こうけつあつしょう
高血圧症
140/90mmHgより高い血圧が持続している状態。原因には加齢、喫煙、肥満、ホルモンの異常などがある。高血圧症があると心筋梗塞や脳出血などの危険性が増加する。
17人の医師がチェック 164回の改訂 最終更新: 2022.02.18

高血圧症の検査:血圧測定、血液検査など

高血圧症の検査では身長・体重・腹囲測定、血圧測定、血液検査、尿検査などを行います。これらは、高血圧症の診断、同時に起こる他の生活習慣病の評価、高血圧症の治療方針決定のために用いられます。

1. 問診

問診とは医師などの質問に答える形で身体の状態や生活背景を伝えることをいいます。高血圧症の問診では以下のポイントをよく聞かれます。

  • 何か症状があるか
  • (自宅で血圧を計測している場合)日頃の血圧はどれくらいか
  • もともと持病があるか
  • 飲んでいる薬は何かあるか
  • 日頃どれくらいお酒を飲むか
  • 家族で何か病気をもっている人はいるか
  • アレルギーがあるか
  • 妊娠はしているか

高血圧症では問診を通して原因や緊急性を判断していきます。また妊娠している場合や薬に対してアレルギーがある場合には治療薬の選択が限られる場合があります。そのため、これらの問診内容は治療法を決めるうえでも大事な質問事項になります。わかる範囲で構いませんので、診察時に説明するようにしてください。

2. 身体診察

身体診察は身体の状況を客観的に評価することをいいます。身体診察を行うことで高血圧症の原因を推測することができます。例えば、甲状腺のある首の診察が甲状腺機能亢進症の診断につながることがありますし、心臓の音の聴診心不全の診断に欠かせません。高血圧症の原因の中には、脳出血心不全など急いで治療しなければいけないものもあるので、身体診察を通して高血圧症の原因を判断していくことは非常に重要です。

3. 身長・体重・腹囲測定

高血圧症は肥満と密接に関わる病気です。肥満であるかを判定するためには、身長と体重からBMI(ビーエムアイ)を計算します。

  • BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)

例えば、体重60kgで身長170cmの人のBMIは60÷1.7÷1.7=20.8になります。正常のBMIは18.5から25であり、BMIが25以上の時に肥満に該当します。

肥満のある高血圧症の人では、肥満自体の改善が必要なことも多いです。具体的にはBMI 25未満(難しい場合は4kgの減量)が高血圧症の治療を考えるうえでの減量目標とされています。

またBMIと合わせて、腹囲が測定されることがあります。腹囲はメタボリックシンドロームの判定に用いられます。

メタボリックシンドロームは腹囲、脂質、血圧、血糖という、動脈硬化と関わりのある要素の異常をまとめたものです。動脈硬化とは血管が傷つき弾力が失われたり、血管が狭くなったりしている状態です。動脈硬化は進行すると狭心症心筋梗塞脳梗塞などの原因になります。そのため、動脈硬化を起こしやすい人を早くから見つけ、予防する目的でメタボリックシンドロームという考え方が生まれました。

腹囲は内臓についた脂肪(内臓脂肪)の量を予測するために計測します。腹囲はへその高さで計測し、男性85cm、女性90cmの時に内臓脂肪の面積が身体の水平断面で100cm2に相当することが分かっています。そのため、メタボリックシンドロームの診断でも腹囲男性85cm、女性90cmが基準の要件の一つにされています。

メタボリックシンドロームの診断基準は以下の通りです。必須項目に加えて選択項目2つ以上に当てはまる場合にメタボリックシンドロームと診断します。

  • 必須項目
    • 腹囲 男性85cm以上 女性90cm以上
  • 選択項目
    • 中性脂肪≧150mg/dLかつ/またはHDLコレステロール<40mg/dL
    • 収縮期(最大)血圧≧130mmHgかつ/または拡張期(最小)血圧≧85mmHg
    • 空腹時血糖≧110mg/dL

メタボリックシンドロームの人は生活習慣の改善のため、医師や保健師・管理栄養士の指導が設けられます。このように高血圧症ではBMIや腹囲から肥満や内臓脂肪の評価を行い、方針決定に役立てられます。

4. 血圧測定

高血圧症の診断は血圧測定によって行われます。高血圧症と診断される血圧の値は病院や健診で測定したか、自宅で測定したかによって異なります。具体的には以下の血圧が持続した人は、高血圧症と診断されます。

  • 病院や健診などで測定した血圧(診察室血圧)の場合
    • 収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHg以上(140/90mmHg以上)
  • 自宅で測定した血圧(家庭血圧)の場合
    • 収縮期血圧135mmHg以上または拡張期血圧85mmHg以上(135/85mmHg以上)

病院や健診では緊張から血圧が高めに出てしまうため、家庭血圧の基準値は診察室血圧のものから5を引いた値に設定されています。

また、高血圧症と診断された場合には、管理目標値を目指して治療が行われます。高血圧症の管理目標値は年齢やかかったことがある病気の種類によっても異なります。具体的には以下の通りになります。

