こうけつあつしょう
高血圧症
140/90mmHgより高い血圧が持続している状態。原因には加齢、喫煙、肥満、ホルモンの異常などがある。高血圧症があると心筋梗塞や脳出血などの危険性が増加する。
17人の医師がチェック 164回の改訂 最終更新: 2022.02.18

高血圧症の治療:食事療法、運動療法、薬物療法など

高血圧症の治療には食事療法、運動療法、薬物療法があります。食事療法は適切な食事を行います。運動療法では有酸素運動を中心に行います。薬物療法は血管を広げたり、血圧をあげる物質を抑えたりすることで高血圧症を改善します。

1. 高血圧症の治療には何があるか

高血圧症の治療は食事療法、運動療法、薬物療法を主軸に行います。

血圧管理を考えるうえでは適切な食事が欠かせません。というのも塩分の取りすぎは血圧上昇の原因になりますし、肥満が高血圧症の原因になることもあります。そのため、食事療法では塩分の摂り過ぎやカロリーの過剰摂取に注意するなど、適切な食事を行うことで高血圧症の改善を目指します。

運動療法は消費するエネルギーを増やすことで肥満を改善し、血圧改善を目指します。ジョギングなどの有酸素運動が脂肪の燃焼に優れており、高血圧症の運動療法として推奨されています。

薬物療法は薬により血管を広げたり、血圧をあげる物質の作用を抑えたりすることで高血圧症を改善させます。

以下で食事療法、運動療法、薬物療法の内容を詳しく説明します。

2. 食事療法

高血圧症の食事療法では以下のポイントが重要です。

  • 塩分を摂取しすぎない
  • 適切な量のカロリー(エネルギー)を摂取する
  • 主食・主菜・副菜をバランスよくとる
  • アルコールを摂取しすぎない

以下ではこれらのポイントについて詳しく説明していきます。

塩分を摂取しすぎない

塩分を摂取しすぎないようにすることは、高血圧の食事療法のなかで最も大事なポイントです。高血圧症の塩分摂取の目標値は1日6gとされています。1日あたりの食事からの塩分摂取量の一例を示すと以下のようになります。

  • カップめん 5.5g
  • 梅干し 1.8g
  • まあじの開き干し 1.0g
  • パン 0.9g

このように塩分摂取量の一例を見てみると、6gという量が大変と感じる方もいらっしゃるかもしれません。塩分摂取を減らすための工夫としては減塩食品を用いる方法があります。減塩食品について日本高血圧学会がリストで比較説明しています。他にも塩分摂取を減らすコツとしては以下のようなものがあります。

  • コショウ、七味、生姜など塩分以外の調味料を用いる
  • 新鮮な食材の持ち味を活かして、薄味で調理する
  • 外食や加工食品を控える
  • 漬物を控える(食べる場合は浅漬けにして、少量にする)
  • 調味料は味付けを確かめてから使う
  • 麺類は汁を残す

高血圧症の食事療法ではこれらの工夫を行いながら減塩に努めるようにしてください。

参考文献
・医薬基盤・健康・栄養研究所, 平成27年国民健康・栄養調査, 2017

適切な量のカロリー(エネルギー)を摂取する

高血圧症の原因や悪化させるものの一つに肥満があります。そのため、高血圧症の食事療法ではカロリーの摂りすぎに注意する必要があります。

具体的に1日の目標カロリー摂取量は以下のように計算されます。

  • 目標カロリー摂取量=標準体重×身体活動量
    • 標準体重=身長(m)x身長(m)x22
    • 身体活動量は以下の通り
      • 35(重い労作、力仕事が多い)
      • 30(普通の労作、立ち仕事が多い)
      • 25(軽い労作、デスクワークが多い)

例えば、身長170cmでデスクワークが多い仕事をしている人の1日の目標カロリー摂取量は、1.7x1.7x22x25≒1600kcalになります。このように身長から計算される標準体重と身体活動量をもとに目標カロリー摂取量は計算されます。

