とうにょうびょう
糖尿病
血液中のブドウ糖(血糖)濃度が慢性的に高値となる病気。長期に放置すると眼、神経、腎臓など多くの臓器に悪影響が出る
36人の医師がチェック 312回の改訂 最終更新: 2024.12.20

糖尿病の診断基準は? 血糖値・その他の検査と基準の数値、境界型糖尿病

糖尿病の初期には症状はほとんどないため、症状がきっかけで見つかることはあまりありません。多くは、健康診断などの血液検査で指摘されます。それでは、血糖値がいくつ以上だと糖尿病なのでしょうか。糖尿病の検査で出てくる言葉と数字の意味、糖尿病と診断される基準を説明します。

1. 健康診断で血糖値やHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)が高いと言われたら

健診でこんな疑問を感じたことはありませんか?

若い頃に比べれば体力が落ちてきたなと感じるものの、これといった症状を感じることもなく、元気に過ごしています。時々お酒は飲みますが、暴飲暴食というほどではありません。ところが会社の健診で「異常値がある」という結果が出てきました。こんなに健康的なのに、なぜ?

引っかかったのは糖代謝の項目です。

  • 空腹時血糖値:132mg/dL
  • HbA1c:7.1%

この数字が異常らしいのですが、どれぐらい異常なのでしょうか。糖尿病になってしまったのでしょうか。

糖尿病の診断基準はこう決められています。

  • 血糖値の異常
    • 早朝空腹時血糖値126mg/dL以上、75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値200mg/dL以上、随時血糖値200mg/dL以上のいずれかがあれば糖尿病型とする
  • HbA1cの異常
    • HbA1c(NGSP)6.5%以上で糖尿病型とする(HbA1c(JDS)だと6.1%以上)
  • 血糖値とHbA1cがともに糖尿病型であれば糖尿病とする

※ HbA1cは以前は日本基準(JDS)で記載していましたが、2012年4月から国際基準(NGSP)で記載することになりました。計算方法が違うため、JDSで記載されるほうが0.4%低く、NGSPのほうが高く数字が出ます。古い本や資料、2012年までに行われた検査はJDSで書かれていることがあるので注意が必要です。

診断基準がまずは原則となります。空腹時血糖値が132mg/dL、HbA1cも7.1%の場合、両方の値が異常なので糖尿病と診断されます。

ほかにも糖尿病と診断する条件が細かく決められています。このページでは、どんな場合に糖尿病と診断されるかを説明します。

糖尿病の検査で出てくる用語の解説

聞き慣れない言葉がいくつか出てきていると思いますので、用語について少し補足します。ご存じの方は飛ばして次の見出しに進んでください。

  • 血糖値
    • 血液に含まれるブドウ糖(グルコース)の量
  • 空腹時血糖値
    • 9時間以上食事を摂っていない状態での血糖値
  • 随時血糖値
    • 食事の時間と関係なく測定した血糖値
  • 75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)
    • 糖分を摂取すると血糖値が上がるが、その後元に戻るか、上がったままになるかを見る検査。まず検査当日の朝まで10時間以上絶食したうえ血糖値を測る。次に、ブドウ糖75gを溶かした水を飲む。30分後、1時間後、2時間後に血糖値を測る
  • HbA1c
    • ヘモグロビンエーワンシーと読む。直近1-2ヶ月の血糖値を反映する

血糖値は耳にする機会が多いと思います。大まかに言えば、血糖値が高くなりすぎる病気が糖尿病です。

血糖値は食後に上がり、空腹のときは下がります。そこで、血糖値が高く出たときは本当に糖尿病のせいか、たまたま食後だったからかを考える必要があります。「空腹時血糖値」と「随時血糖値」が区別されているのはこのためです。

血糖値は食事以外にもさまざまな要因が複雑に関わって変動するので、空腹時血糖値を測っても、1回の検査で糖尿病かどうかは判断できません。そこで助けになるのがHbA1cです。

HbA1cとは、血液に常に含まれているヘモグロビンがブドウ糖と結合した物質です。検査にある「6.5%」とか「6.1%」という数値は、ヘモグロビンのうち何%がHbA1cになっているかを示します。ヘモグロビンは一度ブドウ糖と結合してHbA1cになると、空腹になって血糖値が下がってもなかなか元に戻りません。このため、血糖値が繰り返し高くなるとHbA1cが体内で増えていきます。その結果、HbA1cの量は最近1か月から2か月の血糖値が平均して高かったか低かったかを反映します。

血糖の検査による糖尿病の診断基準は、次の2点をチェックしていることになります。

  • 今の血糖値は高いのか(血糖値の異常)
  • ここ2か月位の血糖値の平均は高いのか(HbA1cの異常)

HbA1cが正常でも糖尿病と診断される基準

血糖値とHbA1cの両方が異常であれば糖尿病と診断されます。しかし、血糖値かHbA1cのどちらかが正常でも糖尿病と言われてしまうことがあります。

  • 口の渇き、多飲、多尿、体重減少がある
  • 眼底検査で異常がある
  • 血糖値の再検査で異常がある

これらの場合は、最初の検査で血糖値とHbA1cのどちらかが正常でも、糖尿病と診断されることがあります。

糖尿病の典型的症状とされる口の渇き、多飲(水分を何度も飲んでしまう、たくさん飲んでしまう)、多尿、体重減少は、高血糖がかなり続いてから出る場合が多いので、典型的な症状があればかなり糖尿病らしいと言えます。

