◆皮膚掻痒症の原因
皮膚掻痒症は皮膚の痒みを症状とする疾患のひとつです。
他の痒みを伴う皮膚疾患と異なり、明らかな皮疹などの皮膚異常がないにもかかわらず、皮膚の痒みを訴える疾患を「皮膚掻痒症(ひふそうようしょう)」と言います。ただし、痒みがある皮膚を掻き壊すことによって掻破痕(そうはこん:引っ掻いた痕)や紫斑(しはん)が残ったり、二次的に皮疹や苔癬化が現れたり、色素沈着が生じる場合もあります。
皮膚掻痒症は、痒みの出る範囲をもとに二つに分類されます。
一つ目が全身にかゆみが現れる「汎発性皮膚掻痒症(全身性皮膚掻痒症)」で、二つ目が局所的にかゆみが現れる「限局性皮膚掻痒症」です。それぞれの主な原因について解説します。
【汎発性掻痒症の原因】
汎発性皮膚掻痒症の原因は、主に3つ挙げられます。
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ドライスキン
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汎発性皮膚掻痒症の原因として、老人性乾皮症、皮脂欠乏症などのドライスキン(肌の乾燥)が最も多い。
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内服薬などの影響
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薬剤や食物、サプリメントや健康食品などの摂取が痒みを誘発する場合もある。
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何らかの基礎疾患の影響
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汎発性皮膚掻痒症の原因として、基礎疾患を伴う場合がある。
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基礎疾患という言葉は、ほかの病気などの原因となったり、経過に影響したりするような持病を指します。汎発性皮膚掻痒症の原因となりうる基礎疾患の例として以下のようなものが考えられます。
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内分泌障害(糖尿病、甲状腺機能低下症など)
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肝障害(肝炎、肝硬変、胆道閉塞性疾患など)
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腎障害(腎不全、尿毒症など)
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悪性腫瘍(内臓悪性腫瘍、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫など)
痒いけど明らかな皮疹がない=ドライスキンと簡単に紐付ける事は危険で、重要な基礎疾患や薬剤の影響などが潜んでいる可能性があるため、皮膚の痒み以外の症状が合併していないかを検査してスクリーニングする事が重要です。
【限局性掻痒症の原因】
限局性皮膚掻痒症には、陰部掻痒症や肛門掻痒症などがあります。
原因として性器やその周りの感染症、便などによる刺激などが考えられるほか、悪性腫瘍の影響で痒みの症状が現れることも考えられ、区別する必要があります。
◆皮膚の痒みが出る代表疾患
皮膚の痒みを主訴とする疾患は多く、見た目の皮膚病変が見つからない場合に皮膚掻痒症が鑑別診断となります。皮膚掻痒症との区別が問題となる可能性のある場合の例として、痒みのある代表的な疾患の特徴を簡単に説明します。
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蕁麻疹(じんましん)
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膨疹と紅斑が出没し、多くの場合に強い痒みを伴う。皮疹は小さな皮疹のことも、複数の膨疹が融合して体表の大部分を地図状におおうほどのこともある。
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疥癬(かいせん)
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ヒゼンダニが皮膚の角質層に寄生して激しい痒みを起こす。感染者の衣服などから感染する場合もある。感染してから約一ヶ月ほどの無症状の潜伏期間を経て発症する。手や指の数mmの線状の皮疹(疥癬トンネル)などが特徴となる。
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シラミ症
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シラミがヒトに寄生して吸血する事でアレルギー反応が出現し、激しい痒みを起こす。頭皮に寄生するアタマジラミ、衣服に寄生するコロモジラミ、陰毛に寄生するケジラミが原因となる。
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アトピー性皮膚炎
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慢性的に湿疹や皮膚炎を繰り返す。強い痒みを伴う。
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皮膚掻痒症は、皮疹等の皮膚異常が見られないことによって区別されます。しかし、痒みのある主な疾患の皮膚症状が目立たない場合もあり、また皮膚掻痒症であっても皮膚を掻き壊して二次的に出現する湿疹や紫斑などの症状が紛らわしく見えることも考えられます。
そのため、かゆみや皮膚症状の出現からその後の経過などを問診で詳しく確認することが鑑別に必要です。
この記事では、皮膚掻痒症の原因や皮膚の痒みが見られるその他の病気との違いについて解説してきました。皮膚掻痒症はその定義上、痒みの原因がはっきりしない状況で疑われます。上のような手がかりから検査などを使って診断を進めますが、専門的な判断が必要になります。自己診断を考えるよりも、皮膚科などの医療機関を受診することをおすすめします。
注:この記事は2016年3月23日に公開しましたが、2018年2月22日に編集部(大脇)が更新しました。
執筆者
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。