しきゅうないまくしょう(ちょこれーとのうほうをふくむ)
子宮内膜症(チョコレート嚢胞を含む)
子宮内膜が子宮以外の場所にできる病気。月経のたびに強くなる腹痛、性交時・排便時の痛みなどを起こす。
13人の医師がチェック 189回の改訂 最終更新: 2022.04.15

子宮内膜症の症状:過多月経・月経困難症など

子宮内膜症の症状として月経時の出血が多くなったり(過多月経)、月経時に強烈な腹痛(月経困難症)が出たりすることがあります。子宮内膜症はできる場所などで症状が異なったりすることがあります。

1. 子宮内膜症はどうやってみつかる?

子宮内膜症はどのようなきっかけで発見されるのでしょうか。

日本産婦人科学会の生殖・内分泌委員会の調査によると、68.3%の人がなんらかの症状をきっかけにして子宮内膜症の診断を受けています。

診断のきっかけになった症状の内訳は、月経困難症が56.2%、過多月経が28.1%でした。月経困難症は生理(月経)に伴う症状が日常生活にも影響がでるほど重いこと、過多月経は月経時の出血が多いことです。

参考文献:生殖・内分泌委員会, 報告, 日産婦, 2015;67(6):1493-1511

2. 子宮内膜症で癒着(ゆちゃく)が起こるとどうなる?

子宮内膜症はいくつかの痛みの原因になります。

  • 月経時の痛み
    • 腹痛
    • 腰痛
  • 慢性骨盤痛
    • 腹痛
    • 腰痛
    • 排便痛
  • 性交痛

子宮内膜症が起きると月経(生理)のときに強い腹痛や腰痛が現れることがあります。腹痛や腰痛などが日常生活にも影響するほど強い場合を月経困難症いいます。

子宮内膜症は月経に関係のない腹痛などの原因にもなります。子宮内膜症は腹腔(ふくくう)というお腹の中のスペースで癒着(ゆちゃく)を起こすことがあります。癒着は炎症などが原因で本来はくっついていない臓器同士がくっついたりすることです。お腹の中で癒着が起きると腹痛や便秘の原因になります。

腹腔の場所のイラスト

子宮内膜症は性交時に強い痛みの原因になることがあります。膣の奥にはダグラス窩(か)という場所がありダグラス窩に子宮内膜が出来たりその影響で癒着が起きたりしていると性交痛が起こります。ダグラス窩は直腸と隣り合っているので、直腸の癒着などによって排便痛が起こることもあります。

女性の骨盤部正中矢状断。子宮の後ろには直腸が隣り合っている。

月経困難症とは?

月経困難症の定義は「月経時に、あるいはその直前から強い下腹部痛や腰痛が始まり、月経期間中に日常生活を営むことが困難な状態」です。月経困難症の症状として下腹痛や腰痛などが多くの人に現れます。他には頭痛、吐き気、下痢などの症状が出る人や眠れなくなる人もいます。

3. 腹痛は子宮内膜症の症状?

腹痛は子宮内膜症の症状の一つです。子宮内膜症が原因の腹痛は2つの種類があります。

一つは月経(生理)に関係した痛みです。子宮内膜症が起こると本来は子宮にある子宮内膜が他の場所で生着し、子宮内膜が通常より増えた状態になっています。月経時には子宮内膜から子宮を収縮させる物質(プロスタグランジン)が放出されます。子宮内膜症では子宮内膜が増えている分プロスタグランジンの量も増え、子宮の収縮が過剰に起こり激しい下腹部痛につながります。

もう一つは、月経時とは関係なく起きる腹痛です。子宮以外にできた子宮内膜も月経のたびに出血をします。出血が起きてそのまま血液が溜まると腸などお腹の中の臓器が癒着します。癒着は腹痛の原因になります。

4. 腰痛は子宮内膜症の症状?

子宮内膜症による腰痛の原因は子宮内膜症による癒着や炎症などが原因と考えられています。子宮内膜症は本来は子宮にしかない子宮内膜が他の場所に生着することが原因で様々な症状が現れます。子宮内膜症がお腹の中の腹腔(ふくくう)というスペースに発生し背中に近い場所で癒着や炎症を起こすと、腰痛の原因になることがあります。

女性のすべての腰痛が子宮内膜症を原因とするわけではありません。安静にすると腰痛が和らいだりする場合は筋肉や骨を原因とする可能性が高いと考えられます。しかし腰痛に加えて月経のときの強い腹痛や、子宮内膜症を疑わせる症状が他にもある場合は子宮内膜症が腰痛の原因かもしれませんので、整形外科だけでなく婦人科も受診して詳しく調べることが大事です。

5. 性交痛は子宮内膜症の症状?

