とっぱつせいなんちょう
突発性難聴
原因不明に突然片方の耳が聞こえなくなる病気。約2/3の人は回復するが、1/3の人は耳が聴こえないままになってしまう
15人の医師がチェック 148回の改訂 最終更新: 2024.07.24

突発性難聴の治療:ステロイドなどの治療法、治療期間など

突発性難聴は一般的にはステロイド薬ビタミン剤、循環改善薬などによって治療が行われます。しかしながら、有効性が確立された治療方法はありません。ストレス回避などの生活改善を含めて、現在行われている治療法について説明します。

1. 突発性難聴は何科を受診すればよいのか

突発性難聴は主に耳鼻咽喉科で治療が行われます。突然の難聴に気づいたら、はじめに受診するのは大きな病院でなくても構いません。多くの耳鼻咽喉科では診断に必要な純音聴力検査を受けることができます。

重度の難聴や合併症がある人で、入院した方が良いとお医者さんが判断した場合には、入院できるような病院を紹介される場合があります。

なお、医療機関が休診中の土日や祝日に難聴を自覚した場合には、次の平日まで待って受診しても構いません。休日に開院している耳鼻咽喉科が近くにあれば良いですが、なくて救急外来などを受診しても聴力検査を行えないことが多く、診断や治療が難しいことがあります。難聴では発症から48時間以内の治療が聴力の改善に重要ということもいわれていますが、48時間以上経って治療を開始した場合でも、14日以内であれば改善率は大きくかわらないと考えられています。

2. 突発性難聴の治療法

突発性難聴では、確立された有効な治療法は実はいまだにありません。一般的に行われることが多い治療は次の通りです。個々の医療機関によって行われる治療は異なります。

  • 生活の改善
  • 薬物治療
    • ステロイド
      • 内服治療
      • 点滴治療
      • 鼓室内投与
    • 循環改善薬・血管拡張薬
    • ビタミン剤
    • 漢方
  • 高圧酸素療法
  • 補聴器

現時点で突発性難聴に対して世界的に広く行われている標準治療はステロイドを使用した治療方法です。日本で2014年度から2016年度に行われた「難治性聴覚障害に関する調査研究班」の調査では、突発性難聴と診断された人の9割以上にステロイドの治療が行われていました。日本だけではなく世界的にも行われている突発性難聴に対してのステロイド治療ですが、現在まではっきりとした有効性は報告されていません。

2012年に米国耳鼻咽喉科頭頸部外科アカデミーが提唱した突発性難聴の診療ガイドラインでは、最初に行う治療としてステロイドによる薬物治療を挙げています。有効性ははっきりしないものの、難聴が残存した場合の生活の不便さなどを考慮すると、行える数少ない治療の選択肢として発症2週間以内のステロイド治療が勧められています。ただし、ステロイドにはさまざまな副作用があるため、一人ひとりの状態や持病にあわせて治療が選ばれます。

3. 生活の改善

突発性難聴の原因の一つにストレスがあります。ストレスには身体的なものと精神的なものがあり、ストレスのかかる状況を改善するために次のようなことを心掛けてみてください。

  • 状況に応じて休養、安静期間をとる
  • 過度な運動は控える
  • 過度なアルコール摂取は控える

一つひとつ説明します。

状況に応じて休養、安静期間をとる

ストレスは突発性難聴の原因の一つと考えられています。そのため、突発性難聴を起こした時期に仕事が忙しかったり睡眠不足だったりした人、ストレスが溜まっていると感じている人は、ゆっくり休むことを検討してみてください。

軽度の突発性難聴では外来での治療と入院での治療での改善率に大きな差はなかったという報告があります。また、ベット上で安静に過ごすことも明確な効果は確認できませんでした。これらのことから、休養といっても自宅でじっと横になっている必要はなく、睡眠不足であればいつもより多めの睡眠をとって、散歩などでリフレッシュするのも良いです。自分にあったストレス解消方法を見つけてみてください。

過度な運動は控える

運動によって聴力の改善に効果があるかどうかは、今のところわかってはいません。しかしながら、突発性難聴はストレスが原因の一つと考えられていることから、身体的ストレスとなるような過度な運動は少なくともステロイドを使用している期間は避けた方がいいかもしれません。