主食・主菜・副菜をバランスよくとる

高血圧症の食事療法ではご飯・パン・麺類などの主食、肉や魚類などの主菜、野菜や海藻類などの副菜をバランスよくとることが重要です。主食や主菜は多めに摂りがちなので注意が必要です。主食や主菜の摂りすぎた栄養素は脂肪に変換され、肥満の原因になります。一方で野菜や海藻類などの副菜はカロリーをあまり含んでおらず、動脈硬化を抑える効果が知られています。ただし、漬物は塩分を多く含むため、漬物から野菜を摂取する場合は減塩などの対応が望ましいとされています。副菜は一般に不足しやすいため、少し多めにとるようにしてみてください。

アルコールを摂取しすぎない

アルコールの摂りすぎを続けていると血圧上昇の原因になります。そのため、高血圧症の人ではアルコールの摂取しすぎに注意が必要です。具体的にアルコールは1日20-25g程度までが良いとされています。20-25gのアルコールは以下に相当します。

  • ビール中ビン1本(500ml)
  • ウイスキーのダブル1杯(60ml)
  • ワイングラス2杯(200ml)
  • 日本酒1合(180ml)
  • 焼酎0.5合(90ml)

高血圧症で飲酒量が多い自覚のある場合は、上記のアルコール量を意識するようにしてください。

栄養指導

栄養指導(栄養指導外来)では、食事療法を行う上で目標とする摂取カロリー、栄養素の量などの説明を病院やクリニックで受けることができます。栄養指導は栄養に関する専門知識を持つ管理栄養士により行われます。栄養指導を受けることで、どのような食事を摂取したら良いか、具体的な献立の説明も受けることができ、食事療法をより効果的に行うことができます。栄養指導のご希望がある方は担当の医師と相談してみてください。

3. 運動療法

高血圧症の原因や悪化させるものの一つに肥満があります。そのため、高血圧症の人で肥満がある場合には、有酸素運動を通じて減量することが重要です。有酸素運動とは十分な呼吸で酸素を取り込みながら行う運動のことです。有酸素運動の一例を以下に挙げます。

  • ジョギング
  • 速歩
  • 水泳
  • エアロビクス
  • サイクリング

有酸素運動は長時間継続可能な強度の運動です。有酸素運動は脂肪燃焼効果が高い運動であるとされています。一方、ウエイトトレーニングのように運動をした後に手足がぱんぱんになる運動は無酸素運動と言います。無酸素運動は脂肪燃焼効果が低いため、減量にはあまり適していないとされています。もし、運動をした後に手足がぱんぱんになる場合には運動強度として強すぎる可能性があります。

有酸素運動は1日合計30分以上の運動を週3回以上行うことが勧められています。通勤に徒歩や自転車を利用する工夫もあります。

4. 薬物療法に用いられる薬の効果と副作用

薬物療法は薬により血管を広げたり、血圧をあげる物質の作用を抑えることで高血圧症を改善する治療法です。食事療法や運動療法と組み合わせて、高血圧症の改善を目指します。代表的な高血圧治療薬の種類は以下の通りです。

  • カルシウム拮抗薬
  • ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)
  • ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)
  • β遮断薬
  • サイアザイド系利尿薬
  • 漢方薬

以下ではそれぞれの薬の特徴や副作用につき、説明していきます。

カルシウム拮抗薬(アムロジピン、ニフェジピンなど)

カルシウム拮抗薬は細胞内へのカルシウムイオンの流入を阻害する作用により血圧を下げる作用をあらわす薬です。

血管は身体の状況に応じて収縮したり拡張したりすることで血圧を調節しています。血管の収縮は平滑筋細胞にカルシウムイオン(Ca2+)が流入することが必要です。カルシウム拮抗薬は平滑筋細胞へCa2+の流入を抑えることで血管収縮を抑制し、血管拡張作用をあらわします。カルシウム拮抗薬にはいくつか種類があり高血圧以外にも不整脈に使われるものもあります。高血圧の治療目的に使われるカルシウム拮抗薬にはアムロジピン(アムロジン®)、ニフェジピン(アダラート®)などあります。

カルシウム拮抗薬の副作用としては血圧の下がりすぎやふらつきなどあります。その他、頭痛、消化器症状、浮腫などの副作用にも注意が必要です。

カルシウム拮抗薬による治療中にグレープフルーツを摂取すると薬の代謝が阻害されることで薬剤成分が血液中に残りやすくなり、過度に薬の効果があらわれる可能性が考えられます。そのため、医師や薬剤師から事前に相互作用(飲み合わせ)の有無や注意事項などをよく聞いておくことも大切です。

ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)

ARBはアンジオテンシンという血圧上昇などに深く関わる体内物質の働きを抑えることで血圧低下作用をあらわす薬です。

私たちの体内には身体の状況に応じて血圧を調節する仕組みがあります。血圧を調節する仕組みの一つにアンジオテンシンIIによるものがあります。アンジオテンシンIIは血管を収縮させたり、アルドステロンという血圧上昇作用のあるホルモン産生を促すことで血圧を上昇させます。

ARBはアンジオテンシンIIの受容体を阻害する作用により主に高血圧治療薬として開発された薬です。一方で降圧目的以外にも使われることがあり、心不全や腎疾患の治療薬として使われる場合もあります。アルドステロンは血圧以外にも心臓の肥大や心臓及び血管の線維化、腎障害などに関わる物質と考えられています。またアンジオテンシンIIは脳、血管、心臓、腎臓などに存在する自身の受容体に結合することで高血圧だけでなく脳卒中心不全腎不全などの因子となるとされています。そのためARBには心臓、腎臓、脳血管などの臓器保護作用が期待できると考えられています。

以下にARBの一例を挙げます。

  • カンデサルタン(主な商品名:ブロプレス®)
  • ロサルタン(主な商品名:ニューロタン®)
  • バルサルタン(主な商品名:ディオバン®)
  • テルミサルタン(主な商品名:ミカルディス®)
  • イルベサルタン(主な商品名:アバプロ®、イルベタン®)
  • アジルサルタン(商品名:アジルバ®)

またARBは他の高血圧治療薬との配合製剤もあります。例えばサイアザイド系利尿薬との配合製剤(例:プレミネント®、エカード®、ミコンビ®など)やカルシウム拮抗薬との配合製剤(例:エックスフォージ®、レザルタス®、アイミクス®、ザクラス®など)などです。

ARBで注意すべき副作用にはめまいや立ちくらみ、頭痛、腹痛や吐き気などの消化器症状、高カリウム血症などがあります。また頻度は非常にまれとされていますが血管浮腫、ショックなどがあらわれる可能性があり、これらは薬剤によっても異なる場合がありますが注意が必要とされています。ARBを使用中に体調の変化を自覚する場合には担当の医師や薬剤師に相談するようにしてください。

また、比較的似たような作用をもつARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)というタイプの薬も2021年から高血圧に使えるようになり、今後使用が広がるかもしれません。

ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)

ACE阻害薬もARB同様、アンジオテンシンという血圧上昇などに深く関わる体内物質の働きを抑えることで血圧低下作用をあらわす薬です。ACE阻害薬はアンジオテンシンIIの生成に関わる酵素(ACE:アンジオテンシン変換酵素)を阻害することより、アンジオテンシンIIの生成を抑え、血圧低下作用をあらわします。アンジオテンシンIIは血管を収縮させたり、アルドステロンというホルモン産生を促すことで血圧を上昇させる物質です。アンジオテンシンの働きを抑える薬であるARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)が高血圧治療以外に心不全や腎疾患などの治療で使われることがあるように、ACE阻害薬もこれらの治療に使われることがあります。

実際にエナラプリル(主な商品名:レニベース®)やリシノプリル(主な商品名:ロンゲス®、ゼストリル®)が慢性心不全へ保険承認されていたり、ペリンドプリル(主な商品名:コバシル®)では心臓の肥大を抑えたり血管への改善作用が期待できるとされるなど、高血圧治療以外でも有用とされている薬です。

注意すべき副作用としては、めまいや立ちくらみ、頭痛、腹痛や吐き気などの消化器症状などがあります。また頻度はまれとされていますが血管浮腫や高カリウム血症などが起こる可能性も少なからずあります。またACE阻害薬は咳(空咳)が副作用であらわれることがあります。ACE阻害薬を使用中に体調の変化を自覚する場合には担当の医師や薬剤師に相談するようにしてください。

