しきゅうないまくしょう(ちょこれーとのうほうをふくむ)
子宮内膜症(チョコレート嚢胞を含む)
子宮内膜が子宮以外の場所にできる病気。月経のたびに強くなる腹痛、性交時・排便時の痛みなどを起こす。
13人の医師がチェック 189回の改訂 最終更新: 2022.04.15

子宮内膜症の治療:手術や薬物療法の選びかた

子宮内膜症の治療法には大きく分けて薬物療法と手術の2つがあります。どちらの治療も子宮内膜症には効果があります。この章では治療を選ぶ上で注目するべきポイントについて解説します。

1. 子宮内膜症の治療は手術?薬?

子宮内膜症の治療には薬物療法と手術の2つがあります。手術が適している人もいれば、手術と薬物療法のどちらでも治療できる人もいます。

手術と薬物療法のどちらを選ぶかは症状や年齢、治療後に妊娠を希望するかなどをもとに検討します。適切な治療法を選ぶためには患者さんの希望が重要なので、自分の考えなどをお医者さんにしっかりと伝えてください。

2. 手術が適している人は?

手術が適している人は以下の条件に当てはまる人です。

  • 悪性(がん)の可能性が否定できないまたは子宮内膜症以外の病気との区別が必要
  • 薬物療法を行ったが効果がなかった
  • 大きなチョコレート嚢胞卵巣子宮内膜症性嚢胞)がある 
  • 不妊症の原因となっている可能性がある
  • 患者本人が手術を希望する

すでに薬物療法を行って効果がない場合には手術をして症状などの改善を狙います。

手術と薬物療法のどちらでも選べる場面があります。手術と薬物療法で得られる効果や副作用を比較して手術の方が自分の考えに合っている場合は手術を選ぶ理由になります。後述する「治療で迷う時はどうすればいい?」を参考にしてください。

手術が適している人についての詳細は「子宮内膜症は手術で治る?腹腔鏡手術はどんな手術?」で解説しています。以下ではいくつかについて簡単に説明します。

子宮内膜症はがんと似ていることがある?

卵巣や腸管などにできた子宮内膜症は悪性腫瘍との区別が難しい場合があります。

悪性腫瘍の可能性がある場合には手術をして病気の部分を取り除く必要があります。手術には治療とともに診断の意味合いもあります。手術をして病気の部分を取り出すことで最も正確な診断ができます。

チョコレート嚢胞(のうほう)とは?

卵巣にできた子宮内膜症により、卵巣がチョコレート嚢胞と呼ばれる状態に変化することがあります。チョコレート嚢胞が大きな場合には卵巣と卵管が捻(ねじ)れたりする原因になります。捻じれることを捻転(ねんてん)と言います。卵巣捻転が起こる可能性がある場合には手術を検討します。

また大きなチョコレート嚢胞には卵巣がんが同時にある場合もあるので、これもまた手術を検討する理由になります。

子宮内膜症で不妊になる?

子宮内膜症は不妊症の原因になります。子宮内膜症を手術で治療すると不妊症が解決することがあります。子宮内膜症が原因の不妊症は薬物療法による効果は不明と考えられているので、不妊症の治療として子宮内膜症を治療するときは手術が選ばれます。

3. 薬物療法が適している人は?

手術が適している人の条件に当てはまらない人の多くは薬物療法による治療が可能です。特に症状が軽い場合は薬物療法が適した治療と言えます。

4. 子宮内膜症の手術とは?

子宮内膜症の手術には2つの種類があります。

  • 温存手術:臓器(子宮や卵巣)を摘出せずに子宮内膜症の部分だけを切除する手術
  • 根治手術:臓器(子宮や卵巣)の全体を摘出する方法

手術の方法を選ぶ上で最も重要なことは妊娠の希望の有無です。温存手術はその後妊娠の可能性がありますが、根治手術は子宮を摘出してしまうのでその後妊娠することができなくなります。一方で、温存手術では根治手術に比べて子宮内膜症の再発が多く、効果の点では根治手術の方が高いといえます。

  • 温存手術:その後妊娠する可能性があるが、根治手術に比べて再発が多い 
  • 根治手術:妊娠することはできないが、温存手術に比べて再発は少ない 

手術の方法を選ぶには妊娠の希望と再発のバランスを考えて選択することが大事です。自分のこととはいえ将来に妊娠を希望するかをその時点で判断するのはとても難しいです。自分の価値観に加えて家族ともしっかりと話し合うことが大事です。

温存手術も根治手術も、開腹手術と腹腔鏡手術のどちらでも行うことができます。開腹手術はお腹を大きく切る手術で腹腔鏡手術はお腹にいくつか小さな穴を開ける手術の方法です。手術の方法などの詳しい内容については「子宮内膜症は手術で治る?腹腔鏡手術とは?」で解説しています。

5. 子宮内膜症の薬物療法とは?