過度なアルコール摂取は控える

アルコールはステロイド治療中は避けたほうが無難です。アルコールを飲むと、薬剤を代謝する肝臓の酵素の機能に影響が出て、ステロイドの副作用が強くでる可能性があります。また、飲酒自体も突発性難聴の発症に関連性があるので、1日に純アルコール換算で16g以上の飲酒はしないように心がけてみてください。

4. ステロイドによる薬物治療:内服や点滴、副作用など

現時点で日本および世界的に広く行われている治療がステロイドの治療です。ステロイドには内服薬と注射剤があります。注射剤は点滴で全身投与に使われる他、耳の鼓膜の内側にある鼓室内への投与で使われます。ここではステロイドの量や副作用などについて説明します。

内服治療:プレドニン®、リンデロン®、デカドロン®など

プレドニゾロン(商品名:プレドニン®)は、一般的に「ステロイド」と呼ばれる薬剤の一つです。強い抗炎症作用や免疫抑制作用などをあらわします。プレドニゾロンはステロイド剤の代表的な製剤の一つです。ほかにも、ベタメタゾン(商品名:リンデロン®)、デキサメサゾン(商品名:デカドロン®)などのステロイド剤が使われています。

突発性難聴の治療では一般的に内服のプレドニゾロンを1日体重1kgあたり1mg(体重60kgなら1日60mg)から飲み始めます。この量から少しずつ減らしながら約8日間の内服することが多いです。ステロイドの効果が部分的でもあると考えられる時には14日間程度まで延長して内服する場合もあります。ただし、突発性難聴に対するステロイドの効果がはっきりしていないため、用いる薬剤や投与量も医療機関ごとにさまざまです。

点滴治療

入院して治療を行う人には点滴での治療が行われることが多いです。ステロイドの治療は、内服でも点滴でも効果はあまり変わりません。使われる量も内服でのステロイド量とは大きく変わりません。

鼓室内投与

ステロイドの鼓室内投与は鼓膜の奥に直接ステロイドを入れて、内耳に浸透させる治療方法です。内服や点滴による治療と比べて効果は変わりませんが、局所的な使用なので薬の副作用が出にくいという利点があります。しかし、鼓膜に穴をあけてステロイドを投与するため、鼓膜の穴が閉じないかもしれないという欠点があります。

2012年に米国耳鼻咽喉科頭頸部外科アカデミーが提唱した突発性難聴の診療ガイドラインでは、ステロイドの内服や点滴で効果がない場合には、鼓室内投与を検討しても良いとされています。

ただし、血糖値のコントロールがよくない糖尿病患者など、内服や点滴ではステロイドの副作用によるデメリットが大きいと判断された人には、最初から鼓室内投与が行われる場合もあります。

実際の方法を説明します。初回は鼓膜に麻酔を行い、細い注射針を鼓膜にさして穴を2つ開けます、そのうち1つの穴から中耳内にステロイドを注入します。その後約20分間、安静にしています。浸透をよくするために注入側を上にして寝たり、飲み込みをあまりしないようにしたりする医療機関もあります。ステロイドの注入は、5日間連続で行う方法や、週に2回を2週間、合計4回行う方法などがあります。方法は医療機関によってさまざまで、鼓室内投与を行なっていないところもあります。

副作用

ステロイド内服や点滴ではステロイドの影響が全身に及ぶため、副作用に注意が必要です。鼓室内投与では中耳のみに薬が投与されるため、内服や点滴による全身投与よりも副作用が起きにくいです。

ステロイドの副作用には以下のものがあります。

  • 眠れなくなる
  • 気分が落ち込んだり、高ぶったりする
  • 血糖値が上がる
  • 血圧が上がる
  • コレステロール値が上がる
  • 胃がムカムカする
  • 太りやすくなる(中心性肥満、満月様顔貌)
  • 感染症にかかりやすくなる
  • 骨粗鬆症
  • 緑内障白内障

