こうけつあつしょう
高血圧症
140/90mmHgより高い血圧が持続している状態。原因には加齢、喫煙、肥満、ホルモンの異常などがある。高血圧症があると心筋梗塞や脳出血などの危険性が増加する。
17人の医師がチェック 168回の改訂 最終更新: 2025.10.27

知っておくべき高血圧症の注意点

高血圧症は狭心症心筋梗塞脳梗塞などの病気を予防するために治療が必要です。高血圧症は薬物療法に加えて、塩分の摂りすぎに気をつけ、適度な運動を取り入れるなど生活習慣の改善も重要です。

1. 高血圧症の対策と予防:しっかり治療するために

高血圧症はそれ自体にあまり目に見える症状がなく、また付き合いも長くなる病気であり、治療意欲を維持するのが難しい病気かもしれません。しかし、高血圧症は治療されていない状態が続くと、動脈硬化を悪化させることが知られており、進行すると狭心症心筋梗塞脳梗塞などを起こします。高血圧症は症状が出にくい病気ですが、これらの病気を予防する意味でしっかり治療することが大切です。

高血圧症は食事療法、運動療法、薬物療法を組み合わせて治療が行われます。ここでは高血圧症の治療の重要なポイントとして以下のものがあります。

  • 生活習慣を改善する
  • どういった食事が高血圧症に良いのか:食べ物や献立について
  • 薬をしっかり飲む
  • どの程度の運動をしたら良いか?
  • ストレスと高血圧症の関係

以下ではこれらのポイントについて説明していきます。

生活習慣を改善する

高血圧症は暴飲暴食、運動不足、不規則な生活などがあると悪化することがわかっており、生活習慣と密接に関わっている病気と言えます。実際、これらの生活習慣を改善できると薬を使用しなくても高血圧症が良くなることも珍しくありません。例えば、次のことが挙げられます。

  • 外食、飲み会の回数を減らす
  • 味付けに塩をなるべく使わないようにする
  • 野菜を多めにとるようにする
  • 通勤に徒歩や自転車を取り入れる
  • エレベーターやエスカレーターを使わず階段を使うようにする

より細かい食事や運動のポイントについては「治療の章」でも説明しています。

生活習慣を変えるだけで高血圧症が良くなってしまえば、薬を飲む必要がなくなり、薬の費用もかからなくなります。高血圧症で生活習慣の乱れに心当たりのある方は、できるところからで構いませんので、改善していくことをお勧めします。

どういった食事が高血圧症に良いのか:食べ物や献立について

高血圧症の食事ではまず塩分摂取しすぎないようにすることが重要です。具体的には塩分摂取の目標値は1日6gとされています。

塩分摂取を減らすための工夫としては減塩食品を用いる方法があります。減塩食品について日本高血圧学会がリストで比較説明しています。他にも塩分摂取を減らすコツとしては以下のようなものがあります。

  • コショウ、七味、生姜など塩分以外の調味料を用いる
  • 新鮮な食材の持ち味を活かして、薄味で調理する
  • 外食や加工食品を控える
  • 漬物を控える(食べる場合は浅漬けにして、少量にする)
  • 調味料は味付けを確かめてから使う
  • 麺類は汁を残す

他にも高血圧症の方の食事ではご飯・パン・麺類などの主食、肉や魚類などの主菜、野菜や海藻類などの副菜をバランスよくとることも重要です。

主食や主菜は摂りすぎてしまうことが多いですが、摂りすぎた主食や主菜は脂肪に変換され、高血圧症のリスクである肥満の原因になります。一方で野菜や海藻類などの副菜はカロリーをあまり含んでおらず、動脈硬化を抑える効果が知られています。ただし、漬物は塩分を多く含むため、漬物から野菜を摂取する場合は減塩などの対応が望ましいとされています。

