ぱにっくしょうがい
パニック障害
突然のパニック発作を起こし、生活に支障が起こる状態。不安障害の中の一つ
9人の医師がチェック 192回の改訂 最終更新: 2023.06.02

パニック障害の薬について:ソラナックス、トフラニールなどの効果と副作用

パニック障害の主な薬物療法には、SSRI、SNRIなどの抗うつ薬やベンゾジアゼピン系抗不安薬があります。眠気・ふらつきなどの副作用のほか、徐々に増やしたり減らしたりする飲み方にも薬ごとに違うので、注意が必要です。

1. パニック障害の薬はどんな症状に効果があるのか

パニック障害とは、突然激しい動悸や胸苦しさ、冷や汗、めまいが起きて、このまま死んだり狂ったりするのではないか、という恐怖感におそわれる発作を何度も繰り返す病気です。「パニック発作」と、パニック発作が起きることを恐怖する「予期不安」、パニック発作を恐れて人が多いところや一人での外出を避ける「広場恐怖」が特徴的です。こうした症状に対しては薬物療法の効果があります。

2. パニック障害の薬:SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)について

パニック障害の原因はまだハッキリとわかってない部分もありますが、恐怖や不安などに関係している神経伝達物質であるノルアドレナリンと興奮を抑えるなどの働きがあるセロトニンのバランスが崩れることによって起こると考えられています。 

一説によると、脳の扁桃体という場所にある恐怖神経回路という部分があり、この部分が過剰に活動すると心拍数の増加や、呼吸の乱れ、発汗、胸の痛み、不快感といったパニック発作の諸症状が引き起こされると考えられています。この回路は主にセロトニンの働きによって制御されています。そのため、パニック障害の薬治療では、セロトニンの働きを高めるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という薬が主に使われています。

SSRIの働きについて

一度放出された神経伝達物質が再び細胞内に取り込まれることを「再取り込み」と呼びます。SSRIはその名前の通り、一度放出されたセロトニンの「再取り込み」を阻害することで、シナプス間隙という部分におけるセロトニン量を増加させることで、セロトニンの作用を強める作用をあらわします。

SSRIは抗うつ薬の一つですが、うつ(抑うつ)以外にパニック障害、強迫性障害心的外傷後ストレス障害PTSD)などの不安障害に対しても効果が期待できる薬です。

パニック障害に効果があるSSRI:パキシル、ジェイゾロフトなど

いつくかのSSRIにはパニック障害への効果がしっかりと確認されています。

m-CPP(m-クロロフェニルピペラジン)という不安を助長しパニック障害と同様な症状を引き起こす物質を使った試験(ラット)において、パロキセチン塩酸塩(商品名:パキシル®など)や塩酸セルトラリン(商品名:ジェイゾロフト®など)といったSSRIが、m-CPPによって引き起こされる自発運動量の減少を抑える作用をあらわすことが確認されています。

パニック障害にSSRIが効くまで2週間以上かかる

個人差や薬によっても違いはありますが、SSRIを開始してから効果が実感できるまでには少なくとも数週間(一般的には、2~4週間程度)必要とされています。また薬が十分な効果をあらわすまでに8~12週くらいかかるともされ、先を見据えた服用が大切です。抗うつ薬の効果が十分にあらわれるまでは、抗不安薬などを一緒に使い発作を抑えるのが一般的です。

パニック障害で抗うつ薬は徐々に増やし徐々に減らす

薬を徐々に体に慣らしていくことや副作用などを考慮して、最初は薬の飲む量を少なめの量から開始し、2~3週間ほどかけて徐々に維持する量まで増やす服用方法が取られる場合が多く、注意なども含めてしっかりと医師から話を聞いておくことも大切です。

発作が抑えられているなど薬による十分な効果が見られたら、その薬の量を半年から1年ほどの治療期間にわたって継続します。その後症状がおさまっているようなら、さらに半年から1年ほどかけて徐々に薬を減らしていくのが一般的です。

パニック障害でSSRIの副作用は出るのか

抗うつ薬の中でも初期に開発された薬は有益な効果をあらわす反面、抗コリン作用(神経伝達物質のアセチルコリンの働きを抑える作用により、口渇便秘尿閉眼圧上昇などの症状があらわれる場合がある)や(主に薬の過剰使用による)譫妄(せんもう)痙攣(けいれん)不整脈などの副作用に対して注意が必要とされています。

■パニック障害で特に気を付けるべきSSRIの副作用について

SSRIはそれまでに開発された抗うつ薬に比べると副作用がかなり軽減されている薬となっています。

それでも副作用がゼロというわけではなく、眠気などの精神神経系症状やセロトニンに関連した症状に対しては注意が必要です。

セロトニンは消化管の運動などにも関わる伝達物質のため、SSRIでは吐き気嘔吐下痢食欲不振などの消化器症状があらわれる場合があります。

これらの症状は薬の服用開始から2~3週間の間に比較的あらわれやすく、その後は多くの場合は消失します。SSRIでは数週間かけて徐々に体に慣らしていく方法が取られることが多く副作用に対して十分配慮された上で使われていますが、ある程度の期間服用を継続しても症状が治らない場合には医師や薬剤師に相談しましょう。

パニック障害の薬を勝手にやめると危険なので避けるべき

副作用への心配などから自己判断で薬の量を調節するのは止めましょう。特にSSRIでは急な中止により吐き気、頭痛、発汗などの症状があらわれる可能性もあります。パニック障害の治療において症状が安定した後、半年から1年ほどかけて徐々に薬を減らしてくる方法が取られるのもパニック発作の再燃と同時に急な中断によりおこる症状を考慮しているからです。