β遮断薬

β遮断薬は高血圧治療薬の一つで、交感神経のβ(ベータ)受容体をブロックすることでその効果を発揮します。β受容体には血圧を上昇させる作用があるので、β受容体をブロックすることで血圧低下作用を期待できます。

β遮断薬は交感神経の働きを抑えることで、心臓への負荷を減らす作用があると考えられており、心不全の悪化を防ぐなど血圧低下作用以外にも効果があると考えられています。具体的なβ遮断薬にはカルベジロール(主な商品名:アーチスト®)やビソプロロール(主な商品名:メインテート®)などがあります。(カルベジロールは交感神経α受容体をブロックする作用もあるため、αβ遮断薬と呼ばれる場合もあります)

β遮断薬の副作用には血圧が下がりすぎたり、ふらつきや立ちくらみなどがあらわれる可能性もあるため注意が必要です。β受容体の中の一部には気管支の拡張などに関わるタイプのものもあるため、β遮断作用により気管支が収縮し、咳などの呼吸器症状があらわれる場合があります。気管支喘息などの持病をもっている場合には特に注意が必要です。β遮断薬を使用中に体調の変化を自覚する場合には担当の医師や薬剤師に相談するようにしてください。

サイアザイド系利尿薬

利尿薬の一部は血圧を下げる目的に使われることがあります。高血圧の治療目的に使われる代表的な利尿薬にサイアザイド系利尿薬があります。サイアザイド利尿薬は腎臓の遠位尿細管という部分における電解質や水分の再吸収を抑えることでその効果を発揮します。サイアザイド系利尿薬としてはトリクロルメチアジド(主な商品名:フルイトラン®)やヒドロクロロチアジドなどがあります。注意すべき副作用としては低ナトリウム血症低カリウム血症などの電解質異常や耐糖能低下などの代謝異常、めまいや立ちくらみ、過敏症、貧血などの血液障害、吐き気などの消化器症状などがあります。

漢方薬(高血圧などの症状改善が期待できる漢方薬)

高血圧症は脳卒中心筋梗塞など多くの病気の温床となる病気のひとつですが、高血圧の多くは原因がはっきりしない本態性高血圧と呼ばれるものです。

また高血圧の随伴症状は頭痛、めまい、のぼせなど様々で体質や生活習慣などの影響を受けることも考えられます。薬による高血圧症の治療では一般的に、体内で血圧を上昇させる要因となる物質の働きを抑えることで血圧を下げるARBやACE阻害薬であったり、主に血管を拡張させることで血圧を下げるカルシウム拮抗薬などの降圧薬が使われています。これらの薬剤以外にも漢方薬が治療の選択肢になる場合も考えられ、特に先ほど挙げたような降圧薬を使う必要性が比較的低いと判断できる軽度な病態であったり、なんらかの理由によって降圧薬が使いづらい病態である場合などには漢方薬が有用となることも考えられます。漢方医学では個々の症状や体質などを「証(しょう)」という言葉であらわし、一般的にその「証」に適した漢方方剤が選択されるため、原因があまりはっきりとしない本態性高血圧や高血圧の随伴症状などの改善が期待できることも考えられます。

ここでは高血圧や高血圧に随伴する症状などの改善が期待できる漢方薬をいくつか挙げてみていきます。

◎三黄瀉心湯(サンオウシャシントウ)

比較的体力があり、顔面紅潮(顔が赤みを帯びている状態)、便秘、精神不安などがあるような高血圧の随伴症状(のぼせ、肩こり、耳なり、不眠など)に適するとされている漢方薬です。

黄芩(オウゴン)、黄連(オウレン)、大黄(ダイオウ)といったいずれも「黄」の文字を含む3種類の生薬から構成されている漢方薬であり心の中に詰まったものを除くという薬効が方剤名の由来となったとされています。

血圧降下作用や中枢神経系に対する作用から、気分のイライラなどがあり不安や不眠などの精神神経系症状に対しても有用で、鼻血下血などの症状や更年期障害などに対する改善効果も期待できるとされています。

下剤としての作用をあらわす大黄(ダイオウ)を構成生薬に含むため、お腹が下りやすいなどの体質がある場合などには特に注意が必要です。

◎黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)

