とっぱつせいなんちょう
突発性難聴
原因不明に突然片方の耳が聞こえなくなる病気。約2/3の人は回復するが、1/3の人は耳が聴こえないままになってしまう
15人の医師がチェック 143回の改訂 最終更新: 2019.05.09

突発性難聴とは

突発性難聴はある日突然聞こえが悪くなる病気です。明らかなきっかけがなく、朝起きたら耳が聞こえない、耳が蓋をされたような感じがするなどの症状で発症します。多くの場合には耳鳴りを伴い、時にはめまいを起こして気持ち悪くなることもあります。ここでは、耳の構造から音が聞こえる仕組みを紐解くとともに、突発性難聴の概要について説明をします。

1. 突発性難聴とはどんな病気なのか

突発性難聴は10万人に約27.5人の割合で起こる突然の難聴です。ほとんどの人で片耳のみがある日を境に聞こえなくなります。難聴だけでなく耳鳴りや耳の閉塞感などの不快な症状を伴うことが多いです。

突発性難聴の診断基準であげられている主な特徴は次の通りです。

  • 突然の発症
  • 高度な感音難聴(必ずしも純音聴力検査での高度難聴を意味するのではなく、聞こえの悪さが自覚できる程度の難聴を指す)
  • 原因不明

感音難聴とは、音が伝わる経路の中でも内耳から脳に伝わる部分に問題があって聞こえにくくなるものを指します。また、突発性難聴には他にも下記のような特徴があります。

  • 純音聴力検査で3つの周波数(音の高さ)で30dB以上の感音難聴を認める
  • 発症後72時間のうちに悪化することがある
  • ほとんどが片耳の難聴であるが、1%の人で両耳の難聴になる
  • 全年齢で起こるが、特に60代に多い
  • 男女差はほぼない

難聴に伴って耳鳴りがほとんどの人に起こり、28-57%の人が一時的なめまいを経験するといわれています。突発性難聴は内耳の聴覚細胞の障害によって起こりますが、いまだにその原因がはっきりせず、いろいろな要因が絡み合って起こると考えられています。また、明らかな効果が認められる治療法が見つかっていないのが現状です。

次の項目では、突発性難聴がどのような病気か理解を深めるために、音の伝わる仕組みや難聴の種類の説明をします。少し難しい内容まで踏み込みますので、「3. 突発性難聴の症状」まで読み飛ばしても構いません。

2. 耳の構造と音の伝わる仕組み、難聴の種類について

耳の穴の奥には、音を増幅して脳に伝えるための様々な構造が備わっています。突発性難聴では、耳の一番奥の「内耳」と呼ばれる部分に不具合が起きて聞こえなくなります。

耳の構造について

耳は次のように大きく3つに分けられます。

  • 外耳(がいじ):耳の穴から鼓膜までの空間
  • 中耳(ちゅうじ):鼓膜の奥の空間
  • 内耳(ないじ):中耳の奥の蝸牛、前庭三半規管がある部分

耳の構造

いわゆる「耳」と呼ばれる耳介や外耳道などが外耳に含まれます。中耳は鼓膜や音を伝える骨である耳小骨(じしょうこつ)などが含まれます。急性中耳炎はこの中耳に炎症が起きた状態です。内耳は中耳のさらに奥の空間です。聞こえを担当する蝸牛や、身体の平衡感覚を担当する三半規管や前庭があります。どの部分で障害が起きても難聴が起こりますが、突発性難聴は内耳で起こる難聴です。

それぞれの部分がどのように音を伝えているのかについて、次に説明します。

音が伝わる仕組み

音は空気や物を振動させて伝わります。外耳から入った音の振動は中耳や内耳で増幅され、神経信号に変換されて脳まで届きます。脳まで音の情報が伝わる経路は2つあります。

  • 気導:空気を振動させて音が伝わる経路
  • 骨導:骨を振動させて音が伝わる経路

気導は空気を振動させて伝わった音が、鼓膜で増幅されて聞こえる経路です。音は耳介で集められ、外耳道の空気を振動させて中耳の鼓膜に伝わります。鼓膜に伝わった音はそこで増幅されて、さらにその奥の耳小骨と呼ばれる骨に伝わります。耳小骨は鼓膜から内耳に音を伝えるとともに、さらに増幅をする役割があります。音は次に内耳の中にある蝸牛に伝わり、蝸牛にある外有毛細胞(聴覚を担う細胞)で神経信号に変換されて脳へ伝わります。