子宮内膜がダグラス窩に発生すると性交痛の原因になります。ダグラス窩は子宮と直腸の隙間にできるくぼんだ場所です。ダグラス窩は膣の奥に位置します。このため性交の影響がダグラス窩に及び痛みの原因になると考えられています。

参考文献:武内裕之, ダグラス窩閉塞を伴う子宮内膜症の外科的治療, 日産婦誌. 2002;54(9):403-408

6. 子宮内膜症は便秘の原因?

子宮内膜症が便秘の原因になることがあります。

子宮内膜症はお腹の中の腹腔という場所にできることがあります。腹腔は腸などのお腹の中にある臓器の隙間です。腹腔の中に子宮内膜症ができると周りの臓器が癒着や炎症を起こします。腸に癒着や炎症が起きると腸の動きが悪くなり、便秘などの症状が現れます。

7. 腸閉塞の原因?腸管子宮内膜症とは?

多くはありませんが腸の中(食べ物が通る側)に子宮内膜症ができることがあります。腸管子宮内膜症といいます。

腸管子宮内膜症の症状は腹痛や下血(排便時の出血)などです。また腸管子宮内膜症は腸の壁の中にできることがあります。腸管子宮内膜症が腸の壁の中で大きくなると腸の中の流れを妨げます。腸の流れが悪くなって詰まると腸閉塞という状態になります。

腸閉塞を起こすような症状が重い腸管子宮内膜症は手術で病気の部分を腸ごと切り取りとって治療します。病気の部分を切り取った後、腸と腸を繋ぎ直します。

腸管子宮内膜症は多くはありませんが、重い症状の原因になることがあります。腹痛に加えて下血などの症状がある場合には、重い腸炎やその他の緊急事態の可能性があります。すみやかに医療機関を受診することが大事です。

参考文献
永吉絹子,他, 腸管子宮内膜症に対する腹腔鏡手術の経験, 日本消化器外科学会誌.2016;49(8):762-771
J Minim Invasive Gynecol.2007;14:113-115

8. 子宮内膜症で頻尿になる?

子宮内膜症が膀胱の中や周囲にできると排尿に影響を与えることがあります。膀胱は尿を溜める臓器で、子宮の前側にあります。子宮内膜症が膀胱の中にできた場合は、血尿頻尿の原因になります。膀胱内にできた子宮内膜症は内視鏡治療や手術で治療します。子宮内膜症が膀胱の周りにできて癒着や炎症を起こすと、尿が出にくくなったり頻尿(ひんにょう)が起きたりします

9. 子宮内膜症はできる場所で症状が違う?

子宮内膜症では子宮にしかない子宮内膜が他の場所で発生しさまざまな症状を起こします。子宮内膜症ができる場所は卵巣やダグラス窩が多く膣や膀胱にもできます。子宮内膜症ができた場所により現れる症状が異なります。

卵巣

子宮付属器の位置。卵巣には子宮内膜症ができやすい。

卵巣は卵子を成熟させる場所です。

卵巣にできた子宮内膜症は卵巣チョコレート嚢胞と呼ばれます。チョコレート嚢胞は病気の部分がチョコレートの様な色をしていることから命名されました。チョコレートと形容される茶色は子宮内膜症で起きた古い出血によるものです。チョコレート嚢胞では、月経困難症や排便痛、性交痛などの症状があるほか、破裂、感染により急激な腹痛を起こす場合もあります。

あまり多くはありませんが膣にも子宮内膜症ができることがあります。膣に子宮内膜症ができると過多月経などの症状が現れることがあります。過多月経とは月経時の出血量が多くなることです。

膀胱

女性の骨盤部の正中矢状断。膀胱は子宮の前側にある。

子宮内膜症は膀胱にもできることがあります。膀胱は子宮の前側にあって尿を溜めておく臓器です。

膀胱に子宮内膜症ができると月経のタイミングで血尿がでたりするなどの症状があります。膀胱にできた子宮内膜症は内視鏡手術(TURBT:経尿道的膀胱腫瘍切除術)や開腹手術で治療します。

参考文献:河原優, 他, 尿路エンドメトリオーシス本邦 152例の臨床統計 : 2例を経験して, 泌尿器科紀要.1994;40:349-352

ダグラス窩

ダグラス窩は直腸子宮窩と呼ばれることもあります。直腸子宮窩は子宮と直腸の間のくぼみという意味です。

子宮の背中側には直腸があります。直腸は肛門とつながっており便が最後に通過する臓器です。子宮と直腸は接してはいますがくっついてはいません。直腸と子宮の間にある隙間の一番下(足側)の部分をダグラス窩といいます。ダグラス窩に子宮内膜症が発生すると癒着(ゆちゃく)や炎症によって本来あった隙間がなくなります。ダグラス窩に発生した子宮内膜症では月経困難症や性交痛などの症状が現れます。

参考文献:武内裕之, ダグラス窩閉塞を伴う子宮内膜症の外科的治療, 日産婦誌. 2002;54(9):403-408

10. 子宮内膜症で貧血はおきる?