比較的体力があり、のぼせ気味で顔面紅潮、不安、イライラ、動悸鼻出血などがあるような証に適するとされる漢方薬です。

黄連解毒湯は先ほどの三黄瀉心湯にも含まれていた黄芩(オウゴン)と黄連(オウレン)に加え山梔子(サンシシ)と黄柏(オウバク)の計4種類の生薬から構成されています。

のぼせや顔面紅潮など三黄瀉心湯と類似した証に適する漢方薬ですが、こちらは便秘の症状はなく、みぞおちのつかえ感であったり胸が苦しい感じなどを伴う症状に適するとされています。

服用時に苦みが比較的強く感じられる(個人差はあります)漢方薬のひとつですが、高血圧(及び随伴症状)以外にも、更年期障害、胃炎や二日酔いなどの消化器症状、皮膚炎など多くの病態に有用とされる漢方薬でもあります。

◎大柴胡湯(ダイサイコトウ)

一般的には比較的体力があり、便秘がちで、上腹部の張りや苦しさ、耳なりや肩こりなどがある証に適するとされ、これらを伴うような高血圧に対しても有用とされています。柴胡(サイコ)や黄芩(オウゴン)といった脂質代謝改善作用などが期待できる生薬を含み、肥満または筋肉質で、お腹が緊張しているような状態における胆石症、胆のう炎、肝機能障害、消化性潰瘍、胃腸炎、蕁麻疹、動脈硬化症などに使われることも考えられる漢方薬です。「便秘がち」な体質に適するとあるように、構成生薬に下剤としての作用をあらわす大黄(ダイオウ)を含むため、お腹が下りやすいなどの体質がある場合には特に注意が必要です。

◎七物降下湯(シチモツコウカトウ)

体力がどちらかというと不足している虚弱な状態で、胃腸は比較的丈夫な高血圧に伴う随伴症状(のぼせ、肩こり、耳なり、頭重など)に適しているとされている漢方薬です。

四物湯(シモツトウ)と呼ばれる漢方薬に釣藤鈎(チョウトウコウ)、黄耆(オウギ)、黄柏(オウバク)を加えた7種類の生薬から構成され、高血圧を治療することからこの方剤名(七物降下湯)が付けられたとされています。

腎虚(じんきょ)といって腎機能の低下がある状態や尿タンパクなどがみられる病態に対して適するとされ高血圧症以外にも慢性腎炎や動脈硬化症などの改善も期待できるとされています。構成生薬に地黄(ジオウ)が含まれることもあり、比較的胃腸の弱い体質を持っている場合には食欲不振などの消化器症状があらわれやすくなることが考えられ注意が必要です。

◎釣藤散(チョウトウサン)

慢性的な頭痛、肩こり、めまいなどを症状として訴えたり、高血圧の傾向があるような証に対して使われる漢方薬です。

釣藤散の薬効としては血圧上昇を抑制する作用、脳血流量の保持作用(脳血流減少を抑制する作用)などが期待できるとされ、このことからも高血圧や動脈硬化などに対する有用性が考えられます。また主薬で方剤名の由来でもある生薬の釣藤鈎(チョウトウコウ)は脳の細胞を保護する作用、睡眠を延長する作用、精神安定作用、学習記憶改善作用などをあらわすとされ、これらの作用から釣藤散は近年ではアルツハイマー型の認知症や脳血管性の認知症などへの有用性も考えられている漢方薬でもあります。

◎真武湯(シンブトウ)

一般的には新陳代謝や体力が低下している状態における全身倦怠感、下痢、腹痛などに対して使われている漢方薬です。

冷えなどを改善する生薬の附子(ブシ)を含むことからも、悪寒や四肢の冷感などを伴うような症状に適するとされます。本剤はもともと中国における四神のひとつで北方の守護である玄武の名前から玄武湯(ゲンブトウ)と呼ばれていたことがあり、北が「水」の属性をもつとされることなどからも下痢などの症状改善に適していることがイメージできます。