突発性難聴でのステロイドの使用期間は長くても2週間程度であり、上記にある骨粗鬆症や太りやすくなるなどの副作用はあまり起こりません。

しかしながら、糖尿病やコントロールの良くない高血圧、精神状態が安定していない双極性障害躁うつ病)などの人では、ステロイドの使用によって病状が悪化する可能性があるため、安全のために入院での治療を行うことがあります。特に糖尿病がある人では、ほとんどの場合に入院での治療が行われます。

このように副作用を挙げると、薬を使うのが怖いと感じる人がいるかもしれません。事前にステロイド使用時の注意事項や服用量・服用期間などをしっかりと聞いておき、なんらかの体調変化があった場合は、まず医師や薬剤師などに連絡・相談することが大切です。

5. ステロイド以外の薬物治療:血管拡張薬・ビタミン剤など

有効な治療方法が確立されていない突発性難聴ですが、多くの場合にはステロイドの治療に加えて循環改善薬・血管拡張薬やビタミン剤が使われています。それぞれの薬について説明します。

循環改善薬・血管拡張薬:アデホスコーワ®、パルクス®など

突発性難聴の原因はわかっていませんが、内耳の血流障害が引き起こしているのではないかという説があります。この説に基づいて、循環改善薬や血管拡張薬が治療に用いられます。しかしながら、これらのうち有効性がはっきりとわかっているものはありません。

具体的に使われる薬は次のようなものです。

◎アデノシン三リン酸(商品名:アデホスコーワ®顆粒など)

アデノシン三リン酸は突発性難聴に広く使われている薬剤です。細胞の代謝を活発にすることで循環を改善させる作用が期待されており、基礎的な実験では内耳に効果があることが報告されています。しかし実際に聴力改善の有効性ははっきりしていません。副作用に胃の痛みや動悸などがあります。

◎カリジノゲナーゼ(商品名:カルナクリン®など)

カリジノゲナーゼは突発性難聴には保険適用がありませんが、メニエール症候群に対する血流効果改善があるとされていて、使われる場合があります。副作用に胃の不快感などがあります。

◎プロスタグランジン製剤(商品名:パルクス®アルプロスタジルなど)

プロスタグランジン製剤には注射剤と内服薬があります。特にプロスタグランジンE1の点滴は内耳の血流の改善効果があると期待されて使用されています。高音域の難聴に効果が高く耳鳴りに対しての効果があるのではないかと報告されています。

副作用は内服薬では下痢や胃の不快感、ほてり、頭痛などがあります。注射薬では薬剤が入った血管に沿って血管炎が起こって、皮膚が赤くなることがあります。点滴の速度を遅くしたりすることで、使用継続が可能なことがありますので、お医者さんと相談してください。

ビタミン剤:メコバラミン(メチコバール®)など

突発性難聴に対するビタミン剤の治療では、ビタミンA、B、C、Dなどが使用されることがあり効果があったという報告もみられますが、現時点で確実な治療効果があるものはありません。経験的にビタミンB12製剤であるメコバラミン(メチコバール®)が広く用いられています。

抗ウイルス薬

突発性難聴の原因ははっきりしていませんが、一つの説としてウイルス感染があります。以前は単純ヘルペスウイルスに対する抗ウイルス薬バラシクロビルが用いられることがありました。しかし、ステロイド薬に抗ウイルス薬を追加して治療を行った複数の研究で、治療効果の改善が見られなかったため、現在は抗ウイルス薬での治療は推奨されていません。

漢方薬

突発性難聴に有効であるとはっきりしている漢方薬はありません。経験的によく使われている漢方は五苓散(ごれいさん)や柴苓湯(さいれいとう)です。これらの漢方は体内の水を調整する作用がありメニエール病などにも使われます。

  • 五苓散(ごれいさん)
    • 水を調整する効果のある漢方薬です。細胞の膜にある水を調整する部分に作用する効果があるといわれています。
  • 柴苓湯(さいれいとう)
    • ストレスを和らげ、ステロイド薬と似た働きをすることで、突発性難聴に効果があるのではないかといわれています。ステロイド治療後に難聴が残存した場合などに柴苓湯に切り替えて使用します。しかし、有効性がはっきりしていないことと、肝機能障害電解質異常が起こることがあるので、長期間に使用する場合には、適宜、血液検査などを行います。