子宮内膜症の症状は薬で和らげることができます。子宮内膜症の薬はいくつかあり、その目的や働きが異なります。ここではそれぞれの薬の働きについて簡単に解説します。薬の詳細については「子宮内膜症の薬物治療:ピル、ディナゲスト®など」を参考にしてください。

  • 鎮痛剤:NSAIDs(エヌセイズ)
  • 漢方薬
  • ホルモン療法
    • ピル(経口避妊薬
    • ジエノゲスト
    • GnRHアゴニスト

参考文献
・矢野 哲, 慢性骨盤痛への対処, 日産婦誌.2007;59(9):471-475
・奈須 家栄, 子宮内膜症ホルモン療法の現況, 日産婦誌.2009;61(9):340-344
・生殖・内分泌委員会, 報告, 日産婦.2015;67(6):1493-1511

鎮痛剤(ちんつうざい)

子宮内膜症の多くの人に痛みが現れます。子宮内膜症を原因とする痛みは下腹部痛や腰痛、性交痛、排便痛などです。痛みが起きる原因には、子宮内膜症による炎症などで作られる化学物質(プロスタグランジンなど)が関与していると考えられています。

化学物質(プロスタグランジン)を抑える効果のある鎮痛剤はNSAIDs(エヌセイズ)と呼ばれるものです。NSAIDsにはロキソプロフェンナトリウム(商品名ロキソニン®)やイブプロフェン(商品名ブルフェン®)などがあります。

鎮痛剤はあくまでも痛みを抑えるものなので子宮内膜症を小さくしたり進行を抑えたりする効果はありません。このため痛みが強い場合はホルモン療法などの薬を追加する必要があります。

漢方薬

漢方薬は子宮内膜症を原因とする月経困難症などの症状に効果を示します。月経困難症は月経時の痛みなどの症状が日常生活に支障がでるほどに影響することです。

子宮内膜症に効果のある漢方薬は、桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)や当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)などがあります。

ピル(経口避妊薬)

子宮内膜症の治療にピルが使われることがあります。ピルは2種類の女性ホルモンでできています。

妊娠すると子宮内膜症による症状が軽くなり子宮内膜症自体も小さくなることが知られています。ピルを内服すると妊娠に近い状態になり子宮内膜の増殖が抑えられます。子宮内膜の増殖が抑えられることで症状が軽くなります。ピルは副作用に気をつけながらであれば長期間に渡り使うことができるので、子宮内膜症の治療でよく使われます。

ジエノゲスト

ジエノゲストを使うと卵巣機能と子宮内膜細胞の増殖を抑えることができます。卵巣機能を抑えると女性ホルモンが減少し子宮内膜症を小さくすることができ、症状の緩和などが期待できます。ジエノゲストは、以下で説明するGnRHアゴニストという薬と同じくらいの効果を得ることができます。

ジエノゲストは鎮痛剤で症状の改善が不十分な場合に使うことが検討されます。ジエノゲストは他の薬(GnRHアゴニストなど)に比べて女性ホルモンが減らないので、更年期障害に似た副作用が少ないことが知られています。このため、GnRHアゴニストは原則として6ヵ月以上使用しないのに対してジエノゲストは長期間に渡って使用することもできます。ただし副作用として不正出血、ほてり、頭痛、吐き気や腹痛などが出ることもあるので、長期間使用する場合は定期的に診察を受けて副作用が出ていないかを確認する必要があります。

GnRHアゴニスト、偽閉経療法(ぎへいけいりょうほう)とは?

脳にある下垂体(かすいたい)からはゴナドトロピンというホルモンが放出されています。ゴナドトロピンが卵巣に届くと、卵巣から女性ホルモンが分泌されます。GnRHアゴニストは下垂体に作用してゴナドトロピンの分泌を抑えて女性ホルモンを減らす作用があります。

子宮内膜症は女性ホルモンが多いと大きくなり、少なくなると小さくなる特徴があります。GnRHアゴニストを用いたホルモン療法により女性ホルモンの分泌量が減少すると子宮内膜症が小さくなり症状が緩和されます。

GnRHアゴニストを用いたホルモン療法では、身体が閉経したときと似た状態になるので偽閉経療法と呼ばれることもあります。

ホルモン療法をやめると子宮内膜症が再び大きくなり症状がでます。症状を抑えるために長期に渡ってホルモン療法を行うと女性ホルモン(エストロゲン)が不足して骨粗鬆症(こつそしょうしょう)などの副作用がでます。したがってGnRHアゴニストは6ヵ月以上使用することは原則ありません。

6. 治療法で迷うときにはどうすればいい?

ここまで、子宮内膜症の治療法とどんな人がその治療に向いているかを解説しました。

手術が適している条件に当てはまる人は手術を検討した方がよいと思います。しかし、実際には手術と薬物療法のどちらも可能な場合が多くどちらの治療を選んだらよいかで頭を悩ますことがあります。

自分の希望に叶う選択をするには2つの治療法の良い点、悪い点を比較して理解しておくことが大事です。

  手術 薬物療法
メリット
  • 直接病気の部分を取り除くことができる
  • 病気の状態が正確に把握できる
  • 身体を傷つけなくてよい
  • 入院が必要ない
デメリット
  • 手術にともなう合併症がある
  • 傷が残る
  • 入院が必要になる
  • 再発することがある
  • 薬にともなう副作用がある
  • 効果が低く手術が必要になることがある
  • 治療期間が長い

手術は、病気の部分を目で見て確認して治療できるので病状の把握がしやすく、また効果が優れています。デメリットは手術にともなう合併症傷が残ることなどです。また手術は症状の改善において大きな効果が期待できますが、再発することもあります。特に子宮を残す温存手術に再発が多いです。将来の妊娠を希望されない場合はより効果の高い子宮摘出をした方がよい場合もあります。

薬物療法は外来で薬の内服などで治療することができます。入院を必要としない点や身体を傷つけなくてよい点が手術に比べて優れています。一方で薬物療法は長期間に渡り治療が必要になります。また薬物療法の効果が小さい人も中にはいるので最終的に手術が必要になることもあります。

手術と薬物療法の主なメリットとデメリットをまとめました。子宮内膜症は一人ひとりで病状がかなり異なるので、医師もどちらの治療を勧めるべきかで悩むことがあります。このため治療法を選ぶにあたっては治療によって得られる効果と治療にともなう負担をしっかりと理解して自分が期待する点を明確にすることが大事です。