【お酒を飲まなくても肝臓がんや肝硬変のリスクに】メタボの脂肪肝に要注意!

健康診断で脂肪肝と言われた経験のある人は多いのではないでしょうか。ほとんどの人は「肝臓に脂肪がついているだけ」ですが、一部の人では脂肪肝から肝臓がんができることがあると言われています。どのような人が肝臓がんになりやすいのか、何に気を付ければよいのかを解説します。
1. 脂肪肝とはどのような病気か
脂肪肝とは文字通り「肝臓に脂肪が沈着した状態」を指します。
脂肪沈着のよくある原因の1つとしてアルコールの大量摂取がありますが、日常的にアルコールを摂取しない人にも脂肪肝が見つかることがあります。これを「非アルコール性脂肪性肝疾患:Non-alocholic liver disease (NAFLD)」と呼びます。NAFLDは「ナッフルディー」と読みます。
本コラムではこの、飲酒習慣のない人に起こる脂肪肝について紹介したいと思います。
さて、医学的には次の2つの条件を満たすものをNAFLDと呼んでいます。
【非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の定義】
(なお、NAFLDと診断されるアルコール摂取量の基準は男性1日30g未満、女性1日20g未満と定められています)
急に難しくなりましたが、噛み砕いて言うと、ある程度以上の脂肪が肝臓についていて、その原因がアルコールや薬や遺伝子疾患ではないものをNAFLDと呼ぶ、ということです。ちなみに、肝細胞への脂肪沈着を正確に評価するには、肝臓の一部を針で取り出して調べる「肝
2. NAFLDになりやすいのはどんな人?
アルコール摂取以外の脂肪肝の原因について、想像がついている人もいるかもしれません。NAFLDは内臓脂肪と密接な関係がある病気と言われており、肥満の人やメタボリックシンドロームの人はNAFLDになりやすいことが分かっています。その他に遺伝的な要因で脂肪肝が起こりやすい人もいます。
肥満
肥満は脂肪肝のもっとも重要な原因です。肥満で内臓脂肪の量が増えるにしたがって肝臓に蓄積する脂肪の量が増えるからです。肥満の人は次に説明するメタボリックシンドロームにもなりやすく、脂肪肝になりやすい条件がそろっていると言えます。
メタボリックシンドローム
内臓脂肪型肥満に加えて血圧、
2型糖尿病、脂質異常症、高血圧症
メタボリックシンドローム関連疾患とも呼ばれる2型糖尿病、脂質異常症、高血圧症のいずれか、または複数を持つ人も脂肪肝になりやすい素地を持っています。特に2型糖尿病の人は脂肪肝になりやすく、また脂肪肝が悪化しやすいことが分かっています。
その他の要因
少し専門的な内容ですが、これまでの研究で遺伝的に脂肪肝になりやすい人がいることが分かりました。PNPLA3という遺伝子に異常がある人は脂肪肝になりやすく、脂肪肝が悪化しやすいということが明らかになっています。日本人は欧米人に比べてPNPLA3遺伝子異常を持つ人の割合が高く、脂肪肝になりやすい民族であると言われています。
3. 肝臓に脂肪がたまると何が起こるのか?
NAFLDの中でも「肝臓に脂肪が沈着しているだけの状態〔NAFL(ナッフル):非アルコール性脂肪肝〕であれば、それほど肝臓が傷んでいるわけではありません。しかし、NAFLの病状が進行すると肝臓を構成する肝細胞が傷んだり壊れたりして肝臓そのものにダメージが起こります。この状態を「非アルコール性脂肪肝炎:Non-alcoholic steatohepatitis(NASH)」と呼びます。NASHは「ナッシュ」と読みます。ちなみに顕微鏡で肝臓を拡大して見ると、肝細胞が風船のようにふくらんでしまう「風船様
NASHは「肝炎」の一種であり、放っておくと肝細胞が壊れていき、最終的には肝臓が硬くなって働かなくなる「肝硬変」の状態になります。肝硬変の詳しい説明はこちらのページも参考にしてください。肝臓が硬くなることを医学的には「
NAFLの人のうちNASHに進行しやすいのは次のような条件に当てはまる人です。
【NASHに進行しやすい人】
- 肥満の人
- メタボリックシンドロームの人、特に2型糖尿病の人
- PNPLA3遺伝子異常をもつ人
- 高齢者
これらに当てはまるものが多い人ほど線維化を起こしやすく、さらにNASHから肝硬変に進行しやすいと言われています。
4. NAFLDの人はどのくらい肝臓がんになりやすいか
NAFLDのうち、肝臓へのダメージが少ないNAFLの人、
肝臓がんの発がん率
具体的な肝臓がんの発
病名 | 肝臓の状態 | 年間発がん率 |
NAFL | 肝臓に脂肪が沈着しているだけ | 0.04% |
NASH | 肝臓に脂肪が沈着して肝炎を起こしている | 0.5% |
肝硬変 | NASHが進行して肝臓が硬くなってしまった | 2.3% |
B型肝炎による肝硬変(年間発がん率約3%)やC型肝炎による肝硬変(年間発がん率約6%)と比べるとやや低い数字ですが、NASHや肝硬変の人では肝臓がんの発生に十分注意する必要があります。
なお、アルコール性脂肪肝とNAFLDの発がん率を比較したデータはありませんが、肝硬変に進行すると両者とも同じくらいの確率で肝臓がんを
5. 脂肪肝と言われたら、何に気を付ければいいのか?
アルコールを摂取しないにも関わらず健康診断で脂肪肝と言われた場合、次に大切なのは、「自分の肝臓がどのくらい傷んでいるのかを知ること(線維化の程度を知ること)」です。肝臓にダメージが蓄積すればするほど肝臓がんになりやすくなるからです。
何科を受診すればよい?
脂肪肝と診断され、自分の肝臓をもっと詳しく調べたい場合には消化器内科を受診してください。消化器内科の中でも肝臓の専門医がいる医療機関はこちらのホームページで調べることができます。
脂肪肝と一緒に糖尿病や脂質異常症を指摘された人は糖尿病内科を受診してください。糖尿病は脂肪肝を悪化させる原因の一つであり、合わせて治療する必要があります。
日常生活で気を付けることは?
NAFLDを改善するために、日常生活でできることがあります。
- 食事療法による減量
- 運動療法による減量
- メタボリックシンドロームの治療
肥満の人では減量するとNAFLDが改善することが分かっています。食事内容の見直し(適切なカロリー摂取、炭水化物や脂質の量を減らす)や運動で体重を減らすことがNAFLDの治療につながります。
糖尿病、脂質異常症、高血圧などのメタボリックシンドロームを持つ人では、これらの治療をしっかり行うことでNAFLDの悪化を予防することができます。
なおアルコール摂取については、少量であれば良いとするデータと少量であってもNAFLDを悪化させるというデータがあり、専門家においても定まっていないのが現状です。
今回のコラムでは、アルコールを摂取しない人に見られる脂肪肝であるNAFLD・NASHについて紹介しました。肝臓の病気と言えばアルコール、というイメージがあるかもしれませんが、アルコールを飲まない人でも脂肪肝が進行して肝臓がんにまで至る場合もあることを知っておいてください。特に脂肪肝に加えてメタボリックシンドロームにも当てはまる人は要注意です。脂肪肝と言われたらそのまま放置することなく、ぜひ自分の健康状態や日常生活を見直すきっかけにしてください。
執筆者
日本消化器病学会・日本肝臓学会/編, NAFLD/NASH診療ガイドライン2020, 南江堂, 2020
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。