一方、骨導は鼓膜を通らずに音が骨を振動させて、直接内耳に伝わる経路です。内耳の中にある蝸牛から脳へ伝わる経路は気導と同じです。

難聴の種類:伝音難聴、感音難聴、混合性難聴とは

耳から脳へ音が伝わる経路のどこに不具合があるかによって難聴の種類が異なります。難聴は大きく次の3つに分けられます。

  • 伝音難聴(でんおんなんちょう)
  • 感音難聴(かんおんなんちょう)
  • 混合性難聴(こんごうせいなんちょう)

伝音難聴は「外耳から内耳に伝わる経路」に原因がある難聴を指します。感音難聴は「内耳から脳へ伝わる経路」に原因がある難聴です。混合性難聴そのどちらにも原因がある難聴です。この3つのどの難聴に当てはまるかは、純音聴力検査という聞こえの検査を受けるとわかります。それぞれの難聴の代表的な病気は次の通りです。

伝音難聴であれば、鼓膜の診察である程度病気を推定できます。さらに原因をはっきりさせるために聴覚検査や画像検査が行われます。

感音難聴は鼓膜の見た目は正常なことがほとんどであり、聴覚検査の結果と合わせて診断が行われます。より詳しい聴覚検査や画像検査が追加で行われることもあります。突発性難聴は感音難聴を起こす代表的な病気です。

3. 突発性難聴の症状

突発性難聴は名前の通り突然、難聴になる病気です。突発性難聴の症状には次のようなものがあります。

  • 耳が聞こえない:片耳難聴、両耳難聴
  • 耳が詰まった感覚・塞がる感覚:耳閉感
  • 耳鳴り:耳鳴(じめい)
  • 音が響く・割れる:聴覚過敏(ちょうかくかびん)
  • めまい
  • 吐き気:嘔気

突発性難聴になったほとんどの人は片耳が聞こえなくなります。軽い難聴の場合には、聞こえの悪さよりも耳が詰まった感覚や、塞がる感覚から病気に気付くことがあります。難聴に伴って耳鳴りがしたり、音が響いたり割れたりするような症状が起こることが多いです。また、めまいがすることもあり、同時に吐き気が起こることもあります。「突発性難聴の症状」に詳しく書いてありますので、参考にしてください。

4. 突発性難聴の原因

突発性難聴の原因はいまだわかっていません。現在までに考えられている原因は次の通りですが、詳しい仕組みは不明です。

  • 循環障害
  • 感染
  • 内耳の
  • 免疫の異常

循環障害を原因とする説は、内耳にある聴覚の細胞への血流が低下して機能が損なわれて、難聴が起こるのではないかというものです。また、内耳の感染が原因で突発性難聴が起こるという説もあります。内耳の瘻孔とは、内耳にあるリンパ液を包んでいる膜や構造の損傷のことで、リンパ液が漏れて難聴が起こるというのではないかという説です。自分の内耳を攻撃する物質(自己抗体)ができて、聴覚に関連する部位が障害されて難聴が起こるという説もあります。この中のどれか一つが原因で難聴が起きるというよりも、これらの原因がいくつか絡み合って起こると考えられています。

また、突発性難聴が起きやすくなると考えられているリスク因子もあります。

  • ストレス
  • 高血圧
  • 糖尿病
  • 喫煙
  • 飲酒
  • 食事
  • 遺伝子多型

これらの要因が絡みあって突発性難聴を起こしやすくなると考えられています。

遺伝子多型とは遺伝子を構成しているDNAの配列の個人差のことです。遺伝子多型があると病気のなりやすさなどが変わり、病気の原因の1つになると考えられています。

5. 突発性難聴の検査

突然耳が聞こえなくなって医療機関を受診した時には、次のような検査が行われます。

  • 問診
  • 身体診察
  • 聴覚検査
    • 純音聴力検査
    • ティンパノメトリー検査
    • 耳音響放射
  • 平衡機能検査
  • 画像検査

