんが多く見られたという報告が複数あり無視できません。ただし、大腸がんの発生にはさまざまな因子が絡み合っており、大腸メラノーシスだからといって全ての人が大腸がんになるわけではありません。(なお、便秘が大腸がん発生のリスクとなるかは未だ結論が出ていません。)ただ、こういった報告があるのは事実ですので、大腸外科医として皆さんにも知っておいて欲しいです。

なお、刺激性下剤のうちジフェニール系下剤は大腸メラノーシスを引き起こすことはありません。

 

刺激性下剤は本当に困った時だけ飲むもの

米国消化器病学会が定めるガイドラインにおいても、前出の日本のガイドラインにおいても刺激性下剤は必要時にのみ短期間で使用することをすすめています。つまり普段使いではなく「ここぞ!」という時に飲む薬(頓服薬)として使ってくださいということです。刺激性とはその名の通り腸に刺激を与えるのですから、鞭打って無理やり腸を動かすような薬です。今の状況を改善するための目線も大事ですが、毎日鞭を打ち続けた結果、腸はどうなるかについても考えておく必要があります。

 

4. 便秘薬といえど正しく飲んで。ダメな時は迷わず受診を

ここまで見てきたように、便秘を治すために飲んでいた薬やお茶が、使い方を間違ったためにかえって便秘を悪化させていたという矛盾は起こりがちです。皆さんにはこうしたつらいストーリーを経験して欲しくありません。

便秘薬を気軽に手に入れられるからといって、安易に頼ったり自己流で解決するのではなく、困ったときは医療機関で相談してください。便秘で受診するのは恥ずかしいとか、便秘なんかで受診したら冷たくあしらわれるのではと心配する必要はありません。今回は詳しく触れませんが、実は便秘には別の病気が隠れている可能性もあるので、医療機関で詳しい検査が必要になることもあります。

慢性の便秘は命に直結する病気ではありませんが、生活の質を大きく下げる悩みです。お医者さんは身体の悩みを解決するために存在するのですから、安心して医療機関にかかりましょう。

 

5. まとめ

今回は、数ある下剤の中でも最も見かける刺激性下剤の使いすぎで起こる危険性を中心に解説しました。もうすでに刺激性下剤が手放せなくなっていると不安になった人でも、今からできる対策はあります。時間はかかりますが、徐々に他の種類の薬に置き換えていくことで悪循環から抜け出すことができますので、まずは一度、お医者さんに相談することをおすすめします。なお、他の合併する病気のためにやむを得ず刺激性下剤が長期処方されている場合もありますので、心配であれば一度かかりつけのお医者さんに聞いてみてください。

次回のコラムでは、薬に頼る前に、まずは「自分でできる便秘対策法」を紹介します。忙しいこの時代だからこそ、普段の生活に気を付けて、医者要らず、薬要らずで済むようにしたいですね。

 

参考文献

・慢性便秘症診療ガイドライン2017

・Bharucha AE, Pemberton JH, Locke GR 3rd. American Gastroenterological Association technical review on constipation. Gastroenterology. 2013 Jan;144(1):218-38.

・Chan AO, Hui WM, Leung G. Patients with functional constipation do not have increased prevalence of colorectal cancer precursors. Gut. 2007 Mar;56(3):451-2.

・Guérin A, Mody R, Fok B. Risk of developing colorectal cancer and benign colorectal neoplasm in patients with chronic constipation. Aliment Pharmacol Ther. 2014 Jul;40(1):83-92.

・Walker NI, Bennett RE, Axelsen RA. Melanosis coli: a consequence of anthraquinone-induced apoptosis of colonic epithelial cells. Am J Pathol 1988; 131: 465-476.

・Nusko G, Schneider B, Müller G. Retrospective study on laxative use and melanosis coli as risk factors for colorectal neoplasma. Pharmacology. 1993 Oct;47 Suppl 1:234-41.

・Siegers CP1, von Hertzberg-Lottin E. Anthranoid laxative abuse--a risk for colorectal cancer? Gut. 1993 Aug;34(8):1099-101.

・Riecken EO1, Zeitz M, Emde C. The effect of an anthraquinone laxative on colonic nerve tissue: a controlled trial in constipated women. J Gastroenterol. 1990 Dec;28(12):660-4.

・Smith B. Effect of irritant purgatives on the myenteric plexus in man and the mouse. Gut. 1968 Apr;9(2):139-43.

・庭本 博文, 大橋 秀一, 岡本 英三. 重症特発性慢性便秘における結腸壁内神経叢機能に関する細胞計測学的および薬理学的研究. 日本消化器外科学会雑誌 1993 26: 203-213.

・Badiali D, Marcheggiano A, Pallone F. Melanosis of the rectum in patients with chronic constipation. Dis Colon Rectum. 1985 Apr;28(4):241-5.

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

▲ ページトップに戻る