薬をしっかり飲む・通院を継続する

高血圧症の方の中には、食事療法や運動療法のみでは十分改善せず、薬物療法が必要になることがあります。高血圧症に高い効果のある薬の登場もあり、食事療法や運動療法だけで良くならなかった高血圧症が薬物療法で劇的に良くなるということも珍しくありません。

一方で、一度開始した薬による治療を自己中断してしまう方もいます。具体的には以下のような理由が考えられます。

  • 症状があまりないので薬を飲む必要性を感じない
  • 薬代が高い、定期的な通院が大変
  • 薬物療法で高血圧症が改善したことに安心した

高血圧症は目に見える症状が現れにくい病気であり、治療の必要性を感じにくい病気ですが、狭心症心筋梗塞脳梗塞閉塞性動脈硬化症などの原因になることがわかっています。これらの病気を予防する意味でもしっかりした治療が重要になります。費用については高血圧症の治療薬には後発品(ジェネリック医薬品)があるものがあります。薬物療法を始めた直後の通院は、薬物療法の効果や副作用がないかを確認するため、短い間隔で必要になりますが、薬物療法を開始して血圧が安定している場合には、通院の間隔を伸ばせる場合があります。

薬物療法で血圧が改善した場合でも、薬をやめてしまうと血圧がもとに戻ってしまうことが珍しくありません。そのため、薬物療法は血圧が改善したあとも継続されることが多いです。ただし、薬物療法を開始して長期間、目標値を達成している場合は薬物療法を中止することもあります。

通院の間隔や治療内容につき、疑問点があれば担当の医師に遠慮なく聞いてみてください。

どの程度の運動をしたら良いか?

高血圧症の有酸素運動は1日合計30分以上の運動を週3回以上行うことが勧められています。有酸素運動とは十分な呼吸で酸素を取り込みながら行う運動のことです。有酸素運動の一例を以下に挙げます。

  • ジョギング
  • 速歩
  • 水泳
  • エアロビクス
  • サイクリング

なかなか有酸素運動の時間を確保するのが難しい方は、通勤に徒歩や自転車を利用するなどの工夫をしてみるのも良いかもしれません。

ストレスと高血圧症の関係

ストレスがかかると血圧は上がりやすくなります。血圧は交感神経副交感神経によって調整されています。交感神経と副交感神経は合わせて自律神経と呼ばれ、交感神経は緊張状態で、副交感神経は落ち着いた状態で活性化されます。交感神経は血圧を上昇させる作用があるため、ストレスが加わるような緊張状態では血圧が上がりやすくなります。

なお、ここでの「ストレス」とは精神的なストレスに加えて、疲労などの身体的なストレスも含みます。高血圧症の治療においてはストレスをうまく解消したり、よく身体を休めることも重要です。

2. 高血圧症に関するよくある疑問点

ここでは高血圧症に関するよくある疑問点として以下を取り上げます。

  • 高血圧症の予防法はあるか?
  • 高血圧症に効くサプリメントはあるか?
  • 高血圧症は遺伝するか?
  • 高血圧症になったら何科にかかれば良いのか?
  • 妊婦の高血圧症は要注意?
  • 喫煙について:タバコは吸って良いのか?
  • 入浴について:お風呂に工夫はあるか?

以下ではそれぞれの疑問点について説明していきます。

高血圧症の予防法はあるか?

高血圧症は塩分の多い食事、喫煙、肥満など生活習慣と密接に関連する病気です。そのため、これらの生活習慣を改善することで高血圧症の治療だけでなく、予防にも有効な可能性があります。具体的には以下のような対策が考えられます。

  • 塩辛いものを食べ過ぎない
  • 味付けに塩や醤油以外の調味料を使う
  • タバコを吸わない
  • 適度な運動を行う
  • 肥満がある場合は体重を減量する

食事に関する注意点や運動の仕方については「 1. 高血圧症の対策と予防:しっかり治療するために」で説明しています。高血圧症が心配な場合には、このような生活習慣の改善に気をつけてみてください。

高血圧症に効くサプリメントはあるか?