問診では病状や身体状況について詳しく聞かれます。問診での情報と身体診察での鼓膜の観察などから、難聴の原因となっている病気のあたりが付けられます。さらにいろいろな聴覚検査が行われた結果、突発性難聴かどうかが診断されます。必要に応じて画像検査が追加されることもあります。「突発性難聴の検査」に詳しく書いてありますので、参考にしてください。

6. 突発性難聴の治療

突発性難聴には、確立された有効な治療方法はいまだにありません。一般的に行われることが多い治療は次の通りです。

  • 生活指導
  • 薬物治療
    • 副腎皮質ステロイド
      • 内服治療
      • 点滴治療
      • 鼓室内投与
    • 循環改善薬・血管拡張薬
    • ビタミン
    • 漢方薬
  • 高圧酸素療法
  • 補聴器

現時点で突発性難聴に対して広く行われている治療はステロイドを使用した治療方法です。日本だけではなく世界的にも行われていますが、実は現在までの研究で有効性がはっきりとは確認されていません。ステロイドによる治療は1週間から10日間ほど続けられます。難聴の程度が重かったり、糖尿病などの持病があったりする人では入院が勧められることがあります。

その他に血管拡張薬やビタミン剤、漢方薬を併用することがあります。これらの治療で改善が乏しい場合には、ステロイドを鼓膜に注射する方法や、高圧酸素療法を併用する方法もあります。難聴が残って生活に不便が多い人には補聴器が勧められます。

突発性難聴の治療」に詳しく書いてありますので、参考にしてください。

7. 突発性難聴の人が日常生活で注意すべきこと

突発性難聴は原因不明であり、確立された治療がない状況です。そのため、日常生活で何をした方が良いというものはあまりありません。

避けた方が良いことについても、明らかな効果があるものははっきりしていません。しかし、突発性難聴を引き起こすリスク因子の一つにストレスがあるため、不規則な生活や睡眠不足は避ける方が望ましいと考えられます。適度に身体を動かすことはストレス解消になりますが、過度の運動は身体的なストレスが大きくなる可能性がありますので避けた方が良いかもしれません。

過度のアルコール摂取は治療薬の代謝に影響するため避ける方が望ましいです。また、突発性難聴に限った注意事項ではありませんが、一般的に大きな音は内耳の聴覚細胞の負担になることから、イヤホンやヘッドフォンで大きな音を聞くことも避けた方が無難です。

日常生活の注意点については「突発性難聴の人が日常生活で注意すべきこと」に詳しく書いてありますので、参考にしてください。

難聴が高度もしくは重度の場合には、身体障害者手帳の給付が受けられます。身体障害者手帳の給付を受けると補聴器の補助金などが給付され、自己負担額を少なくすることができます。一方、突発性難聴は指定難病ではないため、指定難病の認定を受けることはできません。

8. 突発性難聴に似ている病気について

突発性難聴では突然の感音難聴を起こしますが、同様の難聴を起こす病気は他にもあります。突発性難聴は基本的には再発しません。再発を繰り返す時には他の病気が考えられ、繰り返した時点で診断名が変更となる場合もあります。

外リンパ瘻

外リンパ瘻は中耳と内耳を分ける窓(膜)が破裂して、リンパ液が漏れることで難聴を起こす病気です。強くいきんだり、咳やくしゃみをした後などがきっかけで、難聴やめまいを起こすことが多いです。膜が破れた時に、パチッという音や水の流れるような音がしたり、水が流れる感じがすることがあります。

治療では、入院をして安静を保つと同時にステロイド治療が行われます。1週間ほど経っても症状が改善しなかったり聴力が悪化するようであれば、全身麻酔での手術が行われます。膜が破れているどうかを確認して、破れている場合には修復が行われます。

突発性難聴と同じように突然の難聴を起こすため見分けるのは簡単ではありません。症状が起きてから1か月以上経過しても難聴の程度が変動したり、めまいが持続する場合には、突発性難聴ではなく外リンパ瘻の可能性があります。思い当たる節があればお医者さんに相談してください。

音響外傷

音響外傷は典型的には大きな音を聞いた後に高度の難聴を起こす病気です。コンサートやライブだけでなく、爆発音なども原因になります。また、耳鳴りを伴うことが多いです。ステロイドによる治療が主に行われます。