  病院での血圧 自宅での血圧

75才未満

脳梗塞になったことがあり、脳や両側の首の動脈が狭くなっていることが指摘されていない人

狭心症心筋梗塞になったことがある人

慢性腎臓病があり、尿蛋白が指摘されている人

糖尿病のある人

血のサラサラの薬(バイアスピリン、ワーファリンなど)を飲んでいる人

130/80mmHg未満 125/75mmHg未満


75才以上

脳梗塞になったことがあり、脳や両側の首の動脈が狭くなっていることが指摘されている人

慢性腎臓病があり、蛋白尿が指摘されていない人

140/90mmHg未満
 
135/85mmHg未満
 

これらの管理目標値を目指して、高血圧症の治療は行われます。

5. 血液検査

高血圧症では内臓の状態を評価し治療方針を決定するため、血液検査が行われることがあります。高血圧症の人に対し、健診や診療で測定されることが多い血液検査項目としては以下のものがあります。

  • クレアチニン・BUN
  • 血糖・HbA1c
  • コレステロール・中性脂肪

以下ではそれぞれの検査項目について説明していきます。

クレアチニン・BUN

クレアチニンやBUN(ビーユーエヌ)の測定は腎臓の機能を調べる検査です。クレアチニンやBUNは身体の中の老廃物で本来腎臓から排泄されますが、腎臓の機能が落ちてくると、血液中のクレアチニンやBUNの濃度が上昇してきます。そのため、腎臓の機能を予測する検査として用いることができます。高血圧症では主に以下の二つの理由からクレアチニンやBUNを調べます。

一つ目は「腎硬化症」といって高血圧症によって腎臓の障害が起こることがあるためです。腎硬化症は進行してくるとクレアチニンやBUNの検査値が上昇するため、クレアチニンやBUNを調べることで、腎硬化症を見つけることができます。

二つ目は高血圧症の治療薬が腎臓の障害の原因になることがあるためです。腎臓につながる血管が細い場合には腎臓への血流を保つために血圧上昇が引き起こされていることがあります。この現象は高齢の人に起こりやすいですが、このようなケースでは薬で急激に血圧を下げると腎臓への血流低下を招き、腎臓の障害になることがあります。そのため、特に高齢の人では高血圧症の治療開始時に腎臓の障害が起きていないか注意深く調べる必要があると言えます。

血糖・HbA1c

血糖やHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)は糖尿病の診断に用いられる検査項目です。高血圧症と同様、動脈硬化を招く疾患に糖尿病があり、高血圧症に糖尿病合併すると動脈硬化の進行がさらに早くなることから、高血圧症の人では糖尿病がないかを確認することが重要になります。

血糖とは血液中のブドウ糖のことです。それに対し、HbA1cはブドウ糖とヘモグロビンが結合してできる物質です。HbA1cの量は直前の1-2ヶ月のブドウ糖の濃度を反映するので、HbA1cを測定することで最近の平均的なブドウ糖の濃度を推定することができます。また、血糖値は直前に食事などをすると上がってしまいますが、HbA1cの値は直前の食事などの影響も受けません。糖尿病の診断は血糖、HbA1cを合わせて判断し、糖尿病が見つかった場合には生活習慣の改善や薬物療法を行います。

糖尿病について詳しくは「糖尿病の詳細情報」で説明しています。

コレステロール値・中性脂肪

コレステロールや中性脂肪は血液中に含まれる脂質の一種です。コレステロール値や中性脂肪値の異常は脂質異常症と呼ばれ、動脈硬化を悪化させる要因となります。そのため、高血圧症の人は脂質異常症を早期発見するためにコレステロールや中性脂肪を調べることがあります。血液中の脂質の測定値には以下の4種類のものがあります。

  • LDLコレステロール(LDL-C)
  • HDLコレステロール(HDL-C)
  • 中性脂肪(TG)
  • 総コレステロール(TC)

コレステロールは細胞の膜やホルモンの材料となる脂質で、中性脂肪は身体を動かす上でのエネルギー源となる脂質です。コレステロールは悪玉のLDLコレステロールと善玉のHDLコレステロールに分けられます。コレステロールや中性脂肪は身体に必要な栄養素ですが、悪玉の脂質であるLDLコレステロールや中性脂肪が過剰に多い状態や、善玉の脂質であるHDLコレステロールが少ない状態が続くと、血管が傷つき動脈硬化の原因になります。したがって、高血圧症のある人ではコレステロールや中性脂肪の検査を通して、脂質異常症の早期発見に努めます。

脂質異常症について詳しくは「脂質異常症の詳細情報」で説明しています。

6. 尿検査

高血圧症では腎臓の血管が動脈硬化で傷つくことで蛋白尿や血尿を起こすことがあります。この状態を腎硬化症と呼びます。蛋白尿や血尿は腎硬化症のサインとして見ることができます。

腎臓は一度障害されると回復が難しい臓器の一つです。腎臓の障害が続くと尿が作れなくなり、透析が必要になってしまうこともあります。そのため、尿検査で腎臓の状態を知ることは非常に大事なことになります。