6. 高圧酸素療法

高圧酸素療法は突発性難聴に対して明らかな効果はないものの、発症後半年以内であれば試してみても良いかもしれない、という程度の位置づけの治療です。標準的なステロイド治療などを受けても改善しない場合には、追加で治療を検討しても良いかもしれません。高圧酸素療法の装置がある医療機関は限られるため、この治療を希望する人は医療機関に問い合わせるか、お医者さんと相談して紹介してもらってください。

高圧酸素療法とは大気圧より高い気圧の中で100%の酸素を吸入することで血液中の酸素量を増加させて、酸素不足の身体の組織の改善を図るものです。通常の状態でもヒトの血液中にあるヘモグロビンの98%以上は酸素と結びついています。高圧酸素療法を行うと100%のヘモグロビンが酸素と結びついて、さらに血液内にも酸素が溶け込むとされています。この溶け込んだ酸素によって末梢循環不全が改善するといわれており、耳の血液循環がよくなることを期待して行われています。

高圧酸素治療では100%酸素で2-2.8絶対気圧まで加圧するため、体内に取り込まれる酸素分圧は通常の大気の約15-20倍になります。1回の治療は約90分かかります。圧をあげるのに約15分、その後に一定圧で60分、圧力を大気圧まで戻すのに約15分かかります。1日に1回行い、平日5日間連続での治療を1セットとして3セットまで行います。

主な副作用は耳の痛みです。中耳にある空気が圧力の変化に伴って膨張するため、圧力があがる際に耳痛を起こします。耳抜きをすることで症状は改善しますが、まれに滲出性中耳炎などになることがあります。耳抜きがうまくできない場合には、鼓膜に穴をあける鼓膜切開を行います。

7. 補聴器

突発性難聴では難聴が片耳のみに起こることが多いです。治療を受けても難聴が残った場合には、日常生活で不便を感じることがあります。例えば難聴の程度が軽度であっても、会議など複数の人が話をする場面で言葉を理解できないことがあります。このように困った場面が多い人は補聴器を検討してもいいかもしれません。

補聴器を作成するには聴力が安定していることが重要です。そのため発症後少なくとも3か月が経過してから、補聴器作成のための検査を受けることをお勧めします。

高度以上の難聴であれば身体障害者手帳を交付してもらい、補助金を申請することができます。高度以上でなくても治療に必要な場合には、所得税の医療費控除の対象になります。いずれも補聴器購入前に手続きなどが必要なので、お住まいの役所に問い合わせてみてください。詳しくはこちらのコラムで説明しています。

8. 手術治療

現時点で突発性難聴に有効な手術治療はありません。突発性難聴が重度であったり、片耳の難聴がもともとあり、良いほうの耳が突発性難聴になったりした場合には、生活に不便が生じがちです。両耳とも聴力レベルが90dB以上の重度難聴の場合には、補聴器を使っても言葉を聞き取るのが困難なため、人工内耳の手術などを検討することがあります。

9. 入院治療が必要な突発性難聴とは

突発性難聴で使われるステロイドには内服薬と注射剤がありますが、どちらも効果はあまりかわりありません。そのため特に問題ない場合には内服薬が処方され、通院での治療が行われることが多いです。

入院治療が望ましいのは、突発性難聴の症状が重い人と、ステロイドによる治療を受けた場合に副作用が強く起こる可能性がある人です。

  • 突発性難聴の症状が重い人
    • 聴力低下が重度の人
    • めまいを伴う人
  • ステロイド治療の副作用が強く起こる可能性がある人

突発性難聴の程度が軽度の場合には、入院治療と通院治療で症状改善の効果はあまりかわりないことがわかっています。重度の場合も大きな差はないと考えられていますが、原因となりうるストレスから離れて身体を休めるためにも、入院をしてもいいかもしれません。強いめまいの症状を伴っていて自宅での治療が難しい人にも入院が勧められることがあります。

ステロイド治療の副作用にはさまざまなものがあります。詳しくはステロイド治療の副作用の部分をみてください。これらの副作用が強く起こる恐れがある人には入院での治療が勧められます。

糖尿病がある人

糖尿病がある人はほぼ全員入院での治療が行われます。ステロイドは血糖を上げる作用があるため、糖尿病の治療を内服薬で行っている人でも、インスリンでの治療が必要になることがあります。また、血糖値が高くなりすぎるとと脱水や食欲低下、意識障害が起こることがあるため、適切に血糖管理をする目的で入院します。