突発性難聴と同じように突然の難聴を起こしますが、大きな音を聞いたかどうかが発症に関連しているので区別はつきやすいです。聴力が改善するかどうかは個人差があります。

急性低音障害型感音難聴

急性低音障害型感音難聴は低音域が急激に聞こえなくなる病気で、感音難聴に分類されます。原因ははっきりしていませんが、メニエール病と同じように、聞こえを担当する細胞(外有毛細胞)がある内耳の水分バランスに異常が起きているのではないかと考えられています。

急に起こる感音難聴の中ではもっとも患者数が多く、典型的には急激に耳が塞がった感覚が生じます。難聴や耳鳴りを感じることもあり、純音聴力検査から低音領域のみの感音難聴であることがわかります。大きなめまいが起こることはありませんが、軽いめまいが起こることはあります。

確立された治療はなく、循環改善薬やビタミン剤の内服、メニエール病や突発性難聴に準じて利尿薬やステロイドの内服などが行われます。治療でいったん改善しても繰り返すことがあり、再発の度に聴力が元に戻りにくくなります。中にはメニエール病に移行する場合もあります。

はじめての発症では、低音域に限局した突発性難聴と診断されて治療されることもありますが、再発した時点で低音障害型感音難聴に診断名が変更されます。

メニエール病

数時間にわたる激しいめまいや耳鳴り、難聴の発作を繰り返す病気です。聞こえを担当するの細胞(外有毛細胞)がある内耳にリンパ液がたまって起こります。

メニエール病で起こる難聴では、最初は低音域を中心に聞こえなくなり、発作を繰り返していくと全音域が聞こえにくくなることがあります。治療は吐き気止めやめまい止めなどの薬物療法とともに、安静にすることも大切です。発作がない時には生活改善を心掛け、症状に応じて内耳のむくみをとる利尿薬やビタミン剤などが使われます。

メニエール病のはじめての発作は突発性難聴と区別がつきにくいことが多く、発作を繰り返すことでメニエール病と診断名が変更されることもあります。

ステロイド依存性難聴

ステロイド依存性難聴は一定の量のステロイドを服用していないと難聴が悪化する病気です。原因はわかっていませんが、免疫の異常に関連していると考えられています。

突発性難聴と同じように突然の難聴から始まります。ステロイド治療を受けると一時的に聴力が改善しますが、ステロイドの量を減らしていくと再び聴力が悪化します。再度、ステロイドを増やすと聴力が改善するような経過をたどります。

ステロイドを減らすと聴力が悪化するため、聴力が安定する量のステロイドを服用し続ける必要があります。ステロイドの量は少ない方が望ましいのですが、あまり減量できない場合には、免疫抑制剤での治療が行われることもあります。

若年発症型両側性感音難聴

若年発症型両側性感音難聴は、生まれつきの難聴ではないものの、40歳未満で発症する両耳の感音難聴です。両耳に聞こえにくさが生じて徐々に悪化する場合には遺伝子検査が行われ、原因遺伝子見つかった場合に診断されます。

難聴の悪化にともなって耳鳴りやめまいなども起こります。治療方法は確立していないため、聴力に応じて補聴器や人工内耳などの使用が検討されます。

はじめは片耳のみに発症することがあり、突発性難聴と診断されることがありますが、その後の経過が異なるので区別することができます。

聴神経腫瘍

聴神経腫瘍は脳神経の一つである聴神経にできる良性腫瘍で、5-10万人あたり1人にみられます。片耳の難聴と耳鳴り、めまいが主な症状です。

突発性難聴のように難聴が突然起こる場合がありますが、一旦聴力が改善しても再度悪化することから区別できます。聴神経腫瘍が疑われる人には頭部MRI検査が行われます。

腫瘍が1cm以下であれば定期的なMRI検査と純音聴力検査で様子を見ることになります。腫瘍が大きくなったり、難聴が進行したりする場合には手術治療が検討されます。状況に応じて放射線治療が行われることがあります。

【参考文献】

Lancet. 2010 Apr 3;375(9721):1203-11.
Laryngoscope. 1996 Nov;106(11):1347-50.