ぱにっくしょうがい
パニック障害
突然のパニック発作を起こし、生活に支障が起こる状態。不安障害の中の一つ
9人の医師がチェック 192回の改訂 最終更新: 2023.06.02

パニック障害で使われる漢方薬について

パニック障害の漢方薬は、SSRIや抗不安薬などに加えて選択肢の一つになります。このページではいくつかある漢方薬についてそれぞれを説明します。

目次

漢方医学では患者個々の症状や体質などを「証(しょう)」という言葉であらわし、これに合った薬を選択するのが一般的です。(「証」についてはコラム「漢方薬の選択は十人十色!?」で詳しく解説していますので合わせてご覧下さい) 

不安障害やその一つであるパニック障害に対しても基本的には同様で、証に合わせた薬が選択されます。なんらかの理由によってSSRIなどの薬を使う際に制限がある場合やこれらの薬で効果が不十分な場合には漢方薬が有用となることもあります。また不安障害における症状のあらわれ方は人によっても異なり複数の症状があらわれる場合もあります。そのため体の全体の状態を診断し薬を選ぶ漢方薬によって症状の改善が期待できることも考えられます。ここでは不安障害に効果が期待できる漢方薬をいくつか挙げて解説します。

1. 甘麦大棗湯(カンバクタイソウトウ)

神経過敏で不安や不眠、ヒステリー症状などがあるような証に適するとされています。

小麦(ショウバク:コムギの種)、大棗(タイソウ)、甘草(カンゾウ)の3種類の生薬で構成される漢方薬で、不安発作時や予期不安(パニック発作の経験から、また発作が起きてしまうのではないか?と不安にさらされている状態)があるような場合に頓服薬として使う場合もあります。

2. 半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)

冷えがあり顔色が悪く神経質で喉にものがつかえるような証に適するとされています。

特にパニック障害では過呼吸や呼吸困難を伴うような症状に対して効果が期待できる漢方薬です。不眠症や神経性胃炎などに対しても効果が期待でき、予期不安があるような場合には頓服薬として使う場合も考えられます。

3. 苓桂朮甘湯(リョウケイジュツカントウ)

疲労感や下半身の脱力感、口の渇きなどがあるような証に適するとされます。パニック障害における激しい動悸や動悸と一緒にあわられることが多い立ちくらみなどのめまいに対して効果が期待できる漢方薬です。

体内の水分代謝などを改善する茯苓(ブクリョウ)や蒼朮(ソウジュツ)といった生薬を含み、神経症(ノイローゼ)や頭痛などにも使われる場合があります。

4. 加味逍遙散(カミショウヨウサン)

疲れやすく冷えや頭痛、精神不安などがある証に適するとされ、更年期障害自律神経失調症の症状に対してもよく使われています。

抗ストレス作用などをあらわす柴胡(サイコ)や血の巡りなどを改善する当帰(トウキ)といった計10種類の生薬から構成される漢方薬で、パニック障害においては予期不安の改善なども期待できます。

不眠や不安、抑うつ傾向などの症状を改善し、副作用などの理由から抗うつ薬や抗不安薬を使いにくいような人にも有用となる場合があります。

パニック障害に効く漢方薬の画像

5. 柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)

不安、不眠、イライラなどの精神症状に肋骨の下の重苦さなどを伴うような証に適するとされています。パニック障害では動悸がよくあわわれるような症状に対して効果が期待できます。

先ほどの加味逍遙散にも含まれていた抗ストレス作用がある柴胡(サイコ)、不安・不眠や胃痛などに改善効果が期待できる牡蠣(カキ)の貝殻が原料となった生薬の牡蛎(ボレイ)などを構成生薬として含み、不眠症、神経症、肩こりなどの改善作用も期待できます。

この他、柴胡加竜骨牡蛎湯が適するような症状があり、やや体力や気力が低下している場合などに対して効果が期待できる柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)、動悸・不安・緊張や発汗があるような症状に効果が期待できる桂枝加竜骨牡蠣湯(ケイシカリュウコツボレイトウ)、動悸や息苦しさに加えて体のほてりや不眠などがあるような症状に効果が期待できる黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)などの漢方薬が、不安障害に対して使われることがあります。

またSSRIなどの抗うつ薬による副作用の軽減に漢方薬が有効であることもあります。SSRIやSNRIといった薬では特に服用開始初期の頃に吐き気などの胃腸症状があらわれる場合があり、この症状を和らげるために半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)や五苓散などを一緒にに使うことで副作用があらわれる時期を乗り切れるといった効果が期待できます。

一般的に漢方薬は副作用が少なく、体質や症状に合う薬を使えば有益な効果が期待できます。ただし、副作用が少ないといっても全くないわけではなく、自然由来の生薬成分自体が体質や症状に合わなかったりすることもあります。例えば、お腹が緩くなりやすい体質の人に大黄(ダイオウ)などの下剤効果がある生薬は適しない場合があります。

また生薬成分を適正量を超えて服用した場合には好ましくない症状があらわれることも考えられます。特に甘草(カンゾウ)は漢方薬の約7割に含まれる生薬成分ですが、他の病気で既に漢方薬を服用している場合や甘草の成分(グリチルリチン酸)を含む製剤(グリチロン®配合錠など)を服用している場合などでは、偽アルドステロン症(偽性アルドステロン症)による高血圧や筋力低下といった副作用にも注意が必要です。

しかし万一これらの好ましくない症状があらわれたとしても、大半は漢方薬を中止することで解消できます。