躁うつ病などの精神疾患がある人

躁うつ病などの精神疾患がある人にも入院が勧められます。ステロイドの副作用で眠れなくなったり精神的に高ぶったりする精神症状が出ることがあります。精神症状が悪化した場合に自宅療養では適切に対処できない可能性があるので、病状の安定次第ではありますが、できれば入院したほうが安全に治療が進められます。

◎高齢者

高齢者ではステロイドの副作用が強く起こることがあるため、入院での治療が行われる場合があります。しかし、高齢者は入院によって認知機能が急激に悪化したり、足の筋力が急激に低下することもあり、難聴の程度と全身状態とを総合的に考慮したうえで、ステロイドの治療を行うかどうかを決めます。

10. 子どもや妊娠中の突発性難聴の治療について

子どもでも突発性難聴になることがあります。また妊娠中に発症したら治療を受けられるかどうか心配になると思います。基本的には子どもも妊婦も通常の治療と同じステロイドの治療を行うか検討します。

子どもの突発性難聴の治療

大人より少ないものの、子どもでも突発性難聴になることがあります。子どもの難聴ではいつ発症したのかなどの判断が難しいこともあり、各種検査を組み合わせて難聴の診断が行われます。

また子どもに多い難聴に機能性難聴や心因性難聴があり、突発性難聴との区別が重要です。これらは、実際に聞こえの機能に問題がなくても難聴を感じる病気です。機能性難聴や心因性難聴が疑われる場合には純音聴力検査に追加して、耳音響放射検査などを行うことで、診断の参考にします。

また、遺伝子変異が関連した遺伝性難聴の症状として難聴が起きている場合もあり、必要時には画像検査などが追加されます。

さまざまな検査で得られた情報をもとに突発性難聴が疑われた場合には、大人と同様にステロイドによる治療が行われます。15歳以下で発症した突発性難聴は大人に比べて治りにくいといわれています。

ステロイド治療同様、その他の薬も効果は確立されていないものの使用されています。外来治療ではATP製剤やビタミンB12の薬が使われたり、入院治療ではプロスタグランジンE1製剤の点滴が併用されたりします。

妊婦の突発性難聴の治療

妊娠中では薬剤の使用を躊躇するかもしれません。しかし、ステロイド薬は通常の使用量では胎児への影響はほとんどないと考えられており、通常と同じく妊婦にもステロイド治療が勧められます。

11. 突発性難聴の治療期間についての疑問

突発性難聴の治療はできるだけ早くはじめた方が良い、という話を聞いたことがあるかもしれません。具体的にどのくらい早くはじめれば良いのか、そのほかのよくある疑問とともに説明していきます。

  • 発症後どのくらいで治療を開始すれば良いのか:48時間以内がいいのか?
  • ステロイドの使用期間はどのくらいか
  • 入院期間はどのくらいか
  • 薬はいつまで内服するのか

それぞれの疑問点について、具体的に説明します。

発症後どのくらいで治療を開始すれば良いのか:48時間以内がいいのか

難聴を自覚してから治療を始めるまでは、できるだけ早い方が治りが良いという話を聞いたことがあるかもしれません。しかし、48時間以内とそれ以上とで治療効果に差はないといわれています。もともと突発性難聴は30%の自然治癒があるため、早期に治療をして治ったように見えたとしても、その中には自然治癒した人たちが含まれていたと考えられています。症状が起きたのが夜間であったり医療機関が休みの時であった場合、すぐに救急外来を受診しなくてはいけないと思う必要はありません。また、救急外来では十分な検査が行えないことが多いため、翌平日の耳鼻咽喉科が診療している時間内に受診することをお勧めします。

しかしながら、2週間以上経過してから治療を開始した場合には、治りにくいことがわかっているため、放置はせずに受診をしてください。

ステロイドの使用期間はどのくらいか

多くの場合にはステロイドによる治療は8日前後続きます。病状に応じて14日間まで延長して使用されることがあります。

入院期間はどのくらいか

現時点で外来治療よりも入院治療の方が治療効果が優れているという報告はありません。突発性難聴の発症にはストレスが関連していると推測されているので、入院による安静でストレスを軽減させる効果は期待できるかもしれません。そのため、突発性難聴が起きた時期に強いストレスがかかっていた人や、難聴の程度が重い人には入院が進められることがあります。