SSRIによるパニック障害への治療の有効性は高いとされ症状の改善が期待できます。有効性と注意すべき副作用などを医師や薬剤師からよく聞いておき、適切に服用していくことが大切です。

SSRIの効果や副作用に関してはコラム「SSRIはうつ病だけの薬じゃない!?効果と副作用について解説」でも紹介していますので合わせてご覧下さい。

3. パニック障害の薬:SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)

パニック障害の治療ではSSRIが中心的な役割を担っていますが、SSRIで効果が十分得られない場合は他の種類の抗うつ薬の使用が検討され、SNRIや三環系抗うつ薬と呼ばれる薬が使われています。

SNRIはセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬の略称で、セロトニンとノルアドレナリンの両方の神経伝達物質のバランスを改善することで、うつ(抑うつ)や不安障害の改善だけでなく神経性の疼痛などを和らげる目的で使われることもあります。

パニック障害でSNRIの副作用は出るのか

パニック障害に対してSNRIを使う場合も通常、少量から開始して効果が最大で副作用が最小になる薬の量を維持する治療法が行われます。

そのため副作用に関しても十分考慮した上で治療が行われますが、SNRIの副作用としては眠気ふらつきなどの精神神経系症状に加えて、頻脈排尿障害尿閉などの症状に注意が必要です。

4. パニック障害の薬:三環系抗うつ薬(商品名:トフラニール、アナフラニールなど)

三環系抗うつ薬は比較的初期に開発された抗うつ薬の一種です。

パニック障害の治療ではイミプラミン(商品名:トフラニール®など)やクロミプラミン(商品名:アナフラニール®)などが有効とされています。

パニック障害で三環系抗うつ薬の副作用は出る?

パニック障害に対して三環系抗うつ薬を使う場合も通常、少量から開始して効果が最大で副作用が最小になる薬の量を維持する治療法が行われます。

そのため副作用に関しても十分考慮した上で治療が行われますが、眠気ふらつきなどの精神神経系症状に加えて、三環系抗うつ薬では主に抗コリン作用(口渇便秘尿閉眼圧上昇など)などの副作用には注意が必要です。

5. パニック障害の薬:ソラナックス、ワイパックス、メイラックスなど

パニック障害では抗不安薬の中でもベンゾジアゼピン系抗不安薬と呼ばれる種類の薬が主に使われています。抗うつ薬と一緒に使ったり、副作用などのなんらかの理由で抗うつ薬が使用できない場合はベンゾジアゼピン系抗不安薬が治療の中心になることもあります。

ベンゾジアゼピン系抗不安薬について

ベンゾジアゼピン系抗不安薬は脳の興奮を抑えるGABA(γ-アミノ酪酸)という物質の働きを高める作用をあらわし不安、緊張などを和らげる薬です。パニック障害だけでなく、うつ病などの多くの病気で使われます。

パニック障害に処方されるベンゾジアゼピン系抗不安薬の例

パニック障害で使われるベンゾジアゼピン系抗不安薬には主に次のものがあります。

  • アルプラゾラム(商品名:コンスタン®ソラナックス®など)
  • クロナゼパム(商品名:ランドセン®リボトリール®
  • ロラゼパム(商品名:ワイパックス®など)
  • ロフラゼプ酸エチル(商品名:メイラックス®など)

抗うつ薬と一緒に使う場合には一般的に、抗うつ薬の効果がみられた時点から徐々に減量していきます。

コンスタン、ソラナックスやワイパックスなどの比較的作用持続時間が短いタイプの薬を不安などがあらわれた時の頓服薬として使う場合もあります。

また、比較的長期的に使う場合には離脱症状防止などを考慮して、メイラックスなどの比較的作用持続時間が長めのタイプが適するとされています。

パニック障害でベンゾジアゼピン系抗不安薬の副作用は出るのか

ベンゾジアゼピン系抗不安薬は一般的に早く効果があらわれ安全性も高いとされていますが、薬に対しての依存性などもあるため、他の治療薬同様、指示された用法や用量を守って使うことが大切です。

BZD系抗不安薬では依存性以外にも眠気やふらつきなどがあらわれる場合もあり注意が必要です。

6. パニック障害に処方されるその他の薬

この他にもパニック障害に処方される薬はあります。代表的な薬を解説します。

スルピリド

パニック障害に対して、抗うつ薬のかわりにスルピリド(商品名:アビリット®、ドグマチール®、ミラドール®など)が有効である場合があります。

気分安定薬

パニック障害の他に双極性障害を合わせ持つ場合には気分安定薬(炭酸リチウムなど)をベンゾジアゼピン系抗不安薬などと一緒に使う場合もあります。

β遮断薬

β遮断薬は一般的に狭心症や高血圧などの治療薬として使われます。パニック障害の不安に伴う動悸などを抑える目的で使う場合があります。

パニック障害の薬はよく相談して飲もう

パニック障害における治療では、発作の症状や自身の体質などを医師にしっかり伝え、飲む薬の特徴や注意事項を事前にしっかり聞いておき適切に服用することが大切です。

また、医師が決めた服用期間や内服量は必ず守らなくてはなりません。医師は患者さんの身体と精神のバランスを見ながら処方薬の種類や量を決めています。決められた通りに飲まない場合には、バランスを乱してしまう危険性があります。

7. パニック障害を薬なしで治せるのか

数々の研究によって、認知行動療法(心理療法の一種)は薬物治療と同じくらい効果的であることが分かっています。

一番効果的な治療法は、認知行動療法と薬物治療を組み合わせた治療法であると言われています。薬なしで治そうとするよりは、薬を使いながら認知行動療法も組み合わせることでさらに効果が得られる可能性があります。

心理療法について詳しくは「パニック障害の心理療法(認知行動療法、曝露療法、自律訓練法)について」で説明していますので、ぜひご覧ください。