糖尿病網膜症(とうにょうびょうもうまくしょう)というのは、高血糖が続くことで目の網膜がダメージを受け、視力低下や失明などにつながってしまう状態のことです。眼底検査といって、目にレンズを当てて網膜をのぞく検査で見分けられます。血糖値の検査結果が高かったので眼底検査をしましょうと言われたら、糖尿病網膜症を見つけようとしているということです。

血糖値かHbA1cのどちらか一方だけが高くて糖尿病かどうか決められない場合、別の日に再検査があります。

症状やほかの検査とあわせて糖尿病と診断する基準は、細かいのですが次のとおりです。

  • 血糖値が糖尿病型の人に、糖尿病の典型的症状(口の渇き、多飲、多尿、体重減少)や糖尿病網膜症が確認された場合
  • 血糖値は糖尿病型であるがHbA1cが正常範囲であった人に、別の日に再検査を行い、血糖値またはHbA1cで糖尿病型が確認できた場合
  • HbA1cだけが糖尿病型であった人に、別の日に再検査を行い、血糖値が糖尿病型であることを確認した場合

なお、尿糖は信頼度が低いので診断基準には使われていません。

なぜ糖尿病の診断基準はこんなに複雑なのか?

糖尿病の診断基準は最低でも2点に当てはまらなければ決定できない複雑なものです。複雑な基準が使われている理由は3つあります。

1つめの理由は、糖尿病は最初は症状がないことが多く、初期症状から見分けることが難しいからです。

2つめの理由としては、血糖値は1日の中で上がったり下がったりするため、1回の検査では「いつも高いか」を知ることができないからです。HbA1cは長期間の血糖値を反映しますが、貧血腎機能低下、使っている薬などの影響を受けるため、正確でない場合があります。

こうした検査の限界により、複数の情報をもとに確実に診断するためというのがもうひとつの理由です。

一番大切なことは、隠れている糖尿病を見逃すと大変なことになるということです。糖尿病が続くと多くの重大な合併症が引き起こされます。代表的なものだけでも次のようになります。

糖尿病の合併症は失明や足の壊死透析が必要な腎機能障害といった重い状態を起こすことで、生活を大きく制限してしまいます。命を脅かす病気もあります。さらに、ほかにも多くの悪影響が知られています。

これほどの問題を引き起こすにもかかわらず、糖尿病の初期にはほとんど症状がありません。また、食事や運動、薬などで治療しなければ血糖値が自然に正常に戻ることはまずありえません。このため、糖尿病をできるだけ早く発見して治療を始めることが、失明や足の切断を防ぎ、命を守るためにきわめて重要なのです。

そこで、糖尿病の検査では糖尿病かどうかを診断することに加えて、次のことが行われます。

  • 糖尿病と診断された人も疑われた人も、合併症(眼、腎臓、神経へのダメージ)がないかを確認する
  • 異常値があるものの再検査で糖尿病とは診断されなかった場合であっても、その後糖尿病になる恐れがあるため、できるだけ3-6か月後に再度チェックする
  • 検査値は異常値ではないが正常値よりは高い場合は、境界型糖尿病と診断し、糖尿病予備軍として考える

では「糖尿病になりやすい」、「糖尿病予備軍」とはどのような状態でしょうか。次に説明します。

2. 境界型糖尿病(糖尿病予備軍)の診断基準とその意味

糖尿病になる手前の段階として、境界型糖尿病と呼ばれる状態があります。境界型糖尿病の人は以下の危険を抱えていると考えられています。

  • 糖尿病になる可能性が高い(年間4-6%)
  • 動脈硬化が進む可能性が高い

境界型糖尿病の診断基準は以下です。

  • 空腹時血糖値が110-125mg/dL
  • OGTT2時間値(ブドウ糖75gを飲んで2時間後の血糖値)が140-199mg/dL

空腹時血糖値とOGTT2時間値のどちらか一方または両方が基準値を超えると境界型糖尿病と診断され、糖尿病予備軍であるといわれます。

本物の糖尿病になってしまう前に、運動習慣や食生活を見直し改善していくことが望ましいです。境界型糖尿病と言われたら、一度は糖尿病内科などで診察を受けて、糖尿病予防のために自分に合った方法を相談してみてください。数か月に一度ぐらい病院に通って血糖値を調べることで、ちゃんと予防効果が出ているかをチェックできます。また、定期的に病院に通うことで、もし糖尿病になってしまったとしても速やかに見つけて治療を始められます。

最近では調査データをもとに、境界型糖尿病の診断基準を満たさない人でも空腹時血糖値が100-109mg/dLなら注意したほうがよいとする考えが浸透してきています。このゾーンはたまたま一時的に血糖値が上がったときに検査があっただけなのか、実は境界型糖尿病を経て糖尿病へと近づきつつあるのか見分けにくいレベルです。用心に越したことはないので、一度生活を振り返ってみてください。はっきりさせたい人は再検査を受けてみましょう。

3. 糖尿病の早期発見に診断基準が重要

改めて糖尿病の特徴をまとめます。

  • 病気の初期には症状が自覚できない
  • 病期の進行とともに多くの合併症を伴ってくる
  • 治療(食事、運動、薬)を行わないで治ることはまずありえない

このような危険な特徴がある糖尿病に備えるには、症状を感じないうちから検査をして早く発見し、血糖値・HbA1cが診断基準を超えていれば手を打ちやすい段階で治療を始めることがとても大切なのです。

参考文献

・日本糖尿病学会/編, 糖尿病診療ガイドライン2019, 南江堂,2019
メタボリックシンドローム診断基準検討委員会. メタボリックシンドロームの定義と診断基準. 日本内科学会雑誌 94 (4), 794-809, 2005