また、ステロイド治療で副作用に注意が必要な持病がある人には入院治療が行われます。

例えば、糖尿病などではステロイド使用に伴って血糖値が上昇するため、ステロイドの使用が終わるまでの期間は入院が必要です。血糖値によってはステロイド終了後も入院を続けて様子をみる場合もあります。

入院期間はステロイドの使用期間とほぼ同じです。ステロイド治療自体が有効性が確立された治療でないことから使用期間は医療機関によってさまざまですが、多くは8日前後です。

薬はいつまで内服するのか

7-14日間のステロイド治療を受けた後は、その他の薬を内服しながら経過をみることが多いです。医療機関によって差はありますが、多くの場合は3か月程度内服します。改善が見られる場合には3か月以上内服を続けることがあります。

アメリカのガイドラインでは、症状が残った場合には経過を見るために6か月程度は通院や検査を継続することが推奨されています。それ以上の期間については、それぞれの状態に応じて決定されます。

13. 突発性難聴の治療経過についての疑問

突発性難聴と診断されたら治療で良くなるのかどうか、治らない時には何か他に治療方法があるのかなどが気になると思います。ここでは次のような疑問について説明します。

  • 突発性難聴の治療の途中で悪化することはあるのか
  • 両耳の突発性難聴はあるのか
  • 突発性難聴が治らない時の治療には何があるか
  • 突発性難聴は自然治癒するのか
  • 突発性難聴は完治するのか:予後について

一つひとつ説明します。

突発性難聴の治療の途中で悪化することはあるのか

治療の途中で難聴が悪化することもあります。日本の報告では、突発性難聴の治療を開始した後に、一時的に症状が変動する人や悪化する人の割合は20%程度いるという報告があります。

治療開始後も悪化する場合は自然経過として悪化する場合と、突発性難聴ではなく他の病気の場合があります。原因として自然経過の場合にはとしてで、一旦悪化しゆるやかによくなる経過をとります。タイプがもあります。その他の悪化する人の原因としては他の病気の場合は、実はには突発性難聴ではなく、外リンパ瘻などの可能性があります。別の病気であるの可能性がもあります。治療を開始しても全くよくならず、どんどん悪化する場合には突発性難聴以外の病気の可能性があるため、追加の検査などが検討されます。

両耳の突発性難聴はあるのか

両耳とも突発性難聴になる人の割合は1%です。両耳同時に発症しなくとも、片耳ずつ別の時期に起こることもあります。両耳の場合でも治療は片耳と同じように行われます。高齢者、心筋梗塞などの動脈硬化が原因となる病気がある人、自己抗体が陽性である人では両側の突発性難聴を起こしやすいとされています。自己抗体とは、免疫機構の異常で作り出された、自分の身体の細胞や組織を攻撃してしまう物質のことです。自己抗体が原因となる病気のことを自己免疫疾患と呼び、関節リウマチ全身性エリテマトーデスなどあります。

突発性難聴が治らない時の治療には何があるか

現代の医療では突発性難聴の治療方法は確立されていません。多くの場合にはステロイドの内服もしくは点滴治療を受けます。ステロイド治療で改善がみられなければ、追加の治療をするかどうかが検討されます。そもそもの治療方法が確立されていないため、追加の治療についてはその都度お医者さんとよく相談しながら決めてください。

追加で行われることが多い治療は次の通りです。

それぞれの治療の詳細については該当する場所を参考にしてください。

突発性難聴は自然治癒するのか

突発性難聴では約30%の人は自然治癒することが知られています。つまり治療を何もしなくても治る人が約3割いるということです。ステロイド治療の有効性が確立されていないことも併せて考えると、持病があるなどの理由でステロイドの治療が難しい場合には経過観察を行うという選択肢もあります。