7. 胸部X線検査

胸部X線検査X線を使って胸の中の状態を調べる検査です。

突然の血圧上昇の原因となる危険な病気に心不全大動脈解離があります。心不全大動脈解離胸部X線を使って心臓や大動脈の形を調べることで見つけられることがあります。

胸部X線検査は多くの施設で行うことができ、撮影にはわずか数秒しかかかりません。胸部X線検査は放射線を用いる検査であるため被曝の問題がありますが、その被曝量はわずかです。具体的には通常1回の胸部X線検査での人体への影響量は0.2mSv程度です。これは飛行機でニューヨークと東京を往復したときに被曝してしまう量と同じくらいです。1回の胸部X線検査での被曝量は生活の中での被曝量と大きく変わりないと言えます。

8. 心電図検査

高血圧症は動脈硬化によってさまざまな病気の原因になりますが、なかでも怖いのは狭心症心筋梗塞です。高血圧症では狭心症心筋梗塞を見つけるため、心電図検査が行われることがあります。

心電図検査は心臓が動くために発する電気信号を調べる検査です。電気信号は機械の画面上や紙の上に折れ線の心電図として表されます。心電図検査にはいくつか種類がありますが、高血圧症の時に一番よく使われるのは12誘導心電図検査というタイプです。12誘導心電図検査は胸6か所と手足に1か所ずつ合計10か所に測定器を装着します。合計10か所の測定器を用いることで、心臓を上下左右のあらゆるポイントから観察することができます。狭心症心筋梗塞により心臓の動きが悪くなると、心電図にも変化が現れます。12誘導心電図検査では狭心症心筋梗塞の種類や発生した時期、心臓の動きが悪くなっている場などを推定することができます。

9. 脈波検査

脈波検査は血圧計を用いて動脈硬化や血管の詰まりの程度を把握する検査です。血圧脈波検査と呼ばれることもあります。動脈は太くなったり細くなったりして、脈をうつことで血液を送り出す役割があります。しかし、動脈硬化が進み、血管の壁が硬くなる(弾力がなくなる)と、動脈の太くなったり、細くなったりがうまくできなくなります。脈波検査ではこの変化を捉えることで、動脈硬化の程度を推定することができます。

脈波検査は両手、両足の4箇所に血圧計を巻いて、手足の血管の状態を調べます。脈波検査で調べる動脈硬化や血管の詰まりの指標には以下のようなものがあります。

  • PWV(脈波伝播速度)
  • CAVI(心臓足首血管指数)
  • ABI(足関節上腕血圧比)

以下でこれらの指標について詳しく説明していきます。

PWV(脈波伝播速度)

心臓の収縮により押し出された血液は、動脈が太くなったり細くなったりすることで、全身へ送られていきます。この血管が太くなったり、細くなったりする変化を私たちは「脈」として捉えています。

全身へ血液がスムーズに送られるためには、血管の弾力性が保たれている必要があります。動脈硬化が進み、血管の弾力性が失われると、脈の伝わる速度に変化があらわれます。PWVはこの原理を応用し、脈の伝わる速度を調べることで動脈硬化の程度を把握するものになります。ただし、PWVは測定した時の血圧の値に検査結果が影響を受けるという弱点があります。

CAVI(心臓足首血管指数)

PWVは動脈硬化の程度を調べられますが、大きな弱点として、測定した時の血圧の値に検査結果が影響を受けるというものがありました。そこで、血圧の値の影響を受けない指標として考案されたのが、CAVIになります。

CAVIもPWVと同様、脈波の伝わる速度から動脈硬化の程度を算出していますが、計算法が異なり、血圧の値の影響を受けないような工夫がされています。

ABI(足関節上腕血圧比)

ABIは左右の手足の血圧を比べることで、血管の細さを推定する指標です。動脈硬化が重度になり、血管が狭くなった場所や詰まった場所があると、そこの部位は、他のところと比べて血圧が低くなります。ABIはこの原理を応用し、左右の手足の血圧を比較することで、狭くなっている血管を予想することができます。

脈波検査ではこれらの指標を参考にしながら、動脈硬化や血管の詰まりを評価していきます。脈波検査は痛みを伴うようなことはなく、検査は10-15分程度で終了します。

10. 頸動脈エコー検査

エコー検査は超音波を出す小さな装置を使って身体の中を画像に映し出す検査です。頸動脈エコー検査では頸動脈と呼ばれる首の血管を調べます。頸動脈の動脈硬化の程度は全身の血管の状態を反映すると言われていることから、頸動脈エコー検査は全身の動脈硬化の程度を調べる検査として広く用いられています。また、脳梗塞が起こした人のある場合には、頸動脈の狭くなっているかどうかにより血圧の治療目標値が異なるため、頸動脈エコー検査で確認しておく必要があります。頸動脈エコー検査は痛みを伴うこともなく、X線検査CT検査のように放射線に被曝することもありません。検査は15-30分程度で終了します。