サプリメントのなかには、血圧に対して作用をもつと説明されるものがあります。たしかに、それらのサプリメントも高血圧症に対して効果がある可能性はあります。しかし、病院で処方される高血圧症の改善薬に比べると、有効性や安全性に関する試験が十分でないものが多く、効果があるとははっきり言えないというのが現状です。また、サプリメントの中には、医薬品との飲み合わせが悪いものもあるので、サプリメントを内服されている方は、担当の医師や薬剤師に相談することをお勧めします。

高血圧症は遺伝するか?

何らかの遺伝的な要因(先天的要因)も高血圧症の発症に関わっていると考えられています。つまり、高血圧症のなりやすさは遺伝すると考えられています。ただし、そのような人でも、遺伝子だけで高血圧症になるかが決まるわけではなく、カロリーの摂りすぎや運動不足などの生活習慣や環境の影響(後天的要因)も強く受けます。つまり、なりやすい体質と生活習慣の影響の両方があって初めて高血圧症を発症する人が大半になります。

高血圧症になったら何科にかかれば良いのか?

高血圧症に関連する専門科は内科です。高血圧症は内科の医師であれば診断、治療が可能な病気であり、受診先としては内科のクリニックや病院が適しています。高血圧症は大きな病院でなくとも診断や治療を受けることが可能です。

妊婦の高血圧症は要注意?

もともと高血圧症でなかった人に妊娠がきっかけで高血圧症が起こることがあります。これは妊娠高血圧症候群と呼ばれます。妊娠高血圧症候群は重症化するとお母さんの痙攣や腎障害などを起こすことがあるため、注意が必要です。また赤ちゃんの発育が悪くなることや、最悪の場合、赤ちゃんが死亡してしまうこともあります。

妊娠高血圧症候群では食事の塩分制限を行ったり、血圧を下げる薬を使って治療します。血圧を下げる薬としては、お母さん・赤ちゃんへの影響が少ないとされるメチルドパ(商品名:アルドメット®︎)が使われます。

妊娠高血圧症候群は妊娠自体が高血圧症の原因となっているので、根本的な治療はなるべく早く出産に至ることです。そのため、赤ちゃんがお母さんのお腹の中で十分に発育すれば、早めの分娩がすすめられます。

参考:日産婦誌 2006;58(5),N-61

喫煙について:タバコは吸って良いのか?

タバコにはニコチンや一酸化炭素といった有害物質が多く含まれています。タバコに含まれている有害物質は、動脈硬化を悪化させることがわかっています。そのため、高血圧症にも喫煙は望ましくないと言えます。

まずはご自身で禁煙に挑戦し、難しければ最近では禁煙外来といって禁煙を専門としている外来を併設している病院やクリニックもあるので、一度相談してみると良いかもしれません。

また喫煙者のみではなく、まわりにいる非喫煙者もタバコの煙を吸う可能性があります。非喫煙者が喫煙者のタバコの煙を吸ってしまうことを受動喫煙と呼びますが、受動喫煙であっても悪影響があると言われています。もし、ご家族にタバコを吸われている人がいる場合は、受動喫煙を避けるためにご家族の協力も必要になります。

入浴について:お風呂に工夫はあるか?

急激な体温の変化は血圧上昇の原因になることがあります。入浴についての工夫としては、以下のものが考えられます。

  • 脱衣室や浴室が寒い場合は暖房を入れる
  • あまり熱い湯(42℃以上)ではなく、ぬるめ(40℃ぐらい)のお風呂に入る
  • 入浴時間は5から10分程度にする

寒い所に急に出ると血管が収縮し血圧が上昇します。そのため、脱衣室や浴室が寒くならないようにする工夫が重要になります。

また、お風呂に入ると直後には心拍数と血圧が上昇し、その後血管の拡張が起こり血圧が徐々に下がっていきます。この時、お風呂の温度があまりに熱いと急激な血圧上昇を起こすため、熱すぎないお湯に入ることが良いです。