突発性難聴が完治する割合はどのくらいか:予後について

突発性難聴が完治する人の割合は約1/3、完治はしないものの改善が見られる人が全体の1/3で、残りの1/3の人では治療の効果がみられないといわれています。

聞こえにくくなった音域によっても改善率に差があり、低音域のみの難聴の場合には高音域の難聴に比べて完全回復する人が多いといわれています。

また、厚生省急性高度難聴調査研究班によると、「発症してから2週間以上経って受診した人」、「発症時の平均聴力レベルが90dB以上の高度難聴の人」、「回転性のめまいを伴う人」では改善しにくいと報告されています。

14. 突発性難聴の治療後の疑問

突発性難聴になったら後遺症や再発の可能性について心配になるかもしれません。ここでは後遺症および再発について説明します。

突発性難聴の後遺症には何があるか

突発性難聴の後遺症には、主に「難聴」、「耳鳴」、「めまい」があります。

突発性難聴で治療を受けても、1/3の人では改善がみられません。1/3の人は聴力の回復が見られますが、元通りにならずに難聴が残ることがあります。難聴が残った人でには聞こえなくなった音域に一致する音の耳鳴りが残ることが多いです。また、長期間にわたってふわふわしたようなめまいの症状に悩まされる人もいます。

片耳に感音難聴がある人は、良性発作性頭位めまい症になりやすいといわれています。良性発作性頭位めまい症では、頭を特定の位置に傾けたときに回転性のめまいが起こります。身体のバランス感覚に関わる耳石の位置がずれることでめまいが起こると考えられており、感音難聴がある側の耳では耳石がずれやすいため、めまいが起こりやすくなります。

突発性難聴は再発するのか

突発性難聴が再発することはまずありません。診断基準の参考事項にも「難聴の改善・悪化の繰り返しはない」と記載されています。つまり、もし同じ側の耳で突然の難聴を繰り返した場合には、その時点で突発性難聴ではなく別の病気と考えられます。繰り返す難聴の場合、はじめて起きた難聴が突発性難聴と診断されることはよくあります。その後の経過や検査の結果で最初の診断が変更になることもあります。

メニエール病では初めての発作が突発性難聴に似ている場合があり、はじめは突発性難聴と診断されることがあります。

繰り返す難聴には何があるか

同じ側の耳で繰り返し難聴が起きる場合には、メニエール病以外にも次のような病気の可能性があります。

これらの病気はいずれもはじめて難聴を自覚した時には、突発性難聴と診断されることがあります。経過観察中に聴力の悪化を繰り返すことで、突発性難聴以外の病気が疑われ、検査などが追加されて診断が変更されます。

途中で診断が変更されることで混乱するかと思いますが、いずれの病気も初回の難聴が起きた時点で正確な診断をすることは難しく、経過で診断が変更されることはよくあります。

15. 突発性難聴の名医はどこにいるか

名医の基準は人それぞれです。最先端の治療を説明してくれる医師を名医と考える人もいれば、治療経験が豊富な医師を名医という人もいます。

突発性難聴では多くの場合にステロイドによる治療が行われます。しかし、確立された治療がないという難しさがあり、通常のステロイド治療で効果が見られなかった場合には、ステロイドの鼓室内投与や高圧酸素療法といった選択肢が検討されることがあります。さまざまな治療に通じている医師を名医と捉える人もいるかもしれません。また、これらの治療を行える医療機関は限られています。もし、ひとつの医療機関で治療が行うことができない場合でも、通常は協力している医療機関に紹介をしてもらえます。

治療方針を相談するにあたっては、親身に話を聞いてくれるか、相性が良いかも大切になってきます。名医を探す場合には、まず自分がどんな医師を名医と考えるか基準を整理してみてください。

16. 突発性難聴のガイドラインはあるか

日本での突発性難聴のガイドラインはありません。2012年に米国耳鼻咽喉科頭頸部外科アカデミーが提唱した突発性難聴の診療ガイドラインはありますが、米国で発行されたガイドラインであるため、日本の診療で使う場合には医療システムの違いなどを考慮する必要があります。さらに、確立された治療方法が現時点ではないため、ガイドラインは参考程度にして治療が行われます。

【参考文献】

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・BMC Med. 2014 Nov 19;12:219.
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・Laryngoscope. 1996 Nov;106(11):1347-50.