高血圧に対しても改善が期待でき、特に痩せ気味で冷えがあり、左右に揺れるようなめまいなどを伴う病態に対して適するとされています。

◎その他、高血圧(及び随伴症状)の改善が期待できる漢方薬

その他の漢方薬では、目のかすみや下肢のしびれ、排尿異常などを伴う高血圧に対して八味地黄丸(ハチミジオウガン)が使われる場合が考えられます。また八味地黄丸に生薬の牛膝(ゴシツ)と車前子(シャゼンシ)を加えた牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)は尿量減少や浮腫がよりみられるなどの腎機能低下の病態に対して適するとされています。

防風通聖散(ボウフウツウショウサン)は一般的に、お腹に皮下脂肪が多く便秘がちな肥満などの証に適する漢方ですが、動悸、肩こり、のぼせなどの高血圧の随伴症状の改善にも効果が期待できるとされています。また一般的には更年期障害などの婦人科領域で使われることが多い加味逍遙散(カミショウヨウサン)は肩こり、頭痛、めまいなどの高血圧に関連する症状に対しても有用とされています。この他にも、柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)、柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)などの漢方薬が高血圧や高血圧の随伴症状に対する治療の選択肢になることも考えられます。

冒頭でも少しふれましたが、一般的に漢方薬は個々の症状や体質など(証)に適したものが選択されます。単に「血圧が高い」だけではなく、めまいや耳なり、のぼせなど高血圧に伴うなんらかの症状がある場合には自身の体力や胃腸の状態なども含めて医師や薬剤師とよく相談し、適する漢方薬を有効的に使うことが大切です。

◎漢方薬にも副作用はある?

一般的に安全性が高いとされる漢方薬も「薬」の一つですので、副作用がおこる可能性はあります。

例えば、生薬の甘草(カンゾウ)の過剰摂取などによる偽アルドステロン症(偽性アルドステロン症)や黄芩(オウゴン)を含む漢方薬でおこる可能性がある間質性肺炎や肝障害などがあります。ただし、これらの副作用がおこる可能性は比較的まれとされ、万が一あらわれても多くの場合、漢方薬を中止することで解消されます。

漢方医学では個々の症状や体質などを「証(しょう)」という言葉であらわしますが、漢方薬自体がこの証に合っていない場合にも副作用があらわれることは考えられます。

三黄瀉心湯(サンオウシャシントウ)や大柴胡湯(ダイサイコトウ)などの例にもあるように便秘などを改善する漢方薬には大黄(ダイオウ)が含まれることがあり、もともとお腹が下りやすい体質がある場合には下痢などの消化器症状が起こりやすくなることが考えられます。また大黄は早産流産などの危険性から妊婦に対して特に注意する生薬成分です。加えて大黄の成分の一部は母乳中に移行するため、仮にその母乳を乳児が飲んだ場合、乳児が下痢を引き起こす懸念があり、授乳婦に対しても注意が必要な生薬成分でもあります。

漢方薬は通常、個々の体質や症状などを十分考慮したうえで使われ、体質に合わない場合などは変更・中止するなどの適切な対応がとられます。ただし漢方薬による治療中に、何らかの気になる症状があらわれた場合でも自己判断で薬を中止することはかえって治療の妨げになる場合もあります。もちろん非常に重篤な症状となれば話はまた別ですが、漢方薬を服用することによってもしも気になる症状があらわれた場合は自己判断で薬を中止せず、医師や薬剤師に相談することが大切です。

5. 高血圧症の薬はいつまで飲み続けるのか?

高血圧症の薬は一度始まると一生涯薬を飲み続けることも珍しくありません。

血圧が良い状態が長い期間続いている場合には、高血圧症の治療薬をやめられる場合があります。ただし、薬の中止によって、血圧が戻ってしまうこともあり、薬の中止には専門的な判断を要します。高血圧症の薬の中止を希望される場合は、自己判断で中止はせず、担当の医師と相談するようにしてください。

6. 高血圧症に関するガイドラインはある?

近年、どこの病院でも一定水準以上の医療を受けられるようにするため、さまざまな病気に対してガイドライン(治療指針)が作成される時代となっています。高血圧症のガイドラインとしては高血圧症治療ガイドライン2014があります。また、高齢者の高血圧のガイドラインとして高齢者高血圧診療ガイドライン2017も発表されています。これらのガイドラインを参考に高血圧症の治療が行われます。