子宮内膜症が原因で貧血がおきることがあります。ここでいう貧血は血液中からヘモグロビンが減少することを指します。

ふらっとするのは「貧血」ではない?

貧血」と聞くと立っていて気分が悪くなったり(立ちくらみ)、意識が遠のいてふらっとする(ふらつき)状態を思い浮かべるのではないでしょうか。しかし、医学的な貧血はそういった「貧血」と意味がややことなります。たしかに医学的な意味の貧血もかなり進行すると立ちくらみの原因になることがあります。しかし医学的な意味での貧血血液中のヘモグロビン濃度の低下を指します。女性ではヘモグロビン濃度が12g/dl未満(男性では13g/dl未満)の人を貧血と診断します。

貧血という言葉には注意が必要

病院で「血液検査で貧血が認められるので原因について調べましょう」と言われたと想像してみてください。「今までふらつきなんて経験がないのに変だな」と感じる人がなかにはいると思います。この場面で医師は血液検査の異常値を指す医学的な意味で「貧血」と言う言葉を使っています。一方で患者さんは意識が遠のいたりすることを「貧血」と言う言葉から想像しています。

貧血という言葉には医師と患者さんで考える意味が異なることがあります。医師から貧血があるといわれた場合には少し注意して説明を聞くことが大事です。

子宮内膜症で貧血になるのはなぜ?

子宮内膜症の症状に過多月経不正出血があります。過多月経は月経時の出血が多いこと、不正出血は月経と関係なく性器から出血することです。出血量が体で作られる血液量を上回ると、ヘモグロビンは減っていきます。ヘモグロビンがある程度失われると貧血になります。貧血がかなり進むとだるい感じやめまいなどの症状がでることがあります。

子宮内膜症が原因の貧血に対する治療は?

子宮内膜症は過多月経不正出血がおき、貧血の原因になることがあります。

貧血はヘモグロビンが減少した状態ですので、ヘモグロビンを増やすことが治療になります。具体的にはヘモグロビンの材料である鉄剤を飲むことで貧血の改善が期待できます。持続的に出血をしている場合は止血効果のある飲み薬なども合わせて飲みます。

貧血の状態が重い場合、鉄剤や止血剤の内服は根本的な解決にはなりません。手術や薬などによって、貧血の原因となっている子宮内膜症の治療を検討します。

11. 子宮内膜症は不妊の原因?

子宮内膜症は不妊症の原因として知られています。子宮内膜症の診断を受けた人の約半数が不妊症であり、原因がわからない不妊症の人を調べると高い確率で子宮内膜症が発見されることも知られています。子宮内膜症はなぜ不妊症の原因になるのでしょうか。その関係はまだ完全には解明されてはいませんがいくつかの仮説があります。

参考文献
・日産婦誌.2011;63:27-36
・原田省, 子宮内膜症と不妊症, 日産婦誌.2009;61(9):345-348

卵巣・卵管機能が低下する

子宮内膜症が進行すると癒着(ゆちゃく)の原因になります。癒着は本来とは異なる形で臓器と臓器がくっつくことです。重い癒着がおきると臓器の機能が低下したり痛みなどの原因になります。

骨盤の中や卵巣に子宮内膜症が起きると卵巣や卵管が他の臓器に癒着してその働きが低下することがあります。卵巣は卵子が成熟する場所で、卵管は受精が起きたり受精した卵子が子宮へ移動するための通路になります。卵巣や卵管に異常が起きると妊娠の妨げになります。

腹水(ふくすい)の増加

お腹の中には腹腔というスペースがあります。腹腔は腸などの臓器がある空間で、腹水と呼ばれる水分がもともと少量存在しています。腹水はお腹の中で炎症が起きたりすると多くなります。

子宮内膜症がお腹の中で起きると腹水の量が増加します。腹水の量が増加すると精子や受精卵に対して悪影響を及ぼし、不妊症の原因になると考えられています。

12. 子宮内膜症は閉経すると症状が軽くなる?

子宮内膜症は月経にともなって症状が現れます。月経が終了することを閉経といいますが、閉経になると子宮内膜症の症状は軽くなり、なかにはほとんど症状が出なくなる人もいます。

子宮内膜症のホルモン療法では薬を使って身体を閉経したときと同じような状態にすることができます。薬を使って身体を閉経状態に近くすることで、症状が大幅によくなることがあります。